• 作成日 : 2025年8月8日

コンテナで飲食店は開業できる?建築用と輸送用の違いと法的注意点を解説

飲食店を開業する手段として「コンテナ」の活用を検討する方もいるでしょう。見た目は似ていても、コンテナにはいくつかの種類があり、港や物流で使われる輸送用コンテナは、構造や法規制の観点から、そのままでは店舗としては利用できません。飲食店として営業可能なのは、日本の建築基準法に適合した「建築用コンテナ」です。この記事では、建築用と輸送用の違いや法的な注意点、必要な設備や費用、開業の流れまでをわかりやすく解説します。

輸送用コンテナは飲食の店舗として利用できない

飲食店などの建築用途に、輸送用コンテナをそのまま使用することはできません。

港や貨物列車などで見かけるコンテナの多くは「ISO海上輸送コンテナ」と呼ばれ、国際的なISO規格に基づいて製造された輸送専用のもので、船舶やトラック、鉄道での物流を目的としています。輸送コンテナは高い強度を持ち、積み重ね輸送に適しています。

しかし、この強度は「密閉された箱」としての状態で成立しているものであり、店舗用途で必要となる窓やドアなどの開口部を設けると、構造的な強度が大きく損なわれてしまいます。

このため、輸送用コンテナは日本の建築基準法に適合せず、そのまま店舗として使うことはできません。JIS鋼材が使われていないなど、建築物として認められる基準を満たしていないため、仮に営業すれば違法建築物と判断される可能性があります。

飲食店の店舗には建築用のコンテナ

飲食店などの店舗として利用できるコンテナは、日本の建築基準法に適合するよう特別に設計・製造された「建築用コンテナ」を選択する必要があります。

建築用コンテナと輸送用コンテナとの違い

建築用コンテナとは、建物の構造体として使用できるよう、日本の建築基準法に適合させて製造されたコンテナを指します。一方、輸送用コンテナは、国際的な物流規格であるISO規格に準拠し、貨物の海上輸送や陸上輸送のために作られたコンテナです。

建築用コンテナは、JIS規格の鋼材を使用して製造されています。建築確認申請に必要な構造計算書が発行されるなど、法的にも建築物として認められています。

一方、輸送用コンテナはISO規格に基づき、積み重ね・衝撃への耐久性はあるものの、建築物としての法的な基準を満たしていないため、店舗としては使用できません。

以下に両者の違いを一覧で整理します。

項目建築用コンテナ輸送用コンテナ
目的と設計基準建築基準法に適合。人が安全に利用する空間として設計ISO規格に基づく。貨物輸送を目的とした強度重視の構造
使用鋼材JIS規格に準拠した鋼材を使用建築基準法が定める基準外の素材が使用されていることが多い
法的扱い建築確認申請が可能。建築物として正式に利用できる建築物とはみなされず、そのままでは違法建築物となる
加工の可否開口部の設置や内装施工を前提に設計されており、比較的容易構造計算がされておらず、窓・ドアの設置により強度が著しく低下する恐れがある
主な用途飲食店・住宅・オフィス・店舗などコンテナ輸送・一時保管用の貨物コンテナ

建築用コンテナの寸法

建築用コンテナの寸法は、輸送用コンテナの規格サイズを参考に、同等の外寸で設計・製造されており、20フィートか40フィートが主に採用されています。

高さについては、内装設備や空調機器の設置を考慮して高さに余裕のあるハイキューブ仕様(高さ2,896mm)が多く採用されています。

代表的な建築用コンテナの寸法は以下のとおりです。

  • 20フィートコンテナ: 長さ約6.058m × 幅約2.438m × 高さ約2.896m
  • 40フィートコンテナ: 長さ約12.192m × 幅約2.438m × 高さ約2.896m

いずれもモジュール化された構造となっており、複数台を連結して広さを拡張したり、間取りを自由に設計したりしやすい点が建築用コンテナの特徴です。

建築用コンテナを飲食店向けにリフォームするには

建築用コンテナは建築基準法に適合しているコンテナですが、飲食店として活用するには、消防法、食品衛生法など、さまざまな法規制に対応した適切なリフォームが必要です。

消防法への対応
  • 消火設備: 飲食店を営業する場合、店舗の規模にかかわらず消火器の設置が義務付けられています。
  • 避難経路: 火災時に安全に避難できるよう、適切な避難経路の確保や非常口の設置が必要です。
  • 内装制限: 内装材には、難燃性や不燃性の素材の使用が義務付けられています。

食品衛生法への対応

食品を扱う飲食店を営業するためには、食品衛生法で定められた施設の基準を満たす必要があります。具体的には、以下のような項目が挙げられます。

  • 一定の広さが確保されていること
  • ゴミや害虫の侵入防止対策
  • 掃除しやすい内装であること
  • 十分な明るさの確保
  • 適切な給水設備 など
インフラ整備
  • 給排水設備: 厨房やトイレのための給水・排水設備の引き込みと配管工事は必須です。保健所の営業許可の条件にも含まれます。
  • 電気設備: 厨房機器や照明、空調など、飲食店に必要な電力を供給するための電気工事が必要です。適切な配線とブレーカーの設置が求められます。
  • ガス設備: ガスコンロなどを使用する場合、ガス配管工事が必要です。プロパンガスか都市ガスかによっても工事内容が異なります。

これらのリフォームは専門的な知識と技術が必要なため、店舗用コンテナハウスの実績が豊富な業者に依頼することが重要です。

飲食店で必要な設備

飲食店を開業する上で、建築用コンテナ内に最低限必要な設備は以下のとおりです。これらは保健所の営業許可を取得するための必須要件にもつながります。

厨房・キッチン設備を整える
  • シンク: 二槽式または三槽式のシンクが必須です。食材用、食器用など用途に応じて分けます。
  • 調理台: ステンレス製など、衛生的な素材の調理台を設置します。
  • 冷蔵庫・冷凍庫: 食材の保管に必要な容量と性能を持つものを選びます。
  • 加熱調理機器: ガスコンロ、IHヒーター、オーブンなど、提供するメニューに合わせて選びます。
  • 換気扇: 強力な排気能力を持つ業務用換気扇を設置し、油煙や臭気を効率的に排出できるようにします。消防法上のダクト設置基準にも注意が必要です。
  • 手洗い設備: 手指を洗浄消毒する装置を備えた流水式手洗い設備を必要な個数用意します。
内装・換気・断熱を施す
  • 内装材: 壁や床は清掃しやすく、衛生的な素材(例:不燃・準不燃のクロス、タイル、長尺シートなど)を使用します。
  • 換気: 厨房だけでなく、客席部分にも十分な換気設備が必要です。室内の空気を清潔に保ち、快適な空間を提供します。
  • 断熱: コンテナは金属製のため、外気温の影響を受けやすいです。壁、天井、床に高性能な断熱材(例:硬質ウレタンフォーム、グラスウールなど)をしっかりと入れることで、冷暖房効率を高め、結露の発生も抑制します。これは、顧客の快適性だけでなく、光熱費の削減にもつながります。

これらの設備は、飲食店の種類や規模によって異なりますが、最低限の環境を整えるために不可欠です。

施工会社・業者に依頼する際の注意点

建築用コンテナで飲食店を開業するには、消防法や食品衛生法など、さまざまな法規に対応する必要があるため、専門知識を持った施工会社に依頼する必要があります。

施工会社を選定する際は、厨房設備の配置や動線、客席のレイアウトなど、店舗としての機能性や法律を順守した提案をしてくれるかどうかが重要です。

また、設置後のメンテナンス対応や設備の不具合時のサポート体制についても、事前に確認しておくと安心です。

建築用コンテナの入手方法

建築用コンテナを専門に扱うメーカーや、コンテナハウスの建築実績がある工務店に相談するのが一般的です。これらの業者は、建築基準法に適合したコンテナの設計・製造から、建築確認申請のサポート、基礎工事、運搬、設置、内装工事まで一貫して請け負う場合が多いです。

建築用コンテナの費用は、そのサイズ、仕様、内装の有無、設備、そしてどこのメーカーに依頼するかによって大きく変動します。

1ユニットあたり、安いもので300万円程度から購入することが可能です。これはあくまで構造体としてのコンテナの価格であり、内装や設備は含まれていません。

建築用コンテナを飲食店向けにリフォームする費用の相場

建築用コンテナを飲食店向けにリフォームする費用は、コンテナのサイズ、導入する設備、内装のグレード、工事の複雑さによって大きく変動します。

一般的な費用の内訳と相場は以下のとおりです。

  • コンテナ本体費用: 前述のとおり、1ユニットあたり300万円〜。
  • 基礎工事費: 設置場所の地盤状況やコンテナの数によりますが、数十万円程度。
  • 運搬・設置費: コンテナのサイズや台数、設置場所までの距離、クレーン使用の有無により、数万円〜数十万円程度。
  • インフラ引き込み工事費: 電気、水道、ガス、排水管などの引き込み費用。場所によって大きく異なりますが、数十万円〜数百万円かかることもあります。
  • 内外装工事費: 断熱材、壁・床・天井の仕上げ、照明、空調設備など。シンプルなもので100万円〜、デザインにこだわると300万円以上。
  • 厨房設備工事費: シンク、調理台、冷蔵庫、冷凍庫、加熱機器、換気扇、排気ダクトなど。これも提供するメニューや規模によりますが、100万円〜500万円程度かかるケースが多いです。
  • 消防設備設置費用: 消火器の設置など。数千円〜数万円程度。

これら全てを合計すると、一般的な飲食店を開業するのと同様に、総額で500万円から1,500万円、あるいはそれ以上の費用がかかることを想定しておくべきでしょう。初期費用を抑えたいと考えるのであれば、中古の建築用コンテナを検討するのも一つの手ですが、その場合でもリフォーム費用は発生します。見積もりを複数社から取得し、詳細な内訳を確認することが重要です。

建築用コンテナで飲食店を開業する許認可や資格

建築用コンテナで飲食店を開業する際には、通常の飲食店開業と同様に、さまざまな許認可や資格が必要です。開業前に、管轄の保健所、消防署、警察署などに相談し、必要な許認可をすべて洗い出し、計画的に取得を進めていきましょう。

1. 土地・用途地域の確認を行う

設置予定地が飲食店営業に適した用途地域かを自治体の都市計画課で確認しましょう。

市街化調整区域では原則として建築物の建築や用途変更が制限されていますが、特定の要件を満たす場合は許可されることがあります。

2. 建築確認申請を行う

コンテナを基礎に固定して水道・電気・ガスを接続する場合、建築確認申請が必要です。

特に防火地域や準防火地域では、耐火基準や排煙設備などの要件が厳しくなります。建築士と連携し、設計段階から基準に沿った図面を作成し、確認申請を行う必要があります。

3. 建築用コンテナの製造と加工

建築確認が下りたら、建築用コンテナの製造と、飲食店としての内装や設備の加工をおこないます。

4. 飲食店営業許可を保健所に申請する

営業開始前に必ず取得しなければならないのが「飲食店営業許可」です。これは店舗所在地を管轄する保健所で申請します。

保健所からの営業許可を受けるためには、前述した「食品衛生法上の施設基準」を満たす必要があります。

工事前などに事前に保健所へ設計図を持ち込み、相談しておくとトラブルを防げます。

5. 食品衛生責任者を配置する

飲食店には1名以上の食品衛生責任者が必要です。調理師や栄養士などの資格を持っていない場合でも、都道府県が指定する食品衛生責任者講習会(1日)を受講すれば取得できます。

講習では、食中毒の予防や衛生管理の知識が学べ、事故発生時の初期対応にも役立ちます。営業許可の申請までに取得・配置することが必須です。

6. その他の必要な許認可を確認する

飲食店の種類や提供するサービスによっては、上記以外にもさまざまな許可が必要となる場合があります。

  • 深夜酒類提供飲食店営業開始届出: 深夜0時以降も酒類を提供する場合は、警察署に届け出が必要です。
  • 防火管理者選任届出: 店舗の収容人数が30人以上の場合、防火管理者を選任し、消防署に届け出る必要があります。防火管理者は、火災予防計画の作成や消防訓練の実施など、防火に関する業務を行います。
  • 建築基準法第12条に基づく定期報告: 特定の用途や規模の建築物の場合、定期的に専門家による調査を行い、報告書を提出する必要があります。
  • その他: 提供するメニューによっては、たばこに関する規制、テイクアウトやデリバリーを行う場合の許可など、多岐にわたる許可や届け出が必要になる場合があります。

建築用コンテナで飲食店の開業にはコンセプトが大事

建築用コンテナを使った飲食店の開業では、設計や許可取得の前に事業コンセプトを立て、具体的な計画に落とし込むことから始めましょう。

事業コンセプトを明確にする

最初に、「どんなお店にするか」を言語化することです。業態(和・洋・中・カフェなど)、メニュー構成と価格帯、想定客層(地域住民、ビジネス層、観光客など)、営業スタイル(イートイン、テイクアウト、立ち飲み)を整理しておくことで、設計や設備の選定もぶれなく進みます。

あわせて、初期費用の概算や収支シミュレーションもこの段階で検討しておくと、後の融資申請にも活用できます。

たとえば、カウンター中心の立ち飲み店であれば、40フィートコンテナ1台を利用し、狭小でも回転率を重視した導線を設計できます。一方、家族連れ向けのカフェであれば、複数のコンテナを連結して広さを確保し、ゆとりある内装が求められます。このように、コンセプトが建築や運営の前提条件となります。

事業計画書を作成する

事業計画書は、資金調達のためだけでなく、開業準備の方向性を整理するうえでも重要です。売上や経費の月次試算、設置場所と賃料、競合との差別化、初期投資の内訳、許認可の取得スケジュールなど、具体的な内容を盛り込んで構成します。

金融機関への融資申請や補助金の申請などにも、そのまま活かせる内容に仕上げましょう。

また、開業前にはソフトオープン(関係者向けのプレ営業)を実施し、課題を洗い出しておくと正式な開業に備えやすくなります。

建築コンテナでの飲食店を開業するまでには、許認可の取得と並行して進めることも多いため、スケジュールを管理しながら一つ一つ確実に準備を進めていきましょう。

事業計画書のテンプレート

建築用コンテナで飲食店を開業する際の事業計画書は、テンプレートを活用すると便利です。

マネーフォワード クラウドでは、今すぐ実務で使用できる、テンプレートを無料で提供しています。以下よりダウンロードいただき、自社に合わせてカスタマイズしながらお役立てください。

建築用コンテナで飲食店を開業する際の注意点

建築用コンテナを使った飲食店の開業で、事前に押さえておくべき注意点を解説します。

法規制を厳守する

最も重要なのは、建築基準法、消防法、食品衛生法などの法規制を厳守することです。安易な自己判断は避け、必ず専門家(建築士、施工業者、保健所など)に相談し、適切な設計と工事を行いましょう。特に、消防法は厨房設備の内装材などに厳しい基準を設けているため、初期段階からの検討が不可欠です。

換気計画を重要視する

飲食店では、厨房からの油煙や臭気、客席からの生活臭などで常に空気が汚れる可能性があります。適切な換気システムを導入し、常に新鮮な空気を供給できる計画を立てることが不可欠です。特に、排気ダクトの設計や、コンテナの開口部を考慮した空気の流れを作る必要があります。

防音対策を検討する

コンテナの壁は薄く、外部への音漏れや、外部からの騒音の侵入がしやすい傾向にあります。住宅街やオフィス街に設置する場合は、近隣への配慮として防音対策を検討しましょう。

土地の選定とインフラを確認する

建築用コンテナを設置する土地の選定も重要です。電気、水道、ガス、排水などのインフラがスムーズに引き込めるか、十分な駐車スペースが確保できるかなども検討項目です。また、コンテナの運搬・設置には大型車両やクレーンが必要な場合があるため、搬入経路も確認しておく必要があります。

費用と資金計画を綿密に立てる

一見安価に思える建築用コンテナですが、飲食店として機能させるためのリフォームや設備投資を考慮すると、通常の店舗と比べてコスト削減にならない場合もあります。設備費用なども含めた正確な見積もりを複数社から取得し、綿密な資金計画を立てることが重要です。予想外の追加費用が発生する可能性も考慮し、余裕を持った資金を用意しましょう。

飲食店の開業には建築用コンテナとコンテナハウスどちらが良い?

飲食店の開業を目的とするのであれば、建築用コンテナを選ぶべきです。広義の「コンテナハウス」という言葉には、輸送用コンテナを改造したものも含まれることがありますが、そのままでは建築基準法に適合できていない可能性があります。

一方で「建築用コンテナ」は、建築基準法に適合した「建設物」であるため、飲食店として必要な要件を備えることですぐに店舗として利用することができます。

コンテナで飲食店を開業するなら建築用を選ぼう

コンテナを使って飲食店を開業するには、建築基準法に適合した建築用コンテナを使用することが大前提です。見た目が似ていても、輸送用コンテナは構造上・法的に店舗用途には対応しておらず、そのままでは利用できません。

建築用コンテナであっても、営業には消防法や食品衛生法など、さまざまな法令への対応が必要です。換気や断熱、防火、厨房設備の設計、さらには保健所への申請まで、ひとつひとつの準備を丁寧に進めることで、安全で安定した運営が可能になります。

コストや手間を少なく見積りすぎず、経験豊富な専門業者と連携しながら、法令を遵守した計画的な開業を進めることが成功への近道です。


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