- 更新日 : 2024年7月12日
IPOで労務監査は必要?実施タイミングや確認ポイントを解説
IPOを検討している企業において、労務監査は必要なのか気になっている人もいるでしょう。労務監査は、企業が労働法規を正しく遵守しているかを調査することで、実施準備・監査の実施・監査報告の3つの手順で行われます。労務監査で指摘されないためには、社会保険の加入漏れはないか、36協定を締結・届出しているか、などを確認することが必要です。
本記事では、労務監査について解説したうえで、労務監査の手順や監査で指摘されないための確認ポイントを説明します。IPOを目指している企業はぜひ参考にしてください。
目次
労務監査とは
労務監査とは、企業が労働諸法令を守っているか調査することです。労働に関する書類や規則などの整備がされているか、就業規則で定められたルールが実際に守られているか、などを調べます。
調査は、ヒアリングやアンケートを使って行い、結果に基づいて監査が評価されます。労務調査を行うことで、上場するための課題を発見でき、過重労働やパワハラなどのトラブルを避けられるでしょう。
社内トラブルを避けることで、企業イメージや信頼を落とすリスクを下げられるといった点が大きなメリットです。
IPOで労務監査が求められる理由
IPOの準備において労務監査は必須ではありませんが、近年は企業の労働環境が重視されるようになり、上場に向けて社労士による労務監査が増えています。
上場審査の基準は厳しいもので、法令違反があると上場が許可されません。そのため、監査を実施することは、企業が上場審査に合格するために必要と言えます。
また、投資家も企業の取り組みに注目しているため、調査を行うことで、投資家から信頼を得られる可能性があるでしょう。
IPO準備における労務監査の実施タイミング
IPO準備期は、直前々々期と直前期の2回に分けて労務監査が行われます。
直前々々期ではショートレビューを受ける前に、上場のための課題を見つける調査を受けることが大切です。労務監査を実施することで、社内体制を整えていることが明確になるため、監査法人に選ばれやすくなります。
直前期とは、直前々期で整えた社内管理体制を運営する時期です。直前期では、法改正に対応しているかなどについて調べ、上場審査に進めるようにする必要があります。
労務監査が実施される流れ
労務監査は以下の3つの手順で行われます。
- 実施準備を行う
- 監査を実施する
- 監査報告を行う
労務監査を受ける際の参考にしてください。
1.実施準備を行う
実施準備で行うことは、主に以下の通りです。
- 労務監査の範囲および期間の決定
- 監査項目の決定
- 監査対象となる書類の確認
- 事前打ち合わせ
上記の内容が完了次第、次の労務監査の実施に移ります。
2.監査を実施する
労務監査では以下のことを行います。
- ヒアリング・アンケートの実施
- 労務監査の実施
- 労務監査報告書の作成
労務監査の実施の完了後、監査の結果を元に報告をもらえます。
3.監査報告を行う
労務監査後は、監査報告が行われます。
- 監査報告書の提出
- 改善策の検討
報告をもらったら、指摘されたポイントの改善をし、IPOの準備を行いましょう。
労務監査で指摘されないための確認ポイント
労務監査で指摘されないためのポイントは主に以下の8つです。
- 残業代の支払い漏れがないか
- 労働時間は適切に管理されているか
- 雇用契約書を作成しているか
- 社会保険の加入漏れはないか
- 36協定を締結・届出しているか
- 就業規則は整備されているか
- 安全衛生管理体制を整備しているか
- 社員が有給休暇を取得しているか
労務管理で指摘されると、上場が延期される可能性もあります。
労務監査で指摘されないためにも、以下の内容を参考にしてみてください。
残業代の支払い漏れがないか
労務監査では、残業代の支払い漏れがないことが重要です。特に、残業代の支払い漏れがあると、労務管理が不十分とみなされ、上場が認められない可能性があります。
そのため、従業員の労働時間を正確に管理し、残業代をきちんと支払う仕組みを整備することが必要です。
残業代の未払いを防ぐことで、問題を指摘されることを避け、審査をスムーズに進められるでしょう。
労働時間は適切に管理されているか
労働時間を適切に管理することで、労務監査で指摘される可能性を減らせます。労働基準法において、時間外労働は、月45時間・年360時間を超えてはいけないとされています。
また、臨時的な事情があっても、月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内に納めなければなりません。
労務監査では、客観的で適切な記録が求められるため、実際の労働時間とタイムカードの記録が合致していることが重視されます。
労働時間が適切に守られているかどうかが監査で指摘されるため、必ず守りましょう。
雇用契約書を作成しているか
雇用契約書を作成しているかどうかが、労務監査の確認ポイントになります。
雇用契約書は、労働時間や残業の管理の基本です。労働契約は書面でなければ成立しないと考える方も多いようですが、実際には口頭での合意でも労働契約を結べます。
しかし、契約内容の認識の違いから発生する問題を防ぐため、労働条件をはっきり書いた雇用契約書を交わす方が良いでしょう。
社会保険の加入漏れはないか
労務監査において、社会保険の適切な加入が重要なポイントです。
正社員ではないパートタイマーやアルバイトなどでも、一定の条件を満たす労働者には社会保険への加入が義務付けられています。しかし、企業の誤解や小さなミスで、加入が必要な労働者が保険に入っていないことも珍しくありません。
社会保険未加入は法令違反になるため、上場審査においてコンプライアンスが守られていないとみなされ、審査を通過できなくなります。
36協定を締結・届出しているか
上場する際には、36協定を締結・届出しているかどうかが確認のポイントです。
36協定とは過重労働を防ぐための基本的な対策であり、労働者と雇用者間で残業時間について合意をする時間外・休日労働協定のことです。株式上場を目指す企業は、過重労働に対する対策を見直す必要があります。
しかし、中小企業では、協定の届け出がされていないケースが多く、是正勧告を受けることがよくあります。是正勧告が受けられたからといって、すぐに上場の準備に影響が出るわけではありません。
是正勧告を受けた場合は、迅速に労働環境を改善し、結果を是正報告として提出するように心掛けることが大切です。
就業規則は整備されているか
労務監査では、就業規則が整備されているかどうかが確認ポイントの1つです。IPOの審査では、形式だけの就業規則や規程では通過できません。
多くのベンチャー企業が上場に向けて規則を整備しますが、実際の勤務状況と整備された規則が一致していないことが見られます。
就業規則は労務管理の基本で、実際の勤務状況とのずれがあると、内部管理が整っていないとみなされ、上場審査に通過することが困難になります。
そのため、規則の整備だけではなく、規則の実施を行いましょう。
安全衛生管理体制を整備しているか
安全衛生管理体制を整備することで、労務監査に通りやすくなります。
50人以上の従業員がいる企業では、衛生管理者の選任や衛生委員会の定期開催、ストレスチェックの実施など、健康管理に取り組む必要が法律で定められています。
従業員のメンタルヘルスに対する配慮が不足すると、過重労働から業務上の問題が生じ、法的な問題になることもあるため、対策を行うことが重要です。
上場審査を通過するためにも、安全衛生管理体制を整備しましょう。
社員が有給休暇を取得しているか
労務監査に通るために、社員が有給休暇を取得しているかどうかが大事なポイントです。
2019年4月の労働基準法改正により、年間10日以上の有給休暇がある従業員に対して、最低5日の有給休暇取得を義務付けられました。
労務監査では企業の労務管理体制が法令遵守しているか確認され、法律に従わないと、労務監査で不利になる可能性があります。
労働基準法に違反すると、行政指導や訴訟などのリスクが生じ、IPO審査における大きな障害となります。そのため、IPOを目指す企業は、労働に関するコンプライアンスの強化が必要です。
従業員の有給休暇の取得状況を適切に管理し、法令遵守をしっかりと行うよう努めましょう。
まとめ
労務監査とは、企業が労働に関する法律を正しく守っているかをチェックする調査のことです。調査は必須ではありませんが、実施することで、IPOの審査に通りやすくなる可能性があります。調査で大切なポイントは、残業代の支払い漏れがないか、労働時間は適切に管理されているか、などです。
投資家は企業の労働環境などの取り組みに注目しているので、労務監査を行うことで投資家の信頼を得られる可能性が高まります。IPOを目指している企業は、労務監査を通るように確認ポイントを重点的に対策しましょう。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
最後に、この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
IPOまでに必要な管理部門の「業務・人材・体制」とは?
IPO準備を遅延なく進めるために、どのような管理部門体制を構築する必要があるのでしょうか。
本資料では、IPO準備企業に向けて、N-3期からN期までに必要な業務と、それを実施するために求められる人材・体制について詳しく解説します。
やることリスト付き!内部統制構築ガイド
内部統制を基礎から知りたい方・内部統制の導入を検討している担当の方・形式だけになっている内部統制を見直したい方におすすめの人気ガイドです。
内部統制の基本と内部統制構築のポイントをギュッとまとめています。
N-3期を目指すための3つのポイント
「N-3期を目指しているが、数年たっても次の段階へ進めない」とお悩みのIPO準備企業も多いのではないでしょうか。
本資料では、IPO準備スケジュールの全体像から、N-3期に目指す上でよくある課題とおさえておきたい3つのポイントを解説します。
マネーフォワード クラウド会計Plus サービス資料
マネーフォワード クラウド会計Plusは、IPO準備・中堅〜上場企業向けの業務効率化と内部統制強化を実現するクラウド会計ソフトです。
銀行やクレジットカード連携で取引データを自動取得、AIによる自動仕訳で会計業務を効率化。周辺システムと連携することで、二重入力や確認工数を削減します。また、仕訳承認機能やユーザーごとの権限・ログ管理機能を搭載しており、内部統制にも対応。SOC報告書も提供しています。
よくある質問
IPOの労務監査とは?
労務監査とは、企業が労働に関連する法律をきちんと守っているかを調査することです。具体的には、従業員へのインタビューやアンケートを使って、会社の書類が整理されているか、就業規則が正しく実行されているかをチェックします。 その後、調査結果に基づいて、企業の労働状況を評価します。
IPOで労務監査が求められる理由は?
企業の労働環境が重要視されるようになったため、IPOでは社労士による労務監査が求められています。労務監査は、必ずしも求められるわけではありません。しかし、上場の審査は非常に厳しく、法律に反する行為があれば上場が認められないため、労務監査は上場審査に合格するうえで重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
常勤監査役とは?IPO準備における役割・設置要件・報酬を解説
企業がIPO(新規株式公開)を目指す際、体制整備の一環として避けて通れないのが「常勤監査役」の選任とその機能強化です。常勤監査役は、会社の業務や財務の状況を日常的に監査し、経営の健全性と透明性を支える重要な役職です。上場審査においても、監査…
詳しくみるムーンショット目標とは?制定された背景や企業との関わり
ムーンショット目標とは、内閣府の政策の一つであるムーンショット型研究開発制度において掲げられている、9つの目標のことです。日本が抱える問題を解決するために破壊的イノベーションの創出を目指す目標で、2024年または2050年までの実現を目指し…
詳しくみる攻めの経営を促す役員報酬のインセンティブプランについて解説
現代のビジネス環境は変化のスピードが加速し、企業に「攻めの経営」が求められています。 単なるコスト削減や効率化では競争に打ち勝つことは困難で、中長期の企業価値向上を見据えて、役員報酬のインセンティブプランを策定する必要があるでしょう。 そこ…
詳しくみるOJTとは?意味やOFF-JTとの違い、研修のやり方や成功のコツを解説
従業員を育成するための代表的な教育手法の一つにOJTがあります。今回は、このOJTについて見ていくとともに、OJTと似たような言葉である「OFF-JT」との違いは何か、OJT研修の進め方やOJTを成功させるコツなどについて解説していきます。…
詳しくみるコンピテンシーとは?意味や企業導入が増えている理由、評価方法・例を解説
人事評価・採用・育成の場面で近年多くの企業が取り入れているのが、コンピテンシーの考え方です。今回はコンピテンシーの意味や普及の理由、コンピテンシー評価の方法と事例まで詳しく解説します。 コンピテンシーとは 研究者によって、コンピテンシーの定…
詳しくみるクレドとは?語源はなに?会社・企業での使い方や目的を紹介
クレドとはラテン語の「Credo」が語源となっており、ビジネスでは企業全体の従業員が心がける信条や行動指針を指す言葉として使用されます。クレドがあることで従業員のモチベーションが向上したり人材育成を行えたりするメリットがあるのです。この記事…
詳しくみる