- 作成日 : 2025年11月6日
失敗しない飲食店の外国人雇用|在留資格から補助金まで経営者が押さえるべきこと
飲食店経営者の皆様にとって、深刻化する人手不足は事業継続に関わる大きな課題ではないでしょうか。その解決策の一つとして、外国人材の採用が現実的な選択肢となっています。しかし、手続きの複雑さや文化の違いへの不安から、一歩を踏み出せないケースも少なくありません。
この記事では、飲食店経営者の視点に立ち、外国人採用のメリットとリスク、具体的な手続き、そして採用後の育成と定着まで、経営判断に役立つ情報を網羅的に解説します。
目次
なぜ今、飲食店経営者は外国人採用に注目すべきなのか?
飲食店で外国人材の活躍が目立つようになった背景には、避けては通れない社会構造の変化があります。ここでは、データをもとに、外国人採用がなぜ有効な経営戦略となりうるのか、その理由を解説します。
避けられない国内の人手不足
日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっており、とくに飲食サービス業における有効求人倍率は高い水準で推移しています。日本人だけでは必要な労働力を確保することが年々難しくなっているのが実情です。一方で、厚生労働省によれば日本で働く外国人労働者数は過去最高を更新し続けており、飲食業界にとっても重要な人材供給源となっています。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
新たな収益源となるインバウンド需要
新型コロナウイルス感染症の収束後、訪日外国人観光客は急速に回復し、その消費意欲は飲食業界にとって大きな収益機会です。外国人スタッフがいれば、言語の壁なくサービスを提供でき、外国人観光客をスムーズに集客できます。これは、競合店との差別化を図り、売上を向上させるための戦略的な一手となりえるでしょう。
出典:インバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査)|観光庁
飲食店が外国人を雇用する経営上のメリットと注意点
外国人採用は、単なる人手不足の解消にとどまりません。組織に多様性をもたらし、新たな成長機会を生み出す可能性があります。ここでは、経営者が把握しておくべきメリットと、事前に備えるべき注意点を具体的に解説します。
メリット1:優秀な若手人材の確保
日本では採用が難しい若手の労働力を、海外に求めることができます。とくに、働く意欲の高い人材や、母国で調理経験を積んだ人材など、優秀な人材に出会える可能性があります。新たな視点やスキルが加わることで、既存の業務改善や新メニュー開発のヒントが生まれるかもしれません。
メリット2:組織の活性化とインバウンド対応力の強化
多様な文化背景を持つ人材が職場に加わることで、日本人スタッフも刺激を受け、組織全体の活性化が期待できます。また、外国人スタッフの語学力や文化的知識を活かすことで、これまで取りこぼしていた外国人観光客のニーズに応え、新たな顧客層を開拓することにつながります。
注意点1:文化・習慣の違いからくる労務管理
経営者は、外国人スタッフの宗教や文化、生活習慣への理解と配慮が求められます。たとえば、礼拝への配慮や食事制限(ハラルなど)に対応できる体制づくりが必要です。こうした配慮を怠ると、スタッフのモチベーション低下や早期離職につながるリスクがあります。事前のコミュニケーションと、柔軟な労務管理体制の構築が欠かせません。
注意点2:法的手続きとコンプライアンス遵守
外国人雇用で最も注意すべきは、在留資格の確認です。就労が許可されていない外国人を雇用した場合、「不法就労助長罪」として事業主が罰せられる重いリスクがあります。在留カードの確認を徹底し、在留資格の範囲内で雇用契約を結ぶなど、コンプライアンスを遵守する体制整備が経営者には求められます。
飲食店での外国人雇用の手順と在留資格の確認
外国人を雇用するためには、日本人採用とは異なる法的な手続きが必要です。ここでは、経営者が必ず押さえるべき採用プロセスと、在留資格(就労ビザ)の確認ポイントを解説します。
募集から採用決定までのプロセス
ハローワークや外国人専門の人材紹介会社、求人サイトなどを活用して募集します。面接では、日本語能力や業務スキルはもちろん、「なぜ日本で、この店で働きたいのか」という意欲を確認することが重要です。採用が内定したら、労働条件(給与、労働時間、業務内容など)を明記した「雇用契約書」を必ず双方の母国語または理解できる言語で作成し、締結します。
経営者の義務「在留カード」の確認
採用する外国人の「在留カード」を必ず確認し、就労が許可されているかをチェックします。とくに以下の3点は必須確認項目です。
- 在留資格の種類:飲食店での就労が認められている資格か(例:「特定技能」「技術・人文知識・国際業務」など)。
- 就労制限の有無:「就労不可」となっていないか。留学生アルバイトの場合は「資格外活動許可」の印があるか。
- 在留期間:在留期間が切れていないか。
これらの確認を怠ると、前述のとおり厳しい罰則の対象となるため、細心の注意を払いましょう。
飲食店で雇用可能な主な在留資格
飲食店での業務内容によって、雇用できる在留資格は異なります。代表的なものは以下のとおりです。
- 特定技能1号(外食):調理、接客、店舗管理といった外食業の基幹業務に幅広く従事できます。フルタイムでの雇用が基本となり、長期的な戦力として期待できます。
- 技術・人文知識・国際業務:通訳や海外展開に関わる業務など、専門知識を活かす業務が対象です。たとえば、本社の管理部門で外国人スタッフの労務管理やインバウンド企画を担当する場合などが該当します。調理や接客といった現場作業(現業)のみに従事することは原則認められません。
- 資格外活動許可(留学生アルバイト):留学生が「資格外活動許可」を得ている場合、週28時間以内(学則で定める長期休業期間中は1日8時間以内)でアルバイトとして雇用できます。
- 身分系の在留資格(永住者、定住者など):これらの資格を持つ人は就労活動に制限がないため、日本人と同様に雇用できます。
採用した外国人スタッフを「戦力化」する仕組みづくり
外国人スタッフの採用は、ゴールではなくスタートです。彼らの能力を最大限に引き出し、売上向上につなげるための仕組みづくりが、経営者には求められます。ここでは、採用後の人材活用について解説します。
外国人スタッフと共に行うインバウンド対策
外国人スタッフは、最強の「インバウンド対策担当」になりえます。彼らの視点を活かし、外国人観光客に響くメニューのネーミングや説明文を一緒に考えたり、SNSでの情報発信を担当してもらったりすることで、より効果的な集客ができます。多言語メニューの作成や、文化的な背景をふまえた接客マニュアルの整備も、彼らと協力して進めるとよいでしょう。
「やさしい日本語」と図解マニュアルの導入
業務指示が正確に伝わらないことは、生産性の低下や事故の原因となります。専門用語や曖昧な表現を避け、簡潔でわかりやすい「やさしい日本語」を職場の公用語とすることを推奨します。また、調理や清掃の手順などを写真やイラストで示したマニュアルを作成することで、言語の壁を越えてスムーズな業務遂行を支援できます。
キャッシュレス決済や無料Wi-Fiの整備
外国人スタッフから、外国人観光客のニーズを聞き取り、店舗の設備改善に活かすことも重要です。たとえば、「クレジットカードが使えないと不便」「無料Wi-Fiがあると助かる」といった声をもとに、キャッシュレス決済端末やWi-Fi環境を整備することは、顧客満足度を直接的に高める投資となります。
外国人材への「投資」が店の未来を創る 定着と育成
採用した人材に長く活躍してもらうことは、採用コストや教育コストを回収し、企業の成長基盤を築く上で不可欠です。ここでは、外国人材を単なる「労働力」ではなく、未来への「投資」と捉えるための育成・定着策を解説します。
キャリアパスの提示と正社員登用
「この店で働き続ければ、将来こうなれる」という具体的なキャリアパスを示すことは、働く上での大きな動機付けになります。アルバイトから契約社員、正社員へ、そして将来的には店長やマネージャーを目指せる道筋を明確にしましょう。とくに優秀な留学生アルバイトを卒業後に正社員として雇用することは、店の文化を深く理解した人材を確保する上で非常に有効な戦略です。
日本語学習や資格取得の支援
店舗のサービスレベルを向上させるため、会社が日本語能力試験(JLPT)やサービス接遇検定などの資格取得費用を補助する制度も効果的です。スタッフのスキルアップは、本人の自信につながるだけでなく、店舗全体の接客品質向上に直結します。これは、人材への直接的な投資といえるでしょう。
メンター制度による精神的なサポート
日本人スタッフが「メンター(相談役)」となり、新人の外国人スタッフを公私にわたってサポートする制度を導入することも、早期離職を防ぐ上で役立ちます。業務上の疑問だけでなく、日本での生活に関する不安なども気軽に相談できる相手がいることは、精神的な安定につながり、職場への定着を促進します。
経営者が活用すべき外国人雇用の補助金・助成金
外国人材の雇用や受け入れ環境の整備には、一定のコストがかかります。国や自治体は、こうした企業の負担を軽減するための支援制度を設けています。ここでは、経営者が活用を検討すべき代表的な制度を紹介します。
人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)
外国人労働者の定着を図るため、就労規則の多言語化や研修の実施、メンター制度の導入など、働きやすい環境整備にかかる経費の一部を助成する制度です。受け入れ環境を向上させるための投資コストを抑えることができます。
出典:人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)|厚生労働省
各自治体が提供する独自の支援制度
事業所がある都道府県や市区町村が、独自の補助金や助成金制度を設けている場合があります。たとえば、外国人材の社宅家賃の一部補助や、日本語研修の費用助成など、その内容はさまざまです。自治体の産業振興課や、国際交流協会などのウェブサイトで情報を確認し、活用できる制度がないか調べてみましょう。
外国人材と共に、飲食店の持続的な成長を実現する
飲食店経営において、外国人材の採用はもはや特別な選択肢ではなく、事業を成長させるための重要な経営戦略の一つです。採用にあたっては、在留資格の確認といった法的な義務を確実に果たし、文化や習慣の違いを乗り越えるための丁寧なコミュニケーションが求められます。
しかし、そうした課題を乗り越え、多様な人材が活躍できる組織を築くことができれば、人手不足の解消はもちろん、インバウンド需要の獲得や組織の活性化といった大きなリターンが期待できるでしょう。外国人材を未来を共に創るパートナーとして迎え入れることが、これからの飲食店の持続的な成長につながります。
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