- 更新日 : 2025年6月24日
育休中に年金を払わなくても将来減らない?産後パパ育休との違いも解説
育児休業を取得すると年金の支払いはどうなるのか、将来の年金額に影響はあるのかと不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。人事労務担当者や育休を予定している従業員にとって、年金制度の仕組みを正しく理解しておくことは欠かせません。この記事では、育休中に厚生年金保険料を支払わなくても問題がない理由や免除の条件、将来の年金額への反映方法、さらに産後パパ育休との違いもふまえて、制度の全体像を具体的にわかりやすく解説します。
目次
育休を取ると年金は減る?
育児休業中に厚生年金保険料を支払わなかった場合、「将来の年金が減るのでは」と心配する方もいらっしゃると思います。しかし、育児休業中に保険料が免除されても、将来の老齢厚生年金には影響がありません。
その理由は、免除された期間も「保険料を納めたものとして」年金計算に反映されるからです。具体的には、厚生年金の被保険者期間としてカウントされ、平均標準報酬額や保険料納付済期間に含まれます。そのため、未納扱いとはなりません。
この仕組みは法律に基づいて整備されており、育児を理由に年金が減額されることがないよう配慮されています。したがって、安心して育児に専念しながら、将来の老後資金も守ることができます。
育休中の厚生年金保険料は支払わなくていい?
育児休業期間中は、厚生年金保険料および健康保険料の支払いが免除されます。これは、従業員負担分だけでなく、事業主の負担分も含めて全額免除となるのが特徴です。
この制度は、労働者が育児に専念できるよう経済的負担を軽くするために設けられたものであり、厚生年金保険の被保険者であれば原則として対象になります。なお、会社の役員などは労働者に該当しないため、制度の対象外です。
ただし、この免除は自動的には適用されません。事業主が所定の申請書を年金事務所または健康保険組合に提出しなければ、保険料の免除が認められません。そのため、申請漏れがないように注意が必要です。
育休中の年金免除の対象期間はいつからいつまで?
育児休業中の厚生年金保険料が免除される期間は、「育児休業を開始した月」から「終了日の翌日が属する月の前月」までと定められています。
育休の開始日や終了日にかかわらず、制度上は月単位で扱われるという点がポイントです。
たとえば、4月15日から7月10日まで育児休業を取得した場合、免除期間は4月から6月までとなります。7月は終了日の翌日が属する月にあたるため、免除の対象外となります。
また、開始日と終了日が同じ月内であるケースでは、その月に14日以上の育児休業を取得していなければ免除されないという条件があります。この14日には就業予定日を含めることはできません。
賞与の保険料は別ルール
月ごとの保険料と異なり、賞与にかかる厚生年金保険料の免除は、より厳格な条件が設けられています。具体的には、賞与が支給された月の末日を含む連続した1ヶ月を超える育児休業を取得している場合にのみ免除されます。月末だけ育休を取っても、1ヶ月を超えていなければ免除されないため注意が必要です。
育休中の年金免除の手続き方法とは?
厚生年金保険料の免除を受けるためには、「健康保険・厚生年金保険 育児休業等取得者申出書」の提出が必要です。この申請は、従業員本人ではなく、事業主が提出することになっています。
提出先は、事業所を管轄する年金事務所または事務センターで、電子申請・郵送・窓口持参のいずれかで提出可能です。近年は電子申請が推奨されていますが、企業の体制に応じて選択できます。
申請のタイミングと必要事項
申出書の提出期限は、育児休業の開始日から終了後1ヶ月以内です。遅れると免除が適用されない可能性があるため、スケジュール管理は慎重に行う必要があります。
申出書には、以下のような情報を正確に記載します。
- 被保険者の氏名、生年月日、整理番号、マイナンバー
- 養育する子の氏名と生年月日
- 育児休業の開始日と終了予定日
- 月内での取得期間が14日以上かどうか、就業予定日の有無
申出書を提出すると、年金事務所から事業主あてに確認通知書が届きます。記載内容に誤りがないかを確認し、従業員にも内容を共有しておくと安心です。
育児休業の延長や短縮が発生した場合には、別途「育児休業等取得者終了届」や「変更届」の提出も必要になります。
産後パパ育休の年金免除はどうなる?
「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、子どもの出生後8週間以内に、原則として最大4週間まで取得できる制度です。この期間についても、一定の要件を満たせば厚生年金保険料の免除が受けられます。免除の取り扱いは通常の育児休業と基本的に同じです。
以下のどちらか一方の条件を満たせばその月の厚生年金保険料は免除されます。
- その月の末日時点で育児休業を取得していること
10月25日〜11月5日まで育休を取得した場合、10月31日も休業中に含まれるので、10月分の保険料が免除対象になります。 - 同一月内に育休を14日以上取得していること(就業した日は除く)
10月1日〜10月14日まで休んでも、途中で4日間出勤した場合は実質10日間の休業となり、免除の条件を満たしません。実際に仕事をしなかった日数が14日以上あることが必要です。
注意点として、月の途中で数日間のみ育休を取っただけでは免除対象にならないこともあるため、日数とスケジュールの確認が重要です。
育休から復帰後、時短勤務で給料が減ったときの年金対策
育休から職場に復帰した後、育児のために短時間勤務(時短勤務)を選ぶ方も多くいます。しかし、勤務時間が短くなると給与が減るため、「このままだと年金額も減ってしまうのでは?」という不安を抱くこともあるでしょう。
こうしたケースに対応するために設けられているのが、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という制度です。これは、時短勤務によって給与が減っても、育児前の高い給与額をもとに年金額を計算してくれる仕組みです。
「養育期間のみなし措置」で年金額が守られる
「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」を使うと、時短により給与が減っても、子どもが3歳になるまでの間は、減る前の高い月収(標準報酬月額)を使って、将来の年金額を算出してくれます。
ここで注意したいのは、年金の計算には育休前の高い月収が使われますが、実際に支払う保険料は、復職後の下がった給与額に基づいて計算されるという点です。
つまり、負担は軽くなっても、将来受け取れる年金額は育休前の水準が維持されるという、大変メリットの大きい制度です。
みなし措置制度を利用する条件と申請方法
みなし措置制度を利用するには、以下の要件を満たしている必要があります:
- 3歳未満の子どもを養育していること
- 育児を始めた月の前月と比べて、その後の標準報酬月額が下がっていること
申請にあたっては、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を記入し、事業主を通じて年金事務所に提出します。退職後の場合は、本人から直接提出することも可能です。
また、申出が遅れてしまった場合でも、過去2年までさかのぼって適用が認められます。「申請が間に合わなかった」とあきらめる必要はありません。
対象者は男女問わず、育休取得の有無も問われない
この制度は女性だけのものではありません。男性でも、子育てを理由に時短勤務を選択した場合は対象になります。
また、必ずしも「育休を取得していたこと」が条件ではありません。たとえば育休を取らずに復帰し、その後に時短勤務を始めたケースでも、要件を満たせば利用できます。
該当するかどうか不安な場合は、人事部門や社会保険労務士に相談することで、制度の活用漏れを防ぐことができます。
育休中に社会保険料が免除されているか確認するには?
給与明細や「ねんきんネット」で確認できる
育児休業中に厚生年金保険料がきちんと免除されているかを確認するには、まず毎月の給与明細を確認することが第一歩です。免除が適用されていれば、健康保険料および厚生年金保険料の控除額は「0円」になっているはずです。
また、育児休業が終わり復帰した後には、給与から再び社会保険料が控除され始めます。そのタイミングも含めて確認しておくと安心です。
「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」でもチェック可能
より確実に確認するには、日本年金機構が提供する「ねんきんネット」の利用がおすすめです。ログインすれば、月ごとの保険料納付状況や免除の記録を確認できます。
育休中に保険料が免除されている月は、「納付済」または「免除済」と表示されます。これにより、実際の処理状況を自分で把握できます。
もし疑問がある場合は、年金事務所や会社の人事労務担当者に問い合わせることが推奨されます。確認を怠ると、将来的に年金記録に反映されない可能性があるため注意が必要です。
育休中の免除期間に追納制度はある?
厚生年金には追納制度はないが、ミス時の対応は可能
育児休業中の厚生年金保険料について、原則として「追納制度」は存在しません。なぜなら、制度上、免除された期間は「納付したものとして」取り扱われるため、後から支払う必要がないからです。
ただし、事業主が手続きを行っていなかったなどの人的ミスがあった場合は例外です。その場合、従業員の給与から誤って保険料が控除されていた可能性があります。
このような場合は、事業主がさかのぼって免除申請を行い、従業員に保険料を返還する手続きが必要です。免除が承認されれば、年金事務所が後日調整を行います。
国民年金との違いに注意
なお、自営業者などが加入する国民年金には追納制度があり、免除や猶予された期間については10年以内であれば納付することができます。ただし、これは第1号被保険者向けの制度であり、会社員や公務員などの第2号被保険者(厚生年金加入者)には適用されません。
厚生年金の場合は、免除手続きの適正な実施がすべてと言えるため、人事労務担当者は手続き忘れがないよう注意が求められます。
育休中は年金が免除され、将来の年金も減らない
育児休業中は、所定の手続きにより厚生年金保険料が免除され、その期間も保険料を支払ったものとして将来の年金額に反映されます。つまり、年金が減る心配はなく、追納の必要もありません。
また、産後パパ育休を含むすべての育児休業制度において、一定の条件を満たせば保険料の免除が適用されます。復帰後に給与が下がった場合も、みなし措置によって将来の年金が守られる制度が整っています。
人事労務担当者や従業員は、こうした仕組みを正しく理解し、必要な手続きを確実に行うことが重要です。年金の仕組みを味方につけて、安心して育児と仕事の両立に取り組みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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