- 更新日 : 2024年7月17日
指名委員会とは?権限や役割をわかりやすく解説
指名委員会とは、経営陣の選任・解任に関する決定を主な業務とする機関です。
会社法や取引所の規定により、指名委員会(または監査役会など)の設置が義務となる場合があります。
本記事では、指名委員会の概要や設置目的、権限を解説します。また、指名委員会における議事録作成や任期に関する会社法の規定も併せて紹介します。
目次
指名委員会とは
指名委員会とは、取締役会の中に設置する組織であり、主に経営陣の選任・解任を議論・決定します。
会社法第400条の規定により、委員(最低3人)の過半数が社外取締役で構成される点が特徴です。
設置義務
公開会社である大会社では、取締役会の設置および以下いずれかの組織形態を取ることが義務となっていますが、指名委員会等設置会社を選択する場合は「指名委員会」の設置が必要となります(会社法第327、328条)。
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
また、東京証券取引所の「有価証券上場規程」第437条では、上場する企業は上記のいずれかの機関設計であることが求められています。したがって、IPOを行う企業は、指名委員会に関する理解が不可欠だといえます。
なお、公開会社や大会社でない場合でも、任意で指名委員会を設置することが可能です。
指名委員会の設置目的
経済産業省の「指名委員会・報酬委員会に関する参考資料」では、指名委員会の設置目的について、企業からの主な回答として以下の内容が記載されています。
- 仕組みの確立により、指名プロセスの安全性を高めるため
- 指名の独立性や客観性と説明責任を強化するため
指名委員会の設置状況
同調査によると、東証1部・2部(調査当時の分類)企業のうち、法定の指名委員会を設置している割合は、わずか5%と少ないことがわかっています。任意の委員会を含めると40%と割合が増えるものの、指名委員会の必要性は十分に認識されていないといえます。
なお、設置しない理由としては、「外部者による関与や助言の必要性を感じない」という回答が多く寄せられています。
指名委員会の権限・役割
指名委員会が有する法的な権限と、それ以外の業務で担う役割を解説します。
指名委員会の権限
会社法第404条1項では、指名委員会の権限として、「株主総会に提出する取締役(設置されている場合は会計参与も含む)の選任と解任に関する議案の決定」が定められています。
つまり、経営陣が自らに有利となるような人事を行うことを防ぎ、透明性の高いプロセスで経営陣の人事を行う権限を有します。
指名委員会の役割
指名委員会は、法律で定められた権限の他に、以下の役割も果たします。
- 取締役の選任・解任基準や、そのプロセスに関する正当性の検証
- 取締役のスキルや多様性についての検証
- 後継者育成の計画や実行状況の検証
- 後継者候補の妥当性に関する検証
つまり、単なる議案の決定に留まらず、その前後のプロセスの検証や改善も担っているといえます。
指名委員会が取締役候補者を選任する基準
一般的に指名委員会は、業務に関する専門知識や経営の経験、倫理観、人格などを基準に取締役の候補者を選任します。また、社外取締役に関しては、独立性も重要な要件に含まれます。
この章では、オリックス株式会社の「指名委員会」に記載された取締役候補者選任基準を参考に、具体的な選任基準を紹介します。
社内取締役
社内取締役の選任基準としては、主に下記が挙げられます。
- 経営判断や経営執行の能力が優れている
- 業務に関する高度な専門知識を有している
基本的には、「経営の能力」と「自社の業務に関する専門性」の両方を有しているかどうかが基準となります。
社外取締役
社外取締役の選任基準としては、主に下記が挙げられます。
- 企業経営に関する豊富な経験を有している
- 経営や経済、法律、会計などの企業経営に関係する専門知識を有している
- 政治や社会、学術など、経営を取り巻く事柄に関する知見が深い
- 自社からの独立性が高い
独立性については、一般的に下記の基準で判断されます。
- 現時点において、自社の大株主ではない
- 過去1年において、自社およびその取引先における使用人や執行役に該当しない
- 過去2〜3事業年度において、自社から高額な報酬(取締役としての報酬以外)を直接受け取っていない
- 過去2〜3事業年度において、公認会計士や監査法人の社員等として、自社の監査業務を担当していない
- 親族に自社との関係性が高い人物がいない
- その他、重大な利益相反が生じるような利害関係がない
社内取締役とは異なり、実務能力よりも経験や周辺知識が重視されていることが見て取れます。また、独立性が厳しくチェックされることも特筆すべき点です。
指名委員会に関する重要ポイント
IPOなどに備えて始めて指名委員会を設立する場合は、仕組みについて分からない部分が多々あることが一般的です。
指名委員会に関する規則は会社法で細かく定められており、その全てを理解することは困難です。
この章では、指名委員会の規定に関して特に重要な3つのポイントを解説します。
執行役の扱い
執行役とは、業務の執行および取締役会から委任を受けた業務執行の決定を行う役員を指します(会社法第418条)。指名委員会等設置会社では、1人または2人以上の執行役を設置することが義務付けられています(同法402条1項)。
一般的な株式会社では、取締役が業務の執行を担います。一方で指名委員会等設置会社では、執行役が業務の執行を担います。
法律上の権限はないものの、指名委員会が執行役の選任・解任に関する審議を行なっている会社もあります。
議事録作成の規則
会社法施行規則第111条の4の規定により、指名委員会等の議事録は電磁的記録もしくは書面によって作成することが原則とされています。
また、記載項目として主に下記が規定されています。
- 指名委員会等の開催日時と場所
- 議事の経過および結果
- 指名委員会等の議長の氏名
- 決議事項について特別の利害関係を有する委員の氏名
- 指名委員会等に出席した取締役、執行役、会計参与または会計監査人の氏名もしくは名称
なお、会社法第414条の規定によって指名委員会等への報告が不要とされる場合には、議事録の記載事項は下記となります。
- 報告が不要とされた事項の内容
- 報告が不要とされた日付
- 議事録作成に関する業務を行った委員の氏名
指名委員会等設置会社における任期
原則として、株式会社における取締役の任期は2年です(会社法第332条1項)。
ただし、指名委員会等設置会社では、取締役の任期は1年となります(同法第332条6項)。なお、定款もしくは株主総会の決議により、任期を短縮することが認められています。
まとめ
証券取引所や法律の規定により、公開会社は基本的に監査役会設置会社や監査等委員会設置会社、および指名委員会等設置会社のいずれかの機関設計をとる必要があります。
指名委員会を設置することで、経営陣の人事に関する透明性が高まり、投資家からの信用を得やすくなります。IPOを検討している方は、指名委員会の設置を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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