- 更新日 : 2025年11月5日
勤怠記録の必要項目とは?厚生労働省のガイドラインや効率的な管理・保存方法まで解説
企業のコンプライアンスと従業員の健康を守る上で、適切な勤怠管理は不可欠です。しかし、具体的にどのような項目を記録すれば良いのか、法的な要件を正確に把握できているでしょうか。
この記事では、労働基準法で定められた勤怠記録の必要項目を明確にし、適切な労働時間の管理方法、保存期間、効率的な運用手法などを詳しく解説します。正しい勤務記録の方法を理解し、健全な職場環境を構築しましょう。
勤怠記録の必要項目は?
勤怠記録では、労働基準法第108条、同施行規則第54条で定める「賃金台帳」に労働者ごとに「労働日数」「労働時間数」「時間外労働の時間数」「休日労働および深夜労働の時間数」を記録することが求められます。これらは、労働時間を客観的に把握し、過重労働の防止や割増賃金の正確な支払い、従業員の健康確保につなげるための実務上の必須項目です。
なお、上記の記録が行われていない場合や、虚偽記載がある場合には、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
労働日数
出勤した日数を記録します。 従業員がその日に業務に従事したかどうかの基本的な記録です。単純な出勤日数だけでなく、年次有給休暇の取得日数や休日出勤の日数も併せて管理することで、従業員一人ひとりの勤務実態を正確に把握する上で重要な情報となります。
始・終業時刻と労働時間数
実際に業務を開始した時刻と終了した時刻に基づき総労働時間数を正確に記録します。 会社の所定労働時間や定時ではなく、従業員が使用者の指揮命令下に入った時刻から、その指揮命令下から解放された時刻までを正確に記録することが求められます。タイムカードやICカード、パソコンのログイン・ログオフ履歴といった、客観的な方法で確認した内容に基づき記録しなくてはなりません。なお、労働基準法における管理監督者は対象外です。
時間外労働の時間数
時間外労働とは、法定労働時間である原則1日8時間・週40時間を超えた労働時間で、労働基準法により割増賃金の支払いが必要ですが、この項目では就業規則に定める所定労働時間を超えて勤務した時間、いわゆる残業時間を日ごとに記録します。たとえば就業規則で定める1日の所定労働時間が法定労働時間より短い7時間30分であっても、その時間を超えて働いた労働時間数を記録します。この時間外労働の時間数は、割増賃金を正確に計算するための直接的な根拠となる重要な項目です。所定労働時間が法定労働時間より短い企業では、所定労働時間を超えた労働時間を時間外労働として割増賃金を支払う定めをしている場合があるためです。なお、この項目も労働基準法における管理監督者は対象外です。
休日労働・深夜労働の時間数
法定休日に労働させた時間と、深夜時間帯である原則午後10時から午前5時までの間に労働させた時間(時間外労働や休日労働が深夜時間帯に及んだ場合も含む)を日ごとに記録します。 時間外労働と同様に、休日労働や深夜労働にも割増賃金の支払い義務が発生します。これらの記録も、適正な給与計算を行う上で必須の項目です。なお、労働基準法における管理監督者の場合、休日労働時間は対象外ですが、深夜労働時間は対象となるため、注意が必要です。
勤怠記録の推奨項目は?
法定の必須項目に加えて、「休憩時間」「業務内容」「時間外労働の理由」「有給休暇の取得状況・残日数」「遅刻・早退・欠勤の理由」などを記録することで、労務管理の質をさらに高められます。
これらの追加項目は、従業員の業務負荷の可視化、人事評価の公平性の担保、そして万が一の労働トラブルが発生した際に、企業側の正当性を裏付ける客観的な証拠として機能します。
休憩時間
業務の途中で取得した休憩の開始時刻と終了時刻、または休憩時間の長さを記録します。 労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えることが使用者に義務付けられています。この法定義務を履行していることを証明するためにも、正確な休憩時間の記録は不可欠です。
業務内容
誰が、いつ、何の業務にどの程度の時間をかけたかを記録します。 この記録により、特定の従業員への業務の偏りや、非効率な業務プロセスを発見できます。収集したデータを分析することで、生産性の向上や適正な人員配置を検討するための客観的な判断材料となります。
時間外労働(残業)の理由
時間外労働(残業)が発生した具体的な理由を記録します。 なぜ残業が発生したのか、その理由を記録・分析することで、残業が常態化している原因、たとえば特定の業務への業務量集中や人員不足などを特定できます。これは、36協定の上限規制を遵守しながら、具体的な業務改善策を講じるための基礎データとなります。
有給休暇の取得状況・残日数
年次有給休暇の取得日と残日数を管理します。 労働基準法改正で、2019年4月より使用者に年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させることが義務化されました。この義務を確実に履行しているかを確認するとともに、従業員自身が残日数を容易に把握できるようにすることで、計画的な休暇取得を促します。
遅刻・早退・欠勤の理由
勤怠に乱れがあった場合に、その理由を記録します。 体調不良や家庭の事情など、勤怠不良の背景にある原因を把握することは、従業員への適切な配慮やサポートに繋がります。たとえば、体調不良が続く従業員に対しては、産業医との面談を設定するなど、具体的なアクションを起こすきっかけになります。
テレワークや出張時の勤務記録
勤務場所や移動時間を記録します。 在宅勤務やリモートワーク、あるいは直行直帰といった多様な働き方が広がる中で、事業場外での労働時間を正確に把握することはより一層重要になっています。勤務場所を記録することで、特にテレワークにおける中抜け時間の管理など、適正な労働時間の管理を実現します。
勤怠記録の管理・保存方法は?
先述の賃金台帳に加えて、出勤簿やタイムカードなどについても客観性が担保された方法で記録し、労働基準法第109条に基づき原則として5年間(当面の間の経過措置として3年間)保存する義務があります。
この義務を怠った場合には罰則が科される可能性があります。企業の法的責任を果たす上で、これらのルールを正しく理解しておく必要があります。
客観的な記録方法とは?
厚生労働省のガイドラインでは、使用者が従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を直接確認し、記録することが原則とされています。それに加えて、客観的な記録方法として以下のものが例示されています。
- タイムカード、ICカード、IDカード、指紋認証などによる記録
- パソコンの使用時間の記録(ログイン・ログオフ履歴など)
自己申告制は認められる?
やむを得ない場合に限り認められますが、その場合は使用者により厳格な管理責任が求められます。 自己申告制を導入せざるを得ない場合、使用者は以下の措置を講じる必要があります。
- 自己申告制の対象となる従業員へ、適正に自己申告を行い、労働時間の実態を正しく記録することの重要性について十分な説明を行う。
- 労働時間を管理する立場の管理職等に対しても、自己申告制の適正な運用方法や、ガイドラインに基づく措置について十分な説明を行う。
- 自己申告された労働時間と、入退館記録やパソコンの使用時間など、実際の在社時間との間に乖離がないか、実態調査を定期的に行う。
- 実態との乖離が認められた場合には、実態調査の結果を踏まえて労働時間を補正する。
- 従業員が自己申告した時間を超えて職場に残っている理由については適正に報告させ、労働時間と認められる場合にはそのように扱うこと。
- 従業員が自己申告を適正に行えないような社内ルールを作る等、労働時間の適正な申告を阻害しないようにすること。
保存期間は5年?3年?
労働基準法上の保存期間は5年ですが、当面の間は経過措置として3年間とされています。 2020年4月の労働基準法改正により、賃金台帳などの労働関係に関する重要な書類の保存期間は、それまでの3年間から5年間に延長されました。ただし、企業の負担を考慮し、当面の間は3年間の保存が適用される経過措置が取られています。
将来的な完全移行を見据え、当初から5年間の保存が可能な体制を整えておくことが望ましいでしょう。この期間の起算日は、その記録が完結した日、つまり最後に記録した日から計算します。
保存義務に違反した場合の罰則は?
出勤簿や賃金台帳などの保存義務に違反した場合、労働基準法の罰則規定により30万円以下の罰金が科される可能性があります。勤怠記録の不備は、単なる管理上の問題ではなく、明確な法律違反となることを認識しなくてはなりません。
勤怠記録を効率的に管理する方法は?
勤怠記録の管理方法は、法改正への対応、集計作業の自動化、不正防止の観点から、勤怠管理システムの活用が効果的かつ安全と言えます。
手書きのタイムカードや表計算ソフトのExcelやGoogleスプレッドシートでも、改ざん防止措置や適切な保存体制が整っていれば客観的な記録として認められる可能性がありますが、実務上はシステム化による管理がより信頼される傾向にあります。
勤怠管理方法の比較表
| 管理方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 手書き (タイムカードなど) |
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| Excel・ Googleスプレッドシート |
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| 勤怠管理システム |
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自社に合う勤怠管理システムの選び方
自社の就業規則や雇用形態、勤怠管理を通じて解決したい課題を明確にした上で、システムを選定することが成功の鍵です。 システム選定の際には、以下の点を確認すると良いでしょう。
- 打刻方法の多様性:ICカード、生体認証、スマートフォンアプリのGPS打刻など、自社の従業員の働き方に合った打刻方法が提供されているか。
- 対応可能な雇用形態:正社員だけでなく、変形労働時間制やフレックスタイム制、時短勤務など、自社で採用している多様な働き方や雇用形態に対応しているか。
- 他システムとの連携:現在使用している給与計算ソフトや人事労務ソフトとスムーズにデータ連携できるか。
- サポート体制:導入時の設定サポートや、運用開始後にトラブルが発生した際の問い合わせ対応は充実しているか。
- コスト体系:初期費用と月額利用料が、自社の予算規模に見合っているか。
勤怠記録に関してよくある質問(FAQ)
最後に、勤怠記録に関してよくある質問とその回答をまとめました。
直行直帰の場合の勤怠記録はどうする?
GPS打刻機能付きの勤怠管理アプリを利用する方法や、業務の開始・終了をチャットやメールで報告させ、それを使用者が確認した時刻を記録する方法などがあります。重要なのは、運用を開始する前に、直行直帰時の勤怠記録に関する明確な社内ルールを定めておくことです。
休憩時間がきちんと記録されていないとどうなる?
従業員に法定の休憩時間をとらせていない場合は労働基準法違反となり、罰則が科される可能性があります。また、記録がないことで、本来休憩していた時間も労働時間とみなされ、意図せず時間外労働が発生し、結果として未払いの割増賃金の支払い義務が生じるリスクもあります。
管理監督者の勤怠記録は不要?
管理監督者は労働基準法上の労働時間、休憩、休日の規定は適用されませんが、深夜労働に関する規定は適用されるため、割増賃金の支払い義務があります。従って労働基準法で定める賃金台帳の「労働時間数」や「時間外労働・休日労働時間数」については記録する必要はありませんが、「深夜労働時間数」については記録する必要があります。一方、労働安全衛生法では一定時間を超える長時間労働者に対する医師による面接指導が義務付けられたため、企業が労働時間を把握しなければならなくなりました。管理監督者についても例外ではありません。したがって、管理監督者であっても労働時間の記録は適切に行う必要があります。
正確な勤怠記録で、信頼される職場環境の実現を
この記事では、勤怠記録の必要項目について、法律で定められた5つの必須事項から、より良い労務管理のための推奨項目、そして具体的な管理・保存方法までを詳しく解説しました。
正確な勤怠管理は、単なる法律上の義務を果たすだけではありません。従業員の健康を守り、公正な賃金支払いを保証し、企業全体の生産性を向上させるための重要な経営基盤です。本記事で解説した勤怠記録の必要項目を正しく理解し、適切な労働時間管理を実践することは、従業員との信頼関係を築く礎となります。この機会に自社の勤怠管理体制を今一度見直し、より健全で信頼される職場環境を築いていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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