• 更新日 : 2025年6月24日

シフトや勤務変更の進め方とは?拒否できるケースやトラブルを防ぐコツを解説

勤務時間や業務内容、勤務地が変更される「勤務変更」は、企業が柔軟に運営を進めるうえで欠かせない対応です。一方で、こうした変更は従業員の生活や働き方に直結するため、不安や疑問を抱かれやすい面もあります。内容によっては、労働基準法違反や労働契約の不履行とみなされるおそれもあるため、慎重な対応が求められます。この記事では、人事労務担当者の視点から、勤務変更を適正かつ円滑に進めるための考え方や対応のポイントを詳しく解説していきます。

目次

勤務変更とは?

勤務変更とは、企業が従業員の勤務条件(勤務時間・日数・勤務地・業務内容)を変更することを指します。労働者にとっては、生活リズムや家庭事情に直結するため、変更の内容や手続きによっては大きな負担や不安を招くこともあります。

企業は制度の仕組みを理解し、適切な手続きを踏むことが必要です。

シフト・勤務時間の変更

始業や終業時刻を変更する、日勤から夜勤へ移すといった時間帯の調整が該当します。変形労働時間制を導入している場合でも、就業規則への記載と労使協定が必要で、あらかじめ勤務時間を定めておくことが原則です。法定労働時間や割増賃金との関係もあるため、慎重な運用が求められます。

勤務日数の変更

勤務日数を増減させる変更も、生活や収入に直結するため、原則として従業員の合意が必要です。特に扶養範囲で働くパートタイマーに一方的な変更を行うと、社会保険や家庭事情に影響する可能性があります。

勤務地の変更

勤務地を本社から支店へ変更するなど、場所の異動も勤務変更の一つです。就業規則に転勤の記載があっても、生活に支障が出るような異動は無効と判断される場合があります。勤務地が限定された契約では、同意なしの異動は契約違反とされます。

業務内容の変更

職務の種類や担当業務の変更も含まれます。人事権により一定の範囲で変更は可能ですが、業務上の必要性がなければ無効とされるおそれがあります。嫌がらせ目的や合理的理由のない変更と判断されれば、法的な問題に発展する可能性もあります。

勤務変更はなぜ行われる?

勤務変更が行われる背景には、人手不足や業務都合にとどまらず、企業の経営方針や人材戦略に基づく意図があります。従業員の理解を得るには、その目的をわかりやすく説明し、一方的でない姿勢を示すことが大切です。

人材育成やキャリア形成の一環として

将来的な管理職育成や、従業員の成長を促すために、部署や業務の変更を行うことがあります。たとえば、ジョブローテーションを通じて業務全体への理解を深める施策もその一つです。

また、現職で力を発揮できていない従業員が、新たな職務で成果を出すこともあります。営業職から分析業務に移ったことで強みを発揮した、というような事例もあります。勤務変更がキャリア再構築の機会になることもあります。

組織再編や事業戦略の見直し

新規事業の開始、部署再編、業績変動などにより、既存の人員配置が適さなくなることがあります。こうした場合、勤務地や業務の見直しが求められることがあります

例として、事業所の統廃合による勤務地変更や、繁忙部署への応援配置などが挙げられます。長期的に同じ業務を担当していた従業員を異動させることで、組織の活性化や不正防止につながるケースもあります

制度導入・働き方改革への対応

最近では、働き方改革の一環として、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入する企業も増えています。これにより、勤務時間やシフトの見直しが必要になる場合もあります。

制度導入に際しては、労使での合意と法令順守が前提ですが、導入直後は勤務変更が発生しやすいため、丁寧な説明と運用が求められます。

やむを得ない事業上の理由による変更

事業所の閉鎖や移転といった経営判断により、勤務場所が変更される場合もあります。通勤距離の変化や生活環境の変化が生じることもあり、従業員にとって負担が大きくなることがあります。

このような場合は、事前の説明と生活への配慮を行い、納得を得たうえでの対応が不可欠です。

勤務変更には企業としての合理的な理由があることが多いため、それを従業員に正確に説明し、信頼関係を損なわない進め方が重要になります。

勤務変更はどこまで許される?

勤務変更を進める際には、企業の事情だけでなく、労働契約や法令上のルールに沿った対応が求められます。企業が一方的に変更することには明確な制限があり、手続きを誤ると労働契約違反として法的責任を問われることもあります。

勤務時間や日数の変更は、労働基準法の範囲内で

法定労働時間に関しては、労働基準法により「1日8時間・週40時間」が原則として定められています。これを超えて勤務を命じる場合は、時間外労働として割増賃金の支払いが必要です。法定労働時間を超えた労働を36協定を締結せずに行わせた場合、法定労働時間の違反にあたる違法行為となります。

また、勤務日数や時間帯の変更を行う際にも、以下の点に注意が必要です。

  • 従業員の同意がない限り、シフトや勤務日の変更は原則認められません。
    本人の合意を得ないままシフトを変更する行為は、契約違反または違法な労働条件変更とみなされるおそれがあります。
  • 前日や当日に変更を通知するなどの急な対応は、違法とみなされるケースがあります。
    特に生活に支障をきたすような変更であれば、合理性を欠く勤務命令とされる可能性があります。
  • 変形労働時間制を導入している場合でも、事前に勤務日と勤務時間を確定しておく必要があります。
    これを怠ると、制度そのものが無効と判断されることもあります。

企業の都合による勤務時間の短縮(たとえば、当日の午後から早退させるなど)は、休業手当の支払い義務が発生するケースもあるため注意が必要です。

業務内容の変更には合理性と社会的相当性が必要

業務内容の変更、いわゆる「配置転換」では、企業には一定の人事権が認められていますが、その権限は無制限ではなく、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 業務上の必要性が明確であること
  • 労働契約の内容と大きく異なる変更でないこと
  • 労働者にとって過度な不利益が発生しないこと

たとえば、専門職として採用された看護師を、一方的に清掃業務や洗濯業務に異動させた場合は、労働契約に基づく業務の範囲を逸脱しており、裁判でも無効と判断された事例があります

また、業務内容の変更が嫌がらせや退職勧奨の手段として使われた場合には、パワーハラスメントとされる可能性もあるため、慎重な対応が必要です

勤務地の変更(転勤)は契約と就業規則の範囲内でのみ

勤務地の変更は、就業規則に「転勤あり」と明記されていたとしても、それだけですべての異動命令が正当化されるわけではありません。

以下のような場合には、転勤命令が無効と判断されることがあります。

  • 雇用契約に勤務地が限定されている(例:「東京本社勤務に限る」)
  • 家庭の事情(育児・介護・病気等)により、転勤が生活に重大な支障を及ぼす
  • 異動の目的が業務上の必要性に基づかず、不当な動機と判断される

判例では、労働者が家庭の介護を担っていた事情を無視して遠方への転勤を命じたケースで、「転勤命令は無効」とされた事例もあります。

企業が勤務地変更を進める場合には、契約内容と実際の勤務状況、個別事情を十分に考慮し、誠実に対応する必要があります。

労働契約法では「合意」が基本原則

労働契約法第8条では、「労働条件は労働者および使用者の合意によって変更できる」と明記されています。これは、勤務時間・業務内容・勤務地など重要な労働条件の変更は、本人の同意が前提であることを示しています。

就業規則に「変更あり」と記載されていたとしても、労働者にとって不利益が大きい変更や、生活に深刻な影響が出るような場合は、個別の同意が必要となることがあります。

  • 労働者にとって明らかに不利益が大きいとき
  • 生活上の影響が重大で、家庭や健康への配慮が欠けているとき
  • 合理的な理由が説明されておらず、目的が不明確なとき

企業が合意のない勤務変更を強行すれば、労働契約の不履行、または不法行為として訴えられるリスクがあることを理解しておく必要があります。

変更の理由と合意がなければ無効になることも

勤務変更において最も重要なのは、「なぜ変更が必要なのか」という合理的な理由と、それを従業員に対して適切に説明し、必要に応じて合意を得る手続きです。

以下の点が欠けていると、勤務変更が違法と判断されるおそれがあります。

  • 業務上の必要性が曖昧
  • 変更による不利益が過大
  • 合意や説明の手続きが不十分

企業は「就業規則に書いてあるから変更できる」という一方的な論理ではなく、変更の妥当性や従業員の事情に配慮した運用を行う姿勢が求められます。

急なシフト変更は認められる?

現場では、業務都合や従業員の事情により急なシフト変更が必要になることがあります。ただし、変更の仕方によっては労働契約違反や違法行為と判断される可能性があるため注意が必要です。

会社都合による急なシフト変更には同意が必要

企業の都合でシフトを急に変える場合、労働者の同意がない限り無効となるのが原則です。たとえば、以下のような変更は違法とされるおそれがあります。

  • 前日に翌日の出勤時間を変更する
  • 当日に別時間帯や別日勤務を命じる
  • 所定の勤務時間を勝手に短縮・延長する

これらの行為は、労働者の生活や準備に影響を与えるため、「労働契約に基づく義務の変更」にあたり、原則として事前の同意が必要です

特に、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入している場合、事前に定めた勤務日・時間を変更することは、制度違反にあたる場合があります。シフトは契約内容の一部であり、使用者の裁量だけで動かせるものではありません

やむを得ない場合でも緊急性と合理性が問われる

ただし、以下のようなやむを得ない事情がある場合には、例外的に変更が認められることもあります。

  • 自然災害(地震・台風)
  • 停電や重大な設備トラブル
  • 感染症拡大による業務縮小

こうした場合でも、緊急性や合理性の有無、そして従業員への丁寧な説明が重視されます。可能な限り情報共有を行い、代替手段や支援策を講じることが望まれます。

勤務時間の短縮・休業時は休業手当が発生することも

会社都合で勤務時間を短縮、または休業させた場合は、労働基準法第26条により「休業手当」の支払い義務が発生します。以下のような対応は違法となる可能性があります。

  • 午後の勤務を一方的に打ち切り、賃金を支払わない
  • 経費削減を理由に勤務時間を短縮し、その分を未払いとする

原則として、平均賃金の60%以上を補償する義務があります。従業員側に責任がない限り、賃金不払いは認められません。

ただし、以下のような不可抗力に該当する場合には、休業手当の支払い義務が免除されることがあります。

  • 感染症の急拡大による営業停止
  • 台風や地震で営業継続が不可能になった場合

状況判断に迷う場合は、労働局などへの相談が有効です。

従業員都合の変更には配慮が求められる

体調不良や家庭の事情(育児・介護など)によるシフト変更の申し出には、正当な理由があれば柔軟に対応することが望まれます。

ただし、以下のようなケースでは注意が必要です。

  • 直前の連絡による業務への支障
  • 頻繁な変更申し出による他スタッフへの影響

こうした場合でも、事情を丁寧に確認したうえで、就業規則や過去の対応を踏まえて公平に判断することが大切です。機械的に拒否するのではなく、信頼関係を保った対応が求められます。

勤務変更を従業員が拒否できるとき

勤務変更は業務上必要とされる場面もありますが、すべてに従業員が従う義務があるわけではありません。内容や事情によっては、従業員側に拒否の正当性が認められる場合があります。

契約や就業規則に反している場合

勤務変更が雇用契約や就業規則に反する場合、従業員は拒否できます。

  • 契約で「○○勤務に限る」とあるのに別勤務地を命じる
  • 限定職務にもかかわらず、全く別の業務を担当させる
  • 就業規則で定められていない時間帯への変更を求める

こうした変更は契約違反とされ、無効や違法と判断されることがあります
また、「転勤あり」と規定されていても、長期間実施されておらず勤務地が実質的に固定化されていた場合には、一方的な異動は認められないこともあります

生活への支障や過度な不利益がある場合

勤務変更により生活や健康に重大な支障が出る場合も、拒否が認められる可能性があります。

  • 育児・介護の事情で変更に対応できない
  • 通勤が極端に困難になり生活に支障をきたす
  • 持病や障害により、新しい勤務形態に適応できない

こうした事情を無視した変更は、合理的配慮を欠き、違法とみなされるおそれがあります
特に、育児・介護休業法や障害者雇用促進法に基づく配慮義務を怠れば、企業側に法的責任が生じることもあります。

業務上の必要性がない・動機が不当な場合

勤務変更には業務上の必要性が必要です。これが欠けていたり、動機が不当であると疑われたりする場合は、命令そのものが無効とされることがあります。

  • 内部通報者を別部署へ異動(報復人事)
  • 退職を拒んだ社員を遠方へ異動させる
  • 倉庫業務などに配置し、仕事を与えない状態にする

このような変更は、パワハラや不当労働行為に該当する場合があり、裁判でも違法と認定された例(オリンパス事件、親和産業事件など)があります

企業側に必要性や合理性が説明できないまま変更を強行すれば、不利益を被るのは企業自身となるリスクがあります。

不利益に対する配慮がない場合

変更自体に業務上の理由があっても、従業員に大きな不利益をもたらす場合には、代替手段や配慮が不可欠です。

  • 通勤困難な異動で引越し費用の補助がない
  • 夜勤命令に家庭事情の考慮がない
  • 未経験職務への異動に教育・研修がない

こうした配慮がされていないと、形式上の適法性があっても実質的に違法とみなされることがあります

このように、勤務変更を拒否できるかどうかは、契約内容、変更の目的、不利益の程度、企業側の対応などを総合的に見て判断されます。

会社都合の勤務変更で違法とされる具体例

勤務変更は企業の裁量で行われることが多いものの、すべてが正当とされるわけではありません。法的に見て無効とされる変更や、従業員の不利益が過度に大きい変更は、労働契約違反とみなされることがあります。

同意なしの不利益変更は違法

労働契約法では、労働条件の変更には原則として従業員の合意が必要とされています。たとえば、勤務地や職種を限定して雇用された従業員に対して、契約にない異動や転勤を一方的に命じることは、契約違反にあたる可能性があります。

さらに、配置転換や勤務時間の変更が従業員にとって著しい不利益となる場合、その変更には「合理的な理由」が必要です。たとえば、育児や介護といった家庭の事情を無視した深夜勤務の命令、生活が立ち行かなくなるような遠方への転勤などは、違法と判断されるリスクがあります。

特に、業務上の必要性が明らかでない場合や、変更の目的が懲罰や嫌がらせであると疑われる場合には、勤務変更は無効とされやすくなります。

ハラスメントを目的とした勤務変更

人事異動や職種変更の中には、パワーハラスメントに該当するものもあります。以下は、過去に違法と判断された代表的な事例です。

  • 内部通報を行った従業員を不本意な部署へ異動させたケース(オリンパス事件)
    →報復的人事とみなされ、異動は無効とされました。
  • 退職勧奨を拒否した従業員を倉庫作業に降格し、給与を減額したケース(親和産業事件)
    →社会通念上相当でない配置転換とされ、違法と認定されました。
  • 専門職として雇用された看護師を洗濯業務に一方的に異動させたケース(東北公済病院事件)
    →契約内容に基づく業務変更ではないとして、労働契約違反と判断されました。

このように、勤務変更がハラスメントの手段として用いられた場合、企業側に大きな責任が生じる可能性があります。人事異動が正当な目的に基づいて行われているか、業務上の必要性があるか、変更による不利益の程度が妥当かを慎重に検討することが重要です。

勤務変更を進める手順

勤務変更は、適切な手順と丁寧な説明をもって進めることで、従業員の納得感を高め、トラブルを未然に防ぐことができます。

変更の理由がどれだけ正当であっても、伝え方や対応に不備があると、不信感を生む原因になりかねません。ここでは、実務における進め方とコミュニケーションの工夫について解説します。

変更理由を明確に説明し、納得を得る

勤務変更を通知する際は、なぜその変更が必要なのかを明確に伝えることが第一歩です。たとえば、「事業所の統合により勤務地が変わる」「繁忙期の対応として時間帯を変更する」など、具体的な背景を示すことで、従業員の不安や不満を軽減できます。

一方的な命令ではなく、対話形式で丁寧に説明する姿勢が重要です。特に不利益を伴う変更の場合には、影響の程度や代替措置についても併せて説明し、可能であれば選択肢を提示するなど柔軟な対応が望まれます。

従業員の事情や意見を丁寧に聞き取る

勤務変更に際しては、従業員ごとに異なる事情や希望があるものです。特に、育児や介護、健康上の配慮が必要な場合には、事前のヒアリングを通じて本人の意向を確認し、可能な範囲で対応を検討しましょう。

一律のルールで進めるよりも、個別の事情に応じて柔軟に調整する姿勢を示すことで、信頼関係の構築にもつながります。また、変更後のサポート体制やフォローアップの内容も併せて共有しておくと、従業員の安心感を高めることができます。

通知のタイミングと方法に注意する

勤務変更を伝えるタイミングは早ければ早いほど望ましいとされます。急な通知は従業員の生活に大きな影響を及ぼすため、事前に十分な準備期間を設けることが大切です。可能であれば、1ヶ月前など余裕をもって伝達し、準備や心構えの時間を確保してもらいましょう。

通知方法も口頭だけで済ませるのではなく、書面での通知や説明会の開催など、誤解が生じにくい方法を選ぶことが重要です。従業員がいつでも確認できるよう、メールや社内ポータルでの周知も併用すると効果的です。

勤務変更を円滑に進めるために丁寧な対話を心がけよう

勤務変更は、企業の運営や人材配置の見直しに必要な場面もありますが、従業員の生活や働き方に影響を与える重要な変更でもあります。

法令や契約内容を正しく理解し、従業員一人ひとりの事情に配慮することで、不安や不満を防ぎながら進めることができます。

一方的な通知ではなく、丁寧な説明と対話を重ねる姿勢が、職場の信頼関係と組織の安定につながります。

勤務変更は、一人ひとりと向き合いながら丁寧に進めていきましょう。


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