• 更新日 : 2026年3月25日

就業規則の退職金規定のポイントは?支給条件から計算方法、トラブル対処法まで解説

Point就業規則の退職金規定とは?

就業規則の退職金規定とは、企業が退職金制度を設ける際に必ず明記すべき、支給対象や計算方法、支払時期などを定めた法的ルールです。

  • 3項目の記載義務:対象者の範囲、計算方法、支払時期の明記が必須
  • 規定がない場合:原則として、会社側に退職金の支払義務は発生しない
  • 5年の消滅時効:請求権には時効があり、未払い時は早めの対応が必要

Q. 就業規則に記載がない場合、絶対に退職金はもらえませんか?
A. 原則はもらえません。 ただし、労働契約書に個別の約束がある場合や、長年の支給実績(労使慣行)が認められる場合は、例外的に請求できる可能性があります。

退職金は従業員の将来を支える大切な資金であり、企業にとっても定着率向上に関わる重要な人事制度です。しかし、「就業規則のどこを見ればいいか」「会社が退職金規定を見せてくれない」といった労使間の悩みは少なくありません。

本記事では労使双方に役立つよう、退職金額の相場や計算方法から、就業規則における退職金規定(退職手当規程)の作成ポイント、さらには未払い等のトラブル対処法まで分かりやすく解説します。

目次

就業規則の退職金規定が重要な理由は?

就業規則における退職金規定の明文化は、労使双方にとって安定した信頼関係を築くための重要な基盤となります。

単なるルールブックではなく、労働者の生活を守り、企業を守るという2つの側面を持っています。

労働者における将来設計と権利の明確化

労働者にとって退職金規定は、将来の生活資金を見通し、退職時の未払いトラブルを未然に防ぐために重要です。 

退職金は老後の生活や転職活動を支える貴重な資金源です。就業規則に支給条件や計算方法が明確に記載されていることで、従業員は安心して働き続けることができます。また、書面で自身の権利を正確に把握しておくことで、いざ退職する際に「もらえると思っていたのに支給されない」といった会社側との解釈の相違を回避することにつながります。

企業における人材定着と労務リスクの回避

企業にとって退職金規定の整備は、優秀な人材の定着を促し、曖昧な運用による法的な労務リスクを回避するために不可欠です。

明確で魅力的な退職手当制度は、従業員のモチベーションを向上させ、長期勤続を奨励する強力な人事施策となります。同時に、懲戒解雇時の不支給条件や自己都合退職での減額規定などを就業規則(または退職金規程)に定めておくことで、想定外の高額請求や労働審判といったトラブルから会社を守る防波堤の役割を果たします。適切な書類管理と法令遵守の観点からも、ルールの明文化は必須の実務です。

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就業規則の退職金規定にはどのような法的ルールが適用される?

退職金規定は就業規則の「相対的必要記載事項」であり、退職金制度を定めるなら就業規則に記載することが求められます。一度定めると賃金支払五原則などの法的な制約を受けます。また、制度を設ける以上は労働契約として労使双方を強く拘束するため、安易な運用は禁物です。

適用される労働基準法上のルールと記載義務

企業が退職手当(退職金)の制度を設ける場合、以下の3点を必ず就業規則に明記する義務があります(労働基準法第89条)。

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定、計算及び支払の方法
  • 退職手当の支払の時期  これらを明文化することで、会社は想定外の請求リスクを防ぎ、従業員は確実な権利を得ることができます。

出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索

賃金支払五原則と相殺(天引き)の禁止

退職金も労働基準法上の「賃金」にあたるため、通貨で、直接、全額を支払う義務があります。

たとえ従業員が会社に損害を与えたり、会社からの借入金があったりしても、本人の自由な意思による同意がない限り、会社が一方的に退職金から相殺(天引き)することは全額払いの原則違反として法律で禁止されています。

出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索

そもそも退職金とは?

退職金とは、一般的に、従業員が退職する際に、その長年の勤務や会社への貢献に対して企業から支払われる金銭のことを指します。その支給形態や内容は企業によってさまざまで、主に以下のような種類があります。

  • 退職一時金制度
    退職時に一括で金銭が支払われる、最も一般的な制度です。
  • 企業年金制度
    退職金を年金の形で分割して受け取る制度です。

    • 確定給付企業年金(DB)
      将来受け取る年金額があらかじめ約束されている制度です。運用リスクは主に企業が負います。
    • 企業型確定拠出年金(企業型DC)
      企業が拠出する掛金を従業員自身が運用し、その運用結果によって将来の受取額が変動する制度です。運用リスクは従業員が負います。
  • 中小企業退職金共済制度(中退共)
    国がサポートする中小企業向けの退職金制度で、企業が掛金を納付し、従業員が退職した際に勤労者退職金共済機構から直接退職金が支払われます。
  • ポイント制退職金
    勤続年数、役職、貢献度などをポイント化し、退職時の累計ポイントにポイント単価を乗じて退職金を計算する、比較的新しい制度です。

自社がどの制度を採用しているか、あるいは複数の制度を併用しているかは、就業規則で確認できます。

退職金については、以下の記事でも紹介しています。

【労働者向け】就業規則で退職金規定を確認するポイントは?

ご自身の退職金について正確に知るためには、まず就業規則を確認することがスタートラインです。口頭での説明や曖昧な記憶ではなく、書面で規定内容をしっかりと押さえ、退職時のトラブルを防ぎましょう。

退職金規定の有無と適用対象者の範囲

まず「そもそも自社に退職金制度があるのか」「自分は支給の対象か」を、就業規則の該当条項から確認します。 

就業規則に退職金に関する記述が一切ない場合、原則として企業に支払義務はありません。規定がある場合は、「正社員のみ」「勤続〇年以上」などの条件と自身の雇用形態を照らし合わせます。

なお、就業規則本体には「詳細は別に定める」とだけ記されているケースも多いため、その場合は別途「退職金(退職手当)規程」の開示を求めましょう。

退職金がもらえる支給条件と退職理由による違い

どのような条件を満たせば退職金が支払われるのか、最低勤続年数や退職理由ごとの算定基準を確認します。

一般的に「勤続3年以上」といった勤続年数等の最低条件が設けられています。また、自己都合、会社都合、定年、死亡など、辞める理由によって支給の可否や金額が変わるのが通例です。多くの場合、会社都合退職のほうが自己都合退職よりも労働者に有利な条件で算定されます。

退職金額を算出する具体的な計算方法

退職金がいくらもらえるのかを知るため、自社が採用している計算式や評価テーブルを確認します。 

就業規則には、計算式のほか、具体的な支給率テーブルやポイント単価が必ず明記されています。主な計算方法と特徴は以下の通りです。

  • 基本給連動型:退職時の基本給 × 勤続年数に応じた支給率
  • 勤続年数別定額型:勤続年数に応じてあらかじめ決められた固定額
  • ポイント制:勤続年数や役職、貢献度などの累計ポイント × ポイント単価
  • 別テーブル型:役職や等級に応じた「算定基礎額」 × 勤続年数別支給率

退職金が減らされる減額・不支給事由

退職金が減額されたり、全く支給されなかったりするペナルティの条件(服務規律違反など)を確認します。

退職金は常に満額もらえるとは限りません。自己都合退職による減額のほか、懲戒解雇時には「全額不支給または一部減額」と規定されているケースが代表的です。

ただし、懲戒解雇であっても必ずゼロになるわけではないため、規定の文言を注意深く確認する必要があります。

退職金の支払時期・支払方法と税金の手続き

退職金がいつ、どのように振り込まれるのかというスケジュールと、税負担を軽くするための申告手続きを確認します。

「退職後1ヶ月以内」など具体的な支払時期が定められており、支払方法は銀行振込が一般的です。

また、退職金を受け取る際は、会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しましょう。これを提出しないと、退職金から一律20.42%の高い税率で源泉徴収されてしまうため注意が必要です。

出典:退職金と税|国税庁

退職金規定の不利益変更と経過措置の有無

在職中に退職金が減額されるなど、労働者にとって不利なルール変更(不利益変更)が行われていないか確認します。

会社が一方的に退職金を減額することは労働契約法で制限されています。変更が有効となるには、労働者との個別合意があるか、変更内容に合理性があり周知されている必要があります。

もし変更があった場合は、適用時期や不利益を和らげる「経過措置」があるかを確認し、納得がいかない場合は労働基準監督署などの専門家への相談を検討しましょう。

【企業向け】就業規則の退職金規定を作成・見直しするポイントは?

企業が退職金制度を導入・運用していく上で、就業規則の規定整備は極めて重要です。曖昧なルールや法令違反を含む運用は、将来的に高額な未払い請求などの労使トラブルに発展する火種となりかねません。

退職金制度設計の検討と種類選択

自社の経営戦略や予算に基づき、税務上のメリットや従業員のニーズを総合的に考慮して最適な退職金制度を選択することが重要です。

退職金の支給形態には、税制優遇を受けやすい「退職一時金」や「企業年金(DB・DC)」のほか、毎月の給与に上乗せして支払う「退職金前払い制度」など複数の選択肢があります。前払い制度は従業員がすぐに資金を得られる反面、「給与所得」として扱われるため社会保険料の負担が増加する点に注意が必要です。導入の目的(人材定着、モチベーション向上など)を明確にした上で、無理のない原資計画と公平性のある制度設計を目指しましょう。

就業規則(退職手当規程)へ具体的に記載すべき事項

適用対象者、支給条件、計算方法、減額・不支給事由、支払時期の5項目を網羅し、誰が計算しても同じ結果になるよう客観的に明記する必要があります。

退職金制度を設ける場合、これらの項目は労働基準法上の「相対的必要記載事項」に該当するため、就業規則への記載が義務付けられています。また、退職金も賃金支払五原則が適用されるため、従業員に損害賠償や借入金があっても、本人の同意なく会社が勝手に相殺(天引き)することは法律で禁止されています。

具体的な記載ポイントは以下の通りです。

  • 適用対象者の範囲:正社員のみか、パートタイマーも含むかなど。
  • 支給条件:最低勤続年数や退職理由別の条件。
  • 計算方法:算定基礎額や支給率のテーブル。
  • 減額・不支給事由:懲戒解雇時など、客観的・合理的な理由に基づく制限事項。
  • 支払時期・方法:「退職後1ヶ月以内」などの具体的な期限と振込方法。 ※別紙として「退職金規程」を設ける場合は、就業規則本則にその旨を明記して整合性を保ちます。

退職金規定の不利益変更を行う場合の注意点

労働者の不利益となる変更(支給額の減額など)を行う場合は、原則として従業員との個別合意、または変更内容に客観的な「合理性」が求められます。

労働契約法第9条および10条により、会社による一方的な不利益変更は無効とされます。経営の悪化などでやむを得ず制度を縮小する場合は、「変更の必要性」「不利益の程度」「代償措置の有無」「労働組合や従業員代表との交渉状況」などが総合的に審査されます。トラブルを防ぐためには、数年かけて段階的に減額するような「経過措置」を設け、社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めるのが確実です。

出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索

退職金規定を有効にするための届出と周知の手順

作成・改定した規定は、従業員代表の意見聴取、行政への届出、そして全従業員への周知という3つのステップを完了させて初めて確実な法的効力を持ちます。

労働基準法第106条により、ルールは労働者に周知されていなければ効力が認められない可能性があります。手続きに不備があると、いざという時に会社を守るための規定が無効と判断されるリスクがあるため、以下の手順で確実に運用しましょう。

  • ステップ1:意見書の聴取 規定の原案について、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)から意見を聴き、署名・捺印のある「意見書」を作成します。
  • ステップ2:労働基準監督署への届出 所轄の労働基準監督署へ「就業規則(変更)届」を作成し、ステップ1の意見書を添付して届け出ます。
  • ステップ3:従業員への周知義務の徹底 各作業場の見やすい場所への掲示、書面の交付、または社内イントラネットへの掲載などにより、全従業員がいつでも退職金規定を確認できる状態にします。

出典:労働基準法 | e-Gov 法令検索

退職金の計算方法と相場は?

退職金の具体的な金額は、多くの労働者にとって最大の関心事の一つです。ここでは、代表的な計算方法の例と、一般的な相場観について触れます。

代表的な退職金の計算例

基本給連動型の場合、退職時基本給30万円、勤続20年、就業規則の支給率が15.0ヶ月分なら、30万円×15.0=450万円と試算できます。

ポイント制の場合、勤続・役職・貢献度等で得た累計ポイントにポイント単価を乗じ、累計400ポイント×単価1万円=400万円などと計算できます。

これらは単純化した例で、退職理由等で変動します。必ず自社の就業規則を確認しましょう。

退職金の相場

退職金の相場は企業規模、業種、勤続年数、学歴、退職理由等で大きく変動します。

公的な調査データなどが参考になりますが、たとえば令和6年の調査(調査産業計)では、大学卒の定年退職時におけるモデル退職金は約1,150万円(11,495千円)でした 。しかし、これは標準的な条件で算出したモデル額であり、実際の平均値や中央値とは異なる場合があります。 中小企業では中退共のモデル額も目安になります。あくまで一般的な傾向であり、実際の支給額は自社の就業規則の規定が最優先されます。

出典:令和6年就労条件総合調査|厚生労働省

退職金が支給されない、あるいは減額されるのはどのようなケースか?

退職金が支払われない、または満額出ないトラブルの多くは、事前の確認不足や規定との解釈の相違から生まれます。まずはご自身の状況と就業規則(退職手当規程)を照らし合わせることが第一歩です。

適用対象外や最低勤続年数未達による不支給

非正規雇用などで対象外と明記されている場合や、規定された最低勤続年数に達していない場合、退職金は支給されません。 就業規則には「正社員のみ対象」「勤続3年以上で支給」といった条件が定められているのが一般的です。これに該当しない場合は会社に法的義務が生じません。

また、会社側の計算ミスや労使間の解釈の違いによって、本来もらえるはずの額が支給されないケースもあります。

懲戒解雇や自己都合退職に伴う減額と不支給の合法性

会社に損害を与えた懲戒解雇や、自己都合での退職は、規定に基づいて減額または不支給となることが法的に認められるケースが多くあります。

自己都合退職は、会社都合退職に比べて支給率が低く設定されるのが通例です。また、懲戒解雇時に全額不支給とする規定がある場合も多いですが、過去の裁判例では「長年の功労をすべて消し去るほどの重大な背信行為」がない限り、一部の支払いが認められることもあります。なお、会社の経営悪化は支払いを免れる法的な理由にはなりません。

就業規則に退職金規定がない場合でも未払い請求できるのか?

就業規則に退職金に関する記述が一切ない場合、原則として従業員が企業に退職金を請求することは困難です。しかし、会社との間に個別の約束がある場合や、社内に暗黙のルールが存在する場合など、例外的に退職金の請求権が認められるケースがあります。

労働契約書や求人票における個別の支払い約束

会社と交わした個別の労働契約書に、退職金の支払いが明記されていれば、就業規則に規定がなくても請求可能です。 また、入社時の求人票に記載された「退職金制度あり」といった条件は労働契約の前提となるため、労働条件通知書と食い違いがあったとしても、求人票の条件が労働契約とみなされる可能性が高くなります。

それは、就業規則に記載漏れがあったとしても、労働者と会社が個別に合意した雇用契約の内容が優先されるためです。また、採用時の求人票や会社からの説明資料に「退職金あり」と記載されていた場合、入社後特に説明もなく不利益に変更された場合などは、求人票記載の条件が優先される傾向にあります。

長年の支払実績による労使慣行の成立と注意点

明文化された規定がなくても、「過去の退職者全員に対して一定の計算式で支払われてきた」という実績があれば、暗黙のルール(労使慣行)として法的効力を持ちます。

過去の同僚や先輩が退職する際、常に同じ基準で支払われていた事実が証明できれば、それが労働契約の内容として認められる可能性があります。ただし、企業がその都度、経営者の裁量で恩恵的に支給する「功労金」や「慰労金」とは法的な性質が異なります。法的な退職手当として請求できる要件を満たしているかの判断は難しいため、迷った場合は労働基準監督署や弁護士などの専門家への相談を推奨します。

就業規則や退職金規程を見せてもらえない場合はどう対処する?

会社には就業規則を労働者に周知する義務(労働基準法第106条)があります。正当な理由なく閲覧を拒否されるのは法令違反の可能性が高いため、以下の手順で段階的に対処します。

ステップ1:書面での開示請求を行う

まずは、会社に対して就業規則および退職金規程の開示を、メールや内容証明郵便など記録が残る書面で請求します。 口頭での請求は「言った・言わない」のトラブルになるため、客観的な記録を残すことが重要です。

ステップ2:労働基準監督署や専門家へ相談する

会社が開示に応じない場合は、管轄の労働基準監督署や、社会保険労務士・弁護士などの専門家に相談します。 労働基準監督署は、法令違反がある企業に対して行政指導を行う権限を持っています。また、専門家に依頼することで、会社との代理交渉やその後の法的手続きをスムーズに進めることが可能になります。

退職金トラブルが発生した際の具体的な解決手順は?

万が一、退職金の未払いや不当な相殺(天引き)などのトラブルに発展してしまった場合は、消滅時効に注意しながら計画的に行動する必要があります。

ステップ1:客観的な証拠を収集する

就業規則、労働契約書、給与明細、退職金に関する会社とのやり取り(メール等)など、客観的な証拠をかき集めます。 交渉や労働審判において、自らの主張を裏付けるためには確実な証拠が不可欠です。在職中から意識して保存しておくことが望ましいです。

ステップ2:会社との交渉と外部機関のあっせんを利用する

集めた証拠をもとに会社へ書面で説明を求め、当事者間で解決しない場合は労働局のあっせん制度などを利用します。 まずは冷静な交渉を試みますが、折り合いがつかない場合、労働局のあっせんは無料で利用できる第三者を交えた解決手続きとして有効です。

ステップ3:消滅時効(5年)に注意して法的手段をとる

交渉が行き詰まった場合は労働審判や民事訴訟を検討しますが、退職金の請求権は「5年」で消滅時効を迎えるため早急な対応が必要です。 通常の賃金(3年)よりも時効は長いですが、期限を過ぎると1円も請求できなくなります。未払いがある場合は、内容証明郵便を送付して時効を一時的にストップ(中断)させるなど、証拠が散逸する前に早めの行動を起こすことが不可欠です。

退職金規定を含む就業規則の整備で退職時のトラブルを防ぐ

企業が従業員の退職に伴う書類手続きなどを行う際、どのような項目でトラブルが発生しやすいのかをマネーフォワードで独自に調査しました。

退職手続きにおいて特にトラブルや苦労が発生しやすい項目を尋ねたところ、最も多かったのは離職票の発行手続きで、31.7%でした。次いで、健康保険証の回収が29.1%、退職届の受理と退職日の合意が26.8%と続きます。また、有給休暇の消化調整についても26.1%の人がトラブルになりやすいと回答しています。

これらのデータから、退職者とのやり取りに関する業務が人事担当者にとって大きなハードルになっていることがわかります。退職金の支払いだけでなく、退職日の合意や有給消化の調整、貸与品の返却など、退職時には多くの確認事項が発生します。労使間の認識のズレによる不要なトラブルを未然に防ぐためにも、就業規則や退職金規定にあらかじめ明確なルールを記載し、日頃から社内に周知しておくことが重要です。

出典:マネーフォワード クラウド、退職手続きにおいてトラブルが発生しやすい項目【入退社に関する調査データ】(回答者:入退社手続きの実務・管理に関与した経験がある597名、集計期間:2026年2月実施)

就業規則で退職金について規定し、より良い職場環境づくりを

本記事では、就業規則の退職金規定に関する作成義務や税制上のメリットから、未払いトラブルの対処法まで包括的に解説しました。

労働者の方は、まずは自社の退職手当規程をしっかりと確認し、ご自身の権利と計算方法を正しく把握することが第一歩です。一方、企業の人事労務担当者は、法的リスクや消滅時効を正しく理解し、従業員の納得感を得られる適法な制度設計と周知運用を徹底しましょう。

退職金は労使双方の将来を支える重要な制度です。より良い職場環境づくりのため、疑問や制度変更の不安がある場合は、早めに専門家への相談をご検討ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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