- 作成日 : 2022年4月8日
特定商取引法におけるクーリング・オフ制度とは?
クーリング・オフ制度は、消費者保護を目的として1970年代以降に導入・拡大されてきた制度です。さまざまな形態をとる商取引を対象に、契約の申込み撤回や解除などの方法が具体的に定められています。
今回は特定商取引法(略称「特商法」)を中心に、クーリング・オフ制度の概要を説明します。
目次
特定商取引法におけるクーリング・オフ制度とは?
クーリング・オフ制度は、特定商取引法を始めとしたいくつかの法律を根拠に成立しています。ただし、条文の中では「クーリング・オフ」という言葉を用いていないため、特定商取引法の原文だけではやや理解しにくい制度といえます。ここでは、対象の条文および取引を整理することで概要を説明します。
クーリング・オフ制度の条文
クーリング・オフ制度は、特定商取引法(正式名称は「特定商取引に関する法律」、略称は「特商法」)や割賦販売法などに基づいて定められたルールです。例えば、特商法では訪問販売や通信販売、電話勧誘販売など7種類の商取引に関する禁止事項や、取引業者の義務などを規定しています。
クーリング・オフは特商法において「契約の申込みの撤回等」あるいは「契約の解除等」などと表現されており、消費者が契約の申込みや契約をした場合でも一定日数以内であればその撤回・解除などが可能であることを示しています。
具体的にクーリング・オフについて定めた条文は、以下のとおりです。
【特商法】
- 第9条:訪問販売
- 第24条:電話勧誘販売
- 第40条:連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)
- 第48条:特定継続的役務提供
- 第58条:業務提供誘引販売取引
【割賦販売法】
- 第35条の3の10から11
【保険業法】
- 第309条
【その他】
- 宅地建物取引業法第37条の2
- ゴルフ会員契約等適正化法第12条
- 投資顧問業法第17条
- 預託法第8条
- 不動産特定共同事業法第26条
このように、多岐にわたる契約・商取引がクーリング・オフ制度の対象になっていることがわかります。次に、制度の対象となる契約・商取引の名称や概要、事例を表にして整理します。
なお、クーリング・オフ制度は一般消費者の保護を主な目的としています。個人事業者を含む事業者間の契約については、訪問販売を始め、クーリング・オフの適用外となっているものもあるので注意が必要です。
参考:
特定商取引に関する法律|e-Gov法令検索
割賦販売法|e-Gov法令検索
保険業法|e-Gov法令検索
クーリング・オフ制度の対象
クーリング・オフ制度の対象となる契約・商取引やクーリング・オフの期間をまとめると、以下のようになります。
名称 | 概要 | 期間 | 根拠法 |
---|---|---|---|
訪問販売 | 自宅や勤務先における勧誘取引。 | 8日間 | 特商法第9条 |
電話勧誘販売 | 電話勧誘による契約・取引。 | 8日間 | 特商法第24条 |
連鎖販売取引 | マルチ商法のこと。 | 20日間 | 特商法第40条 |
特定継続的役務 | 一定期間・一定金額を超えるサービス。エステ、語学教室など。 | 8日間 | 特商法第48条 |
業務提供誘引販売取引 | 内職やモニターなど、業務の提供と引き換えに商品やサービスを契約する取引。 | 20日間 | 特商法第58条 |
個別信用購入あっせん | 割賦販売。売買代金の分割払いを条件とした販売方式。 | 8日間(一部20日間) | 割賦販売法第35条の3の10から11 |
保険契約 | 店舗外で、期間1年を超える生命保険や損害保険の契約。 | 8日間 | 保険業法第309条 |
宅地建物取引 | 宅建業者を売主とし、事業所外で行われる不動産取引。 | 8日間 | 宅建法第37条の2 |
ゴルフ会員権契約 | 会員制ゴルフ場の利用権契約。 | 8日間 | ゴルフ会員契約等適正化法第12条 |
投資顧問契約 | 投資顧問業者による契約。店舗契約を含む。 | 10日間 | 金融商品取引法 37 条の 6 |
預託取引契約 | 商品販売後に現物を渡さず、一定期間預かり証券だけを渡す、いわゆる「現物まがい商法」「ペーパー商法」と呼ばれるもの。 | 14日間 | 預託法第8条 |
不動産特定共同事業契約 | 投資家から出資金を募って不動産投資事業を行う契約。 | 8日間 | 不動産特定共同事業法第26条 |
訪問販売や特定継続的役務提供のような一般的な取引のみならず、保険契約や割賦販売、現物まがい商法など幅広い範囲の取引がクーリング・オフの対象になっています。ただし、クーリング・オフが認められる期間は取引・契約のタイプごとに異なるため、契約締結前に確認しておくことが大切です。
クーリング・オフ制度における書面公布義務とは?
書面交付義務とは、その名のとおり「クーリング・オフに関する書面を交付する義務」のことです。事業者は、契約の申込みや実際の契約締結の際に、契約書だけではなくクーリング・オフができること、すなわち契約の申込みの撤回や契約解除に関する事項を明記した書面を交付しなければなりません。
特商法においては訪問販売や通信販売など、取引形態ごとに書面交付義務が規定されています。例えば、訪問販売では、第4条・第5条でクーリング・オフを含む契約内容を記載した書面の交付が義務付けられています。
消費者側にとって不本意な契約内容であったとしても、クーリング・オフの存在を書面上で明らかにすることを事業者に義務付けることにより、消費者保護の機会を確保できます。
事業者は書面の交付を怠ったり、書面上や口頭で虚偽の内容を消費者に告げたりしてはいけません。こちらも特商法で禁止されており、仮にこのような禁止行為によってクーリング・オフ期間中の契約解除を妨害したと認められる場合には、クーリングオフ期間は進行せず、クーリング・オフが可能です。
2021年の特商法改正によって、事業者からの書面の交付や消費者からのクーリング・オフの通知は電磁的方法(電子メールの送付など)によって行えるようになりました。こちらは、2022年6月1日に施行されることが決まっています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、書面交付義務もデジタル化されたのです。
クーリング・オフ制度を利用する場合はどうすればよい?
クーリング・オフの実務について、一般消費者および企業(事業者)のそれぞれの立場からとるべき対策を説明します。
一般消費者がクーリング・オフ制度を使用する場合
国民生活センターによると、クーリング・オフの手続き方法は以下のとおりです。
- クーリング・オフは必ず書面で行いましょう。はがきでできます。
- クーリング・オフができる期間内に通知します。
- クレジット契約をしている場合は、販売会社とクレジット会社に同時に通知します。
- はがきの両面をコピーしましょう。
- 「特定記録郵便」または「簡易書留」など、発信の記録が残る方法で送付し、コピーや送付の記録は一緒に保管しておきましょう。
引用:クーリング・オフの手続き方法|独立行政法人国民生活センター
上記の方法を踏まえた上で、まずはクーリング・オフの期間内に手続きを行うことが重要です。訪問販売のように8日間である取引形態も多く、契約の申込み撤回や契約解除の意思を早い段階で示す必要があります。契約年月日、商品名、契約金額、販売会社(場合によってはクレジット会社も)と自分の氏名・住所を明記して通知書面を郵送します。
上記の引用では「必ず書面で」とありますが、2022年6月1日に改正特商法が施行された後は、オンラインでのクーリング・オフの通知も可能になります。こちらも契約書に記載されるはずですので、契約の際に内容を確認するようにしましょう。
クーリング・オフ制度を使用した一般消費者に対して企業がとるべき対応
消費者がクーリング・オフを行い、クーリング・オフ制度の条件を満たしていた場合には、契約は解除されます。企業としては、受け取った代金を消費者に返金することはもちろん、工事などを実施していた場合は、その費用も事業者負担となるケースがあります。
法律で定められた交付書面に不備があると、たとえ契約の日から8日または20日が経過していたとしてもクーリング・オフを認めざるを得ません。必要事項が確実に書面に記載されていること、また、消費者への告知内容を記録することにより、クーリング・オフおよびそれに関連するトラブルの防止につながります。
特商法改正によって、書面の交付やクーリング・オフの通知をオンライン上で行えるようになります。クーリング・オフ用のフォームやメールアドレスなど、やり取りを円滑にするための対策が必要になるでしょう。
クーリング・オフ制度に関連した処分事例
事業者がクーリング・オフ制度を含む特商法などの関係法令に違反すると、業務改善命令や停止命令などの行政処分を受けるだけではなく、関係各機関のWebサイトにおいて実名を挙げる形で記録が残る可能性があります。クーリング・オフや特商法に関連して行政処分を受けた事例があるので、適切な対応を検討する際の参考にしてください。
例えば、特定の役務を提供する事業者の事例が挙げられています。電話勧誘販売の際に勧誘目的を明示しなかったこと、交付書面の記載不備、料金に関する情報を故意に告げなかったこと、契約解除に関する情報を故意に告げなかったことから、処分を受けた事実が記載されています。
消費者の味方「クーリング・オフ」を覚えておこう
クーリング・オフは不本意な契約を締結してしまった消費者の味方であり、商品やサービスを購入するすべての人が覚えておくべき制度といえます。
一方で事業者にとっては、トラブルを回避するために慎重な対応が求められる制度です。特商法の文面や解説用の官公庁・自治体のWebサイトやパンフレットなどを確認し、不備のない対応を心がけましょう。
参考:特定商取引に関する法律(特定商取引法)|経済産業省関東経済産業局
よくある質問
特定商取引法におけるクーリング・オフ制度とは何ですか?
訪問販売、電話勧誘販売など、さまざまな取引形態において契約の申込みの撤回や解除などについて規定した制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
一般消費者がクーリング・オフ制度を使用するにはどうすればよいですか?
所定の期間内に、販売会社(必要であればクレジット会社も含みます)に対して書面で契約解除の意思を通知する必要があります。2022年6月1日以降は、電子メールなど電磁的方法による通知も可能になります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
食品衛生法とは?2021年施行の改正内容までわかりやすく解説
食品衛生法は私たちの食品安全を保護し、健康を守る上で重要な役割を果たしている法律です。具体的な内容まで理解している方は多くないと思われますが、食品に関わる企業の方は同法の知識を持っている必要があります。 当記事では企業の方に向けて食品衛生法…
詳しくみる景品表示法(景表法)とは?禁止事項や違反となる事例、罰則をわかりやすく解説
ECサイトを開設・運営する人が増えています。中には会社員をしながら副業としてECサイトの運営を始めるか検討している方もいるでしょう。 ネットショップに限らず、お店で商品の販売の際に粗品や賞品などを付ける場合、注意すべき法律に「景品表示法」が…
詳しくみる商法526条とは?民法改正による変更点や売買契約書の注意点などを解説
商法526条は、売買契約において買主による目的物の検査と通知の義務を定めた条文です。事業者間の売買契約において、売主と買主の双方にとって重要なルールとなります。 今回は、商法526条の解説をしたうえで、民法改正による変更点、売買契約書を作成…
詳しくみる行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説
行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意…
詳しくみる薬機法とは?概要や対象、規制内容を簡単に解説
薬機法とは、医薬品や医薬部外品、化粧品などの品質や有効性、安全性を確保するために、製造や販売、広告などに関する規則を定めた法律です。薬機法に違反すると、処罰の対象になり、社会的信用が失墜する可能性もあります。まずは、何が規制対象となっている…
詳しくみる2022年6月施行の公益通報者保護法改正とは?事業者がおさえるべきポイントを紹介
2022年6月に改正公益通報者保護法が施行されました。改正を受けて、事業者には従事者の指定や通報に対応する体制の整備など、対応が求められます。違反により罰則が科せられる可能性もあるため、改正のポイントについて正しく理解しましょう。今回は、公…
詳しくみる