• 作成日 : 2025年5月14日

債権者代位権とは? 行使要件や改正民法の条文、無資力不要の転用事例などを解説

債権者代位権とは、債務者に代わって権利を行使する制度です。企業法務や債権管理に携わる方には理解が必須の概念といっていいでしょう。

本記事では、行使要件や改正民法における条文の確認はもちろん、無資力不要となる転用事例、金銭債権以外への適用、裁判外での活用についてまで、幅広くわかりやすく解説します。

債権者代位権とは

債権者代位権とは、債務者がもつ権利を、債権者が債務者に代わって行使できる制度です。

債務者が自身の権利を行使せずに放置していると、債権者は債権回収ができなくなるおそれがあります。このような事態を防ぐため、民法では債権者が債務者の権利を「代位」して行使できる制度を設けています。

例えば、債務者が第三者から金銭を受け取るべき権利をもっているのに行使しない場合、債権者がその権利を行使して支払いを受け、自身の債権回収に充てることができます。

このように、債権者代位権は債務者の財産保全と債権者の利益保護を両立させる法的手段なのです。

債権者代位権の具体例

債権者代位権の具体例としては、AがBに対して100万円の債権をもっており、BはCに対して50万円を請求できる権利を有しているとします。この時、BがCに請求しないままでいると、Aは自分の債権を回収できなくなる可能性があるのです。

そこでAは、債権者代位権を行使して、Bに代わりCへ50万円の支払いを請求できます。得られた金額は、Aの債権回収に充てることができ、これは「被代位権利」とも呼ばれるBの権利を、Aが一時的に行使する形です。

債権者代位権の効果

債権者代位権の効果は、債務者の権利を債権者が代わりに行使することで、債権回収の可能性を高められる点にあります。債務者が自己の権利を放置している場合でも、債権者がそれを代位行使することで、自身の債権回収を実現しやすくなるのです。

また、この制度は、債務者の権利不行使によって第三者との取引関係や資産管理に生じる不利益を防ぐ効果もあります。ただし、代位により得られた金銭や権利はあくまで債務者の財産として扱うため、他の債権者との公平な分配対象になる可能性がある点には注意が必要です。

債権者代位権に関連する改正民法の条文

債権者代位権に関する規定は、2020年施行の民法(債権法)改正によって条文が整理され、より明確化されました。改正前の民法は、債権者代位権は旧民法423条に定められており、判例の積み重ねで具体的な要件や運用が形成されてきました。もともとの条文には、抽象的でわかりにくい面があったことが、今回の改正が実施された背景です。

改正民法による変更点

改正後の民法423条では、債権者代位権の要件や行使方法、除外される権利の範囲などが条文上で明示され、より実務に即した内容となりました。

(債権者代位権の要件)

第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

引用:民法|e-Gov法令検索

条文には、債権者が自己の債権を保全するために必要な限度で、債務者に属する権利を行使できることが明記されています。また、「一身専属的権利」や「差押えを禁じられた権利」など、代位の対象とならない権利も列挙され、適用範囲が明確になりました。

この改正により、債権者代位権の実務運用においては、従来よりも条文ベースで判断しやすくなったため、法的な不確実性が減少したといえるでしょう。

債権者代位権を行使する要件

債権者代位権は、債権者が勝手に行使できるものではなく、民法423条にもとづく一定の要件を満たすことが必要です。そもそも債権者代位というのは、債務者が自らの権利を行使しないことで債権の回収が困難となる場合に、債権者がそれを代行する例外的手段です。

したがって、債務者・債権者双方の状況や、対象となる「被代位権利」の内容が重要となります。以下では主な要件について整理し、関連する用語の意味もあわせて解説します。

債務者が無資力であること

債務者が無資力(資産がなく、支払い能力がない状態)であることは、債権者代位権を行使する基本的な要件の1つです。債務者に十分な資産がある場合は、債権者は債務者自身の支払いで満足できるため、代位してまで権利を行使する必要はありません。

ここでいう「無資力」とは、法律上の破産状態とは異なり、現実的に支払いに充てられる資産や収入が乏しい状態を指します。債権者は、無資力であることを裁判所に対して客観的に説明できるよう、預金残高や財産状況などの資料をそろえることが求められる場合もあります。

なお、無資力であるかの判断は、代位の実行時点での状況が基準とされます。

債権者が被保全債権を有していること

債権者代位権を行使するためには、債権者が「被保全債権」(保全すべき自分の債権)を有していることが必要です。この債権としては「金銭債権」が典型例ですが、将来確実に発生する予定の債権(例:売買契約後の未払代金請求権)も含まれる場合があります。

ただし、債権があまりにも不確定である場合は、要件を満たしていないと判断されることもあります。「債権の存在と内容を特定できること」がポイントです。

債務者が被代位権利を行使しないこと

債権者が代位できるのは、債務者が自らその権利を行使せずに放置している場合に限られます。例えば、債務者が第三者に対して請求できるにもかかわらず、その請求を怠っている場合に、債権者は債務者に代わってその請求を行うことが可能です。

この時の債務者の態度は「権利を放棄している」というよりも、「権利行使を怠っている」と解釈されます。放置の期間や背景事情も判断材料になり得ます。あくまで債務者自身が権利を行使している最中であれば、債権者は代位できません。

被代位権利が一身専属でないこと

債権者代位権で行使できるのは、「被代位権利」が他人に譲渡できる性質のものであることが条件です。例えば、慰謝料請求権や扶養請求権などは「一身専属的権利」とされ、本人以外は行使できません。

このような権利は、法律上の性質として他人に譲り渡すことができないため、債権者も代位行使することはできません。代位が可能かどうかの判断は、権利の性質にもとづいて検討される必要がある点に注意が必要です。

債権の弁済期が到来していること

債権者代位権を行使するには、債権者が有する債権の弁済期が到来している必要があります。債権がまだ履行期にない状態では、原則として代位行使はできません。

ただし例外として、保存行為(例:時効中断措置など)であれば、期限の到来を待たずに行使が認められます。この要件は、債権者が不当に早期に債務者の権利行使に介入するのを防ぐためのものです。したがって、代位行使を検討する際には、被保全債権の履行期がいつか、保存行為に該当するかを事前にしっかり確認しておく必要があります。

債権者代位権は裁判外でも行使できる

債権者代位権は、必ずしも裁判手続きを経なければならないものではなく、裁判外でも行使可能です。例えば、債務者がもつ第三者への請求権について、債権者が内容証明郵便などで代位請求を行うことで、実質的な行使が認められる場合もあります。

ただし、裁判外での行使は、被保全債権の存在等の要件が充足されているかの判断を第三者(被代位債務者)に強いる形となるため、法的拘束力をもたせるには不十分なケースが多いです。実務では、債権者代位訴訟や仮差押えなど、裁判所の手続きを通じて行使するのが一般的です。

裁判外で行う場合でも、相手方の対応次第では法的措置が必要になることを前提に検討すべきでしょう。

債権者代位権の転用とは

本来、債権者代位権は債権回収のため用いられる制度ですが、債権の保全に限らず、登記請求や契約解除など他の法律関係を整理・実現する手段として転用する例もあります。

こうした使われ方では、制度本来の枠組みを超えて柔軟に運用されるため、通常の代位とは異なる扱いがされることもあります。例えば、債権の保全という目的とは異なる場面で代位権が活用されるとなれば、無資力要件が不要となるなど、通常の代位権とは異なる扱われ方となります。以下、いくつか具体例を出して解説します。

金銭債権以外にも債権者代位権を適用すること

債権者代位権は通常、金銭の支払いを受けるために使われますが、金銭債権以外を目的とした権利にも代位権が及ぶケースがあります。例えば、債務者が特定の契約解除権や登記請求権を行使しない場合、債権者が代位してこれらの権利を行使することで、間接的に自己の利益を保全できます。

こうした利用は、従来の金銭債権の保全とは異なり、「法的障害の排除」や「法的地位の回復」とすることが多く、債権回収以外の法的目的で代位権が用いられるケースです。

債権者代位権の転用では債務者の無資力が不要

債権者代位権の転用では、債務者の無資力要件が不要とされる点も覚えておきましょう。

通常の債権者代位権では、債務者が支払能力を欠いていることが前提条件となりますが、転用的な場面では、債務者に資産がある場合でも代位行使が認められることがあります。

これは、金銭回収ではなく、他の法律効果を実現する目的で制度が用いられるためです。例えば、債務者の協力が得られないために登記申請を進められないとき、債権者が代わりに登記請求を行うことで、正当な権利関係を回復することが可能となります。

債権者代位権の転用事例

それでは次に、債権回収以外の目的で債権者代位権が活用された代表的な事例をご紹介します。実務上も一定の参考になるでしょう。

登記請求権を代位行使した事例

ある不動産取引において、不動産の移転経由者である債務者が、前主に対して所有権移転登記請求権を有していたにもかかわらず、登記手続きを履行せずに放置していたケースがあります。

そこで、債務者に対して代金債権を有していた債権者が、債務者に代わって前の売主に登記請求権を行使し、登記手続きを実現させました。

このようなケースでは、登記手続きそのものが債権回収に直結しなくても、権利実現の障害を取り除く目的で債権者代位権の行使が認められることがあります。このような転用型の事例では、債務者の無資力は要件とされません。

契約解除権を代位行使した事例

債務者が不動産の賃貸借契約を結んでおり、貸主側に重大な契約違反があったにもかかわらず、債務者が解除の意思表示を行わずに賃料を支払い続けていたケースがあります。

債権者は、債務者の支出が自身の債権回収を困難にしていると判断し、債務者に代わって契約を解除するという法的措置を取りました。この場合、解除権は一身専属的ではないとされ、かつ債権者が権利を保全するために必要と認められたため、代位行使が認められました。債務者の協力が得られない状況でも、正当な権利実現の手段として代位が認められた例です。

このように、契約解除権が一身専属的な性質でない限り、債務者の消極的な対応が債権者の不利益につながる場合には、裁判所が代位行使を認める余地があるといえます。

妨害排除請求権を代位行使した事例

債権者代位権の転用事例として、不動産の妨害排除請求権を賃借人が代位行使するケースがあります。例えば、ある土地を借りて使用している賃借人が、その土地を無断で占拠する第三者によって使用できなくなっているにもかかわらず、土地の所有者である賃貸人がその状況を放置しているようなケースです。賃借人としては、正当な賃借権にもとづいて土地を利用する権利があるにもかかわらず、それを妨害されている状況になります。

このような場合、賃借人は、賃貸人が第三者に対して保有している妨害排除請求権を債権者代位権によって行使することが可能です。これは、賃借人の使用収益権という債権を保全するための転用的な代位行使の典型例です。

債権者代位権は活用場面と要件を正しく押さえることが重要

債権者代位権は、債務者が自らの権利を行使しないことによって債権者が不利益を被る場合に、その権利を代わって行使できる制度です。改正民法で条文が整理され、実務上の活用が明確になった一方、近年では登記請求や契約解除などへの「転用」も見られます。こうした応用では要件や目的が通常と異なるため、裁判外での対応や無資力要件の有無を含め、正しく理解することが重要です。事例や判例をもとに、慎重に検討しましょう。少しでも不明確な点があれば、法律問題のプロである弁護士に相談することをおすすめします。


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