- 作成日 : 2025年12月11日
合同会社の事業承継を成功させるには?相続や持分譲渡、M&Aの手続きと注意点を解説
合同会社の事業承継は、株式会社とは異なる特有の課題があり、その進め方に悩む経営者も少なくありません。特に、持分の扱いや原則として総社員の同意が必要となる点が、承継を難しくする要因です。
本記事では、合同会社(LLC)の事業引継ぎを成功させるため、親族内承継、M&Aなど具体的な承継方法、必要な手続き、そして税務上の注意点について詳しく解説します。
目次
そもそも合同会社も事業承継は可能?
合同会社も事業承継は可能です。
合同会社は会社法上「持分会社」に分類され、出資者(社員)同士の信頼関係を重視する組織形態をとっています。そのため、出資者の地位である持分の移転には、株式会社の株式譲渡よりも厳格なルールが設けられています。
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合同会社と株式会社の事業承継の違いは?
合同会社では、株式会社の「株式」とは異なる「持分」を承継する形となり、手続きや法的なルールに大きな違いがあります。
1. 株式ではなく持分の承継
株式会社が「株式」を譲渡・相続するのに対し、合同会社は「持分」を承継します。
持分は、株式のように証券化されておらず、自由に売買(譲渡)することができません。株式会社の場合、株主は原則として保有する株式を自由に譲渡できます(非公開会社で譲渡制限が設定されている場合を除く)。しかし、合同会社の社員が持つ「持分」は、社員としての地位そのものと強く結びついています。
2. 総社員の同意が必要
持分を第三者に譲渡するには、定款に別段の定めがない限り、他の社員全員の同意が必要となります(会社法第585条)。
合同会社は、多数決原理(株主総会決議)とは異なり、社員全員の合意を基本とする「人的会社」としての性格が強いためです。例えば、経営者である代表社員以外にも出資している社員がいる場合、その社員全員の同意を得なければ、後継者への持分承継(事業承継)が進められません。
ただし、この原則は定款で変更可能です。「持分譲渡の承認は業務執行社員の過半数の同意による」などと定めておくことで、手続きを緩和できます。
3. 事業承継税制の対象外
合同会社(LLC)は、原則として「事業承継税制」の対象外です。
現行の事業承継税制は、株式会社の「非上場株式」の承継を円滑化するために設計された制度であり、合同会社の「持分」は対象資産に含まれていないためです。
もし会社の業績が良く、持分の評価額が非常に高額になっている場合、後継者は多額の相続税や贈与税を自己資金で準備する必要があります。
参考:事業承継税制特集|国税庁
合同会社の事業承継の主な方法は?
合同会社の事業承継には、主に「親族内承継」「従業員等への承継」「第三者への承継(M&A)」の3つの方法があります。
| 承継方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 親族内承継 |
|
|
| 従業員等承継 |
|
|
| 第三者承継(M&A) |
|
|
1. 親族内承継(相続・贈与)
経営者の子供や配偶者などの親族に、持分を相続または生前贈与によって引き継ぐ方法です。最も伝統的な承継方法であり、経営理念を維持しやすいメリットがあります。一方で、後継者の適性や、他の相続人との遺留分の問題などが課題となります。
2. 従業員等への承継(持分譲渡)
社内の役員や優秀な従業員に、持分を譲渡(売買)して経営を引き継いでもらう方法です。業務に精通しているため経営の継続性が期待できますが、最大の課題は後継者候補の資金力です。持分を買い取るための十分な資金がないケースがほとんどです。
3. 第三者への承継(M&A)
親族や社内に後継者が見つからない場合に、外部の企業や個人に会社を売却(M&A)する手法です。後継者不在問題を解決し、創業者利益を得られる可能性があります。合同会社のM&Aでは「持分譲渡」や「事業譲渡」といった手法が主に用いられます。
合同会社の親族内承継の手続きは?
親族内承継では、相続の場合は定款の定め、贈与の場合は他の社員の同意が最大のポイントです。
相続による持分の承継
合同会社では、定款で「相続人が持分を承継できる」旨を定めていない限り、相続人は社員の地位(経営権)を承継できません。
会社法第608条では、社員が死亡した場合、相続人は持分の払戻しを受ける権利のみを持ち、当然には社員の地位を承継しないとされています。これは非常に重要なポイントです。
もし定款に相続に関する規定がない場合、経営者が死亡すると、後継者である相続人は会社を継げません。代わりに、相続人は会社に対して「持分の払戻し請求」を行うことになり、会社は多額の現金を支払う必要があります。
これを防ぐため、親族内承継を確実にするには、必須の相続対策として、定款に「社員が死亡した場合には、その相続人が持分を承継し社員となる」といった条文を追加する定款変更(総社員の同意が必要)を事前に行っておく必要があります。
生前贈与による持分の承継
経営者が存命中に後継者(親族)に持分を無償で生前贈与する場合、原則として「他の総社員の同意」が必要です。
持分の持分贈与(無償譲渡)も「持分譲渡」の一形態であり、会社法第585条の「総社員の同意」原則が適用されます。経営者が100%出資の社員であれば問題ありませんが、他に社員がいる場合はその全員の同意が必要です。
手続きとしては、贈与契約書の作成、社員総会(または同意書)による承認、定款変更(社員名の記載変更)、法務局への変更登記申請(社員の変更)が必要となります。
相続・贈与にかかる税金
承継する持分の評価額に対して、後継者に相続税または贈与税が課税されます。
株式会社と違って事業承継税制が使えないため、持分評価額が高額になると、後継者の税負担が極めて重くなる可能性があります。対策としては、早期から税理士と相談し、評価額の試算、評価額を下げる対策(役員退職金の支給など)、納税資金対策(生命保険の活用など)を計画的に講じておくことが不可欠です。
合同会社の従業員への承継手続きは?
従業員や第三者へ有償で譲渡する場合は、法的な手続きの遵守と、既存社員間の合意形成が求められます。
1. 後継者の選定と交渉
会社を引き継ぐにふさわしい従業員や、M&Aの相手方となる第三者を選定し、交渉を開始します。
2. 持分の評価(出資額の算定)
譲渡価格の基準となる、会社の持分の価値(企業価値)を客観的に算定します。税理士や公認会計士などの専門家による企業価値評価(バリュエーション)が必要です。
3. 持分譲渡契約の締結
譲渡価格、譲渡日、その他の条件を法的に定めた「持分譲渡契約書」を締結します。
法的な不備や将来のトラブルを避けるため、必ず弁護士などの専門家に契約書の作成・リーガルチェックを依頼してください。
4. 社員総会の承認(定款の確認)
持分譲渡を実行するために、定款の規定に基づき、原則として「総社員の同意」を得ます。
経営者以外の社員がいる場合、この同意がなければ持分譲渡は実行できません。もし定款に別段の定め(例:業務執行社員の過半数の同意)があれば、それに従います。
5. 定款変更と登記申請
新しい社員(後継者)が加入し、旧社員(経営者)が退社することに伴い、法務局で変更登記を行います。合同会社ではすべての社員の氏名・住所が登記事項であるため、社員の変更(加入・退社)があれば必ず変更登記が必要です。
持分譲渡にかかる税金(譲渡所得税・贈与税)
譲渡側(経営者)には「譲渡所得税」、譲受側(後継者)には状況により「贈与税」がかかる可能性があります。
- 譲渡側(経営者)
持分を売却して得た利益(=譲渡価額 - 出資時の金額(取得費))に対して、所得税・住民税(合計約20%)が課税されます。 - 譲受側(後継者)
適正な時価で買い取れば税金はかかりません。しかし、時価よりも著しく低い価額(例:出資額面額)で譲り受けた場合、その差額は「みなし贈与」と判断され、後継者に高額な贈与税が課税されるリスクがあります。
合同会社のM&Aによる事業承継手続きは?
合同会社のM&Aでは、主に「持分譲渡」と「事業譲渡」の2つのスキームが用いられます。
| 比較項目 | 持分譲渡(会社売却) | 事業譲渡(事業売却) |
|---|---|---|
| 負債の引継ぎ | 会社丸ごとのため、簿外債務も引き継ぐリスクあり | 原則、契約で定めたものだけ引き継ぐ |
| 許認可 | 原則、そのまま引き継がれる | 原則、買い手が再取得する必要がある |
| 契約関係(雇用等) | 原則、そのまま引き継がれる | 取引先や従業員との契約は再締結が必要 |
| 税金(売手側) | 譲渡益に約20%(経営者個人の譲渡所得) | 譲渡益に約30〜40%(会社の法人税等) |
| 同意要件 | 総社員の同意(持分譲渡自体) | 総社員の同意(事業譲渡自体) |
持分譲渡によるM&A
会社の持分の全部または大部分を第三者(買い手企業)に売却し、経営権を移転する方法です。
会社自体はそのまま存続し、社員(オーナー)が入れ替わる手法です。許認可や契約関係も原則としてそのまま引き継がれるため、手続きが比較的簡便です。ただし、実行には原則として「総社員の同意」が必要です。税負担の観点からは、経営者個人の譲渡所得税(約20%)で済むため有利になるケースが多いです。
事業譲渡によるM&A
会社の事業の一部または全部を選別して、第三者に売却する方法です。
買い手にとっては、必要な資産・負債だけを引き継ぐことができ、簿外債務のリスクを回避できるメリットがあります。一方、売り手側は、個々の資産や契約を移転する手続き(従業員の転籍同意など)が煩雑になりがちです。また、譲渡益には法人税(約30〜40%)が課税されます。
合同会社の事業承継で失敗しないためのポイントは?
合同会社特有の同意要件や税制の課題をクリアするには、計画的な準備が不可欠です。
早期の準備と計画策定
事業承継には通常5〜10年かかると言われており、経営者が元気なうちに早期に着手することが成功の最大の鍵です。「いつ」「誰に」「どうやって」引き継ぐのか、具体的な事業承継計画を策定しましょう。
定款内容の確認
合同会社の事業承継は定款に大きく左右されるため、現行の定款内容の確認が必須です。
以下の2点は必ず確認してください。
- 相続に関する規定
相続人が持分を承継できる旨の記載があるか - 持分譲渡の承認要件
総社員の同意」となっているか、それとも業務執行社員の過半数などで緩和されているか
持分の適正な評価
納税額や譲渡価格の根拠となる「持分の評価」は、必ず税理士などの専門家に依頼し、客観的に算定する必要があります。不当に安い価格での譲渡は「みなし贈与」として後継者に思わぬ税負担を強いることになります。
後継者教育と関係者への説明
納税額や譲渡価格の根拠となる「持分の評価」は、必ず税理士などの専門家に依頼し、客観的に算定する必要があります。不当に安い価格での譲渡は「みなし贈与」として後継者に思わぬ税負担を強いることになります。
専門家への相談
合同会社の事業承継は、法律・税務・登記が複雑に絡み合うため、独断で進めず専門家のサポートを受けるべきです。法律面は弁護士、税務面は税理士、登記面は司法書士など、課題に応じて連携しましょう。
合同会社の事業承継は誰に相談すればよい?
合同会社の事業承継は、会社の顧問税理士や弁護士が最初の相談先として適していますが、公的な支援機関やM&A専門会社も有力な選択肢です。
また、全国の都道府県に設置されている公的機関「事業承継・引継ぎ支援センター」は、中立的な立場で無料相談に応じてくれます。「何から手をつけて良いかわからない」といった場合に非常に有用な相談窓口です。初期相談から課題整理、専門家の紹介、M&Aのマッチング支援まで幅広く対応しています。
合同会社の円滑な引継ぎへの第一歩を踏み出しましょう
合同会社の事業承継は、総社員の同意と、持分の扱いや事業承継税制が対象外という税務・法務の技術的な側面の両方をクリアする必要があります。
まずは自社の定款を取り出し、相続と持分譲渡に関する規定がどうなっているかを確認することから、あなたの会社の円滑な引継ぎへの第一歩を始めてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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