- 更新日 : 2025年7月28日
開業届の職業欄・事業の概要欄の書き方とは?記載例や注意点を個人事業主向けに解説
個人事業主や自営業者、フリーランスなどで個人が事業を開始する場合、所轄の税務署長に「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出することになります。この開業届を記入する際に、迷いやすい項目のひとつが「職業欄」です。
この記事では、開業届における職業欄の書き方、職業欄と関係する事業税など、開業届の職業欄を中心に解説します。
目次
開業届の職業欄と事業の概要欄の違い
開業届は、新たに事業を開始したときや、事業用として事務所や事業所を新設したときに、管轄の税務署へ提出する書類です。開業届の記入欄には、以下のように「職業」や「事業の概要」といった項目があり、それぞれどのような仕事を事業として行うのか記入していきます。
出典:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁、「個人事業の開業・廃業等届出書」を加工して作成
まず、「職業欄」は開業後に従事する職業を明らかにすることを目的としています。職業欄の内容は、個人事業税の課税判定に影響するため、正確な職業名を記載することが重要です。
次に、「事業の概要欄」は「職業欄」に記載した内容をより具体的に説明するための欄として設けられています。第三者が見た場合でも「どのような仕事内容なのか」が理解できるように、商品やサービス等の内容について具体的な記載が求められます。
しかし、働き方や事業の多様化が進み、近年広まってきた分野だと、どのように書くべきかわからないケースもあるでしょう。
職業欄|事業の大分類を示す
職業欄の書き方として、ひとつ参考になるのが、総務省の「日本標準産業分類」です。日本標準職業分類のうち、個人事業主が多い例をいくつか取り上げます。
- A-農業、林業
米作農業、野菜作農業、酪農業、養鶏業、園芸サービス業、育林業、など - B-漁業
底びき網漁業、魚類養殖業、貝類養殖業、など - D-建設業
造園工事業、内装工事業、ガラス工事業、一般電気工事業、電気通信工事業、など - G-情報通信業
受託開発ソフトウェア業、情報処理サービス業、ポータルサイト・サーバ運営業、など - I-卸売業、小売業
婦人服小売業、酒小売業、中古自動車小売業、無店舗小売業、など - K-不動産業、物品賃貸業
不動産代理兼・仲介業、貸事務所業、貸家業、駐車場業、など - L-学術研究、専門・技術サービス業
法律事務所、行政書士事務所、税理士事務所、デザイン業、著述家業、翻訳業、獣医業、など - M-宿泊業、飲食サービス業
旅館、ホテル、日本料理店、ラーメン店、そば・うどん店、喫茶店、など - N-生活関連サービス業、娯楽業
普通洗濯業、美容業、エステティック業、など - P-医療、福祉
歯科診療所、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師の施術所、など - R-サービス業
自動車一般整備業、時計修理業、など
出典:日本標準産業分類(令和5年7月告示)|総務省、「大分類項目表」
事業の概要欄|職業の内容を具体的に説明する
「事業の概要欄」は、実際の仕事内容や事業内容を職業欄よりも詳しく記載し、事業の具体的な内容を明確にすることが求められます。「どのような店か」「どのようなサービスや商品を提供するのか」などを具体化して記載しましょう。
例えば、職業欄が「飲食業」の場合、「事業の概要欄」には、さらに具体的に「居酒屋の経営(和食を中心とした料理の提供、宴会対応)」「カフェでの軽食・ドリンクの提供、店舗経営」「ラーメン店の経営(ラーメン・餃子の提供、お持ち帰り対応)」などといったように、事業の内容を事実に沿って説明すべく、具体的に記入します。
※画像は執筆時点のイメージであり、最新の画面と異なる場合がございます
なお、マネーフォワード クラウド開業届では、上のようにフォーム入力だけで、簡単に開業届を作成できます。サービス利用料0円です。
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開業届の職業欄・事業の概要欄の書き方・記入例
開業届の職業欄、「職業」と「事業の概要」をどのように記載すれば良いのか、書き方の具体例をいくつか紹介します。必ずこう書かなければならないという決まりはありませんが、職業欄を記入するときの書き方の参考にしてみてください。
1. 物件を借りてカフェの営業を開始した
- 職業:飲食店経営
- 事業の概要:カフェでの軽食提供やマネジメント
2.中学生向けの学習塾を開業した
- 職業:学習塾運営
- 事業の概要:中学生向け集団指導、塾の運営
3.フリーランスエンジニアの仕事をはじめた
- 職業:システムエンジニア
- 事業の概要:ソフトウェアのシステム設計やプログラミング
4. Webデザインの仕事をはじめた
- 職業:Webデザイナー
- 事業の概要:Webサイトのビジュアルデザイン、LPサイトの制作
5.ブロガーとして収入が安定してきたので開業した
- 職業:Webサイト運営
- 事業の概要:Webサイトの記事作成、Webサイト広告の最適化・管理
複数の職業で収入がある場合はどうする?
ブログの運営をしながらWebライターをしている、農業をしながらECサイトを運営しているなど、複数の事業を抱えているケースもあるかと思います。
複数の職で収入を得ている場合は、収入のメインになっている職業を1つ職業欄に記入するだけで問題ありません。気になるようであれば、事業の概要に詳しく仕事の内容を書くこともできます。
収入のメインになる事業がなく、いずれの事業も同じくらいの収入を得ている場合は、収入の多い順に複数記入するのが無難です。
事業内容に変更があった場合はどうする?
「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出が必要になるのは、新たに事業を開始したとき、事業所などを新設や増設・移転したとき、事業を廃止したときです。
譲渡により事業を廃止した場合、事業の変更と同時に事業所を新設した場合などでは届出が必要と考えられますが、事業を継続するなかでの多少の職業の変化であれば基本的に再提出は必要ありません。
ただし、メインの事業などに変更がある場合は、確定申告書の職業欄に変更後のものを記入しましょう。変更により非課税対象になる事業がある場合は、確定申告書の事業税の欄の記入に注意するようにしましょう。
開業届の職業欄と事業税との関係
開業届の職業欄は、事業税にも間接的に関係してきますので、明確に仕事内容がわかる虚偽のない職業を記入するようにします。
なお、開業届の職業欄が事業税にも間接的にかかわると説明したのは、確定申告書には職業を記載する欄、事業税に関する欄があり、最終的に確定申告書に記載したものが事業税の計算に使われるためです。
開業届の職業欄と、確定申告書の職業欄には原則として同様のものを記入しますので、開業届の職業欄は間接的に事業税に影響します。
そもそも事業税とは
事業税(個人事業税)とは、個人の事業に対してかかる税金のことです。地方税の一種で、地方税法などで定められた事業に課せられます。
所得税の計算と同じように、個人の所得にかかる税金で、年間控除額290万円を超過した分について事業税が発生します。営業期間が1年に満たない場合の控除額は、月割りでの算出となります。
事業税については、所得税の確定申告あるいは住民税の申告と共通ですので、個人で確定申告をする場合は、別途で個人事業税を申告する必要はありません。
職業によって事業税の税率が変わる
開業届の職業欄が重要なのは、職業によって事業税の税率が変わるためです。事業税の対象になる業種は全部で70種類あり、ほとんどの業種は事業税率5%ですが、業種によっては事業税率4%、3%になることもあります。
事業税率 | 事業の種類 |
---|---|
3% | あんま・マッサージ業、指圧・はり・きゅう業、など |
4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
5% | 物品販売業、飲食店業、物品貸付業、不動産貸付業、請負業、写真業、旅館業、医業、税理士業、デザイン業、弁護士業、美容業、コンサルタント業、クリーニング業など |
参考:個人事業税|東京都主税局
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事業税が課税されない職業もある
職業によっては、事業税が課税されないものもあります。例えば、以下のような職業から生じる所得です。
- 林業や鉱物採掘業による所得
- 社会保険診療報酬などにかかわる所得
- 外国にある事務所などで生じた所得
- 地方税法第72条の2(事業税の対象となる事業)に該当しない事業の所得
課税されない所得がある場合は、非課税分を除外した分が、事業税の対象です。事業税の対象にならない事業のみの所得であれば、所得が年間290万円を超えていても事業税は発生しません。
開業届の事業の概要欄が将来の融資に与える影響
個人事業主が融資を申請する際、金融機関は開業届の事業の概要欄と事業計画書の内容の整合性をチェックします。まだ事業の実績が乏しい状況においては、開業届の事業の概要欄も信頼性を判断する重要な材料となるためです。
融資のために提出した書類間に一貫性が見られない場合には、本当にその事業を行っているのか疑われたり、事業方針が定まっていないと判断されたりすることもあり得ます。
したがって、開業届における事業の概要欄には、将来の事業展開も見据えた具体的な内容を記載することが重要です。
例えば、単に「コンサルティング業」ではなく、「企業の資金調達コンサルティング及び事業計画書作成支援」のように事業内容に具体性を持たせることで、後の融資申請時に一貫した説明が可能になります。
開業届の職業欄・事業の概要欄は明確に書こう
開業届の職業欄には決まった書き方はありません。ただし、自営業者やフリーランス、個人事業主などは、労働形態にすぎないため、「職業」とはしないようにしましょう。
職業欄に書かなければならないのは、システムエンジニアやWebデザイナーなどの職種です。特殊な仕事もあるかもしれませんが、一目で誰もがイメージできるよう明確に職業を記入するようにしましょう。
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