- 更新日 : 2025年12月5日
管理職は育休を取れない?取得推進に向けて企業が取り組むべきことを紹介
育児休業(育休)は労働者に与えられた、法律で認められている権利です。企業として従業員の育休取得を促進しているものの、管理職の育休取得が進まずに悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
この記事では、管理職が育休を取得しにくい理由や、取得することによる企業側のメリットを紹介します。管理職の育休取得に向けて企業が行うべき対応や、注意点についてもわかりやすく解説します。
目次
管理職でも育休取得は可能
管理職であっても、法律上育休の取得は可能です。労働時間や休日の規定が一部除外される管理監督者であっても、育休取得権は制限されません。
ただし、管理職の雇用期間が1年未満など、例外的に企業側が育休の取得を拒否できるケースはあります。しかし、労使協定の締結が前提となるなど、管理職の育休取得は法律で保護されているため、企業は正しく制度を理解したうえで対応する必要があります。
そもそも育児休業とは?
育児休業とは、原則として1歳未満の子どもを養育する従業員が取得できる、法定休業制度です。企業は従業員からの申し出があれば、原則として育休の取得は拒否できません。育休制度の目的は、仕事と育児の両立支援にあり、職場への定着や人材確保にも寄与しています。
育休制度は2022年の法改正により、事業主には個別周知と育休取得の意向確認が義務化されています。また、育休の取得促進のため、相談窓口の設置や制度説明の研修など、雇用環境の整備も必要です。
さらに、育休取得を理由とする解雇や不利益な取り扱いは法律で禁じられているため、コンプライアンスの徹底も重要です。
参考:介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索
男性でも育休は取得できる
男性も法的に育休の取得が認められており、企業は取得希望を拒否できません。2024年度の実績によると、女性の取得率86.6%に比べ、男性の取得率は40.5%にとどまっており、取得が一般的とは言い難い状況です。
ただし、2022年度は17.13%、2023年度は30.1%と、取得率は増加傾向です。政府は2025年に50%、2030年に85%という数値目標を掲げ、男性の育休取得率の向上を目指しています。
一方で、2023年に実施された調査によると、男性の育休取得期間は短期に集中し、約4割が2週間未満しか取得できていません。実際には「1ヶ月以上の育休を取りたい」男性が多く、理想と現実にギャップがあるため、取得期間の充実や安心して休める職場づくりが求められます。
参考:
「令和6年度雇用均等基本調査」結果を公表します~女性の管理職割合や育児休業取得率などに関する状況の公表~|厚生労働省
令和5年度育児休業取得率の調査結果公表、改正育児・介護休業法等の概要について|厚生労働省
管理職の育休取得が注目されている背景と現状
少子化や共働き世帯の増加を背景に、育児と仕事の両立支援は、企業経営における重要課題です。その中でも、管理職による育休取得はとくに注目されています。企業の中核を担う立場が育休を取得することで、組織全体の意識改革につながります。
育休促進に向けた社会的な動き
多様性の推進や働き方改革が進む中で、育休の取得促進は社会的な課題の1つです。育児・介護休業法の改正により、企業は柔軟な働き方を提供する責任が強まっており、管理職による育休取得は企業文化の変革を象徴する行動として注目されています。
また、男性の育休取得の促進もジェンダー平等の観点から重視されており、政府も取得率目標を設定して後押ししています。管理職が率先して育休を取得することで、ほかの従業員も安心して制度を活用しやすくなる傾向にあるため、育休取得を当たり前とする組織風土づくりが重要です。
管理職の育休取得に対する課題
管理職は業務責任が重く、育休中の代替体制を確保しにくい状態が、育休取得の障壁となっています。業務の引き継ぎやタスクの分散が不十分だと、管理職の育休取得で現場が混乱する恐れがあり、取得をためらう要因になりかねません。
また、周囲の理解や支援が得られず、育休を申請しづらい職場文化が根強く残っている場合もあるなど、管理職の育休取得には依然として多くの課題があります。
育休の取得を推進するには、管理職本人だけでなく、組織全体の「管理職の育休は例外」という意識を変える取り組みが求められています。このように管理職の取得実績を増やす取り組みは、職場全体の意識改革と育休取得の促進につながるでしょう。
管理職が育休を取得しにくい理由
育休の取得促進が進む一方で、管理職の育休はハードルが高い状況にあります。チームを牽引する立場であるほど、業務責任や周囲への影響を考えて、取得しにくくなります。
キャリアへの影響
管理職が育休を取得する際、キャリアの停滞や昇進の遅れを不安に感じるケースがあります。育休復帰後に、以前と異なる業務に異動させられる、もしくは従来のポストより降格となるポジションでの復帰になるなどキャリア形成に影響を及ぼす可能性があります。
ただし、一方的な配置転換や降格はハラスメントに該当する恐れがあるため、企業は慎重な対応が必要です。キャリアの不安を払拭するには、育休前後の面談や復職支援プランの明示が効果的です。
公平な評価制度と対話重視のマネジメントが、安心して育休を取得できる環境づくりに求められます。
職場への負担増への懸念
管理職が育休を取得する際、業務の引き継ぎ・共有やマニュアルの整備が不十分だと、周囲への負担が大きくなります。担当業務を引き継いだ社員は通常業務と兼任するため、業務量が増加しやすく、部下やチームのマネジメントも手薄になるため、現場の混乱や判断の遅れが懸念されます。
育休取得者自身も「周囲に迷惑をかけるのでは」と罪悪感を抱えやすく、心理的ストレスの原因になりやすいです。取得者の影響で負担が蓄積すると、チーム全体のモチベーションや生産性にも悪影響を及ぼす可能性があります。
のため、育休取得を円滑にするには、代替体制の事前整備と業務の属人化を防ぐ組織づくりが重要です。職場全体で「誰かが休んでも回る仕組み」を整えることが、持続可能な働き方につながります。
収入が減る不安
育休中は賃金の支払いが停止されるケースが多く、育児休業給付金だけでは収入が減少しやすい傾向にあります。とくに世帯収入の中心を担う管理職にとっては、家計への影響が大きな懸念材料となり、育休取得をためらうケースも珍しくありません。
管理職は基本給だけでなく役職手当・成果報酬などがあるため、収入の構成が複雑になりがちです。雇用保険より育児休業給付金として一定割合の給付を受けられますが、ボーナスや各種手当の有無により、育休中は収入が減少してしまいます。
企業としては、独自の上乗せ支援制度や手当の維持など、経済的な支援策の充実も求められます。
管理職が育休を取得することによる企業のメリット
管理職の育休取得は、企業にとって多くのメリットをもたらす取り組みです。社員の定着率向上や企業イメージの強化、生産性の改善など、長期的な視点で見れば組織の競争力を高める機会になります。
社員の離職率を低減できる
育休を取得しやすい制度を整えることは、社員の定着率向上に直結します。育児と仕事の両立が可能な環境は、長期的なキャリアの継続を後押しするからです。
共働きが一般化する中で、育休取得のしやすさは企業選びの重要な要素となっています。管理職が率先して育休を取得することで、部下も取得をしやすい職場環境を構築可能です。
また、会社の支援体制が整っていれば、社員のエンゲージメントや満足度が高まりやすくなります。「育休が取れる企業」はもはや強みではなく、取れないことが採用・定着率を下げるリスクになりつつあります。優秀な人材を確保・育成し続けるためにも、育児と仕事の両立を支援する制度の充実が必要です。
企業イメージを向上できる
「くるみん認定」といった国の制度を利用して育休取得を積極的に支援する企業は、社会的責任を果たす企業として好印象を与えます。求職者から働きやすい職場として評価されると、採用活動にとってもプラスの影響を与えます。
また、社内外に対して育児支援の姿勢を示すことで、従業員満足度の向上にもつながるでしょう。育休取得実績を企業PRや採用広報に打ち出すと、他社との差別化要素としても活用できます。
さらに、育休制度が社内で浸透していると、ダイバーシティ推進やSDGsに貢献している企業として、社外からも評価されます。
参考:くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて|厚生労働省
業務改善により生産性を向上できる
育休取得は、業務の見直しや役割分担の再設計を行うきっかけとなります。引き継ぎ準備を通じて、業務プロセスの無駄や非効率な工程が浮き彫りになるケースもあります。
また、管理職の不在でも業務が滞らない体制を構築することで、チームの対応力や柔軟性の向上が可能です。業務改善は育休に加え、病気・介護・突発的な離職にも対応できる組織づくりへとつながります。
管理職の育休取得を促進するために企業ができること
管理職の育休取得を促進するには、制度の整備に加え、実際に活用できる環境づくりが欠かせません。柔軟な働き方の導入や属人化の解消、職場文化の醸成など、企業全体で取り組みましょう。
時短勤務や在宅勤務制度を取り入れる
育児と両立できる柔軟な働き方として、時短勤務や在宅勤務の導入が効果的です。制度を整える際は利用条件を明示し、誰もが使いやすいように設計する必要があります。管理職が率先して制度を活用すると、制度が形骸化せず、定着しやすくなります。
また、時短勤務や在宅勤務は通勤負担を減らすため、育児だけでなく介護といったさまざまな事情に対応できる手段となるでしょう。
制度は実際に活用されている実績があることで、従業員の信頼と満足度向上につながります。
人手不足や業務の属人化を解消する
管理職の育休に備えて、業務の棚卸しとマニュアル化の推進が重要です。特定の個人に業務が集中して属人化している状態は、育休取得の大きな障壁となります。マニュアル化などの引き継ぎ体制を構築すると、属人化が解消され、不在時も業務が停滞せず、組織の安定性が高まります。
また、人手不足の企業では、計画的な引き継ぎと役割分散により、限られた人員でも業務をカバーしやすくなるでしょう。属人化を防ぐ体制づくりは、育休だけでなく突発的な欠員や退職時のリスク軽減にもつながります。
育休を取得しやすい職場文化を作る
2022年の育児・介護休業法の改正以降、育休を取得しやすい雇用環境の整備は企業の義務となっています。研修の実施や相談窓口の設置など、制度の周知と支援体制の構築が求められます。育休取得者の業務を無理なくカバーできるよう、引き継ぎマニュアルの整備も必要です。
また、育休に対する偏見や、遠慮なく育休を取得できる雰囲気づくりが、制度活用を促進するうえで重要です。育休取得の事例を社内共有してロールモデルを作ると、取得のハードルを軽減できます。
復帰後のフォロー体制を構築する
育休取得者が復帰したあと、スムーズに業務に戻れるためのフォロー体制の構築が重要です。復帰前に面談を実施し、勤務条件や業務内容についてすり合わせると効果的です。また、復職者がブランクを不安に感じないよう、必要に応じて研修や業務情報の共有も実施しましょう。
さらに、時短・在宅勤務やフレックスタイムの活用といった柔軟な働き方を提案すると、無理のない職場復帰を支援できます。復帰後は定期的な面談を通じて、悩みや課題を早期に把握することで、適切なフォローが可能です。
復帰のフォローを目的に復帰支援プランを策定すると、育休前から復職後までのステップを明確にでき、育休取得者の安心感につなげられます。
管理職の育休制度を運用する際の注意点
育休制度を整えたとしても、正しく運用されなければ意味がありません。企業が管理職の育休を促進するには、育休制度の正しい理解やハラスメントの防止が求められます。
育休の取得は拒否できない
育休は労働者の法的権利であるため、企業が申し出を一方的に拒否することはできません。育児・介護休業法第6条第1項により、申請があった場合の受理は事業主の義務とされています。そのため、「業務が繁忙である」「代替人員がいない」などの企業側の都合により育休取得を拒否することはできません。
会社は業務体制の調整や人員確保などの対応を前提に、育休制度の運用を行う責任を負っています。不適切な拒否や育休妨害は労務トラブルや訴訟リスクにつながるため、法令順守が重要です。制度の正しい理解と周知を進めることで、誤った運用や現場の混乱を防止できます。
育休取得者へのハラスメント防止を徹底する
育休取得者への嫌がらせや不利益な扱いは、育児・介護休業法と男女雇用機会均等法により明確に禁止されています。ハラスメントは職場全体の心理的安全性を損ない、制度利用を妨げる要因となるからです。そのため、企業は就業規則やハラスメント防止規程に、育休に関するハラスメントの禁止条項を明記しておく必要があります。
また、経営層が明確な姿勢を示して定期的に従業員へメッセージを発信することで、育休取得への理解を社内に浸透させやすくなります。相談窓口を整備し、申告者のプライバシー保護や迅速な対応ができる体制の確保も、心理的安全性の向上に寄与し、育休の取得促進につながるでしょう。
育休制度を使いやすい制度に変えるには、職場の意識改革と仕組みの整備を並行して行うことが重要です。
参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 | e-Gov 法令検索
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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