- 更新日 : 2025年9月16日
離職率(退職率)の改善方法とは?原因から対策まで知っておくべき知識の全体像
企業の持続的な成長において、離職率(退職率)の改善は避けて通れない重要な経営課題です。この記事では、離職率の改善方法について、原因から対策、最新の法制度まで網羅的に解説します。
ちなみに、離職率と退職率は社会一般でほぼ同様の意味で用いられますが、厳密には異なります。以下記事で解説しておりますので、違いについて知りたい方はそちらをご覧ください。本記事では、離職率として解説します。
関連記事|日本の離職率はどれくらい?高い会社や労働環境の特徴
離職率を改善する施策
離職率を改善するには様々なアプローチがあります。
ここでは、従業員のライフサイクルや仕組みごとに適した施策をご紹介します。
関連記事|離職防止の7つの対策&成功事例|離職の原因やおすすめツールまで徹底解説
【採用と入社】早期離職を防止するオンボーディング
採用段階でのミスマッチ防止は、早期離職を防ぐ効果的な方法です。
リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)により、仕事の良い面だけでなく大変な面も含めて正直に伝えることが重要です。入社後のオンボーディングプログラムでは、業務理解だけでなく、企業文化への適応、人間関係の構築をサポートします。
メンター制度やバディ制度により、新入社員が気軽に相談できる環境を整備し、定期的な面談で不安や悩みを早期にキャッチアップする仕組みが効果的です。
関連記事|従業員の早期離職率や理由は?企業に与える影響や防止策も解説
関連記事|新入社員の離職防止に効果的な7つの対策|離職理由〜企業側のリスクまで解説
【育成】キャリアパスの提示とスキルアップを支援する教育制度
明確なキャリアパスの提示は、社員の将来への希望を生み出します。個々の志向性に応じた複線型キャリアパスを用意し、定期的なキャリア面談で目標設定と進捗確認を行います。
スキルアップ支援では、社内研修だけでなく、外部セミナーや資格取得支援、越境学習の機会提供も重要です。若手社員には基礎スキル研修、中堅社員にはリーダーシップ研修など、階層別の教育体系を整備し、成長実感を持続させることが定着につながります。
関連記事|若手社員の離職防止策は?離職の原因や対策方法もあわせて解説
【組織風土】コミュニケーションの活性化
コミュニケーション活性化は組織の一体感を高めます。
例えば、1on1ミーティングの定期実施することで、上司と部下の信頼関係を構築し、業務の悩みやキャリアの相談がしやすい環境を作ります。
あるいは、社内イベントやサークル活動、部門横断プロジェクトなどを通じて、普段接点の少ない社員同士の交流を促進する方法もあります。
さらに、社内SNSやチャットツールの活用により、リモート環境でもコミュニケーションが取りやすい仕組みを構築することも重要です。
【制度設計】人事評価制度の見直し
透明性の高い人事評価制度は、社員の納得感とモチベーション向上につながります。
基本となるのが、評価基準の明確化、目標設定プロセスへの本人参加、定期的なフィードバックの実施です。360度評価やコンピテンシー評価など、多面的な評価手法の導入により、公平性を高めることができます。評価結果と処遇の連動を明確にし、頑張りが報われる仕組みを構築します。
また評価者研修により、管理職側の評価スキル向上も欠かせません。
【働きがい】多様な働き方を支える福利厚生と労働条件の整備
働き方改革の推進により、柔軟な労働条件の提供も効果的です。
テレワーク制度、フレックスタイム制、時短勤務など、ライフステージに応じた働き方の選択肢を用意します。福利厚生では、健康経営の観点から、メンタルヘルスケア、健康診断の充実、スポーツジム利用補助などの健康支援策の強化があげられます。
育児・介護支援、住宅補助、確定拠出年金など、長期的な生活設計を支援する制度も重要です。
関連資料|社労士が解説!6つの原因から考える離職防止メソッド
関連資料|離職率低下の切り札!福利厚生の最新トレンド
「離職率」を理解するための基礎知識
離職率は企業の健全性を測る重要な指標です。2024年10月に厚生労働省が発表したデータによると、新規高卒就職者の3年以内離職率は38.4%、新規大学卒就職者は34.9%となっており、依然として高い水準にあります。
離職率を改善するために、基本的な考え方についても理解を深めておきましょう。
出典|新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します
離職率の計算方法と業界平均
離職率は「一定期間内の離職者数÷期初の常用労働者数×100」という計算式で求められます。
期間設定は目的に応じて1年、3年など任意に設定可能です。2023年の全産業平均離職率は14.2%ですが、業界によって大きく差があります。特にサービス業や宿泊業・飲食サービス業では20%近い離職率となっている一方、電気・ガス・水道などのインフラ系では10%未満と低い水準です。
自社の離職率を業界平均と比較することで、改善の必要性や優先度が明確になります。
関連記事|離職率の計算方法とは?3年以内離職率の計算例も分かりやすく紹介
なぜ離職率は重要な経営指標なのか?
離職率の上昇は企業に多大な損失をもたらします。
離職率が高い企業は就職希望者からネガティブな印象をもたれてしまう可能性があり、採用競争力の低下につながる恐れがあります。ほかにも人材不足による業務停滞、既存社員への負担増加、組織の士気低下など、経営全体への影響は計り知れません。
ISO30414で「自発的離職率」「痛手となる自発的離職率」など細分化した指標の開示が求められているように、投資家からも重要視される指標となっています。
退職率・定着率との違い
離職率と混同されやすい指標として「退職率」と「定着率」があります。
退職率は、社会的には離職率とほぼ同義で使われますが、厳密には異なります。例えば、失業や失職といった理由で職を離れる人は離職としてカウントされますが、退職の数には開りません。詳しくは以下の記事でも解説していますので、こちらをご覧ください。
関連記事|日本の離職率はどれくらい?高い会社や労働環境の特徴
定着率は、「100-離職率」で算出され、在籍し続けている社員の割合を示します。定着率が高い企業は働きやすい環境として評価されます。
これらの指標は、採用活動での企業PRや、人事施策の効果測定など、用途に応じて使い分けることが重要です。特に求職者向けには定着率を、経営分析には離職率を用いるケースがよく見られます。
従業員が離職する主な原因
従業員の離職率を改善するには、まずは離職の原因を正確に把握することが第一歩となります。
関連記事|離職率が高い会社の特徴6選|離職率を抑えるための7つの対策も解説
【人間関係】上司・同僚との関係性やコミュニケーション不足
職場の人間関係は離職理由の上位に常にランクインします。
特に上司との関係性は重要で、パワハラやセクハラなどのハラスメント問題はもちろん、日常的なコミュニケーション不足や相談しづらい雰囲気も大きな要因です。
リモートワークの普及により、雑談や偶発的な交流が減少し、孤立感を感じる社員も増えています。チーム内での役割が不明確、貢献が認められない、意見が通らないといった疎外感も、離職への引き金となります。
【仕事内容】ミスマッチや過度な負担、成長実感の欠如
入社前のイメージと実際の業務内容のギャップは、特に新卒社員の早期離職につながりやすい問題です。
「思っていた仕事と違う」「やりがいを感じない」といった不満は、キャリアビジョンが描きづらい状況を生み出します。また、業務量の偏りや長時間労働による過度な負担、逆に簡単すぎる業務による成長実感の欠如も離職要因となります。
スキルアップの機会がない、新しいチャレンジができないといった停滞感は、特に若手社員の離職を招きやすいです。
関連資料|管理職が押さえておきたい3つの検討ポイント ジョブ型雇用、導入すべき?
【評価・待遇】給与や賞与、人事評価制度への不満
給与水準への不満は直接的な離職理由となります。
同業他社との比較、成果に見合わない報酬、昇給の見込みがないといった金銭的な不満に加え、評価制度の不透明さや不公平感も大きな問題です。
頑張りが正当に評価されない、評価基準が曖昧、フィードバックがないといった状況は、モチベーション低下を招きます。
【働き方・環境】長時間労働、休暇制度、職場の物理的・心理的環境
ワークライフバランスの重視傾向が強まる中、長時間労働や有給休暇が取りづらい環境も大きな離職要因です。
育児や介護との両立が困難、プライベートの時間が確保できないといった問題は、特に30代以降の社員にとって切実な課題です。また、オフィス環境の快適性、リモートワークの可否、フレックスタイム制度の有無など、働き方の柔軟性も重要な要素となっています。
心理的安全性が低い職場環境では、ストレスが蓄積し、メンタルヘルス不調による離職リスクが高まる、ということも考えられます。
関連資料|従業員が語らない「本当の退職理由」
離職率改善を後押しする法律・助成金
法制度を理解し、適切に活用することで、離職率改善の取り組みを加速させることができます。コンプライアンス遵守は最低限の責務であり、助成金の活用により施策実施の財源確保も可能です。
ハラスメント関連法
2025年8月現在、パワーハラスメント防止措置は全企業に義務化されています。
対応として、相談窓口の設置、就業規則への明記、研修の実施などが求められます。ハラスメントは被害者の離職だけでなく、職場全体の雰囲気を悪化させ、連鎖的な離職を招きます。
予防教育の徹底、早期発見・対応の仕組み構築、加害者への適切な処分など、組織的な取り組みが必要です。外部相談窓口の設置により、社内では相談しづらい問題にも対応できる体制を整えることも重要です。
労働安全衛生法
労働安全衛生法に基づく職場環境の整備は、従業員の心身の健康を守る基盤となります。
ストレスチェックの実施と結果に基づく職場環境改善、長時間労働者への医師による面接指導、産業医との連携強化などが求められます。メンタルヘルス不調による休職・離職を防ぐため、予防的な取り組みも重要です。
安全で快適な職場環境の整備は、従業員の定着だけでなく、採用競争力の向上にもつながります。
助成金制度の活用
厚生労働省や各自治体では、人材定着を支援する様々な助成金制度を設けています。
例えばキャリアアップ助成金では、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善の取り組みを支援します。人材開発支援助成金では、従業員の職業訓練やキャリア形成を支援する企業への助成があります。両立支援等助成金では、仕事と家庭の両立支援制度の導入・運用を後押しします。
これらの助成金を活用することで、財政的な負担を軽減しながら離職率改善にむけた施策を実施することができます。
人材定着を促進するいま注目のアプローチ
従来の人事管理手法に加え、新しい概念や手法を取り入れることで、より効果的な離職率改善も可能です。
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントは、社員と企業の相互信頼関係を表す概念です。
エンゲージメントの高い社員は、自発的に貢献しようとする意欲が高く、離職率も低い傾向があります。パルスサーベイによる定期的な測定、結果に基づく改善アクション、経営層からの積極的なコミュニケーション、企業のパーパス(存在意義)の浸透などが重要な要素です。
エンゲージメント向上は、生産性向上や顧客満足度向上にもつながる重要な経営指標となっています。
ウェルビーイング経営
ウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康と幸福を重視する経営手法です。
単なる福利厚生の充実にとどまらず、仕事のやりがい、良好な人間関係、成長機会の提供など、包括的なアプローチが特徴です。従業員満足度調査の実施、健康経営優良法人認定の取得、ワークライフバランス施策の推進、心理的安全性の高い職場づくりなどが具体的な取り組みとなります。
ウェルビーイングの向上は、離職率低下だけでなく、イノベーション創出にもつながります。
アルムナイ(退職者ネットワーク)
アルムナイは退職者との良好な関係を維持し、ビジネスに活かす取り組みです。
円満退職者をアンバサダーとして、採用活動での推薦、ビジネスパートナーとしての協業、再雇用(ブーメラン採用)などの可能性が広がります。退職時の丁寧な対応、定期的な情報発信、アルムナイイベントの開催などにより、退職後も会社への愛着を維持してもらうことができます。
優秀な人材の流動性が高まる中、アルムナイは新たな人材戦略として注目されています。
関連記事|離職防止アイデア15選|定着率アップに効く「人が辞めない職場」の工夫
関連記事|アルムナイとは?採用で注目される背景やメリット・デメリット、事例を解説!
まずは自社の離職率改善計画を立ててみよう
ここまで、離職率改善に関連する様々なテーマを網羅的にご紹介しました。
自社が特に課題と感じるテーマや、優先的に取り組むべき改善施策は見えてきましたでしょうか?ぜひ、本記事や関連する詳細記事とあわせて読み解きながら、自社に合った離職率改善の具体的なアクションを計画してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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