- 更新日 : 2025年6月19日
勤怠管理と労務管理の違いとは?役割や業務内容、効率化する方法を解説
企業運営において、勤怠管理と労務管理はどちらも欠かせない重要な業務です。似ているように見えますが、両者には目的や業務範囲に明確な違いがあります。
本記事では、勤怠管理と労務管理の役割の違いから具体的な業務内容、効率化のためのポイントまで詳しく解説します。日々の管理業務を効率化したいと考えている担当者の方は、参考にしてください。
勤怠管理と労務管理の違い
勤怠管理と労務管理は密接に関係していますが、それぞれの目的や対象業務には違いがあります。ここでは、両者の役割の違いについて解説します。
勤怠管理の目的・役割
勤怠管理とは、従業員の勤務状況を正確に記録・把握するための業務です。主に管理対象となるのは下記の項目です。
- 出退勤の時間
- 労働時間
- 休憩・遅刻・早退の有無
- 有給休暇の取得状況
勤怠管理の最大の目的は、従業員の労働時間を正しく把握し、労働基準法や労働安全衛生法などの法令に則った法令遵守を実現することです。適切な管理を行うことで、過重労働の防止や正確な給与計算、よりよい労働環境の構築が可能になります。
2019年4月には、働き方改革関連法により、労働時間の客観的把握が企業の義務となりました。ICカードや勤怠システムなどを活用し、記録の正確性が重視されています。
勤怠管理は、従業員の健康と法令順守を両立させるための土台であり、企業運営に不可欠な機能といえるでしょう。
参考:厚生労働省|客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました
以下の記事では、勤怠管理の法律について詳しく解説しています。あわせてご参考ください。
労務管理の目的・業務範囲
労務管理とは、従業員の労働環境全体を整備・維持するための業務のことを指します。法令を遵守しながら従業員が安心して働ける職場を整え、生産性向上と労務トラブルの回避を実現するのが目的です。
労務管理には、下記のように、従業員の労働環境に関わる業務全般が含まれます。
たとえば、雇用契約書を適切に整備していないと、労使間の認識のズレからトラブルが発生する恐れがあります。また、勤怠管理が正しく行われていなければ、給与計算や保険手続きも正確に行えません。
労務管理は、企業の信頼性と従業員の満足度を高めるために必要不可欠な基盤であり、勤怠管理と密接に連携しています。
以下の記事では、労務管理について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
勤怠管理と労務管理の関係性とは?企業運営に欠かせない3つの理由
勤怠管理と労務管理は、それぞれ独立した業務のように見えて、深く結びついています。両者をバランスよく機能させることは、企業の信頼性や生産性を高めるうえで必須です。
ここでは、その重要な関係性と企業運営に欠かせない理由を解説します。
1. 法令違反を防ぎ、企業リスクを最小限に抑える
勤怠・労務管理の適正な運用は、企業のコンプライアンスを遵守するうえで重要です。不適切な管理は、長時間労働や未払い残業などの法令違反につながり、企業の信用を大きく損なうリスクがあります。
たとえば、労働基準監督署から是正勧告を受けたり、悪質なケースでは企業名が公表されたりすることもあります。働き方改革以降、労働時間や労働条件の記録・保存義務はより厳格化されており、法改正への対応も求められている状況です。
正確な勤怠データと整備された労務体制は、コンプライアンス維持の基盤です。労働時間・休憩・残業の状況が明確になることで、企業リスクの最小化につながります。法令を遵守し企業リスクを抑えるためには、勤怠と労務の連携による管理体制の強化が不可欠といえます。
【2026年以降の法改正に向けた議論】14日以上の連続勤務禁止とは
政府は、2026年を目途に労働者の「14日以上の連続勤務を禁止する制度」を導入する方針を示しています。現行の「4週4休制」では、最大24日間の連続勤務が可能となる制度上の抜け道がありました。労働者の心身に、過度な負担をかける要因として問題視されています。
厚労省の労災認定基準でも、2週間以上の連勤は心理的負荷が強い労働形態とされており、今後の法改正でその抑止が図られる見込みです。2025年6月現在、検討段階ではありますが制度が導入されれば、企業にはシフトや勤怠ルールの見直しが求められる場面も想定されます。
大きな影響を受ける業種は少ないとされる一方、早めに勤怠管理体制の準備を進めておくことが求められます。
参考:NHK|14日以上の連続勤務禁止 労働基準法改正へ 報告書まとまる
2. 従業員との信頼関係を築き、定着率を高める
正しい勤怠・労務管理は、従業員の「安心して働ける環境づくり」に直結します。適切に労働時間が管理されることで、過重労働を防ぎ、従業員が健康的に働ける環境が整います。
また、勤怠データをもとにメンタルヘルスの兆候を早期に把握することで、企業側の対応も迅速に行えるのも魅力です。従業員が「十分に管理されている」と実感すれば、不信感が払拭され、仕事への意欲や会社への信頼感が高まります。
結果、離職率が下がり、組織の安定化にもつながるでしょう。勤怠・労務管理は、単なる事務作業ではなく、従業員との信頼関係構築の土台であるといえます。
3. 企業の成長と人材活用を支える基盤になる
勤怠・労務管理は、経営資源である人材を最大限に活かすための土台となります。勤怠データの分析によって、部門ごとの労働実態を可視化できます。業務の最適化や人材配置の見直しが可能となり、無駄のない経営にもつながるでしょう。
具体的には、残業が多い部門には要員を追加する、逆に余力のある部門には別のプロジェクトを割り振るといった戦略的な判断が可能です。また、社会保険や福利厚生の整備も、企業の信頼性や採用力向上に直結します。
労務管理体制の整備は、企業成長の「見えない戦略資産」といえます。
勤怠管理の主な業務内容
勤怠管理は、従業員の出勤・退勤や労働時間、休暇の取得状況を正確に把握し、適切な労働環境を維持するための基礎となる業務です。労働基準法や厚生労働省のガイドラインでも、企業には客観的な方法での勤怠把握が求められています。
ここでは、勤怠管理の主な業務内容を解説します。
参考:
e-Gov|労働基準法
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
以下の記事では、勤怠管理を効率化するシステムについて詳しく解説していますので、気になる方はあわせてご覧ください。
労働時間・休憩時間を正確に記録する
勤怠管理の基本業務のひとつは、従業員の始業・終業時刻や休憩時間を、客観的な方法で正確に記録することです。労働基準法では、こうした労働時間の記録が企業に義務付けられており、下記のような客観的な打刻手段が推奨されています。
- タイムカード
- ICカード
- 生体認証
実態に即した勤怠記録を取得・管理することで、サービス残業や労働時間の過少申告を防止し、過重労働の抑止にもつながります。正確で信頼性の高い記録は、労働時間の適正な把握だけでなく、企業のコンプライアンス強化にも直結する重要な要素です。
残業・深夜・休日労働を適切に管理する
時間外労働や深夜・休日勤務に関しても、勤怠管理の対象として正確な把握が必要です。これらの労働には、労働基準法にもとづく割増賃金の支払いが義務付けられており、勤務実績に応じた正確な集計が求められます。
また、時間外・休日労働を行わせる際には、36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出る必要があります。時間外労働には「月45時間・年360時間」の上限規制が設けられており、これを超えないように日々の勤怠管理でコントロールすることが重要です。
深夜労働(午後10時〜午前5時)に対しては、25%以上の割増賃金が必要です。勤怠システムによるリアルタイム管理を導入すれば、労働時間の超過を事前に察知し、早期の是正につなげられます。
参考:厚生労働省|36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針
有休・欠勤・遅刻・早退の取得状況を把握する
勤怠管理では、有給休暇や欠勤・遅刻・早退といった勤怠状況の記録・集計も重要な業務です。労働基準法第39条では、年10日以上の年次有給休暇を付与された従業員に対して、企業側は少なくとも年5日の取得を確実に行わせる義務があります。
さらに、欠勤や遅刻・早退といった勤務実績の変動は、就業規則にもとづいて正しく処理する必要があります。これらの情報を正確に把握・管理することで、給与計算や人事評価の信頼性が向上し、従業員の納得感を支える公正な勤怠管理が実現できるでしょう。
勤怠データを給与計算や社会保険手続きに活用する
勤怠記録は、給与計算や社会保険料の算出といった業務の根幹を支えるデータです。勤務時間や休暇情報に誤りがあると、賃金の過不足や保険料の計算ミスが発生し、従業員トラブルの原因にもなりかねません。
そのため、勤怠データは精度高く記録し、給与・人事・労務関連のシステムと連携させて、処理の正確性と業務効率を両立させることが重要です。クラウド型の勤怠システムなら、法改正や勤務形態の多様化にも柔軟に対応でき、企業の運用負担を大幅に軽減する効果も期待できます。
労務管理の主な業務内容
労務管理は、従業員の採用から退職までのあらゆる場面で発生する業務を網羅しているのが特徴です。そのため、企業運営の根幹を支える重要な役割を果たします。
法令を遵守した対応を行うだけでなく、従業員の健康や働きやすさにも配慮することで、企業と人材双方の健全な関係を構築可能です。ここでは、労務管理の主な業務内容を解説します。
以下の記事では、労務担当の仕事内容について詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
雇用契約・就業規則・労使協定を整備する
労務管理における基礎的な業務のひとつが、雇用契約書や就業規則、労使協定の整備です。これらの書類を適切に作成・管理することで、労働条件や働き方のルールを明確化し、労使間のトラブルを未然に防止する役割を果たします。
たとえば勤務時間・給与・休日などの条件を明記した雇用契約書を交付し、従業員に十分に説明することによって、双方の認識のズレをなくせるでしょう。
また、36協定をはじめとする各種労使協定についても、法令に則って正しく締結し、所轄労基署へ届け出る必要があります。このような規程や合意事項の整備は、法令遵守はもちろん、働きやすい職場環境づくりを支える重要な業務です。
社会保険・労働保険の各種手続きを正確に行う
社会保険・労働保険に関する手続きは、労務管理業務の中核をなす重要な業務のひとつです。下記のようなライフイベントに応じて、健康保険・厚生年金・雇用保険といった制度の手続きや、育児休業給付金・労災の申請を適切に行う必要があります。
- 従業員の入社・退社
- 出産・育児
- 病気やケガ
これらの手続きを期限内かつ正確に処理できなければ、従業員に不利益が生じたり、企業としての信頼を損なったりする可能性があります。そのため、定期的なチェック体制の整備や運用フローの明確化が、労務管理の実務においては欠かせません。
安全衛生と職場環境を整え、健康経営を推進する
安全衛生の確保や職場環境の整備も、労務管理において欠かせない業務です。労働安全衛生法では、定期健康診断やストレスチェックの実施が義務付けられています。加えて、ハラスメント防止策の構築や作業環境の改善といった取り組みも求められます。
これらの施策は、従業員の心身の健康を守るだけでなく、職場の雰囲気や働きやすさの向上、さらには業務効率の改善にもつながるでしょう。健康経営を意識した労務管理を実践することで、人材の定着や企業の持続的成長に大きく影響します。
法定4帳簿を適切に管理する
企業は、労働基準法にもとづき下記の4帳簿を整備・保管する義務があります。
- 労働者名簿
- 出勤簿
- 賃金台帳
- 年次有給休暇管理簿
これらは従業員の雇用状況や労働実態を裏づける重要な法定書類であり、労働基準監督署の調査時には必ず提出が求められます。
内容の不備や保存義務違反があると、是正指導や行政処分の対象となるリスクもあるため、帳簿の正確な作成・管理体制の構築が欠かせません。近年では、システムやクラウドを活用し、帳簿をデジタルで管理する企業も増えており、効率化と法令遵守の両立が求められています。
勤怠・労務管理を効率化する4つの方法
勤怠・労務管理は、正確性と継続性が求められる反面、煩雑で属人化しやすい業務でもあります。法改正や働き方の多様化に対応するためには、従来の管理方法を見直し、システムや運用面での改善を行うことが重要です。
ここでは、業務効率化を実現するための4つの具体的な方法を紹介します。
1. 管理ルールや就業規則を定期的に見直す
勤怠・労務管理の効率化には、制度自体の「陳腐化」を防ぐことが重要です。就業規則や勤怠ルールは、一度整備して終わりではありません。法改正やテレワーク導入などの変化に応じた更新が求められます。
たとえば、リモート勤務が増えた場合は、勤務時間の定義や打刻方法の見直しが必要です。36協定や有給休暇の運用ルールについても、実態とのズレがないか定期的に点検しましょう。
柔軟かつ実態に即した制度設計によって、トラブルの防止と従業員の納得感向上を同時に実現できます。
2. アナログ管理(紙・Excel・タイムカード)の課題を把握する
紙の出勤簿やExcel、タイムカードによるアナログ管理は、導入コストが低く操作も直感的なため、多くの中小企業で利用されています。しかし、下記のように、非効率性が大きな課題となっています。
- 手書きや手入力による記録ミス
- 集計の手間
- 過去データの検索性の低さ
また、打刻の改ざんや不正申告のリスクも高く、客観的な労働時間の証明が困難になる場合があります。こうした課題を放置せず、現行の勤怠管理体制にどのようなリスクがあるのかを把握しましょう。
そのうえで、システム化による業務改善を早期に検討することが重要です。
以下の記事では、打刻のペーパーレス化で勤怠管理を効率化する方法やペーパーレスのメリットを詳しく解説しています。
3. クラウド型勤怠システムで業務を自動化する
勤怠・労務管理を効率化するために、クラウド型勤怠管理システムの活用がおすすめです。打刻・集計・分析といった業務を自動化でき、担当者の作業負担を大きく削減できます。
具体的には、下記の機能によって、正確性と透明性の向上を図れるのが魅力です。
- リアルタイムの労働状況把握
- アラート通知
- スマートフォン打刻
- 位置情報の取得
さらに、法改正や有休取得義務などの制度変更にも柔軟に対応できるため、コンプライアンス面でも安心です。システムの導入によって、特定の担当者に依存しない運用を実現しながら、効率的かつ戦略的な勤怠・労務管理体制の構築を可能にします。
4. 人事・給与システムとの連携で一元管理を実現する
勤怠データは給与計算や社会保険の手続き、人事評価とも密接に関わっています。そのため、勤怠管理システム単体での運用ではなく、人事・給与などの周辺システムと連携して一元管理を行うことが望ましいです。
クラウド型の統合システムを活用すれば、勤怠情報をもとに自動で給与計算や保険の各種手続きを実施できます。転記ミスや、二重入力といった人的ミスの防止が可能です。雇用契約や給与計算、年末調整などもスムーズに進められるでしょう。
情報の一元化によって業務全体の可視化が進み、課題発見や改善点も把握しやすくなります。結果として、組織全体の業務効率と運営精度の向上につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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