- 作成日 : 2026年4月7日
事業譲渡の登記は必要?不要なケースや例外、具体的な手続きの流れを解説
事業譲渡は法人格が変わらないため原則として商業登記は不要ですが、不動産の名義変更や商号続用時の「免責登記」が必要な場合があります。
- 原則: 社名や役員変更などの商業登記は不要
- 例外: 不動産が含まれる場合は所有権移転登記が必須
- 注意点: 商号を続用する際は債務承継を防ぐ免責登記が必要
譲渡側の社名をそのまま使う場合も登記は必要です。旧債務の弁済責任を負わないことを第三者に主張するため、免責登記の手続きが推奨されます。
事業譲渡を検討する経営者や担当者から「登記は必ず必要なのか」「商号をそのまま使い続けると何かリスクがあるのか」といった疑問をよく耳にします。
本記事では、事業譲渡と登記の関係を原則・例外の観点から整理し、免責登記の仕組みや不動産移転登記の手順・費用まで体系的に解説します。事業承継やM&Aを進める上で必要な登記知識を一通り把握できる内容です。
目次
事業譲渡の商業登記は不要
事業譲渡では、原則として商業登記(社名・役員・所在地などの変更登記)は不要です。事業譲渡は、法人そのものではなく法人が持つ特定の資産・契約・事業を個別に売買する取引であるため、法務局に登記されている法人情報が変わらない限り、商業登記の手続きは発生しません。つまり、事業譲渡「そのもの」については登記は原則不要となります。ただし、不動産・商号続用・変更登記など例外的に必要となるケースも多く、判断を誤ると重大なリスクが生じるため留意が必要です。
参考:商業・法人登記|法務局
事業譲渡の本質は資産の個別売買
事業譲渡とは、会社が営む特定の事業(または事業の重要な一部)を別の会社や個人に売却・移転する取引です。法人そのものの同一性は維持されるため、株式譲渡や合併のような法人格の移転・消滅は生じません。
社名・本店所在地・役員構成といった登記情報が変わらなければ、法務局への変更申請は不要です。この点が合併や会社分割と大きく異なる特徴であり、手続きの複雑さにも直結します。
事業譲渡と株式譲渡・会社分割の違い
事業譲渡と他のM&A手法(株式譲渡・会社分割)では、登記の要否や性質が大きく異なります。
- 登記の要否:株式譲渡は株主の名簿を書き換える手続きであるため、原則として法人登記(商業登記)は不要です。ただし、譲渡に伴い役員が交代する場合は、役員変更登記が必要になります。
- 資産の移転:会社そのものを売買するため、不動産などの名義変更登記も一切不要です。
- 登記の要否:会社分割は「包括承継」という法的な枠組みで行われます。包括承継により権利は包括的に移転しますが、対抗要件として不動産の移転登記自体は必要です。
- 資産の移転:会社分割の場合、不動産などの権利も一括で移転しますが、そのための名義変更登記自体は必要です(ただし、事業譲渡より登録免許税が軽減される場合があります)。
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事業譲渡で登記が必要になる例外的なケースは?
事業譲渡そのものに登記義務はありませんが、譲渡対象の内容や譲受後の運営方針によっては複数の登記手続きが必要になります。
例外1. 不動産の所有権移転登記
事業用の土地・建物・工場などの不動産が譲渡対象に含まれる場合、不動産登記法に基づく所有権移転登記(いわゆる名義変更)が必須です。この登記を怠ると、譲受会社は第三者に対して所有権を主張できません(民法第177条)。
登記申請は管轄の法務局に行い、一般的に司法書士が代理申請を担います。
登録免許税の目安
| 対象 | 税率 |
|---|---|
| 土地(売買) | 固定資産税評価額 × 1.5%(軽減措置適用時) |
| 建物(売買) | 固定資産税評価額 × 2.0% |
例外2. 商号・所在地・役員の変更登記
事業譲渡のタイミングに合わせて、社名(商号)・本店所在地・代表取締役などの役員を変更する場合は、商業登記(変更登記) の申請が必要です。変更後2週間以内に法務局へ申請する義務があり(会社法第915条)、期限を過ぎると100万円以下の過料が科される場合があります。また、変更日が効力発生日となります。
例外3. 担保権(抵当権等)の移転・抹消登記
譲渡される不動産や設備に「抵当権」などが設定されている場合、その権利を移転または抹消する登記が必要です。金融機関などの担保権者の同意が必要になるため、デューデリジェンス(資産調査)の段階で、登記の要否を必ず確認しておく必要があります。実務上は担保権(抵当権等)を一旦抹消し、譲受側で再設定するケースが多いです。
例外4. 免責登記(商号を続用する場合)
譲受会社が、譲渡会社の社名(商号)をそのまま使い続ける場合、免責登記または債務引受しない旨の個別通知が必要です。
会社法第22条では、「同じ商号を使うなら、前の会社の借金も引き継いだものとみなす」というルールがあります。この思わぬ債務承継リスクを回避するために、「前の会社の債務については責任を負わない」という旨を登記するのが免責登記です。
事業譲渡に伴う登記手続きの流れは?
事業譲渡の登記手続きは、契約締結・株主総会承認・クロージング・各財産の名義変更・免責登記申請という順序で進めます。
1. 事業譲渡契約の締結
まずは、売り手・買い手双方が交渉内容を確定させ、事業譲渡契約書を締結します。契約書には、譲渡対象資産の特定(不動産・設備・契約・知的財産等)・譲渡価額・クロージング日・競業避止義務・表明保証などを明記します。商号を続用するかどうかもこの段階で明確にしておくことが、後の免責登記の要否判断に直結します。
2. 株主総会の承認
以下に該当する場合は、株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
- 譲渡会社:事業の全部または重要な一部を譲渡する場合
- 譲受会社:他社の事業全部を譲り受ける場合(実務上一般に対価が純資産の20%超が目安)
株主総会の招集通知は原則として2週間前までに発送が必要です。
3. 各財産の名義変更(不動産・設備等)
クロージング後、速やかに譲渡対象財産の名義変更を進めます。不動産があれば所有権移転登記、担保権がついていれば担保権移転または抹消登記を申請します。この際、登記原因証明情報の作成も必要です。
| 登記の種類 | 申請先 | 申請期限の目安 |
|---|---|---|
| 不動産所有権移転登記 | 管轄法務局 | クロージング後、速やかに |
| 担保権の移転・抹消登記 | 管轄法務局 | 同上 |
| 商号・目的・役員変更登記 | 本店所在地の法務局 | 変更後2週間以内 |
4. 免責登記の申請
商号を続用する場合は、クロージング後に速やかに免責登記を申請します。登記申請が遅れると、申請前に生じた旧債務について譲受会社が責任を問われるリスクが残るため、できる限りクロージングと同時並行で準備を進めてください。
事業譲渡の登記にかかる費用の目安は?
登記費用は、国に納める登録免許税と司法書士等の専門家報酬の2つで構成されます。不動産が複数ある場合は件数分の登録免許税が発生するため、事前に試算しておくことが重要です。
登録免許税の一覧
不動産が含まれる場合は、固定資産税評価額によって税額が大きく変動します。
| 手続き | 登録免許税の目安 |
|---|---|
| 不動産所有権移転(土地・売買) | 評価額 × 原則2.0%(軽減措置適用時は1.5%) |
| 不動産所有権移転(建物・売買) | 評価額 × 2.0% |
| 抵当権設定登記 | 債権額 × 0.4% |
| 免責登記 | 6,000円 |
| 会社目的・商号変更登記 | 3万円(本店のみの場合) |
| 株式会社設立登記 | 資本金の0.7%(最低15万円) |
| 合同会社設立登記 | 資本金の0.7%(最低6万円) |
司法書士等の専門家報酬の目安
手続きの件数や複雑さによりますが、一般的な相場は以下の通りです。
| 業務内容 | 報酬の目安 |
|---|---|
| 所有権移転登記(1件) | 3万〜8万円程度 |
| 免責登記の申請 | 2万〜5万円程度 |
| 会社変更登記(目的・役員等) | 2万〜5万円程度 |
| 登記原因証明情報の作成 | 司法書士報酬に含むことが多い |
| 会社設立登記 | 5万〜15万円程度(定款認証費用含む) |
事業譲渡における登記手続きの注意点は?
事業譲渡後の登記でよくあるトラブルは、「免責登記の失念による旧債務承継」「不動産の権利関係の確認漏れ」「変更登記の申請遅延」の3つです。
商号続用の決定は早めに行う
免責登記の要否は「商号を継続するかどうか」に直結します。クロージング後に商号続用を決定した場合でも免責登記は可能ですが、登記前の期間については旧債務承継リスクが残ります。商号の方針はできるだけ契約締結段階で確定させ、続用する場合は免責登記の準備を並行して進めてください。
不動産の権利関係を事前に確認する
譲渡対象の不動産に抵当権や仮登記・差押えが入っている場合、それらの処理なしに所有権移転登記ができないケースがあります。デューデリジェンスの段階で登記事項証明書(全部事項証明書)を取得し、権利関係を精査することが必須です。
許認可の再取得を見落とさない
事業譲渡では許認可が自動的に引き継がれません。飲食業・建設業・有料職業紹介業など、事業継続に必要な許認可は譲受側が改めて申請・取得する必要があります。許認可の空白期間が生じないよう、行政書士と連携してスケジュールを管理してください。
変更登記の2週間ルールを守る
商号・目的・役員等の変更登記は変更後2週間以内の申請が義務です(会社法第915条)。期限超過は過料の対象となります。クロージング日から逆算して申請スケジュールを組み、担当の司法書士に早めに依頼することを推奨します。
参考:役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です|法務省
事業譲渡の登記手続きを専門家に依頼すべき理由は?
事業譲渡では移転する資産の数が多いほど個別手続きが膨大になり、登記原因証明情報の作成・免責登記の要否判断・許認可の再取得など、専門知識が必要な場面が多岐にわたります。
自社のみで対応しようとすると見落としや申請ミスが発生しやすいため、司法書士を中心に専門家チームを組成して対応するのが一般的です。
| 専門家 | 主な役割 |
|---|---|
| 司法書士 | 不動産登記・商業登記・免責登記の申請代理、登記原因証明情報の作成 |
| 弁護士 | 契約書作成・法的リスク管理・競業避止義務の設計 |
| 行政書士 | 許認可申請・定款作成 |
| 税理士 | 譲渡益課税・消費税・税務申告対応 |
| M&Aアドバイザー | 案件組成・企業価値評価・交渉支援 |
参考:事業承継|中小企業庁、中小M&Aガイドライン|中小企業庁、事業承継の支援策|中小企業庁
事業譲渡と登記の関係を理解して確実な事業承継を
事業譲渡は法人そのものが変わる取引ではないため、原則として商業登記は不要です。しかし、不動産の所有権移転登記・担保権の移転登記・商号続用時の免責登記など、譲渡内容によって複数の手続きが発生します。特に免責登記は見落とされやすく、商号を続用したまま登記を怠ると旧債務を引き継ぐリスクがあります。また、不動産移転には登記原因証明情報の作成が伴い、個別資産の数が多いほど手続きが膨大になります。
事業移転・資産承継を確実に進めるには、デューデリジェンスの段階から登記の要否を洗い出し、司法書士をはじめとする専門家と連携して対応することが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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