• 作成日 : 2025年9月22日

飲食店における分煙のメリットとデメリット、法律への対応を解説

飲食店における分煙のメリットは、喫煙者と非喫煙者の両方が快適に過ごせる環境を作ることで、幅広い客層の獲得につながることです。2020年4月の改正健康増進法施行により原則屋内禁煙となりましたが、適切な分煙対策を実施すれば喫煙も可能です。

この記事では、飲食店が分煙を導入するメリットから、デメリットや費用、具体的な実施方法、活用できる助成金まで、経営判断に必要な情報をわかりやすく解説します。

飲食店の「分煙」に関する法律の基本

「分煙」を考える上で、2020年4月から施行された改正健康増進法への理解が必要です。この法律は「望まない受動喫煙をなくすこと」を目的としています。ここでは、飲食店経営者が押さえておくべき法律の基本を解説します。

大原則は「屋内全面禁煙」

改正健康増進法の基本ルールとして、飲食店を含む多くの施設では、原則として「屋内は禁煙」と定められています。これは、お客様だけでなく、お店で働く従業員を望まない受動喫煙から守ることを目的としています。

ただし、法律で定められた、けむり対策の技術的な基準を満たした専用の「喫煙室」を設ける場合に限り、例外的に屋内での喫煙が認められます。

このルールに沿って喫煙場所と禁煙場所を分ける対策が、「分煙」にあたります。

ルールに違反し、行政の指導や命令に従わない場合は、罰則(最大50万円の過料)が科される可能性もあります。

店内を分煙するための方法

お店の状況に合わせて分煙するには、いくつかの方法があります。それぞれの特徴を理解し、自店に合った方法を選びましょう。

喫煙室の設置による分煙

煙やにおいの漏れを効果的に防ぐ方法として、完全に区画された「喫煙室」を設置します。喫煙室には、飲食ができない「喫煙専用室」と、加熱式たばこに限り飲食も可能な「加熱式たばこ専用喫煙室」があります。これらは、既製品の喫煙ブースを置くか、壁等で区画する内装工事で設けるのが一般的です。

エリアによる分煙

2020年4月以降は、パーティション(ついたて)で喫煙席と禁煙席を分けるだけの「エリア分煙」は、原則として認められなくなりました。煙の流出を防ぐための技術的基準を満たした壁などによる区画が必要です。

ただし、既存の小規模な飲食店向けの特例措置として「喫煙可能室」を設ける場合は、パーティション設置などの配慮が求められます。

時間帯による分煙

設備投資をかけずに始められる手軽な方法です。「ランチタイムは全面禁煙」「ディナータイムは喫煙可能」のように、お店のルールとして時間で区切ります。客層が時間帯ではっきり分かれるお店に向いています。ただし、においが残りやすいなどの課題があります。

【特例措置】小規模な飲食店は一部を喫煙可能室にできる

既存の小規模な飲食店(2020年4月1日時点で営業、資本金5,000万円以下、客席面積100㎡以下)が使える特例措置です。保健所などに届け出ることで、店内の全部または一部を、飲食も喫煙も可能な「喫煙可能室」にすることができます。

店内の一部を分ける場合は、パーティションを設置するなど、煙が禁煙席へ流れないような配慮が求められます。

分煙対策に共通する義務

どのタイプの喫煙室を設ける場合でも、共通して守るべきルールがあります。

まず、お店の主な出入口には「店内に喫煙できる場所があること」を示す標識を、そして喫煙室の入口には「その部屋がどの種類の喫煙室で、どんなルールなのか」を示す標識を、それぞれ見やすく掲示する必要があります。これらの標識は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。

次に、どの喫煙エリアであっても「20歳未満の人は立ち入り禁止」というルールは厳格に適用されます。これはお客様だけでなく、従業員も対象です。

これらの義務に違反し、行政からの指導や命令に従わない場合、最大50万円の過料が科される可能性があります。

出典:なくそう!望まない受動喫煙。|厚生労働省

飲食店の分煙のメリット

飲食店が分煙を選択する最大のメリットは、喫煙者にも非喫煙者にも来店してもらえる環境を作れることです。全面禁煙では喫煙者を、全面喫煙では非喫煙者を失う可能性がありますが、分煙なら両方のニーズに応えられます。

幅広い客層の来店が期待できる

「分煙」のメリットは、「吸う人にも吸わない人にも来店いただける」ことです。日本の成人喫煙率は減少傾向にあるものの、JTがおこなった「2018年 全国たばこ喫煙者率調査」によると、日本の成人喫煙率は男女合計で「17.9%(内訳、男性27.8%、女性8.7%)」となっています。

つまり、成人男性の約3割、成人女性の約1割がまだ喫煙者です。全面禁煙にした場合、これらの顧客を失う可能性があります。一方で、非喫煙者は全体の8割以上を占めており、受動喫煙を気にする方も多いでしょう。分煙なら、どちらの顧客層も取り込めます。

実際に、喫煙者からは「たばこを吸えるお店を求めている」という声も多く聞かれます。都市部では全面禁煙の飲食店が増えているため、分煙対応の店舗は喫煙者にとって貴重な存在となっています。

競合店舗との差別化につながる

健康志向の高まりから、都市部を中心に全面禁煙に踏み切る飲食店が増えています。そうした状況の中、適切に管理されたクリーンな分煙環境は、喫煙者のお客様にとって「安心して利用できる貴重なお店」として認識されます。

近隣の競合店が全面禁煙であれば、自店の分煙対応が、喫煙者層を引きつける独自の強みになる可能性があります。

客数減少のリスクを回避できる

居酒屋やバーなどアルコールを提供するお店などは特に全席禁煙にすることで客数や売り上げが落ちることもあります。たばことお酒を一緒に楽しみたいという顧客が一定数存在するからです。

そのため、「分煙化」を進めることで、客数の減少を防ぐ効果もあります。

料理の味や香りを損なわずに提供できる

たばこの煙にはニオイがあり、飲食店では料理の香りや味を損なう原因にもなり得ます。しかし、分煙の飲食店なら、たばこの煙のない環境で料理の味を最大限に楽しむことができます。

分煙にすることで、禁煙エリアのお客様には、料理が持つ繊細な味と香りを、心ゆくまで楽しんでもらえます。

清掃の負担が軽減される

たばこのヤニ汚れは、壁や天井、エアコンなどに付着し、黄ばみや悪臭の原因となります。全面喫煙のお店では、このヤニ汚れを除去するために、特殊な洗剤を使ったり、定期的に壁紙を張り替えたりと、清掃に多くの手間とコストがかかります。

分煙にすれば、重点的に清掃する場所を喫煙エリアに限定できるため、お店全体をきれいに保ちながら、日々の清掃負担とメンテナンスコストを軽減できます。

店舗のイメージアップにつながる

受動喫煙対策にきちんと取り組む姿勢は、「お客様や従業員のことを真剣に考えているお店」という誠実な印象を与えます。健康志向が高まる現代において、こうした配慮は、とくにファミリー層や女性客からの評価を高め、お店のイメージアップにつながります。

企業の社会的責任(CSR)を果たすという観点からも、お店の社会的な信用を高めることにも貢献します。

従業員の健康保護と満足度向上につながる

毎日お店で働く従業員を、望まない受動喫煙から守ることは、経営者の大切な責務(安全配慮義務)です。クリーンで安全な職場環境は、従業員の健康を守るだけでなく、仕事への満足度や定着率の向上にもつながります。採用活動においても、働きやすい環境は大きなアピールポイントになるでしょう。

法律違反のリスクを避けられる

2020年4月から施行された改正健康増進法により、屋内の禁煙は、2020年4月から義務化されました。違反した場合は、義務違反の内容に応じて勧告・命令等が行われます。それでも改善が見られない場合には罰則(内容により50万円以下の過料)が適用されます。

ただし、法律の基準を満たした喫煙室を設置すれば、店内での喫煙が認められます。適切な分煙対策を実施することで、法令順守しながら喫煙者のニーズにも応えられるのです。

飲食店における分煙のデメリットと課題

飲食店が分煙を導入する際には、メリットだけでなくデメリットも理解しておく必要があります。これらの課題を事前に把握し、対策を検討することが重要です。

初期費用とランニングコストがかかる

現状の店舗の構造や、どんな方法で分煙するかによって費用は変わってきますが、新たに喫煙室を設ける場合にはコストがかかります。

喫煙室の設置には、壁等による区画、換気設備の導入、空気清浄機の設置などが必要です。また、空気清浄機を常に利用するため電気代や、システムの定期メンテナンスなど、ランニングコストもかさみます。

設置スペースの確保が必要

喫煙室や喫煙専用スペースをつくるには時間とコストがかかります。また、場所を確保するために現在の配置を変更する必要も出てくるでしょう。

小規模な飲食店では、客席数を減らして喫煙室を設置しなければならない場合もあります。これは売上に直接影響する可能性があるため、慎重な検討が必要です。

完全な分煙の実現は難しい場合も

壁等で区切っただけでは煙が漏れ出てしまうことがあり、完全な分煙とはならない場合もあります。エリア分煙を実施しても、少しでも隙間が空いていると煙が流れ出す場合もあり、完全な分煙対策にならない可能性も考慮しなければなりません。

もし、完全な受動喫煙防止を実現する場合には、技術的基準を満たした喫煙室の設置が必要になります。

飲食店の分煙対策で活用できる助成金の活用

分煙対策の費用負担を軽減するため、国や自治体ではさまざまな助成制度を設けています。これらを活用し、効果的な分煙対策を実現しましょう。

厚生労働省が実施する「受動喫煙防止対策助成金」では、「常時雇用する労働者数が50人以下」「資本金が5,000万円以下」の条件を満たす事業主が対象で、喫煙室設置などにかかる費用の2/3(上限100万円)を補助してもらえます。

各自治体でも独自の補助金制度があります。東京都では、喫煙専用室設置にかかる費用のうち、9/10(上限400万円)が補助されます。「客席面積100平方メートル以下」「個人または中小企業が経営」などの条件があるため、事前に確認が必要です。

分煙を成功させるには、喫煙室を設置するだけでなく、総合的な対策が必要です。標識の適切な設置、換気設備の整備、従業員教育、定期的なメンテナンスなど、継続的な管理が重要です。

出典:受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)|厚生労働省
出典:受動喫煙対策支援補助金について|東京都保険医療局

適切な分煙対策ですべてのお客様に快適な時間を

飲食店における分煙は、喫煙者と非喫煙者の両方が快適に過ごせる環境を実現し、幅広い客層の獲得につながる経営戦略の一つです。初期投資やスペースの確保などの課題はありますが、助成金を活用すれば負担を軽減できます。

大切なのは、「喫煙者か、非喫煙者か」という対立で考えるのではなく、お店に来てくれるすべてのお客様、そして共に働く従業員がいかに快適に過ごせるかを考えることではないでしょうか。

法律を正しく理解し、自店の状況に合わせた適切な対策を講じることが、お店への信頼を育み、結果としてすべてのお客様の満足につながっていくはずです。


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