- 作成日 : 2025年11月6日
飲食店で食中毒クレームが発生したら?初期対応から解決までの全手順
飲食店で食中毒のクレームが発生した場合、その初期対応がお店の信頼を大きく左右します。慌てず、お客様に対して誠実かつ迅速に対応することが何よりも大切です。
この記事では、飲食店経営者が知っておくべき食中毒クレームへの対応フロー、保健所への連絡、慰謝料の考え方から、悪質な要求への対処法、そして日頃からの予防策までを網羅的に、そしてわかりやすく解説します。
目次
飲食店で食中毒クレームが発生した際の初期対応
食中毒が疑われるお客様から連絡を受けた際、最初の対応がその後の信頼関係を大きく左右します。まずは落ち着いて、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、共感と謝罪の意を伝えることが基本です。ここでは、クレーム発生直後にとるべき具体的な行動を解説します。
まずはお客様の体調を気遣い謝罪する
お客様から食中毒の可能性があると連絡があった場合、最初にすべきことは、原因の究明や責任の所在を問うことではありません。何よりもまず、お客様の体調を心から気遣い、不快な思いをさせてしまったことに対して真摯に謝罪しましょう。
「この度は、ご迷惑とご心配をおかけし、大変申し訳ございません。その後、お体の具合はいかがでしょうか。」
このように、まずはお詫びと気遣いの言葉を伝える姿勢が、お客様の感情を和らげ、その後の冷静な対話につながります。ここで「うちの店の料理が原因だと決まったわけではない」といった保身的な態度をとってしまうと、お客様の不信感をあおり、事態を悪化させかねません。責任を認めるかどうかは別として、まずは真摯に話を聞く姿勢を示すことが大切です。
正確な情報を冷静にヒアリングする
謝罪の言葉を伝えたら、次に状況を正確に把握するため、お客様から詳しいお話をうかがいます。感情的にならず、あくまで事務的に、しかし丁寧な口調で以下の項目を中心にヒアリングを進めましょう。5W1Hを意識すると、聞き漏らしを防げます。
- お客様情報:氏名、連絡先
- 来店日時:いつ(When)
- 喫食内容:何を(What)、どのくらいの量を食べたか
- 同行者の有無と体調:誰と(Who)、その方の体調はどうか
- 発症日時と症状:いつから、どのような症状(嘔吐、下痢、腹痛、発熱など)がでたか(How)
- 医療機関の受診状況:病院へは行かれたか、医師の診断名は何か
- 来店後の食事内容:来店後、他に何か口にしたものはあるか
これらの情報は、食中毒の原因を特定し、保健所へ報告する際に不可欠です。メモをとりながら正確に記録し、お客様に復唱して内容に間違いがないか確認することをおすすめします。
診断書の取得をお願いする
食中毒であるかどうか、またその原因がお店の食事にあるかどうかを客観的に判断するためには、医師による診断が重要です。お客様がまだ医療機関を受診されていない場合は、速やかな受診を勧めましょう。
すでにお医者様にかかっている場合は、診断書の取得をお願いできないか、丁寧に伺います。
「誠に恐縮ではございますが、今後の対応を正確に進めるため、もしよろしければお医者様の診断書をいただくことは可能でしょうか。もちろん、診断書の発行にかかる費用は当方で負担させていただきます」
診断書は、因果関係を証明する重要な書類です。強制はできませんが、丁寧にお願いすることで、その後の補償などをスムーズに進めやすくなります。
飲食店がとるべき食中毒クレームへの具体的な対応フロー
食中毒クレームは、お客様対応、原因究明、行政への報告と、段階をふまえて慎重に進める必要があります。一連の流れを事前に把握しておくことで、万が一の事態にも冷静に対処できるようになります。ここでは、時系列にそった具体的な対応フローを解説します。
お客様への対応(初期対応後)
初期対応でヒアリングを終えた後も、お客様への配慮を忘れてはいけません。治療の状況などを確認するため、1~2日後を目安に再度連絡を入れ、体調を気遣う言葉を伝えましょう。
このとき、治療費や通院にかかる交通費など、当面の費用は負担する意思があることを伝えると、お客様に安心感を与えることができます。ただし、慰謝料や休業補償といった、金額の算定に時間のかかる話については「原因を調査したうえで、誠意をもって対応させていただきます」と伝え、即答は避けるのが賢明です。
社内での情報共有と原因調査
お客様からヒアリングした内容は、すぐに責任者や関係スタッフ全員で共有し、お店として対応の方向性を統一します。担当者によって言うことが変わると、お客様の不信感を招く原因になります。
同時に、迅速に原因調査を開始します。
- 保存食の確認:食品衛生法で定められた「検食」を保存している場合、保健所の検査に提出します。
- 調理工程の確認:当日の調理担当者から、調理方法や手順に問題がなかったか聞き取ります。
- 従業員の健康状態:スタッフに体調不良者がいなかったか確認します。とくにノロウイルスなどは従業員を介して感染が広がるケースも少なくありません。
- 食材の仕入れ先確認:原因と思われる食材の仕入れ元やロット番号などを確認し、必要に応じて仕入れ業者にも連絡します。
保健所への報告と調査協力
食中毒の疑いがあると判断した場合、またはお客様から医師の診断結果として「食中毒」と伝えられた場合は、速やかに管轄の保健所に報告する義務があります。食品衛生法では、飲食店などに対して食中毒の届け出を義務付けており、これを怠ると罰則の対象となる可能性があります。
報告をためらう経営者もいるかもしれませんが、報告が遅れると被害が拡大する恐れがあります。正直に報告し、保健所の調査に全面的に協力する姿勢が、最終的にお店の信頼を守ることにつながります。保健所の立ち入り調査では、調理場の衛生状態、食材の管理方法、従業員の健康状態などが確認されます。指示された内容には誠実に対応し、改善策を講じましょう。
飲食店の食中毒クレームにおける慰謝料と補償の考え方
お客様から治療費や慰謝料を請求された場合、どこまで応じるべきか悩む経営者は少なくありません。食中毒とお店の料理との因果関係が明確な場合は、誠意をもって補償に対応する必要があります。ここでは、補償の範囲や慰謝料の相場について解説します。
補償の対象となる範囲
一般的に、お店が原因の食中毒でお客様に損害を与えた場合、以下の項目が補償の対象となります。
- 治療費:診察料、薬代、入院費など、治療に直接かかった費用
- 通院交通費:通院のために利用した公共交通機関やタクシーの料金
- 休業損害:食中毒が原因で仕事を休まざるを得なかった場合に、得られるはずだった収入
- 慰謝料:食中毒による身体的・精神的な苦痛に対する賠償
これらの損害額を証明する書類(領収書、休業損害証明書など)を提出してもらい、事実にもとづいて補償額を決定します。
飲食店 食中毒における慰謝料の相場
慰謝料には、法律で定められた明確な金額基準はありません。お客様の症状の重さ(通院か入院か)、治療にかかった期間、後遺症の有無、精神的な苦痛の度合いなどを総合的に考慮して決められます。
過去の事例を見ると、通院のみで症状が軽い場合は数万円程度、入院が必要になった場合は数十万円程度が一般的な相場とされています。ただし、これはあくまで目安であり、個別の事情によって金額は大きく変動します。お客様が提示する金額が相場からかけ離れている場合は、その根拠を丁寧に確認し、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
PL保険(生産物賠償責任保険)の活用
食中毒による損害賠償は、時に高額になる可能性があります。このような万が一の事態に備えるために、「PL保険(生産物賠償責任保険)」への加入を強くおすすめします。
PL保険は、提供した飲食物が原因でお客様に身体的な損害を与えてしまった場合に、治療費や慰謝料といった損害賠償金を補償してくれる保険です。
保険に加入していれば、金銭的な負担を軽減できるだけでなく、保険会社の担当者がお客様との示談交渉を代行してくれる場合もあり、経営者の精神的な負担も軽くなります。まだ加入していない場合は、自店のリスクに見合った保険を検討してみましょう。
悪質な飲食店クレームや不当要求への対処法
クレームの中には、残念ながら食中毒の事実が疑わしいものや、過剰な金銭を要求する悪質なケースも存在します。すべての要求に応じる必要はなく、毅然とした態度で対応することも時には必要です。ここでは、不当要求の見極め方と具体的な対処法を解説します。
「タダにしろ」といった要求への対応
クレーム対応の初期段階で「誠意を見せろ」「食事代をタダにしろ」といった要求をされることがあります。しかし、食中毒との因果関係がはっきりしない段階で、安易に金銭での解決を図るのは避けるべきです。
一度こうした要求に応じてしまうと、「この店は言えば金を払う」と認識され、さらに大きな金銭要求にエスカレートする可能性があります。まずは「お気持ちは察しますが、まずは原因をしっかりと調査させてください。そのうえで、誠心誠意対応させていただきます。」と伝え、事実確認を優先する姿勢を崩さないようにしましょう。
食中毒の証拠がない場合の対応
お客様からの申し出のみで、医師の診断書といった客観的な証拠が何もない場合、慎重な対応が求められます。もちろん、お客様が嘘をついていると決めつけるのは禁物です。
この場合も、まずは謝罪と体調を気遣う言葉を伝えたうえで、「今後のために、ぜひ一度病院で診ていただいてはいかがでしょうか」と受診を勧めます。
それでも受診を拒否されたり、具体的な症状の説明が曖昧だったりする場合は、食中毒とは断定せず、「ご指摘いただいた内容をふまえ、店内の衛生管理をあらためて見直します」といった形で、一般的なクレームとして対応するのが適切です。
弁護士への相談を検討するタイミング
自店での対応が困難だと感じた場合は、躊躇なく弁護士に相談しましょう。とくに、以下のようなケースでは専門家の助けが必要です。
- 慰謝料として社会通念上、常識的とはいえない高額な金銭を要求された場合
- 「誠意が足りない」「SNSで拡散するぞ」など、脅迫的な言動が見られる場合
- 事実確認や話し合いに応じてもらえず、一方的な要求が繰り返される場合
- 保健所の調査結果とお客様の主張に大きな食い違いがある場合
弁護士が代理人として交渉することで、法的な観点から冷静かつ適切に事態を収拾できます。顧問弁護士がいない場合でも、飲食店のトラブルに詳しい弁護士を探して相談することをおすすめします。
SNS時代に知っておくべき飲食店食中毒クレームのリスク管理
現代では、クレームがSNSを通じて瞬時に拡散されるリスクがあります。不適切な対応が炎上につながり、お店の評判に深刻なダメージを与えることも少なくありません。ここでは、SNS時代特有のリスクと、その対策について解説します。
SNSによる情報拡散のリスク
たった一件の不適切なクレーム対応が、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSに投稿されると、あっという間に拡散され、「炎上」状態になることがあります。一度ネット上に拡散された情報は、完全に削除することがきわめて難しく、お店の評判に長期的な悪影響を及ぼしかねません。
事実関係が不明なままでも、お店にとってネガティブな情報だけが独り歩きしてしまうのがSNSの怖いところです。日頃から誠実な店舗運営を心がけるとともに、万が一クレームが発生した際のSNS対応についても考えておく必要があります。
ネット上で批判された場合の対応
もし自店に関するネガティブな投稿を発見しても、感情的に反論したり、個人のアカウントに直接メッセージを送ったりするのは絶対にやめましょう。火に油を注ぐ結果になりかねません。
まずは投稿内容の事実確認を急ぎます。そのうえで、お店として公式な見解を示す必要があると判断した場合は、お店の公式サイトや公式SNSアカウントを通じて、経緯の説明、謝罪、再発防止策などを冷静に発表します。真摯な姿勢で情報を公開することが、被害を最小限に抑えることにつながります。
従業員のSNS利用に関するルール作り
従業員が個人で利用しているSNSアカウントから、お店の内部情報やお客様に関する情報が漏れてしまうリスクも考えられます。アルバイトを含め、全従業員に対してSNSの利用に関するガイドラインを設けておきましょう。
たとえば、「許可なく職場の写真や動画を投稿しない」「お客様の個人情報やクレーム内容について言及しない」「会社の誹謗中傷にあたる投稿はしない」といった基本的なルールを定め、研修などを通じて周知徹底することが、情報漏えいや意図しない炎上を防ぐために有効です。
飲食店における食中毒クレームへの誠実な対応が信頼を守る
飲食店にとって食中毒のクレームは、経営を揺るがしかねない重大な問題です。しかし、発生してしまった際に、お客様へ誠実に向き合い、迅速かつ適切な対応をとることで、信頼の失墜を最小限に食い止め、再発防止へとつなげることができます。本記事で解説した対応フローや予防策を日頃から意識し、自店のマニュアルを整備しておくことが、結果的にお店とお客様を守ることになります。万が一の事態に備え、全従業員が同じ認識をもって対応できる体制を構築しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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