• 作成日 : 2025年11月6日

飲食店における原状回復の全知識|費用相場からトラブル回避策まで

飲食店のテナントを退去する際に発生する「原状回復」は、多額の費用がかかるだけでなく、貸主とのトラブルの原因にもなりやすい経営上の大きな課題です。原状回復の範囲はどこまでなのか、費用はいくらかかるのか、その義務は賃貸借契約書の内容に大きく左右されます。

この記事では、飲食店経営者が知っておくべき原状回復の基本から、費用の相場、トラブルを未然に防ぐための具体的な対策までを網羅的に解説します。

飲食店における原状回復の基本的な考え方

飲食店の原状回復は、一般的な住居の原状回復とは考え方が異なります。その義務の範囲や内容は、すべて「賃貸借契約書」の記載にもとづいて決定されます。ここでは、まず押さえておくべき基本を解説します。

住居用物件との違い

住居の場合、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が存在し、経年劣化や通常の使用による損耗(通常損耗)は貸主の負担とされています。しかし、店舗などの事業用物件では、このガイドラインの直接的な適用はなく、借主がより重い原状回復義務を負う特約が結ばれるのが一般的です。

出典:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について|国土交通省

すべての基本は「賃貸借契約書」

飲食店の原状回復において、最も効力を持つのが当事者間で結んだ賃貸借契約書です。「どのような状態に戻すか」「工事は誰が行うか」「費用負担はどうするか」といった内容は、すべて契約書の条文や特約に従います。そのため、契約内容を正確に理解しておくことが、トラブルを避ける第一歩です。

飲食店の原状回復はどこまで行うべきか?

「どこまでが借主の義務の範囲なのか」は、原状回復における最大の論点です。契約内容によって大きく異なりますが、一般的なケースと、よく問題になる経年劣化の扱いについて見ていきましょう。

「スケルトン返し」が一般的

飲食店などの店舗物件では、入居時に内装や設備が何もない「スケルトン状態」で借り、退去時も同様にすべてを撤去してスケルトン状態に戻す「スケルトン返し」が原則となるケースが多く見られます。この場合、借主が設置した内装、厨房設備、空調、排気ダクト、看板などをすべて解体・撤去する義務を負います。

契約書で定められた範囲を確認

スケルトン返しが原則とはいえ、契約によっては「入居時の状態に戻す」とされている場合もあります。たとえば、前のテナントの内装を一部引き継いだ「居抜き物件」に入居した場合、退去時の状態は契約書でどのように定められているか、個別に確認が必要です。契約書に「スケルトンにて返還」と明記されていれば、居抜きで入居した場合でもスケルトンに戻す義務が生じます。

経年劣化や通常損耗の扱い

住居では貸主負担となる経年劣化や通常損耗も、店舗物件の契約では「借主の負担で修繕する」という特約が付いていることが少なくありません。たとえば、長年の使用による壁紙の変色や床のすり減りなども、借主の費用で張り替えや修繕を求められる場合があります。これも契約書の特約次第となるため、注意深く確認しましょう。

飲食店における原状回復の費用相場と内訳

飲食店の原状回復は、解体する設備や内装が多いため、高額になりがちです。ここでは、費用の相場や主な内訳、そして費用が変動する要因について解説します。

費用の相場は坪単価3万円〜10万円

飲食店の原状回復費用の相場は、一般的に坪単価で3万円〜10万円程度といわれています。ただし、これはあくまで目安であり、店舗の規模、構造、立地、工事内容によって大きく変動します。たとえば、小規模なカフェと重飲食の焼肉店では、撤去するダクトや設備の規模が異なるため、費用も大きく変わります。

主な費用の内訳

原状回復工事には、さまざまな費用が含まれます。主な内訳は以下のとおりです。

  • 解体工事費:内装(壁、天井、床)、造作(カウンター、棚)、厨房設備、看板などの解体・撤去費用
  • 設備撤去費:空調、排気・給気ダクト、グリストラップなどの撤去費用
  • 産業廃棄物処理費:解体で出た廃材の処分費用
  • 補修・内装仕上げ費:建物の躯体に与えたダメージの補修や、塗装などの仕上げ費用
  • 諸経費:現場管理費、交通費、駐車場代など

費用が変動する要因

見積もり額は、いくつかの要因によって変わってきます。たとえば、アスベスト(石綿)が使用されている建物の場合は除去費用が追加で発生します。また、店舗がビルの高層階にあったり、搬出経路が狭かったりすると、作業費や人件費が割高になる傾向があります。

飲食店の原状回復でよくあるトラブルと回避策

原状回復は、貸主と借主の認識の違いからトラブルに発展しやすい問題です。ここでは、よくあるトラブル事例と、それを未然に防ぐための具体的な対策を解説します。

よくあるトラブルの事例

  • 想定外の高額請求:貸主指定の業者から、相場を大きく超える見積もりを提示される。
  • 回復範囲の認識の相違:経年劣化や通常損耗まで修繕範囲に含まれ、どこまで直すべきかで意見が対立する。
  • 敷金が返還されない:原状回復費用が敷金を上回り、追加で費用を請求される。
  • 工期の遅延:解体工事が予定どおりに進まず、明け渡しが遅れて追加の賃料(損害金)が発生する。

トラブルを回避するための対策

トラブルの多くは、契約内容の確認不足や準備不足が原因です。以下の点を意識することで、リスクを大幅に減らせます。

  • 契約時に内容を徹底的に確認する:契約を結ぶ前に、原状回復に関する条文や特約を隅々まで読み込み、不明点は必ず確認します。「原状回復の範囲」「貸主指定業者の有無」「修繕のグレード」などを明確にしておきましょう。
  • 入居時の写真を保管しておく:物件を借りる際に、日付のわかる形で店内外の写真を細かく撮影しておくと、退去時の回復範囲を決める際の客観的な証拠となります。
  • 退去の意思は早めに伝える:契約書で定められた予告期間(通常3ヶ月〜6ヶ月前)を守り、早めに貸主へ解約通知を出します。これにより、原状回復の準備に十分な時間を確保できます。

飲食店の原状回復費用を抑える実践的な方法

高額になりがちな原状回復費用ですが、工夫次第で負担を軽減することは可能です。ここでは、費用を抑えるための具体的な方法として「居抜き売却」と「工事業者の選定」について解説します。

居抜き売却を検討する

原状回復義務を回避する最も有効な手段が「居抜き売却」です。これは、内装や厨房設備をそのままの状態で、次のテナントに売却する方法です。成功すれば、原状回復費用がゼロになるだけでなく、造作の売却益を得ることもできます。

ただし、居抜き売却を行うには貸主の承諾が必須であり、必ずしも成功するとは限りません。まずは貸主に相談し、可能性を探ってみましょう。

複数の業者から相見積もりをとる

貸主から工事業者を指定されている場合を除き、複数の解体業者から見積もり(相見積もり)をとることが費用削減の基本です。業者によって得意な工事や費用感が異なるため、2〜3社から見積もりをとり、内容と金額を比較検討します。単に安いだけでなく、実績や対応の丁寧さもふまえて、信頼できる業者を選ぶことが大切です。

貸主との交渉

見積もり内容や工事範囲について、貸主と交渉の余地がないか検討することも一つの手です。たとえば、明らかに相場より高い見積もりを提示された場合や、回復範囲について疑問がある場合は、専門家(弁護士など)に相談しつつ、根拠を示して交渉することで、条件が改善される場合があります。

飲食店の原状回復を正しく理解し円満な退去を実現する

飲食店の原状回復は、退去時に避けては通れない大きなプロセスです。その義務の内容は、法律の原則よりも賃貸借契約書の特約が優先されるため、契約書をいかに深く理解しているかがすべてを決めるといってもよいでしょう。

入居時に契約内容を精査し、退去時には計画的に準備を進めること。そして、必要であれば居抜き売却のような選択肢も視野に入れることで、予期せぬ出費やトラブルを防ぎ、次の事業展開へスムーズに進むことができます。円満な退去は、計画的な原状回復から始まります。


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