- 作成日 : 2025年8月19日
飲食店のSDGsに取り組むには?始め方や企業事例を解説
飲食店でSDGsに取り組むには、まず食品ロスの削減や省エネといった身近なことから始めるのがよいでしょう。「SDGsは難しそう」「大企業の話ではないか」と感じるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
日々の営業を見直すことが、結果としてSDGsの目標達成につながります。この記事では、SDGsの基本から、飲食店が取り組むメリット、今日から実践できる具体的な事例、そして取り組みを効果的に発信する方法まで、わかりやすく解説していきます。
目次
飲食店でSDGsへの取り組みとは?
飲食店におけるSDGsへの取り組みは、環境や社会に配慮した持続可能な店舗運営を目指す活動全般を指します。フードロスの削減や地産地消の推進、働きやすい環境づくりなどが当てはまり、これらは社会貢献だけでなく、お店の経営課題を解決するヒントにもなります。
そもそもSDGsとは
SDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに達成を目指す国際社会共通の目標を指します。
SDGsは、2030年に向けて持続可能な社会を目指すために「17のゴール(目標)」と、それらをより具体的にした「169のターゲット」で構成されています。貧困や飢餓、環境問題、働きがい、ジェンダー平等など、世界が抱えるさまざまな課題を解決するために、先進国も発展途上国も、そして企業や個人も、すべての人が協力して取り組むことが求められています。
飲食店は、とくに食やエネルギー、雇用に深く関わる業種であるため、多くの目標に貢献できる立場にあるといえるでしょう。
【SDGs 17のゴール】
- ゴール1:貧困をなくそう
- ゴール2:飢餓をゼロに
- ゴール3:すべての人に健康と福祉を
- ゴール4:質の高い教育をみんなに
- ゴール5:ジェンダー平等を実現しよう
- ゴール6:安全な水とトイレを世界中に
- ゴール7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
- ゴール8:働きがいも経済成長も
- ゴール9:産業と技術革新の基盤をつくろう
- ゴール10:人や国の不平等をなくそう
- ゴール11:住み続けられるまちづくりを
- ゴール12:つくる責任 つかう責任
- ゴール13:気候変動に具体的な対策を
- ゴール14:海の豊かさを守ろう
- ゴール15:陸の豊かさも守ろう
- ゴール16:平和と公正をすべての人に
- ゴール17:パートナーシップで目標を達成しよう
この中で、飲食店がとくに関わりやすいのは、ゴール2、8、12、13、14などです。しかし、これら以外にも、お店の工夫次第でさまざまな目標に貢献することが可能です。
飲食店がSDGsに取り組むメリット
飲食店がSDGsに取り組むことは、社会貢献活動にとどまりません。コスト削減や集客力の向上、人材確保といった、店舗経営に直結する多くのメリットが期待できます。お店の持続的な成長を考えるうえで、SDGsは強力な後押しとなるでしょう。
コストの削減につながる
SDGsへの取り組みは、経営の効率化を見直す良い機会になります。代表的な例が、食品ロスの削減です。これまで廃棄していた食材をうまく活用したり、仕入れ量を最適化したりすることで、食材費を直接的に抑えられます。
また、節水や節電といった省エネ活動もSDGsの一環です。こまめに電気を消す、節水タイプの洗浄機を導入するなど、日々の小さな積み重ねが水道光熱費の削減に大きく貢献します。これらの活動は、環境への配慮と経営改善を同時に実現する方法といえるでしょう。
企業イメージの向上と集客
SDGsへの関心は、消費者や社会全体で年々高まっています。環境や社会に配慮したお店を選ぶという消費行動は、もはや特別なものではなくなりました。 お店のSDGsへの取り組みを積極的に発信することで、「社会課題に関心のあるお店」「信頼できるお店」という良いイメージが定着しやすくなります。
これが他店との差別化になり、お店のブランド価値を高めることにつながるのではないでしょうか。結果として、新しいお客様が来店するきっかけになったり、リピーターの満足度を高めたりする効果が期待できます。
人材の確保と定着
飲食業界は、多くの企業が人手不足という課題を抱えています。とくに若い世代は、就職先を選ぶ際に企業の社会貢献意識や働きがいを重視する傾向が強まっています。
SDGsの目標のひとつである「働きがいも経済成長も(ゴール8)」に取り組むことは、従業員にとって魅力的な職場環境をつくることと同じです。例えば、適正な労働時間の管理、公正な評価制度の導入、多様な人材が活躍できる環境の整備などは、従業員の満足度を高め、離職率の低下に貢献します。
「このお店で働き続けたい」と思ってもらえるような職場づくりは、従業員の満足度や定着率の向上につながり、結果として人材の採用力を高める効果も期待できます。
新たなビジネスチャンスの創出
SDGsの視点を取り入れることで、これまでになかった新しいアイデアやビジネスチャンスが生まれることがあります。 例えば、これまで廃棄していた野菜の皮や芯を使って新しいメニューを開発したり、地域の農家と連携して規格外野菜を仕入れて付加価値の高い商品として提供したりすることも考えられます。
また、地域のNPOや他業種の企業と協力し、食育イベントや環境保全活動を行うことも可能です。 こうした取り組みは、新たな顧客層の開拓や、地域社会との良好な関係構築にもつながり、お店の発展を支える新しい展開につながることもあります。
飲食店が取り組めるSDGsの主な項目
SDGsには17のゴールがありますが、すべてに一度に取り組む必要はありません。まずは自店の状況に合わせて、日々の営業の中で実践しやすい項目から始めるのがよいでしょう。ここでは、多くの飲食店が取り組みやすい代表的な項目を紹介します。
食品ロスをなくす(ゴール2、12)
食品ロス削減は、飲食店が最も貢献しやすい分野のひとつです。
- 食材の使い切り:
野菜の皮や芯、魚の骨などをスープのだしに活用するなど、これまで捨てていた部分を調理に活かす工夫をします。 - 予約管理と需要予測の徹底:
予約キャンセルによる食材の廃棄を防ぐため、リマインド連絡を徹底したり、過去のデータから来店客数を予測して仕入れ量を調整したりします。 - 食べ残しを減らす工夫:
ハーフサイズメニューの導入や、食べきれないお客様への持ち帰り(ドギーバッグ)サービスの提供は、お客様の満足度も高まります。
地産地消と持続可能な食材の利用(ゴール2、12、14)
地域の食材を積極的に使うことは、地域経済の活性化につながるだけでなく、輸送にかかるエネルギー(フードマイレージ)の削減にも貢献します。
- 地元の農家や漁師との連携:
地元の生産者から直接食材を仕入れることで、新鮮で質の高い食材をお客様に提供できます。生産者の顔が見えることは、食の安全安心にもつながるでしょう。 - サステナブル・シーフードの選択:
たとえばMSC認証など、水産資源や環境に配慮した持続可能な漁業の基準を満たす「サステナブル・シーフード」をメニューに取り入れることは、海の資源保全に寄与します。
省エネ・省資源を徹底する(ゴール7、12、13)
日々の営業で使うエネルギーや資源を見直すことも、重要な取り組みです。
- 節水・節電:
LED照明への切り替え、人感センサー付き照明の導入、節水効果の高い食器洗浄機の使用などが効果的です。日々のオペレーションの中で、こまめに電気や水を止める意識を徹底することも大切です。 - 使い捨てプラスチックの削減:
テイクアウト用の容器を紙製や植物由来の素材(バイオマスプラスチック)に変えたり、マイボトルやマイ箸を持参したお客様に割引サービスを提供したりする方法があります。
働きがいのある職場をつくる(ゴール5、8)
従業員が安心して長く働ける環境を整えることは、お店の活気やサービスの質の向上に直結します。
- 公正な労働環境の整備:
勤怠管理を徹底し、長時間労働やサービス残業をなくします。誰もが納得できるような、明確な評価制度を設けることも重要でしょう。 - 多様な人材の活躍推進:
年齢、性別、国籍などにかかわらず、誰もが働きやすい職場を目指します。子育て中の従業員のためのシフト調整や、高齢者の積極的な雇用なども、お店の貴重な戦力となります。
企業事例:飲食店のSDGs、面白い取り組みから学ぶ
すでに多くの飲食店や関連企業が、独自のアイデアでSDGsに取り組んでいます。大手チェーン店の規模を活かした活動から、中小飲食店ならではのユニークな取り組みまで、参考になる事例を紹介します。自店で何ができるかを考えるヒントにしてください。
大手飲食企業・チェーン店の取り組み事例
大手企業は、その規模やブランド力を活かし、社会全体に影響を与えるような広範な活動を展開しています。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
スターバックスは、サステナビリティを経営の中心に据え、多角的な取り組みを行っています。コーヒー豆を倫理的に調達する基準「C.A.F.E.プラクティス」は、生産者の生活向上や環境保護を目指すもので、同社のSDGs活動の根幹です。
また、タンブラー持参による割引やカップの回収・リサイクル、店内で使用する使い捨てカップをリッド(蓋)なしで提供できる「コールドカップ」への切り替えなど、ごみの削減にも力を入れています。CO2排出量削減を目指す国際認証「Greener Store」の店舗を増やすなど、環境負荷の低い店舗づくりも進めています。
出典: スターバックス コーヒー ジャパン「コーヒーのエシカルな調達―C.A.F.E. プラクティス」
株式会社すかいらーくホールディングス
「ガスト」や「バーミヤン」などを運営するすかいらーくグループでは、食品ロス削減を重要な課題としています。AIを活用した需要予測で食材の過剰発注を防いだり、店舗での調理工程を見直したりすることで、廃棄量の削減に努めています。また、プラスチック使用量の削減にも積極的で、ストローやカトラリーを代替素材へ変更。全店舗の照明をLEDに切り替えるなど、省エネルギーも推進しています。
出典: 株式会社すかいらーくホールディングス「サステナビリティ」
日本マクドナルド株式会社
マクドナルドでは、おもちゃのプラスチックをリサイクルして店舗で使うトレイに再生する「ハッピーりぼーん」プロジェクトを推進しています。また、ハッピーセットで本を選べる「ほんのハッピーセット」は、子どもの教育(ゴール4)に貢献する取り組みとして長く親しまれています。
近年では、FSC認証紙など環境に配慮した素材を包装紙に採用したり、手洗い啓発活動を行ったりと、環境・社会の両面で幅広い活動を行っています。
中小飲食店のユニークな取り組み事例
中小規模の飲食店では、地域性やオーナーの個性を活かした、ユニークで面白い取り組みが見られます。
分身ロボットが接客するカフェ
外出困難な人々が、分身ロボット「OriHime」を遠隔操作して接客スタッフとして働くカフェがあります。パイロット(従業員)は障がいや病気などの理由で通勤が難しくても、自宅から社会に参加し、働くことができます。これは、テクノロジーを活用して「働きがい」や「人や国の不平等をなくそう」という目標(ゴール8、10)を具現化した、先進的な事例です。
「恩送り」ができる食堂
先に食事代を払い、まだ見ぬ誰かのために「一杯の食事」を寄付しておく「恩送り(Pay it Forward)」の仕組みを取り入れている食堂があります。経済的に困難な状況にある人や子どもたちが、その寄付された食事券を使って無料で食事をとれるというものです。地域のセーフティネットとしての役割を担い、貧困や格差の問題(ゴール1、10)にアプローチしています。
参考: 認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ
飲食店がSDGsを始めるポイント
SDGsへの取り組みは多くのメリットをもたらしますが、進め方によっては意図しない評価を受けてしまうこともあります。ここでは、取り組みを始める前に知っておきたい注意点を解説します。
「SDGsウォッシュ」を避ける
SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるように見せかけて、実態が伴っていない状態を指す言葉です。例えば、ほんの少しの活動を大げさに宣伝したり、環境に悪い影響を与えている本業には触れずに、小さな社会貢献活動だけをアピールしたりすることが当てはまります。
こうした見せかけの活動は、かえって消費者や取引先からの信頼を失うことになりかねません。大切なのは、背伸びをせず、等身大の取り組みを誠実に伝え続けることです。
目標の優先順位をつける
17あるSDGsの目標すべてを一度に達成しようとするのは現実的ではありません。無理に多くの目標を掲げると、どれも中途半端になってしまうおそれがあります。
まずは、自店の経営理念や事業内容、そして抱えている課題と照らし合わせて、とくに貢献しやすい目標や、取り組むことでメリットが大きい目標に優先順位をつけましょう。
「食品ロス削減」や「働きがいのある職場づくり」など、具体的なテーマを絞って始めるのがおすすめです。
従業員を巻き込み、全員で取り組む
SDGsの活動は、経営者や一部の担当者だけが熱心でも、お店全体には浸透しません。日々のオペレーションに深く関わるからこそ、全従業員の理解と協力が不可欠です。 なぜSDGsに取り組むのか、その目的やお店にとってのメリットを丁寧に説明し、共感を得ることがスタートラインです。
勉強会を開いたり、従業員からSDGsに関するアイデアを募集したりするなど、全員が当事者意識をもって参加できるような工夫をしてみてはいかがでしょうか。
飲食店がSDGs宣言を行うには?
自店のSDGsへの取り組みを内外に示す「SDGs宣言」は、お客様や取引先、従業員へのアピールに効果的です。宣言を作成し、発信することで、活動への決意を固め、周囲の信頼を得ることにつながります。
SDGs宣言の作成方法とポイント
SDGs宣言に、決まった書式はありません。以下の手順で、自店らしい宣言を作成しましょう。
- 現状の取り組みを洗い出す
まず、すでに行っていることを「食品ロス削減」「省エネ」「地域貢献」などのカテゴリに分けて書き出します。 - SDGsの17目標と関連づける
洗い出した取り組みが、SDGsのどの目標につながるかを確認します。(例:「地産地消の推進」→ゴール11、12) - 今後の目標を設定する
現状をふまえて、これから新たに取り組みたいことや、さらに強化したいことを具体的な目標として設定します。(例:「2026年までにテイクアウト容器をすべて非プラスチック製にする」) - 宣言文としてまとめる
お店の理念や想いを込めて、これらの内容を宣言文としてまとめます。ホームページや店内に掲示することを意識し、簡潔でわかりやすい言葉で表現しましょう。
ホームページやSNSでの情報発信のコツ
宣言は、発信して初めて意味を持ちます。ホームページやSNSを活用して、取り組みを積極的に伝えましょう。
専用ページをつくる
ホームページにお店のSDGs活動をまとめた専用ページを作成すると、本気度が伝わります。
ストーリーを語る
「なぜこの取り組みを始めたのか」という背景や、「農家の〇〇さんの想い」といったストーリーを伝えることで、お客様の共感を呼びやすくなります。
活動を定期的に報告する
「今月は〇kgの食品ロスを削減できました!」といった具体的な成果や、活動の様子を写真や動画付きで定期的に報告することで、取り組みの継続性や透明性を示せます。
飲食店の未来をつくるSDGsへの取り組み
飲食店にとってSDGsは、もはや特別な取り組みではなく、持続的な経営に欠かせない考え方となりつつあります。食品ロスの削減や省エネなどの環境配慮に加え、働きやすい職場づくりや地域との連携は、ファンの獲得やスタッフの満足度向上にもつながります。
大きな目標を掲げる必要はありません。たとえば、地元野菜をメニューに取り入れる、割り箸を国産の森林認証材に変えるといった、身近なことから始めれば十分です。こうした小さな実践の積み重ねが、顧客や従業員、地域社会に支持されるお店づくりにつながり、飲食店の未来を形づくっていきます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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