- 更新日 : 2025年4月2日
借り上げ社宅とは?メリット・相場、大企業の導入事例を紹介
「借り上げ社宅」とは、企業が賃貸契約を結び、賃料の一部を従業員に負担させる形で提供する福利厚生制度です。近年、多くの大企業がこの制度を採用し、従業員の満足度向上や採用競争力の強化に役立てています。
本記事では、借り上げ社宅のメリットや相場、大手企業の導入事例について詳しく解説します。
目次
借り上げ社宅とは?大手企業でも取り入れられている?
借り上げ社宅とは、企業が契約した賃貸物件を従業員に貸し出す社宅制度です。従業員は企業が契約した物件に住み、家賃の一部を企業が負担することで、住居費の経済的負担の軽減が可能です。
おもに転勤や転居が発生する企業で導入されており、従業員の生活サポートや福利厚生の一環として、大手企業を含め積極的に採用されています。
ここでは、社宅制度の導入状況や社有社宅・住宅手当との違いを解説します。
以下の記事では、借り上げ社宅制度について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
社宅制度の導入状況
人事院が実施した「令和4年民間企業の勤務条件制度等調査」によると、社宅を導入している企業の割合は41.6%にのぼります。従業員数が500人以上の企業では、72.1%が社宅制度を導入しています。企業規模が大きくなるほど、導入率も高くなる傾向です。
また社有社宅よりも借り上げ社宅のほうが導入割合が高く、社宅制度がある企業を100とした場合、社有社宅が40.7%、借り上げ社宅が89.8%となっています。
さらに、転居をともなう転勤がある企業の割合は下記のとおりです。
企業規模 | 転勤がある | 転勤はない |
---|---|---|
500人以上 | 77.7% | 21.6% |
100人以上500人未満 | 48.9% | 50.4% |
50人以上100人未満 | 24.1% | 74.5% |
出典:人事院|令和4年民間企業の勤務条件制度等調査(12p)
500人以上の企業では77.7%に達しており、転勤に対応するために社宅制度が必要とされているとわかります。
借り上げ社宅と社有社宅の違い
借り上げ社宅は、企業が不動産会社などと賃貸契約を結び、その物件を従業員に貸し出す形式です。従業員が希望する物件を選べる場合もあり、住環境の自由度が高い点が特徴です。
一方で、社有社宅は企業が所有している物件を従業員に貸し出す形となります。物件の選択肢が限定されるうえ、企業のルール(門限や管理規定など)に従う必要があります。
企業としては、社有社宅には固定資産税がかかる点や、築年数が経過していることが多い点がデメリットです。
借り上げ社宅は企業側のコスト負担が少ないため、コストや管理の面で優位性があり、大手企業でよく採用される制度です。
以下の記事では、社宅のメリット・デメリットなどを詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
借り上げ社宅と住宅手当の違い
住宅手当は、企業が従業員に対して現金で住居費の一部を支給する制度です。従業員自身が契約した賃貸物件に対して補助されるため、給与と一緒に支給され、課税対象になります。
結果として、所得税や社会保険料の負担が増える可能性があります。
一方、借り上げ社宅では、企業が契約した物件に従業員が入居し、家賃の一部を企業が負担する仕組みです。従業員の家賃自己負担分は給与から天引きされるため、給与所得とみなされず、税負担を軽減できる可能性が高いメリットがあります。
住宅手当は現金支給で自由度が高い一方、税負担が大きくなる傾向です。そのため、借り上げ社宅は、税制上の優遇を受けやすい制度として注目されています。
借り上げ社宅のメリット・デメリット
借り上げ社宅制度は、企業と従業員にとって魅力的な福利厚生制度です。一方で運用や制度設計によっては注意点やデメリットも存在します。
ここでは、企業側・従業員側それぞれの視点から、借り上げ社宅のメリット・デメリットを詳しく解説します。
企業側
企業にとって借り上げ社宅制度を導入する最大のメリットは、住居にかかる費用を福利厚生費として計上できる点です。これにより、税制上の優遇が受けられ、社会保険料の負担も軽減される可能性があります。
また、住宅支援制度の充実は従業員の満足度や、定着率の向上にもつながるでしょう。
一方で、契約や支払いなどの事務手続きに手間がかかる点はデメリットです。借りた物件に従業員が入居していなくても空き部屋の家賃は発生し、途中解約によって違約金が発生するリスクもあります。
導入時には慎重な計画とルールの整備が求められるでしょう。
従業員側
従業員にとって借り上げ社宅の魅力は、家賃負担が軽減されるだけでなく、税制面でも優遇が受けられる点です。
企業が契約した物件に住むことで、その分の家賃は給与所得としてみなされず、所得税や住民税の軽減が期待できます。給与から家賃が天引きされれば、社会保険料の負担も抑えられる可能性があります。
一方で、あらかじめ企業が物件を選定している場合は、物件選びの自由度が制限される点がデメリットです。また、家賃が課税対象外となれば、将来受け取る年金や失業給付など社会保障額が減少する可能性もあります。
そのため、長期的な視点で、利用するか検討する必要もあるでしょう。
借り上げ社宅の相場・負担割合
借り上げ社宅制度を導入・利用するにあたって、家賃の相場や費用の分担について理解しておくことが大切です。
ここでは、借り上げ社宅の相場と負担割合について解説します。
借り上げ社宅の相場
借り上げ社宅の家賃は、一般的に近隣の賃貸物件と比較して1~2割程度低く設定される傾向があります。そのため、従業員にとっては家計の負担を抑えられる点は大きなメリットです。企業側は適切な家賃設定を行い、福利厚生費として家賃を計上すれば、税制上の優遇を受けられるでしょう。
ただし、税制上のメリットを得るためには、企業が従業員から「賃料相当額」の50%以上を徴収する必要があります。賃料相当額は実際の家賃とは異なり、固定資産税の課税標準額などをもとに算出されるため、通常は実際の家賃よりも低くなります。
そのため、従業員が家賃の10~20%程度を負担していても、企業は法的に必要な条件を満たし、家賃を経費として処理できるケースが多いでしょう。
借り上げ社宅の負担割合
借り上げ社宅制度では、家賃や初期費用などの費用を企業と従業員のどちらが負担するのかを明確にしておく必要があります。とくに家賃の分担は、福利厚生の設計や従業員の満足度にもつながる大切なポイントです。
初期費用(敷金・礼金・仲介手数料など)は、家賃の4~5ヶ月分が目安とされ、法人契約であることから企業が全額を負担するケースが一般的です。また、引っ越し代も企業負担となることが多いですが、費用は時期や荷物量によって異なります。
家賃については、企業が物件を契約し、従業員がその一部を企業に支払う形が基本です。ただし、負担割合は企業ごとに異なり、社宅管理規程で詳細が定められています。更新料も、企業が負担するのが一般的です。
このように、初期費用・更新料・引っ越し代は企業が負担し、家賃は企業と従業員で分担するスタイルが主流となっています。従業員は相場より安い家賃で住居を確保できるため、魅力的な福利厚生といえるでしょう。
借り上げ社宅を導入している大企業一覧
借り上げ社宅制度は、福利厚生の一環として多くの大手企業で導入されています。ここでは、借り上げ社宅制度を採用している、代表的な大企業5社の導入事例を紹介します。
1.サントリーロジスティクス株式会社
サントリーホールディングス傘下のサントリーロジスティクス株式会社は、飲料や食品などの物流を担う企業です。一定年齢までの独身社員を対象にした独身社宅制度を設けており、家賃の最大75%を補助する制度を導入しています。
また、会社都合による転勤の際には、同様の制度に加えて単身赴任手当などの補助制度も整備されており、従業員の生活支援に力を入れています。
2.旭化成
総合化学メーカーとして住宅や医療など多様な分野で事業を展開する旭化成は、全国に社有の独身寮や社宅を整備しています。社有施設がない地域では、借り上げ社宅を提供しています。
希望条件にあわせて、不動産会社から紹介を受けた物件を選択する形式です。入社時の転居費用も実費支給されるほか、社宅に入居しない社員には住宅手当や家賃補助もあります。
柔軟かつ充実した住居支援制度が特徴です。
3.出光興産
エネルギー業界を牽引する出光興産では、配属地に通勤可能な自宅がない従業員に対し、借り上げ社宅を提供し、最大80%を補助しています(補助には上限あり)。また、住宅手当も月額最大4万円まで支給されており、住居支援を通じた従業員の負担軽減に積極的です。
全国転勤の可能性がある企業ならではの、手厚い制度設計がなされています。
4.三菱商事
総合商社である三菱商事では、転勤など業務上の必要がある場合に借り上げ社宅を提供しています。
家賃の70~80%を会社が補助する制度です。斡旋された不動産会社から紹介された物件の中から、社員が選び入居します。
社宅利用には一定の条件があるものの、グローバルに活躍する社員が安心して生活できる環境が整えられています。
5.DAIKIN
空調機器の世界的メーカーであるDAIKINでは、遠方配属や転勤となった場合に借り上げマンションなどの社宅を用意しています。入居者の個人負担額は月15,000円程度と、リーズナブルな設定で、従業員の経済的負担を大幅に軽減しています。
全国転勤に対応する住居支援制度として、社員の生活面をサポートしているのが特徴です。
借り上げ社宅を導入する際のポイント
借り上げ社宅制度を導入する際は、税制面のメリットを受けるための条件や、従業員とのトラブルを防ぐための制度設計が大切です。
ここでは、借り上げ社宅を導入する際のポイントを紹介します。
以下の記事では、社宅制度で所得税をかけないポイントについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
借り上げ社宅の家賃負担額の決め方
借り上げ社宅の家賃負担額は、従業員の負担を軽くしつつ、企業側の税制優遇が得られるバランスを考慮して決めましょう。
一般的に、家賃は周辺相場より、10~20%程度安く設定されることが多い傾向です。しかし、企業が負担しすぎると、従業員の所得税や社会保険料が増加する場合があります。
そのため、従業員から賃料相当額の50%以上(役員は100%以上)を徴収する必要があります。この基準を守ることで、企業は税制面のメリットを最大限活かせて、従業員にも経済的な恩恵を提供できるでしょう。
借り上げ社宅の家賃は経費として計上可能
借り上げ社宅の家賃は、賃料相当額の50%以上を従業員から徴収することで、福利厚生費として経費計上が可能です。
賃料相当額は、固定資産税の課税標準額や物件の総床面積などにもとづいて計算されます。
家賃を適切に設定することで、企業は法令に沿った経費処理が可能となり、社宅制度を効率的に運用できるでしょう。
役員社宅の場合
役員社宅の場合は、従業員向けよりも厳密な基準が求められます。役員社宅が小規模住宅の条件を満たしていれば、社員と同様の賃料相当額計算式が適用され、100%以上の徴収で経費計上が可能です。
一方、小規模住宅の基準を超える場合や社有社宅では、固定資産税の課税標準額によって異なる計算方法で賃料相当額を求めます。さらに豪華住宅(例:床面積240㎡以上やプール付き物件など)は、税務上の扱いが厳しくなり、実際の家賃にもとづいて高額な課税対象となることもあります。
役員社宅の制度設計時は、慎重に判断することが大切です。
借り上げ社宅でトラブルが起きた際の対処法
借り上げ社宅制度をスムーズに運用するには、トラブルを未然に防ぐためのルール整備が大切です。とくに多いのは、以下のようなトラブルです。
- 同居基準が不明瞭
- 原状回復費用や修理費用の負担
- 物件の管理が不十分
同居基準が不明瞭な場合は、同棲相手や親族が入居可能か曖昧になりやすく、トラブルの火種となります。あらかじめ同居者の定義を社内規程に記載し、明確にしておきましょう。
原状回復費用や修理費用の負担では、従業員が自己判断で修理を行った場合に費用を補償できないケースがあります。そのため、契約時にルールを確認し、従業員にも周知徹底が必要です。
物件の管理が不十分な場合、共有部分の清掃やゴミ出しルールの未整備などにより、入居者間のトラブルや不満が生じる可能性があります。物件を選ぶ段階で管理状況を確認し、必要に応じて独自の管理規定を設けましょう。
万が一トラブルが発生した場合に備え、相談窓口の設置や対応方法を決めておくことも大切です。
大企業の借り上げ社宅制度を参考に、企業の福利厚生を向上させよう
借り上げ社宅制度は、従業員の生活支援と税制上の優遇を両立できる制度として、多くの大企業が導入しています。家賃の一部を企業が負担すれば、従業員の経済的メリットが大きく、企業側も税制面の優遇や人材確保に役立つなどのメリットがあります。
制度の導入には、相場や負担割合、トラブル回避のポイントなどを理解することが大切です。自社に合った制度設計を行って、魅力的な福利厚生を実現しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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