- 更新日 : 2025年6月19日
オンラインで入社手続きはどこまでできる?電子化できる書類や進め方、注意点を解説
近年、入社手続きをオンラインで完結させる企業が増えてきました。これまで紙でやり取りしていた契約書や社会保険の申請も、デジタル化の流れによって、インターネットを通じて対応するケースが一般的になりつつあります。
本記事では、オンラインで入社手続きはどこまで対応できるのか、電子化できる書類の種類や進め方を解説します。これからオンライン対応を導入したいと考えている人事担当者の方や、効率的な入社対応を検討している企業の方は、参考にしてください。
目次
入社手続きのオンライン化が進む背景
入社手続きのオンライン化は、制度改革と業務効率化の流れを受けて、急速に普及しています。背景には、国による法制度の改正と、企業側の人手不足・業務省力化への対応ニーズがあります。
2020年の「一部手続きの電子申請義務化」や「2021年の電子帳簿保存法改正」によって、社会保険や会計関連書類の電子保存が推奨・一部義務化されたのも要因です。2024年の法改正では、電子取引に関する書類の電子保存が義務化されました。入社書類や契約書などもデジタルで受け渡しを行う場合は、法定要件を満たした形式で保存する必要があります。
さらに、少子高齢化による人手不足やコロナ禍の影響で、紙書類のやり取りから脱却し、入社手続きをオンラインで完結させたいというニーズが高まりました。現在では、下記のような仕組みを活用する企業が増えています。
- クラウド管理ツールの導入
- 電子契約サービスの活用
- e-Govを使った社会保険手続きの電子申請
このように、法改正・人手不足・働き方の変化といった複数の要因が重なり、今後も入社手続きのオンライン化は加速していくと考えられます。
入社手続きにおけるオンライン化とは
入社手続きのオンライン化とは、従来の紙のやり取りではなく、非対面かつ効率的に情報収集・契約・申請を完結させる方法のことを指します。
従来のように紙で書類を作成し、捺印・郵送していた入社手続きは、多くの手間と時間がかかっていました。オンライン化によって、これらの工程をインターネット上のクラウドシステムで一元化できます。
たとえば、入社予定者は自宅のスマートフォンやパソコンから基本情報を入力し、企業はリアルタイムで確認・管理可能です。また、雇用契約書は電子契約ツールで締結し、社会保険などの申請はe-Govから提出できます。
入社手続きのオンライン化は、企業・従業員双方の負担が軽減され、手続きの抜け漏れやミスの防止にもつながります。
以下の記事では、入社手続きの電子化について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
オンライン入社手続きが人事にもたらす5つのメリット
人事担当者にとって、入社手続きの効率化は業務負担の軽減とミスの防止につながります。従来の紙ベースの運用では、記入漏れや郵送トラブルなど、さまざまな課題がありました。
オンライン化を進めることで、業務の精度やスピード、柔軟性が大きく向上します。ここでは、オンライン入社手続きが人事にもたらす具体的なメリットを紹介します。
1. やり取りの効率化で対応スピードが向上する
オンライン入社手続きの導入によって、やり取りのスピードが大幅に向上します。従来の紙書類では、郵送・返送のタイムロスや記入漏れによる差し戻しが頻発し、スムーズな対応が難しい状況でした。
しかし、Webフォームを使えば即時入力・即時反映が可能です。入力ガイドの表示によって、記入ミスも防げます。
複数人の手続きを同時並行で進められる点も、人事にとっては大きなメリットです。結果として、全体の対応スピードが向上し、繁忙期でも効率的に対応できる体制が整えられます。
2. 確認漏れ・誤送信を防げる
オンライン手続きでは、確認漏れや誤送信などのヒューマンエラーを防止できます。理由は、システム上で入力必須項目を設定したり、承認プロセスを可視化できたりするためです。
たとえば、必要項目を未入力のまま送信できない設定や、ステータス表示による進捗の把握機能が搭載されているため、抜け漏れを未然に防げます。担当者間の情報共有もスムーズになり、業務の属人化や重複確認の負担が減少します。
3. 郵送や保管にかかるコストを削減できる
入社手続きのオンライン化により、郵送や書類保管にかかるコストを大幅に削減できます。紙ベースの手続きでは、下記の各工程にコストがかかり、長期的には大きな負担となっていました。
- 印刷
- 封入
- 郵送
- 保管
しかし、入社手続きをオンライン化することで、データ入力から保管までがすべて電子化され、物理的なコストがほぼ不要になります。社内の保管スペース削減や、過去書類の検索性向上による業務効率化も図れるため、コスト削減と業務改善を同時に実現できます。
4. 在宅を前提とした採用のハードルが下がる
オンライン手続きは、遠方や在宅勤務希望の人材にも対応でき、採用の幅を広げられます。従来は来社や郵送が必要でしたが、すべてのやり取りをオンラインで完結できれば、地理的制約はなくなります。
また、入社前の手続きだけでなく、入社後の研修や配布資料のやり取りにも展開しやすい点も魅力です。
地方在住者や子育て中の求職者にとって、在宅で完結する手続きは魅力的です。採用活動の幅を広げたい企業にとって、オンライン化が多様な人材確保の実現につながるでしょう。
5. 社内業務の進捗を共有しやすくなり、業務の偏りを防げる
オンライン手続きの導入は、社内における業務の進行状況を「可視化」する点でも大きな効果があります。紙ベースの対応では、誰がどの業務を担当しているか分かりづらく、特定の担当者に業務が集中してしまうケースもあるでしょう。
オンラインシステムを活用すれば、進捗状況や対応履歴がリアルタイムで共有でき、チーム全体での業務配分の最適化を図れます。業務の属人化を防ぎ、引き継ぎやマニュアル整備もスムーズに進めやすくなります。
結果として、誰かに負担が偏ることなく、チーム全体で効率的に業務を進められる体制を構築可能です。
入社手続きをオンラインで行う方法
入社手続きのオンライン化を進めるには、紙の書類をデジタル化すればよいというわけではありません。まずは現在の業務フローを整理し、どの手続きが電子化できるのかを見極めることが重要です。
ここでは、入社手続きをオンラインで進めるための具体的な方法と、それぞれのポイントを解説します。
以下の記事では、企業が行う入社手続きの流れを詳しく解説しています。気になる方は、あわせてご参考ください。
入社手続きを整理してオンライン化の範囲を決める
入社手続きのオンライン化を進めるには、まず現行の業務フローを整理することが重要です。手作業が多い工程や非効率なやり取りを洗い出さなければ、最適なオンライン対応ができません。
たとえば、下記の手続きはオンラインへ移行しやすい代表例です。
- 従業員情報の回収
- 雇用契約書のやり取り
- 保険関連の申請
どの書類が必要で、誰が対応するのかを可視化すれば、優先的にデジタル化すべき領域が明確になります。まずは全体像を把握し、対応可能な範囲を段階的に進めていきましょう。
以下の記事では、入社手続きの効率化のポイント・トラブルへの適切な対応方法を詳しく解説しています。
適切な労務システム・電子契約ツールを選ぶ
効率的にオンライン化を進めるには、自社に適したシステム選定が欠かせません。業務の一元管理と、法的な手続きの正確性が求められるためです。
労務管理システムでは、個人情報の入力から給与計算、勤怠管理までを一括で管理できます。また、電子契約ツールなら、雇用契約書や誓約書も法的に有効な形で締結可能です。
システムを選定する際は、必要な機能だけでなく、下記のポイントも含めて総合的に検討しましょう。
- 操作性
- 費用対効果
- セキュリティ面
目的にあったツール選びが、導入後の定着と成果を左右します。
社会保険手続きをe-Govでオンライン化する
e-Govは、政府が運営する正式な電子申請窓口です。そのため、社会保険や雇用保険の手続きも、e-Govを活用することでオンライン化できます。
申請には、下記の事前準備が必要です。
- 電子証明書の取得
- e-Govアプリのインストール
- e-Govアカウント・GビズIDの登録
入社前に書類を作成・一時保存しておけば、手続きもスムーズに行えます。また、日本年金機構が提供する届出作成プログラムを使えば、添付資料の作成も簡単です。
手続き完了後は、公文書をe-Gov上からダウンロードできます。適切に保存・交付することで、法的にも問題なく対応できるでしょう。
さらに、e-Govと連携できる労務システムを活用すれば、効率的に業務を進められるので検討するとよいでしょう。
オンライン対応できる入社手続き・書類一覧
入社手続きの多くはオンラインで対応可能です。代表的な手続きと対応方法を下表にまとめました。
手続き・書類 | オンライン対応方法 |
---|---|
個人情報・口座情報の収集 | Web入力フォームで直接入力 |
雇用契約書・誓約書の締結 | 電子契約サービスを利用(例:クラウドサイン) |
社会保険・雇用保険の手続き | e-Govで電子申請 |
就業規則・研修資料の配布 | クラウド共有(PDF・動画)や社内ポータルの利用 |
これらをオンライン化することで、郵送や対面でのやり取りを減らし、入社準備の効率化が図れます。
入社手続きに必要な書類を詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
入社手続きをオンライン化する際の4つの注意点
入社手続きをオンライン化すれば、作業の効率化や書類のペーパーレス化が実現できます。しかし、すべての書類が電子化できるわけではありません。
制度や社員の環境によっては、対応が難しいケースもあります。ここでは、入社手続きをオンライン化する際の注意点を4つ解説します。
1. 一部の入社書類はオンライン対応できない場合がある
入社手続きのオンライン化には、限界があることを認識しておきましょう。労働条件通知書や雇用契約書を電子交付するには、あらかじめ労働者の同意が必要です。
また、業界や企業によっては「書面の原本提出」が求められるケースもあります。完全なオンライン化を目指す場合でも、一部書類では紙対応が必要となる可能性があるので注意しましょう。
電子化するにあたって、対象書類の範囲を明確にし、従業員から同意を取得する体制を整えることが重要です。書類の送信や確認フローを社内でルール化しておけば、抜け漏れやトラブルのリスクも軽減できるでしょう。
2. 入社手続きは新入社員のIT環境にも配慮が必要になる
入社手続きのオンライン化を進めるうえで見落としがちなのが、新入社員側のIT環境やスキルです。スマートフォンやパソコンの操作に不慣れな方や、通信環境が十分ではない方にとって、オンラインでの入社手続きが大きな負担になる可能性があります。
また、端末の仕様によっては、書類の閲覧や入力が難しいケースも考えられます。そのため、操作マニュアルを配布する、必要に応じて電話や対面でフォローするなど、サポート体制を整えておくことが重要です。
新入社員のITリテラシーに配慮することは、手続き全体がスムーズに進められるだけでなく、入社後の信頼関係の構築にもつながります。
3. 入社手続きのオンライン化にはシステム導入コストがかかる
オンラインでの入社手続きは便利な反面、導入コストを考慮する必要があります。労務管理システムや電子契約システムの導入には、初期費用や月額利用料がかかるケースも多く、中小企業やスタートアップ企業には負担となることもあります。
たとえば、従業員数が少ない企業では、必要以上に高機能なシステムを導入してしまうと、コストだけがかさんでしまうということにもなりかねません。自社の規模や業務フローにあわせて必要な機能を見極め、費用対効果のバランスが取れたサービスを選定することが重要です。
適切なシステムを選ぶことで、オンライン化を無理なく継続できます。
4. 電子化した入社書類はセキュリティ管理が重要になる
入社手続きをオンラインで行ううえで、重視すべきなのがセキュリティ管理です。取り扱う入社書類の情報には、下記の個人情報が多く含まれています。
- マイナンバー
- 銀行口座
- 扶養家族の情報
電子化によって紙の紛失リスクは低減されますが、一方で、データ漏えいや不正アクセスなどのサイバーリスクが発生します。クラウド保存時にはアクセス制限をかける、データを定期的にバックアップするといった運用が欠かせません。
さらに、社内での管理体制も重要なポイントです。セキュリティポリシーを策定し、責任者を明確にしておくことで、安全かつ確実な運用が実現できます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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