• 更新日 : 2025年11月6日

値上げで客離れさせないためには?飲食店が失敗しないタイミングと告知方法、納得感を高める伝え方のコツ

材料費や光熱費、人件費の高騰が続き、多くの飲食店経営者様が「値上げ」という難しい決断に直面しているのではないでしょうか。しかし、最も恐ろしいのは値上げによる客離れかもしれません。

この記事では、価格改定でお客様が離れてしまう根本的な原因を解明し、失敗例と成功例を比較しながら、顧客離れを防ぐための具体的な手順を解説します。お客様に心から納得いただき、むしろお店との絆を深めるチャンスに変えるための、戦略的な値上げの方法を一緒に考えていきましょう。

なぜ、値上げで客離れが起きてしまうのか?

値上げによる客離れは、お客様がそれまで感じていた「価値」と、新たに提示された「価格」のバランスが崩れ、「割高だ」と感じてしまうことが根本的な原因です。

お客様は無意識のうちに「この料理やサービス(価値)なら、この金額(価格)を払ってもいい」という基準を持っています。値上げによってこの基準が「価値<価格」に傾くと、お得感が失われ、来店動機が弱まります。特に、値上げの理由が不明瞭な場合、お客様は不信感を抱きやすく、より客離れにつながりやすい傾向にあります。

原因1:価値>価格のバランスが崩れる「お得感」の喪失

お客様が飲食店を選ぶ際、料理の味や品質、店の雰囲気、接客サービスといった「価値」と、支払う「価格」を天秤にかけています。この天秤が「価値」側に大きく傾いているほど、お客様は「お得だ」「コスパが良い」と感じ、リピートにつながります。しかし、値上げによって価格だけが上がると、このバランスが崩れ、お客様は「これなら他のお店に行こう」と考えてしまうのです。

原因2:コミュニケーション不足による「不信感」

何の告知もなく、ある日突然メニューの価格が変わっていたら、お客様はどう感じるでしょうか。「黙って値上げするなんて不誠実だ」と不信感を抱くかもしれません。値上げは、お客様にとってデリケートな問題です。なぜ価格を上げざるを得ないのか、その背景を丁寧に説明するコミュニケーションを怠ると、お店への信頼が失われ、客離れを引き起こす大きな原因となります。

値上げで失敗する飲食店と成功する飲食店の違いは何か?

値上げで失敗するお店は、単に「価格を上げる」という作業しか行いません。一方、成功するお店は、値上げを「お客様との関係性を見直し、価値を再定義する機会」と捉え、入念な準備と丁寧なコミュニケーションを実行します。

失敗するお店は、説明不足のまま全商品を一律値上げするなど、お客様の気持ちを無視した行動をとりがちです。対照的に、成功するお店は、値上げの理由を誠実に伝えるだけでなく、価格改定に合わせて新メニューを投入したり、既存商品の品質を向上させたりと、お客様が「高くなったけど、その分良くなった」と納得できる付加価値を提供します。

失敗例:何の説明もなく、全商品を一律で値上げする

コストが上がったからといって、その負担をそのままお客様に転嫁するように、全メニューを一律で10%値上げするような方法は典型的な失敗例です。お客様から見れば、単なる「便乗値上げ」と捉えられかねません。特に、お店の看板メニューや人気メニューほど、値上げに対するお客様の抵抗感は強くなるため、慎重な判断が求められます。

成功例:値上げを「価値向上の機会」として活用する

成功する飲食店は、価格改定を単なる値上げで終わらせず、お客様への提供価値をさらに高めるための施策を同時に実行します。これは、お客様に「価格は上がったけれど、それ以上のメリットがある」と感じてもらうための重要な戦略です。

例えば、長年愛されてきた看板メニューの価格を見直す際に、使用する食材をワンランク上のものにアップグレードする、といった方法が考えられます。告知の際にも「より美味しい○○をお届けするため、食材を見直しました」と正直に伝えることで、お客様は値上げの理由に納得しやすくなります。

また、ドリンクセットの価格を上げる代わりに選べるドリンクの種類を増やしたり、これまで有料だったご飯の大盛りを無料にしたりするなど、価格以外の部分でサービスを向上させることも有効です。

このように、値上げによって得られる利益の一部をお客様に還元する姿勢を見せることで、お店への信頼感が高まり、「このお店は私たちのことを考えてくれている」というポジティブな印象を与えることができます。結果として、客離れを防ぐだけでなく、顧客満足度の向上にもつながるのです。

客離れを防ぐ値上げの具体的な準備と手順はどう進めるか?

客離れを防ぐ値上げは、行き当たりばったりではなく、計画的に進めることが不可欠です。大きく分けて「①現状分析」「②値上げ戦略の決定」「③付加価値の設計」「④告知計画」という4つのステップで進めましょう。

感情的な不安だけで値上げをためらったり、焦って実施したりすると失敗につながります。まずは自店のコスト構造や顧客層をデータで正確に把握し、それに基づいた客観的な戦略を立てることが、成功への第一歩となります。この計画的なアプローチにより、値上げの必要性と妥当性を自分自身が理解し、お客様にも自信を持って説明できるようになります。

STEP1:現状分析 – 正確な原価計算と顧客層の把握

まずは、全メニューの正確な原価計算(フードコスト)を改めて行い、どのメニューが利益を圧迫しているのかを明確にします。同時に、顧客データ(POSデータなど)を分析し、「どの顧客層が」「どのメニューを」「どのくらいの頻度で」注文しているのかを把握します。これにより、値上げの影響を大きく受ける顧客層とメニューを特定できます。

STEP2:値上げ戦略の決定 – どの商品を、いくら、いつ上げるか

現状分析の結果をもとに、具体的な値上げ戦略を立てます。

  • 対象商品:全品一律ではなく、原価率の高い商品や、値上げしても価値を感じてもらいやすい看板メニューなどに絞る。
  • 値上げ幅:お客様が受け入れやすい「端数価格(例:880円→980円)」や「キリの良い価格(例:950円→1000円)」を意識する。
  • タイミング:地域のイベントや繁忙期を避け、お客様の来店が比較的落ち着いている時期を選ぶのが一般的です。

STEP3:付加価値の設計 – お客様が「値上げしても通いたい」と思う理由作り

値上げの納得感を高めるために、価格に見合う、あるいはそれ以上の価値を提供できないか検討します。

  • 品質向上:看板メニューの食材をワンランク上のものに変える。
  • 量目の変更:値上げする代わりに、ポーション(一人前の量)を少し増やす。
  • 新メニュー開発:値上げに合わせて、魅力的な新メニューやセットメニューを導入する。
  • サービス向上:接客の質を高めるための研修を実施する。

STEP4:告知計画 – 誰に、いつ、どのように伝えるか

誰に(ターゲット顧客)、いつ(告知開始日)、どの媒体で(ポスター、SNSなど)、どのように(文面、デザイン)伝えるか、具体的な計画を立てます。お客様が値上げを知るタイミングや受け取る印象をコントロールすることが、客離れを防ぐ上で極めて重要です。

お客様の納得感を高める「値上げのお知らせ」の書き方と伝え方は?

お客様に値上げを受け入れてもらう告知の鍵は、「誠実さ」と「感謝」です。一方的な通知ではなく、お店の想いが伝わる丁寧なコミュニケーションを心がけることで、お客様の納得感と信頼を高めることができます。

値上げのお知らせは、単なる事務連絡ではありません。お客様への手紙と同じです。だからこそ、①日頃の感謝、②正直な理由、③価格改定日、そして④今後の約束、という4つの必須要素を盛り込むことで、無機質な「通知」が、お店のファンであり続けてもらうための「対話」に変わります。

告知に入れるべき4つの必須要素

  1. 日頃のご愛顧への感謝:まずは、いつもお店を利用していただいていることへの感謝の気持ちを伝えます。
  2. 値上げの正直かつ具体的な理由:「原材料費、包装資材、光熱費の高騰が続いており…」など、なぜ値上げが必要なのかを正直に説明します。抽象的な表現は避け、真摯な姿勢を見せることが大切です。
  3. 価格改定の実施日:「2025年10月1日(水)より」のように、いつから新価格になるのかを明確に記載します。
  4. 今後の品質維持・向上への約束:「これからも、より良いお食事とサービスを提供できるよう努めてまいります」といった、未来に向けた前向きなメッセージで締めくくり、お客様の期待感を醸成します。

【2025年版】そのまま使える!飲食店向け「値上げのお知らせ」例文

【例文1:丁寧・フォーマル版】

価格改定のお知らせ

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、誠に心苦しいお知らせではございますが、昨今の原材料費ならびに光熱費の継続的な高騰を受け、現行価格でのご提供が困難な状況となりました。

つきましては、品質の維持・向上に努めながら、2025年10月1日(水)より、一部メニューの価格を改定させていただくことといたしました。

何卒、余儀ない事情をご賢察いただき、今後とも変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

敬具

店主

【例文2:親しみやすい・想いを伝える版】

大切なお客様へ 価格改定に関するお知らせ

いつも当店をご利用いただき、本当にありがとうございます!

開店以来、皆様に美味しい料理を気軽にお楽しみいただきたいという想いで価格を維持してまいりましたが、昨今の食材や光熱費の値上げが続き、正直なところ、今の価格のままではお店の味と品質を守ることが難しくなってしまいました。

大変心苦しい決断ではありますが、2025年10月1日(水)より、一部メニューの価格を改定させてください。

これからも「やっぱりここの味が一番!」と思っていただけるよう、スタッフ一同、これまで以上に心を込めてお作りします。

これからも変わらぬ応援を、どうぞよろしくお願いいたします!

店主

告知のタイミングはいつがベストか?

値上げ実施の1ヶ月前から告知を始めるのが理想的です。お客様が心の準備をする期間を十分に設けることで、丁寧な印象を与えられます。遅くとも、2週間前には告知を開始しましょう。実施日直前の告知は、お客様に不信感を与えかねないので避けるべきです。

店頭ポスターからSNSまで、伝える媒体ごとのポイント

  • 店頭ポスター:お客様の目に最も触れる場所(入口、レジ横、テーブルなど)に掲示します。読みやすい文字の大きさと、誠実さが伝わるデザインを心がけます。
  • メニューブック:価格改定についてのお知らせを挟み込んだり、新価格の横に旧価格を二重線で引いて表示したりする方法も有効です。
  • Webサイト/SNS:お知らせとしてトップページに掲載するほか、SNS(Instagram, X, Facebookなど)でも定期的に発信します。Web経由のお客様にも確実に伝えられます。
  • LINE公式アカウント:登録してくれている常連客には、メッセージで直接お知らせします。よりパーソナルな形で、感謝の気持ちと共に伝えやすい媒体です。

丁寧な値上げは、お客様との絆を深めるチャンス

値上げによる客離れは、多くの経営者が恐れることですが、そのリスクはやり方次第で最小限に抑えることが可能です。重要なのは、値上げを単なる価格変更と捉えず、お客様への感謝を伝え、自店の価値を改めて問い直す機会とすることです。

誠実なコミュニケーションと、価格に見合う価値を提供し続ける努力が伝われば、お客様はきっと理解してくれるはずです。今回の飲食店における価格改定が、お店とお客様の絆をより一層深めるきっかけとなることを願っています。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事