- 更新日 : 2024年10月30日
アサーショントレーニングとは?メリットや目的から導入方法まで解説
アサーショントレーニングとは、適切な自己主張のあり方を学び、円滑な人間関係構築に結びつけるものです。相手の立場を考えながら、率直に自分の意見を伝えられるようになるため、職場のコミュニケーションの円滑化や生産性向上に役立ちます。
ここではアサーションの意味や、学ぶメリット、職場での活用法について紹介します。
目次
アサーショントレーニングとは?
アサーショントレーニングとは、相手の意見を尊重しながらも自分の意見を適切に伝えられるようにトレーニングし、円滑な人間関係の構築に役立てるものです。プライベートだけではなく、職場でのやり取りをスムーズにするなど、コミュニケーション方法の改善に活用できます。
アサーションの語源
アサーション(assertion)には、もともと「自己主張」という意味があります。自分の意見を伝えることはコミュニケーションの基本です。しかし、一方的に押しつけたりすると、意思疎通がうまくできず、意見が対立してトラブルの原因となります。
誰でも自分の意見を伝えられなければ、ストレスになるでしょう。しかし、コミュニケーションを円滑に取るには自分の意見だけではなく相手の意見も大切にする必要があります。相手の意見に耳を傾けながら、自分の意見を適切に伝える方法を学ぶのが、アサーショントレーニングです。
アサーショントレーニングの歴史・注目された背景
アサーションという考え方が広まったのは、アメリカの心理療法です。アサーションは、心理学者であるアンドリュー・ソルターの著書に由来します。1949年に著書『Conditioned Reflex Therapy』が出版され、アサーションに関するテクニックが紹介されたことをきっかけに、アサーショントレーニングが世界中で取り入れられるようになったといわれています。
日本に広まったのは1980年代。職場の人間関係でストレスをため込まないコミュニケーション方法として注目され、現代ではパワーハラスメントの防止、上司と部下のあり方などを見直すきっかけとしても活用されています。アサーショントレーニングを取り入れることで、相手の立場を考えた発言ができるようになり、職場内の摩擦を減らし、生産性向上が期待できます。
アサーショントレーニングにおいて使用される自己表現の種類
アサーショントレーニングを行う際には、アサーションの種類を理解しておくことが重要です。アサーションは、自己表現のあり方によって大きく4つに分けられます。
アグレッシブ
アグレッシブとは、自己を優先して考えるタイプのことです。自分の意見を率直に伝えます。自己主張ができるというポジティブな側面がある一方で、自己を優先するあまり、相手への配慮に欠ける、相手の意見を聞かない、相手の立場を想像しようとしないなどネガティブな側面も見られます。
一方的に自分の主張を押し通す形で伝えることが常習化していると、社内・社外の人間関係に軋轢が生じ、トラブルのもとになることもあります。
パッシブアグレッシブ
パッシブアグレッシブとは、受け身の立場を取りつつも、間接的に相手を攻撃するコミュニケーションタイプを言います。アグレッシブタイプと違い、一方的に自己主張をする、相手の意見を聞かない、怒鳴ったり苛立ったりするなどといった直接的な攻撃は行いません。
その代わり、本人の聞こえないところで悪口をいったり、仕事を放棄したりするなどし、作為的に周囲をコントロールしようとします。
アサーティブ
アサーティブとは、自分のことを大切にし、相手への配慮も忘れないタイプを言います。周囲や相手に過度に媚びることがないため、自分の意見を、その場その場の相応しい形で率直に伝えることができます。自分にとっても、相手にとっても、ストレスの少ないコミュニケーションの在り方といえるでしょう。
ノン・アサーティブ
ノン・アサーティブとは、自分よりも相手を優先して考えてしまうタイプを言います。このタイプは、周囲とのトラブルや摩擦を起こすことは少ないですが、遠慮して自分の考えを言えない、もしくは相手の立場を考えて自分の意見を曲げてしまうといったことが見られます。そのため、一見周囲とバランスよくつき合えているように見えたとしても、本人のなかでは不満がいっぱいということがあります。
職場でアサーショントレーニングを行う目的
職場でのアサーショントレーニングが注目されている背景には、心理的安全性の高い組織やチーム作りが生産性向上につながるという考え方があるからです。心理的安全性とは、誰もが安心して自分の意見を発信できる状態を言います。アサーティブなコミュニケーションは、組織内の心理的安全性の向上に欠かせません。
もし職場で、上司に対して提案した意見を無下に却下されたり、チーム内で相手の意見を聞かない人がいたりすれば、トラブルを避けるために自分の意見を押し殺すようになってしまいます。
コミュニケーションのあり方は、その人の生まれつきのものと捉えられがちですが、トレーニングによって改善することができます。コミュニケーションスキルを学ぶ機会がなかった人ほど、アサーショントレーニングで自己のコミュニケーションスタイルを振り返り、向上させることが重要です。
職場でアサーショントレーニングを行うメリット
アサーショントレーニングでは、自己表現の適切な方法を身につけます。トレーニングの効果は、ストレスの減少や自己肯定感の向上をもたらすだけではなく、職場の人間関係の向上にも現れます。プライベートの人間関係だけではなく、職場の風土にも良い影響をもたらすでしょう。
意見をしやすい風通しの良い職場になる
アサーショントレーニングで自己表現の適切なやり方を身につけた人が増えれば、自分の意見を否定される機会が減ります。「意見することで評価が下がるかもしれない」「発言が誰かの機嫌を損ねるかもしれない」といった心配が減るため、職場内での心理的安全性が高まり、誰もが意見を気兼ねなくいえるようになります。
上司・部下や横のつながりなど信頼関係を築きやすくなる
仕事をスムーズに進めるためには、コミュニケーションが重要です。たとえば、仕事の指示の出し方一つをとっても、コミュニケーションの方法により指示を受けた人の印象は異なります。相手のスキルや経験を想像することができれば、相手に適した指示を出すことが可能となり、生産性が高まるのです。
各種の連絡・相談がスムーズになる
アサーティブな自己主張は、スムーズな連絡・相談も可能にします。状況を適切に判断し、相手の立場を考えながら、仕事に必要な確認を行うことができます。こうしたスムーズな連絡・相談は、ミスやトラブルの予防に欠かせません。
アサーショントレーニングを行う方法
アサーティブなコミュニケーションは、実際どのように身につければよいのでしょうか。アサーティブトレーニングで取り入れられている方法を紹介します。
DESC法を活用する
DESC法とは、相手に伝えたいことを整理するフレームワークです。状況、気持ち、解決、提案という4つのプロセスで、相手の反応を想像しながら自己表現の準備・選択を行います。
状況の客観的描写(Describe)、気持ちの表現(Express)、解決のための方法を提案(Specify)、そして、相手の反応を想像しながら自己表現を準備・選択します(Choose)。DESC法を意識することで、自然にアサーティブな意思表示が身につきます。
参加メンバーは自分を主語にして語る
自分の意見をアサーティブに伝える方法の一つに、I(アイ)メッセージがあります。Iメッセージとは、主語を「わたし(I)」にして伝える方法のことです。
たとえば、部下に仕事を教えるとき「あなたはこんなこともできないのですか?」と伝えるのは「Youメッセージ」、逆に「ここをこうしてもらえると私も助かります」と、私を主語にすると「Iメッセージ」になります。
Iメッセージの特徴は、自分の気持ちを率直に伝えることができる点です。相手の立場も尊重できるため、スムーズな物の言い方になります。
客観的・具体的な観点から自分の主張を整理する
状況に対して、客観的な視点から自己主張を整理する意識を持ちましょう。たとえば、何かトラブルがあった場合、「困った」「どうしてこんなことに」というネガティブな思いにとらわれてしまうかもしれません。しかし、自分がなぜネガティブな感情を持っているかを、客観的・具体的に整理すると、自分のするべき主張が見えてきます。
たとえば、負の感情は「納期に間に合わない」という点から来ているのかもしれません。そうした場合、仕事を依頼するチームメンバーにサポートをお願いすることで、ネガティブな感情を減らせるでしょう。客観的な観点からの自己主張の整理は、怒りや不安に振り回されないコミュニケーションを可能とします。
参加者は自分と違う意見も受容する
相手の意見を受け入れる姿勢も、アサーティブトレーニングでは重要です。たとえ同意できない意見でも、すぐに反対意見を述べることは、相手の発言の権利を奪うことになりかねません。たとえ意に沿わない意見でも、「そうですね」と一旦相手の意見を受け入れることが重要です。
アサーショントレーニングを職場で活用する場面
アサーショントレーニングは、以下のような場面で活用できます。
人事評価
人事評価面談で、評価を伝える際、アサーティブなコミュニケーションが役立ちます。人事や上司が、適切な形で意見を伝えることで、たとえマイナスの評価でも、従業員の今後の改善点に結びつけることが可能です。また、部下が率直な意見を伝えられることも重要です。働き方や価値観を知るきっかけにもなります。
採用面接
企業と応募者の対等な関係性が求められる採用面接では、アサーティブなコミュニケーションが重要です。面接官が攻撃的な対応を取ることがなくなり、応募者と良好な関係を築くことができます。
アサーショントレーニングを職場に導入するプロセス
アサーショントレーニングを職場に導入するには、以下のステップを踏みましょう。
既存メンバーの役割・関係性を洗いだす
まずは、自社の課題を整理します。自社のなかでコミュニケーションに課題を抱えている人がいないかを把握しましょう。人事評価面談や、360℃評価、従業員満足度調査などによって、従業員の考えを知ることができます。また、職場での日頃の関わり方や、上司の言動を観察することは、自社の抱える課題に気づくきっかけとなります。
アサーショントレーニングのワークショップを開催する
自社の課題に合わせて、アサーティブトレーニングの研修を開催します。マネジメント層を対象に評価面談に役立てる目的で開催したり、採用面接で使えるスキルの一環として開催したりするのも良い方法です。最初は対象者を小さく絞り、効果を確認しながら、全社的に広げていくのがよいでしょう。
一度で終わらせずに定期的にアサーショントレーニングを開催する
定期的に開催することで、アサーティブなコミュニケーションを組織に根づかせることができます。新たに入社した人を対象にしたり、管理職に定期的なワークショップの参加を促したりと、従業員が自分のコミュニケーションのあり方を振り返るような機会を設けるとよいでしょう。
アサーショントレーニングで職場の人間関係を改善しよう
アサーショントレーニングを社内に取り入れることで、相手と円滑なコミュニケーションを実現し、職場の良好な人間関係を築くことが可能になります。また、心理的安全性が保たれることで、意見交換が活発になり、新たなイノベーションの創出や生産性向上にもつながるでしょう。
社内にアサーショントレーニングを導入し、働きやすい組織づくりにつなげていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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