- 作成日 : 2026年1月19日
ストックオプションによる希薄化とは?既存株主への影響や適正比率、計算式を徹底解説
ストックオプション(新株予約権)は、ベンチャー企業やスタートアップにとって優秀な人材を採用するための強力な手段です。しかし、発行数を誤り「株式の希薄化」を招くと、既存株主の不利益となり、上場審査や資金調達に悪影響を及ぼすリスクがあります。
本記事では、ストックオプションによる希薄化のメカニズム、許容される比率の目安、そしてトラブルを防ぐための具体的な対策について解説します。
目次
ストックオプションによる株式の希薄化とは?
ストックオプションによる株式の希薄化とは、権利行使によって新たな株式が発行され、発行済株式総数(分母)が増加することで、既存株主が保有する「議決権割合」や「1株あたりの経済的価値」が相対的に低下することを指します。
通常、既存株主が保有する株式数は変わりません。しかし、ストックオプションが行使されて市場に出回る株式の総数が増えると、会社全体の価値(時価総額)が変わらないと仮定した場合、1株あたりの価値は薄まります。これを「株式の希薄化」と呼びます。既存株主にとっては、自分たちの取り分であるパイのシェアが小さくなることを意味するため、非常に敏感な問題となります。
ストックオプションによる株式の希薄化の流れは?
ストックオプションによる株式の希薄化は、権利行使によって「分子(利益や資産)」が増えないまま、「分母(株式数)」だけが増えることで発生します。
具体的な流れと数値変化は以下の通りです。
- 新規株式の発行:権利者がストックオプションを行使し、会社が新株を発行(または自己株を交付)する。
- 発行済株式数の増加:市場に出回る株式の総数が増加する。
- 持株比率の低下:既存株主の保有数は変わらないため、全体に占める割合(%)が下がる。
- 1株当たり価値の低下:会社の純利益や純資産を、より多くの株数で割ることになるため、EPS(1株当たり利益)やBPS(1株当たり純資産)等が低下する。
| 項目 | 希薄化前 | 希薄化後 | 影響 |
|---|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 10,000株 | 11,000株 | 10%増加 |
| 既存株主Aの保有 | 1,000株 (10%) | 1,000株 (約9.09%) | 持株比率が低下 |
| 1株あたりの価値 | 100円 | 約90.9円 | 理論価格が下落 |
このように、単に株式数が増えるだけで企業価値が成長していない場合、既存株主の資産価値は目減りしてしまいます。
ストックオプションによる希薄化が株主に与える影響は?
ストックオプションによる希薄化は、株主に対して主に2つのリスクを与えます。これらを理解していないと、株主総会での承認が得られない可能性があります。
1. 議決権比率(経営への支配力)の低下
1つ目は、株主総会での発言力や決議への影響力が弱まることです。株主の権利は、保有する株式の割合(%)によって決まります。
例えば、重要事項の決議である特別決議の拒否権を行使できる「3分の1超」や、経営の主導権を握る「過半数」といったラインは、経営支配において重要です。希薄化によってこれらのラインを割り込んでしまうと、創業者が経営権を維持できなくなったり、既存の投資家が期待していたガバナンスを効かせられなくなったりするリスクがあります。そのため、投資家は自身の持株比率が下がることを強く警戒します。
2. 経済的価値の減少
2つ目は、1株当たり純利益(EPS)や1株当たり純資産(BPS)が減少し、理論株価が下落する可能性があることです。これは投資家(ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家)にとって、投資リターン(キャピタルゲイン)の減少に直結する重大な懸念事項です。
株式数が増えれば、会社の利益をより多くの株数で分け合うことになります。既存株主からすれば、何もしなくても保有資産の価値が下がることになります。この不利益を防ぐためには、希薄化によるマイナス分を上回るスピードで事業を成長させ、企業価値(時価総額)そのものを増大させる必要があります。
ストックオプションの発行比率の適正な目安は?
ベンチャー企業やスタートアップにおいて、ストックオプションの発行比率は、発行済株式総数の「10%〜15%」程度が適正な上限目安とされています。これを超えると、既存株主からの反発を招いたり、IPO(新規上場)の審査で「既存株主の利益を害する」として問題視されたりする可能性が高まります。
投資家が許容するライン
多くの投資家は、希薄化率が10%以内であれば許容範囲とし、15%を超えると警戒感を強める傾向にあります。20%以上発行する場合は、よほど合理的な理由がない限り、株主総会での承認を得ることは難しいと認識しておくべきです。
投資ラウンドごとの設計が必要
ストックオプション枠を設定する際は、将来の資金調達による希薄化も考慮しなければなりません。シリーズAやシリーズBといった資金調達ラウンドを重ねるごとに、投資家への新株発行によって創業者の持株比率は自然と希薄化していきます。
そのため、初期段階(シード期)で過剰にストックオプションを発行してしまうと、後の資本政策が破綻する恐れがあります。上場までにどの程度のストックオプションが必要になるかを見越して、一度にすべてを発行するのではなく、事業フェーズに合わせて段階的に発行枠を設定するなどの計画性が重要です。
経済産業省のガイダンスや手引きも参考にしながら、自社のフェーズに合わせて設計しましょう。
株式の希薄化率を計算する手順は?
希薄化率を正しく把握するためには、「新規発行予定の潜在株式数」を「発行後の発行済株式総数」で割って算出します。感覚で決めるのではなく、GoogleスプレッドシートやExcel(エクセル)を用いて正確なシミュレーションを行うことが推奨されます。
具体的な計算は以下の3ステップで進めます。
1. 現在の発行済株式総数を確認する
まず、登記簿や株主名簿を確認し、現在発行されている株式の総数(潜在株式を除く)を把握します。
2. ストックオプションによる潜在株式数を設定する
発行したいストックオプションの個数(新株予約権の数×1個あたりの目的となる株式数)を決めます。これが将来、市場に出る可能性のある「潜在株式」となります。
3. 希薄化率の計算式に当てはめる
以下の計算式を用いて、希薄化の割合を算出します。
株式の希薄化によるトラブルを防ぐための対策は?
資本政策の策定と行使条件(ベスティング)の設定により、既存株主の理解を得つつインセンティブ効果を最大化することが重要です。
1. ベスティング条項(権利確定条件)の設定
希薄化への懸念を払拭する最も一般的な対策は、ベスティング条項の設定です。これは、ストックオプションを付与してもすぐには行使できず、勤務継続期間や業績達成など、一定の条件を満たして初めて権利が確定する仕組みです。
- 期間条件:「入社後3年は行使できない」「上場承認が降りるまで行使できない」など
- 効果:短期間での離職や、成果が出ないままでの権利行使(=無益な希薄化)を防ぎます。
これは「成果を出して企業価値を上げた人だけが株を持てる」というメッセージになり、既存株主への有力な説得材料となります。
2. 信託型ストックオプション等のスキームの活用
無駄な希薄化を避ける手法として、信託型ストックオプションの活用も有効です(※最新の税制・法規制の確認が必要)。従来型のストックオプションは付与時に「誰に何株渡すか」を決める必要がありますが、退職者が出た場合などにその枠が無駄になったり、再発行の手間が生じたりします。
信託型などのスキームを用いれば、プールしておいた枠の中から、実際に貢献した度合いに応じて事後的にポイント制などで株式を配分することが可能になります。これにより、「期待して渡したが活躍しなかった」というケースによる無駄な希薄化を回避し、実質的な貢献に見合った配分を実現できます。
※税務上の具体的な取り扱いについては、国税庁の最新情報を必ずご確認ください。
3. 企業価値の向上によるリターンの最大化
もっとも本質的な対策は、経営者が「希薄化のデメリットを上回るリターン」を株主に提供することです。ストックオプションは単なる報酬ではなく、従業員のモチベーションを高め、業績を向上させるための投資です。
精緻な資本政策表(キャップテーブル)を策定した上で、「ストックオプションによって優秀な人材を採用し、これだけ業績を伸ばすため、結果として1株あたりの価値は高まる」という成長ストーリーを既存株主に説明し、理解を得ることが不可欠です。適切なインセンティブ設計は、希薄化を補って余りある企業価値の増大をもたらします。
株式の希薄化リスクを管理し成長を加速させよう
ストックオプションの発行に伴う希薄化は、既存株主の議決権や経済的価値を低下させるため、発行比率は一般的に10〜15%以内に抑えるのが適切です。
しかし、希薄化を恐れるあまり、優秀な人材へのインセンティブがおろそかになっては本末転倒です。経営者は、以下のポイントを押さえ、株主と対話を行う必要があります。
- 数値管理: 希薄化率の計算式を用いて正確なシミュレーションを行う。
- 制度設計: ベスティング条項などで希薄化を防ぐ。
- 説明責任: 企業価値の増大によって希薄化のデメリットを上回るリターンを提供すると約束する。
適切な資本政策の管理こそが、スタートアップの成長を加速させるポイントです。
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