• 作成日 : 2025年9月22日

キッチンカーでパン販売!開業に必要な許可や届け出ルールを解説

キッチンカーで、こだわりのパンをお届けしたい。そんな素敵な夢を実現するためには、まず許可やルールのことを知っておく必要があります。キッチンカーでのパン販売は「仕入れたパンを売るか」「車内で調理するか」によって、準備する車両の設備基準や手続きが代わります。

この記事では、キッチンカーでパンを販売するための条件や資格、車両の準備、事業計画の立て方までわかりやすく解説します。

キッチンカーでパンを販売するために必要な許可とルール

キッチンカーでパン屋を開業するには、まず「食品衛生責任者」と「運転免許証」を準備します。その上で、車内での調理の有無など、ご自身の営業スタイルに応じて保健所に必要な「営業許可」の取得、または「営業の届出」を行います。

「食品衛生責任者」は共通する資格

食品衛生責任者とは、食品を扱う施設ごとに必ず1名以上配置することが法律で定められた、衛生管理の責任者です。キッチンカーでの営業許可申請や届出を行うための大前提となるため、開業準備の最初に取得する必要があります。

この資格者の重要な役割は、HACCP(ハサップ)の考え方に沿った衛生管理計画を立て、日々の清掃や温度管理などを記録・実行することです。もし従業員を雇う場合は、その人たちへの衛生教育を行うことも含まれます。

「食品衛生責任者」の資格は、各都道府県の食品衛生協会が開催する1日(約6時間)の養成講習会を受講すれば取得できます。調理師や栄養士などの資格をお持ちの場合は、講習を受けずに資格者となることが可能です。

運転免許証

キッチンカーは車両のため、運転免許証が不可欠です。キッチンカーのベースとなる車両の多くは普通免許で運転できますが、搭載するオーブンや冷蔵庫などの設備によっては車両の総重量が増え、3.5tを超える場合は「準中型免許」などが必要になる場合があります。必ず車検証で車両総重量を確認し、ご自身の免許で運転できるかを確認しましょう。

車内でパンを「調理・仕上げ」する場合

キッチンカーの車内で、仕入れたパンを温め直したり(リベイク)、具材を挟んでサンドイッチにしたりといった調理・加工作業を行うには、保健所が交付する「飲食店営業許可」の取得が必要です。

この許可は、食中毒などのリスクを管理するため、車両に厳しい設備基準が求められます。具体的には、お湯が出る2槽以上のシンクや十分な容量の給排水タンク、換気扇などの設置が必須となり、保健所の担当者による実車検査に合格しなければなりません。

  • 必要な手続き: 飲食店営業許可

車内でパン生地から焼く場合

自身で生地から作ったパンを販売するには、「パンを作る場所」と「販売する車」で、それぞれ別の手続きが必要です。これには「菓子製造業許可(工房)」+「営業の届出(キッチンカー)」という2つの手続きを組み合わせます。不明な点は必ず事前に保健所に確認しましょう。

  • 必要な手続き: 菓子製造業許可(工房) + 営業の届出(キッチンカー)

パンの仕込み場所は、キッチンカーとは別の固定の厨房(工房)を用意し、その施設に対して「菓子製造業許可」を取得します。パンの製造から包装までを、この許可を得た工房で行います。

この工房は、衛生管理が徹底できる専用の施設である必要があり、自宅のキッチンなどではそのままでは許可されず、専用に改装する必要があります。

そして、上記工房で作った包装済みのパンをキッチンカーに運び、販売します。車内では調理しないため、手続きは次に説明する「営業の届出」で済みます。この際、製造所との連携体制や、配送時の温度管理なども重要視されます。

仕入れた包装済みのパンを提供する場合

  • 必要な手続き: 営業の届出

パン屋などから仕入れた、個別に包装されているパンを、車内で調理せずにそのまま販売するには、保健所への「営業の届出」が必要です。

営業の届出は、オンラインなどでも手続きが可能な簡易な届出制度です。手数料や保健所の車両検査も原則不要なため、最もシンプルかつスピーディーに開業できる方法です。ただし、届出であっても食品衛生責任者の設置や、商品の衛生管理を行う義務はあります。

※ご注意:許可や届出の具体的な基準や名称は、営業する地域の保健所によって異なる場合があります。計画段階で、必ず管轄の保健所に事前相談をしてください。

パンを販売するキッチンカー車両の準備とポイント

営業スタイルと取得する許可が決まったら、次はキッチンカーの車両を準備します。新車、中古車、オーブンの有無など、選択肢によってコストやできることが大きく異なります。

新車と中古車のメリット・デメリット

キッチンカーの車両は、新車で購入する方法と中古車を探す方法があります。

新車

すべてを自分の理想どおりにレイアウトできるのが最大のメリットです。必要な許可基準に合わせて設備を新品で揃えられるため、衛生的で故障のリスクも低いでしょう。

ただし、コストは最も高くなり、一般的に400万円から600万円以上かかることも珍しくありません。納車までに時間がかかる点も考慮に入れる必要があります。

中古車

初期費用を抑えられるのが魅力です。前のオーナーが同業種であれば、必要な設備がすでに整っている「居抜き」物件のような車両が見つかることもあります。しかし、設備の劣化や故障のリスクは新車よりも高く、購入前には細部まで念入りなチェックが欠かせません。

とくに、保健所の許可基準は時代とともに変わるため、古い車両が現在の基準を満たしているかは慎重に確認する必要があります。

オーブン付きキッチンカーの注意点

焼きたてパンの販売を目指すなら、オーブン付きの車両が必須です。オーブンは非常に大きな電力を消費するため、車両の電源設備が事業の成否を分けます。

家庭用のコンセントでは電力不足になるため、大容量のポータブルバッテリーや、業務用の高性能な発電機を搭載しなければなりません。とくにガスオーブンではなく電気オーブンを選ぶ場合は、電源システムの構築に多額の費用がかかることを覚悟しておくべきでしょう。

また、オーブンは高温になるため、車内の断熱・排熱対策も重要です。周囲の壁には耐熱素材を使用し、強力な換気扇を設置するなど、安全対策を徹底することが法令でも定められています。

キッチンカーでパンを販売するための車両設備

キッチンカーでパンを販売するために必要な設備は、営業スタイルによっても異なりますが、保健所から求められる基準に応じた衛生的で安全な設備が必要です。

ここでは、全てのスタイルで共通する基本設備と、目的別に必要となる主要な設備を解説します。

共通する基本設備

まず、どのようなパン屋さんを目指す場合でも、衛生的で安全な営業の土台として以下の設備は必須となります。

  • 手洗い用の設備(シンク)
    従業員が手指を洗浄するための専用のシンクです。石鹸や消毒液を備え、金銭の受け渡しや作業の合間に衛生的な手指を保つために必要です。
  • 扉付きの収納設備
    パンや包装資材を床から離し、走行中のホコリや外部からの汚染を防ぐための戸棚や収納スペースが必要です。内部が清掃しやすい材質であることも、衛生レベルを保つ上で重要なポイントです。
  • 換気扇
    パンの調理を行わない場合でも、車内の空気を循環させ、温度や湿度がこもるのを防ぐために換気扇の設置が必要です。
  • 照明設備
    車内が明るく、清潔な状態を保てているかを確認するために十分な明るさの照明が求められます。夜間の営業でも安全に作業するために不可欠です。

追加で必要となる主要設備

共通の基本設備に加えて、営業スタイルに合わせて以下の設備を準備します。

ケース1:包装済みのパンを販売する場合

包装済みのパンを販売する場合は、基本設備に加えて、衛生的に保つための設備が中心となります。

  • パン陳列用のショーケースや棚
    パンをホコリやお客様の飛沫から守り、美しく見せるための設備です。中身が見えるアクリル製のケースなどがよく利用されます。
  • 冷蔵設備(必要な場合)
    クリームや生フルーツを使ったパンなど、要冷蔵の商品を扱う場合には、適切な温度管理ができる冷蔵庫が必須です。これにより、商品のラインナップを広げることができます。

ケース2:車内で調理・仕上げを行う場合

車内で調理・仕上げを行う場合は、食中毒のリスクを管理するため、以下のような厳格な設備が求められます。

  • 給湯設備付き2槽シンク
    食材用と食器・器具用でシンクを使い分けることが法律で定められています。また、油汚れなどを落とすため、お湯が出る給湯設備も必須です。
  • 大容量の給排水タンク
    調理で多くの水を使用するため、保健所の基準(地域により40L〜200Lと様々)を満たす容量の給水タンクと、それと同量以上の排水タンクが必要です。
  • 業務用冷蔵・冷凍庫
    肉や野菜、ソースといった生鮮食材を、食中毒菌が繁殖しないよう適切な温度で安全に保管するために不可欠です。
  • 作業台
    食材を扱う作業台は、清掃しやすく、消毒が可能なステンレス製などの材質が求められます。
  • 強力な電源設備
    複数の調理機器や冷蔵庫を同時に動かすため、高性能な発電機や大容量のポータブルバッテリーといった、安定した電力を供給できるシステムが事業の生命線となります。
  • 調理機器
    サンドイッチを作るためのコンタクトグリルや、パンを温めるリベイク用のオーブン、具材を調理するためのコンロなど、メニューに合わせた調理機器を設置します。

※必要な設備の具体的な基準(シンクの大きさ、タンクの容量など)は、営業する地域を管轄する保健所によって異なります。必ず、車両を製作・購入する前に保健所に事前相談し、要件を確認してください。

キッチンカーでのパン販売を成功させる事業計画の立て方

情熱だけでビジネスは長続きしません。キッチンカーでのパン販売を継続的な事業として成り立たせるためには、緻密な事業計画が求められます。

パンの仕入れ先・材料の調達方法

「仕入れ販売」スタイルを選ぶ場合は、どこからパンを仕入れるかがビジネスにおいて最も重要です。地域の人気ベーカリーと提携できれば、そのお店の知名度を活かした集客が期待できるでしょう。

「車内調理」スタイルの場合は、小麦粉や酵母といった原材料の調達ルートを確保します。品質にこだわった国産小麦を使う、天然酵母で差別化するなど、コンセプトに合った材料を選び、安定的に供給してくれる業者を見つけておくことが大切です。

価格設定と利益計算

パンの価格は、原価をふまえて慎重に設定します。

  • 原価計算
    「仕入れ販売」の場合はパンの仕入れ値が原価の中心です。「車内調理」の場合は、材料費に加え、調理にかかる光熱費(ガス代や電気代)、包装材の費用なども原価に含めて計算します。
  • 利益の確保
    一般的に飲食店の原価率は30%前後が目安とされますが、キッチンカーは出店料やガソリン代といった特有の経費もかかるため、それらをすべて賄った上で十分な利益が残る価格設定を考えなければなりません。周辺の競合店の価格もリサーチし、自身のパンの価値に見合った価格を見つけ出しましょう。

出店場所の戦略的な選び方

どこで売るかは、キッチンカービジネスの生命線です。ターゲットとする客層が集まる場所を戦略的に選ぶ必要があります。

  • オフィス街:平日のランチタイムに、食事系のパン(総菜パンやサンドイッチ)の需要が見込めます。
  • 住宅街:主婦や家族連れをターゲットに、朝食やおやつ向けのパンが人気でしょう。決まった曜日や時間に巡回することで、常連客の獲得につながります。
  • イベント会場:土日祝日を中心に、多くの集客が期待できます。ただし、出店料が高額な場合も多いため、売上予測と経費のバランスを慎重に判断しなければなりません。

「パンの移動販売はきつい?」と言われる理由

インターネットで「パン 移動販売」と検索すると、「きつい」や「怪しい」といった言葉が表示されることがあります。こうした印象は、移動販売という業態に対して一部の人が抱く不安や疑問を反映しているのかもしれません。

「きつい」と感じられる背景には、体力面と精神面の両方があります。早朝からの仕込みや長時間の運転、天候に左右される売上、一人で全てをこなす負担などが、その要因とされることもあります。こうした負担を軽減するには、営業日数を調整したり、出店エリアを近場に絞ったりするなど、自分に合ったペースづくりが有効と考えられます。

また、住宅街などで販売する場合、見慣れない車が停まっていると「衛生面は大丈夫?」「どんな人が販売しているの?」と感じる方もいるかもしれません。そのため、清潔感のある外観を保ち、店名や連絡先、営業許可証をわかりやすく掲示することは安心感につながります。

さらに、SNSで出店情報や商品の紹介、作り手の思いを発信すれば、親しみやすさが増し、お店に立ち寄りたいと思ってもらえるきっかけにつながるでしょう。

キッチンカーでのパン販売に向けて計画的に進めよう

キッチンカーでパン販売を始めるには、最低限「食品衛生責任者資格」と運転免許証を取得し、営業スタイルに応じた保健所への手続きが必要です。

車内で調理や仕上げを行う場合は「飲食店営業許可」、工房で製造して販売する場合は「菓子製造業許可」と「営業の届出」、仕入れた包装済みパンを販売する場合は「営業の届出」が求められます。

これらの許可・届出に加え、保健所の基準を満たすシンクや給排水タンク、冷蔵設備などの整備も重要です。さらに、出店場所の選定や適正な価格設定、安定した仕入れルートの確保とともに、売上予測や経費計画を含めた事業計画を練ることで、持続的な運営が可能になります。

清潔感ある外観や許可証の掲示、SNSでの情報発信を通じてお客様の信頼を高め、長く愛されるパン販売を目指しましょう。

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