- 更新日 : 2024年7月16日
ターンアラウンドとは?意味やメリット・注目された背景を解説
ビジネスシーンにおけるターンアラウンドとは、事業再生や経営改革をあらわす言葉です。経営破綻した企業や、経営破綻の危機に瀕した企業の立て直しを意味します。ターンアラウンドの意味やメリット、注目された背景をまとめました。
目次
ターンアラウンドとは
ターンアラウンド(turn around)の本来の意味は「方向転換」ですが、ビジネスでは「事業再生」や「経営改革」をあらわす言葉として用いられます。具体的には、業績不振の事業が収益を上げられるように、抜本的な改革を行うことです。営業や財務などの部門にかかわらず、中長期的な取り組みを行うことが特徴です。
ここからは、ターンアラウンドと混同しやすい「ワークアウト」や「企業再生」との違いや、「IT用語のターンアラウンド」との違いを解説します。
ターンアラウンドとワークアウトとの違い
ターンアラウンドと、ビジネス用語としてのワークアウトの主な違いは、中長期的に根本的な事業再生を行うのか、短期的なプランで経営再建を行うのかといった点にあります。
ワークアウトは「価値のない仕事をはじき出す」という意味で、1080年代にゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元会長によって提唱された手法です。従業員が社内の境界を意識せずに団結できることを目的に、不要な仕事を捨て、短期的なプランを立てて課題解決を行います。
ターンアラウンドと企業再生との違い
ターンアラウンドと企業再生は、双方に明確な違いはなく、同義で使用されることが多いといえるでしょう。企業再生とは、債務超過などによって企業が経営困難に陥った際に、原因を排除して健全な経営状態に戻すことを意味する言葉です。具体的には、金融機関から融資を受けたり、債権者の債務免除を依頼したりする手法が挙げられます。
IT用語のターンアラウンドとの違い
IT用語として用いられるターンアラウンドタイムとは、システムに処理要求を送ったタイミングから処理が完了するまでの時間のことです。ビジネス用語のターンアラウンドと間違えやすいですが、意味はまったく異なります。
ターンアラウンドが注目された歴史
ターンアラウンドが注目された歴史としては、以下の3つが挙げられます。
- バブル経済が崩壊したため方向転換が必要だった
- 企業再生ファンドが増えた
- コロナの影響による経営戦略の方向転換
それぞれの内容を見ていきましょう。
バブル経済が崩壊したため方向転換が必要だった
1990年代にバブル経済が崩壊し、多くの企業が倒産や方向転換を求められました。さらに、その後のIT技術の普及やグローバル化などの影響を受け、経営がさらに複雑化したことで、思うように経営再建が進まない企業が続出します。そのため、経営・財務・法律の知見を備え、企業を再生に導くターンアラウンドマネージャーなどの需要が高まりました。ターンアラウンドマネージャーの詳細については後述します。
企業再生ファンドが増えた
投資家が企業再生ファンドへの投資を判断する要素として、ターンアラウンドやワークアウトなどの再生手法が問題なく適用できるかどうかという点が挙げられます。企業再生ファンドの増加に伴い、これまでよりもターンアラウンドが注目されるようになったといえるでしょう。
コロナの影響による経営戦略の方向転換
新型コロナウィルスの感染拡大によって社会が変化し、それまでの経営戦略が通用しなくなったことも、ターンアラウンドが注目されるようになった要因です。コロナ禍でビジネスが立ち行かなくなった企業が増加し、その状況を打開するための手法であるターンアラウンドが注目されるようになりました。
ターンアラウンドを行うメリット
ターンアラウンドを行うことで期待できるメリットは、主に以下の3点です。
- 売上の改善・業績不振の問題が解決できる
- 大規模な経営改革・体制の再構築が行える
- 従業員の意識改革を行える
各メリットを解説します。
売上の改善・業績不振の問題が解決できる
ターンアラウンドを実施することで、売上の改善が実現します。また、業績不振に陥った根本的な要因を探り解決策を見出すため、一時的な改善にとどまらず、将来を見据えた成長戦略を策定することが可能です。
大規模な経営改革・体制の再構築が行える
ターンアラウンドによって、大規模な経営改革も実施できるでしょう。事業構造や業務プロセス、組織体制など、企業構造全般における根本的な再構築に取り組むため、大胆な経営改革が実現します。中長期的な視点に立った、経営の健全化に向けた施策の実行が期待できます。
従業員の意識改革を行える
従業員の意識改革につながることも、ターンアラウンドの実行によって得られるメリットの1つです。既存の企業文化にとらわれ新しい考え方を受け入れない雰囲気や、現状維持を貫こうとするスタンスは、新たなビジネスモデルの創出を阻む要因となります。
しかし、ターンアラウンドを実行する際は、すべての従業員が当事者意識を持ち改革に参画する必要があるため、必然的にこれまでの考え方を変えるきっかけとなるでしょう。
ターンアラウンドの実施を担う「ターンアラウンドマネージャー(再生請負人)」とは?
「ターンアラウンドマネージャー」とは、ターンアラウンド業務を担うスペシャリストのことで、再生請負人とも呼ばれます。ターンアラウンドマネージャーの役割や業務に役立つ資格をご紹介します。
ターンアラウンドマネージャーの役割
ターンアラウンドマネージャーの主な役割は、経営破綻した企業や経営破綻のリスクが高い企業の経営の立て直しを行うことです。具体的には、不採算事業の閉鎖・売却や債権者・株主等との協議による債務・資本の再構成、収益力向上や経営管理の強化による事業内容の改善などさまざまな手法を用いて、企業を再建します。
ターンアラウンドマネージャーに役立つ資格
ターンアラウンドマネージャーの仕事に役立つ代表的な資格には、同じ名称の「ターンアラウンドマネージャー(TAM)」があります。企業再建・承継コンサルタント協同組合(CRC)が開催する講座を受講し、7割以上の単位を取得すると受験資格を得られます。
そのほか、「事業再生アドバイザー(TAA)」や「認定事業再生士(CTP)」なども、ターンアラウンドマネージャーの業務に役立つおすすめの資格といえるでしょう。
ターンアラウンドの企業事例
ここからは、ターンアラウンドによって企業再建を行った、以下の2つの事例をご紹介します。
- 日本航空株式会社
- カネボウ株式会社
日本航空株式会社は、2008年のリーマンショックによって経営破綻の危機に陥りました。しかし、当時の国土交通大臣や京セラ名誉会長の稲盛氏によって実施された、企業体質の改善や組織編成見直しなどの取り組みによって、2012年3月期には2,049億円の営業黒字を計上するほどに回復しました。経営危機から脱した後の2012年9月には、東京証券取引所市場第一部の再上場も果たしています。
化粧品の製造・販売を手掛けるカネボウ株式会社も、ターンアラウンドによって経営危機を乗り越えた企業です。カネボウ株式会社は債務超過に陥り、バブル崩壊以降粉飾決算を繰り返しました。しかし、2004年に株式会社産業再生機構の支援を受け、経営破綻を免れ2007年に解散しています。事業を承継した企業はクラシエホールディングス株式会社に社名を変え、ホーユー株式会社の完全子会社として再スタートしています。
参考:平成21年3月期決算|日本航空株式会社
会社の歴史|クラシエ株式会社
ターンアラウンドという選択肢を知ろう
ビジネスにおけるターンアラウンドとは、事業再生や経営改革を意味する言葉です。業績不振に陥った企業が再び収益を上げられるように、抜本的な改革を行うことを指します。また、ターンアラウンドマネージャーとは、ターンアラウンド業務を行うスペシャリストのことです。
ターンアラウンドに取り組むことで、経営を再建できる可能性があります。自社が経営破綻の危機にあるときは、他企業の事例などを参考に、ターンアラウンドの実施を検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
M&A支援機関登録制度とは?M&Aで登録機関を利用するメリットを解説!
M&A支援機関登録制度とは、信頼できるM&Aの仲介業者やFAなどを中小企業庁が認定し登録する制度です。 さまざまな要件をクリアした支援機関のみが登録されるため、この制度に登録されている機関は信頼性が高い傾向があります。 本記…
詳しくみる生産性指標とは?種類や計算方法、生産性向上への活用戦略を解説!
生産性指標とは、企業・組織の生産性を測定するための指標を指します。 主に「労働生産性」や「付加価値生産性」などの種類があり、それぞれ具体的な計算式があるため、生産性を定量的に測定することができます。 本記事では生産性指標の概要や種類、計算方…
詳しくみる損益管理とは?目的や損益計算書で確認するべき項目をわかりやすく解説
企業が継続的に売上を上げるためには、「損益管理」が不可欠です。 損益管理によって企業の損失と利益が明確になり、赤字もしくは黒字になっているのか、赤字になっているなら原因はどこにあるのかなどを客観的に把握できます。 損益管理を行う際には、損益…
詳しくみるホールディングス化とは?メリットやデメリット、実行ステップや事例も解説
ホールディングス化とは、企業が持株会社を中心に事業会社を子会社として運営する経営形態を指します。 ホールディングス化は主に、経営の効率化やリスク分散、M&A対策の強化を目的に実施されます。 本記事では、ホールディングス化の概要やメリット・デ…
詳しくみる共同経営とは?よくあるトラブルやメリット、事例を解説
共同経営とは、2人以上の経営者が共同で会社を経営することです。 資金面の負担や経営リスクを低減することが期待できますが、利益配分や経営責任など、さまざまな面でトラブルを引き起こす可能性があります。 本記事では、共同経営の概要や代表的な形態、…
詳しくみる中計とは?策定するメリット、作成手順をわかりやすく解説
「中計」とは、「中期経営計画」のことであり、企業が将来目指している姿に近づくために必要な計画のことを指します。中期経営計画を策定することで、会社の方向性・ビジョンが明確になり、自社が置かれている現状や取り組まなければいけないことについて把握…
詳しくみる