- 更新日 : 2025年10月21日
助成金と創業融資の違いとは?申請手順や併用方法を解説
創業時の資金調達には、返済が必要な「融資」と、原則として返済不要の「助成金・補助金」があります。この2つの違いを正しく理解し、戦略的に組み合わせることが、事業をスムーズに軌道に乗せる鍵となります。この記事では、それぞれの制度の基本的な違いから、具体的な申請手順、そして最も効果的な併用方法まで、創業者が知りたい情報を網羅的に解説します。
目次
助成金・補助金と創業融資の違いとは?
創業資金を考える上で、まず「助成金」「補助金」「融資」の大きな違いは、「返済義務の有無」と「資金の性質」です。融資は返済義務のある「借入金」ですが、助成金・補助金は原則として返済不要の「支援金」です。資金計画を立てる際はこの違いを理解しましょう。
項目 | 助成金 | 補助金 | 融資 |
---|---|---|---|
返済義務 | 原則なし | 原則なし | あり |
資金源 | 国・自治体 | 国・自治体 | 金融機関 |
審査 | 要件を満たせば受給可能性が高いが、審査あり | 事業計画を審査し、優れたものを採択(競争あり) | 事業の将来性や返済能力を審査 |
受給タイミング | 原則後払い(清算払い) | 原則後払い(清算払い) | 実行時(先払い) |
目的 | 雇用維持、労働環境改善など政策目的 | 国の政策推進(IT化、事業再構築など) | 事業全般 |
助成金と補助金は混同されがちですが、性質が異なります。
一般的に、助成金は厚生労働省などが実施する雇用関連支援が多く、定められた要件を満たせば受給できる可能性が高い一方、補助金は経済産業省や自治体などが実施し、審査を経て優れた事業計画が採択される競争型です。
創業融資の返済に係る費用
創業融資の返済で支払う主な費用は、「利息」と「信用保証料」の2つです。 これらは借入れた元本とは別に発生するコストであり、事業の資金計画に含めておく必要があります。
利息
資金を借りるためのコスト。日本政策金融公庫の創業融資では、固定金利で年1〜3%前後が一般的ですが、制度区分や特別利率の適用により変動します。民間金融機関を利用する制度融資では、変動金利が設定される場合もありますが、自治体の利子補給などにより実質的な金利が下がるケースもあります。
信用保証料
信用保証協会が保証人となる際に必要な費用です。料率は、事業者の財務内容や信用力に応じて決まり、一般的には年0.5〜2.2%前後で設定されます。自治体の制度融資の中には、保証料の一部または全部を補助する制度もあります。
創業時に使える助成金・補助金とは?
国や自治体は、新しいビジネスを後押しするために、返済不要のさまざまな支援制度を用意しています。ここでは、とくに創業期に活用しやすく、多くの起業家が利用している代表的な助成金・補助金を紹介します。申請には要件・期間があるため、常に最新情報を確認しましょう。
国が実施する主な補助金
国が主体となり、全国の中小企業・個人事業主を対象に実施している補助制度のうち、創業期でも利用しやすい代表的なものを紹介します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が販路開拓や業務効率化を行う際の経費を支援する補助金です。ウェブサイトの制作やネット広告の出稿、チラシ作成、店舗の改装など、幅広い経費が対象となります。
IT導入補助金
業務効率化や売上拡大のために、ITツール・クラウドサービス・ECサイト構築などを導入する際の費用を補助する制度です。会計ソフト、顧客管理(CRM)、オンライン決済システムなど、デジタル化に直結する支出が対象です。
ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)
中小企業や小規模事業者が行う革新的な製品・サービス開発や生産プロセス改善を支援する補助金です。新たな設備投資や試作品開発など、技術的チャレンジを含む取り組みに適しています。
東京都の主な創業助成事業
創業助成事業
東京都の「創業助成事業」は、都内で創業を計画している方や創業後5年未満の中小企業者を対象とした、返済不要の助成金です。助成限度額は上限400万円(下限100万円)、助成率は2/3以内で、創業初期の大きな支えとなる制度です。対象経費は賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、従業員人件費、委託費(市場調査・分析)など幅広く、申請するにはTOKYO創業ステーションでの事業計画書策定支援など、特定の支援事業の利用が条件となります。
- 助成限度額:上限400万円(下限100万円)。事業費及び人件費を助成対象とする助成金の助成限度額:上限300万円、委託費を助成対象とする助成金の助成限度額:上限100万円。(助成率は2/3以内)
- 対象者:都内での創業を具体的に計画している個人、または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件を満たす方
若手・女性リーダー応援プログラム助成事業
都内の商店街での開業を目指す「女性」もしくは「年度末時点で39歳以下の男性」を対象とした、手厚い支援事業です。開業初期にかかる工事費、設備・備品導入費、店舗賃借料等などが対象となり、事業のスタートダッシュを強力に後押しします。
- 助成限度額:最大844万円
- 対象者:「女性」もしくは「年度末時点で39歳以下の男性」。都内商店街で開業予定の個人(創業予定者もしくは個人事業主)。独創的な事業プランを考え、主体的に商店街活性化に取り組む意欲のある方。申請者は店舗の事業に専ら従事できること
- 助成率:【事業所整備費】・【店舗賃借料】 助成対象と認められる経費の3/4以内。【実務研修受講費】助成対象と認められる経費の2/3以内
参照:若手・女性リーダー応援プログラム助成事業|東京都創業NET
商店街起業・承継支援事業
上記の「若手・女性リーダー応援プログラム」の対象を広げ、年齢や性別を問わず、商店街での開業を支援する制度です。新たに開業する方はもちろん、事業承継や多角化を目指す既存事業者も利用できます。
- 助成限度額:最大580万円
- 対象者:年齢、性別、個人・法人に関わらず、商店街活性化に意欲のある方。都内商店街で、新規店舗の「開業」、既存店舗と異なる事業を始める「多角化」、店舗を引き継ぐ「事業承継」のいずれかを予定している方
- 助成率:助成対象と認められる経費の2/3以内
大阪府の主な創業支援
ビジネスプランコンテスト(大阪起業家グローイングアップ事業)
大阪府が府内の創業者を支援するために実施している、ビジネスプランコンテスト形式の補助金制度です。優れたビジネスプランを持つ起業家を発掘し、その成長を資金面でサポートします。腕試しを兼ねて補助金獲得を狙うことができるでしょう。
- 特典:優勝補助金100万円、準優勝補助金50万円(いずれも補助率1/2)ほか
- 対象者:初めて起業する個人・法人で、一定の要件に該当し、推薦機関の推薦を得られる方など
参照:ビジネスプランコンテスト|オール大阪起業家支援プロジェクト
創業時に使える代表的な融資制度とは?
事業を始めるためのまとまった資金を確保するには、融資の活用が現実的な選択肢です。創業者が利用しやすい公的な融資制度は、民間の金融機関に比べて金利が低く、実績がなくても相談しやすいのが特徴です。
日本政策金融公庫の新規開業資金・スタートアップ支援資金
日本政策金融公庫の「新規開業資金・スタートアップ支援資金」は、創業者が利用できる最も代表的な融資制度です。 多くの支店があり、年間を通じて多くの創業者の相談に応じています。「創業計画書」という定型のフォーマットに沿って事業計画をまとめるため、初めての方でも取り組みやすいでしょう。融資限度額は最大7,200万円(うち運転資金最大4,800万円)と大きく、幅広い資金ニーズに対応しています。
自治体の制度融資
お住まいの自治体が、地域の金融機関・信用保証協会と連携して提供する融資制度です。 この制度の利点は、自治体が利子の一部を負担(利子補給)してくれたり、信用保証料を補助してくれたりする場合があることです。
窓口は主に地域の銀行や信用金庫となるため、事業所の近くで相談できるのも利点です。「〇〇県 制度融資 創業」などで検索し、地域の制度を確認しましょう。
創業融資と助成金の申請タイミングとは?
結論から言うと、「融資が先、助成金が後」が資金調達の基本戦略です。 多くの創業者が悩むのが「融資と助成金、どちらを先に申請すべきか」という問題です。この二つの制度は、お金が手元に入るタイミングが全く異なるため、順番を間違えると資金計画が破綻しかねません。
なぜ「融資が先」なのか?
助成金・補助金の多くは「後払い(精算払い)」の仕組みです。つまり、事業計画が採択された後、対象経費を一度自社で支払い、実績報告を行ってから支給されます。ウェブサイト制作費や広告費なども、いったん自社で立て替える必要があります。
したがって、まずは日本政策金融公庫や自治体の制度融資などを活用して、創業時に必要な資金を確保することが重要です。この資金をもとに事業をスタートさせ、その後、条件に合う助成金・補助金を申請するのが現実的な流れです。
理想的な資金調達のスケジュール例
以下に、理想的な資金調達のスケジュール例を示します。補助金・助成金の公募は年数回に限られるため、創業前から公募スケジュールをチェックしておくことが成功の鍵です。
- 創業3ヶ月前:日本政策金融公庫や地域の金融機関に事前相談。事業計画書の作成に着手する。
- 創業2ヶ月前:創業融資の申し込み。
- 創業1ヶ月前~創業時:融資の審査・面談を経て、融資実行。資金が口座に入金される。事業を開始し、融資で得た資金で設備投資や広告宣伝を行う。
- 創業後1~3ヶ月:事業運営の中で、条件に合う助成金・補助金の公募が開始されたら申請。
- 創業後6ヶ月以降:助成金・補助金が採択された事業を完了し、実績報告を提出する。その後、指定口座に入金される。
創業融資と助成金の申請で注意すべき点は?
制度を利用して確実に資金を調達するためには、いくつか押さえておくべき注意点があります。とくに、事業計画の一貫性や申請のタイミングは、両方の審査に影響を与えるため、慎重に準備を進めましょう。
事業計画書は一貫性を持たせる
融資と助成金の両方に申請する場合、提出する事業計画書の内容に一貫性を持たせましょう。 たとえば、融資の面談で話した事業の方向性と、助成金の申請書に書いた内容が大きく異なると、計画全体の信頼性が疑われる可能性があります。事業の核となるビジョンや数値計画は統一し、それぞれの制度の目的に合わせてアピールポイントを調整する、という意識が大切です。
公募の期限に気を付ける
とくに助成金・補助金は、公募期間が1ヶ月前後と短いものが多く、期限も厳格です。 公募要領には、対象となる経費や申請要件、必要な書類などが詳細に定められています。内容を熟読し、不備のないように準備を進めなくてはなりません。期限を1分でも過ぎれば、受け付けてもらえません。常に余裕を持ったスケジュールで行動することが求められます。
融資と助成金の審査の視点を知る
融資と助成金では、審査で見られる視点が異なります。この違いを理解し、それぞれに合ったアピールを心がけましょう。 融資の審査で最も重視されるのは「返済能力」です。事業がきちんと収益を上げ、貸したお金を最後まで返してくれるか、という視点で計画の実現性が評価されます。
一方、助成金・補助金の審査では、「政策との整合性」や「社会的波及効果」が評価されます。雇用創出、地域活性化、デジタル化推進など、国や自治体の重点施策と合致しているか、という視点で見られます。
自己資金の準備で見られるポイント
創業融資の審査では、自己資金の金額だけでなく、その「貯め方」も見られています。 融資担当者は預金通帳を見て、計画的にお金を準備してきたかを確認します。たとえば、申込の直前に親族から借りたお金をまとめて入金したような「見せ金」は、かえって心証を悪くする可能性があります。たとえ少額でも、長期間にわたってこつこつと貯蓄してきた経緯を示すことが、事業への熱意の証明となるでしょう。
専門家への相談をためらわない
融資や助成金の申請手続きは複雑な部分も多く、一人で抱え込むと時間もかかり、不備も出やすくなります。 資金調達をスムーズに進めるためには、専門家への相談が有効です。
地域の商工会議所やよろず支援拠点といった公的機関では、相談に乗ってくれます。事業計画の立て方から具体的な申請書の書き方まで、親身にアドバイスをもらえるでしょう。不安な点があれば、積極的に活用することをおすすめします。
創業融資と助成金を知り、事業を加速させよう
創業時の資金調達は、「融資」と「助成金・補助金」の特性を理解し、両方を戦略的に活用することが成功の鍵です。まず、事業開始の元手となるまとまった資金を、先に受け取れる「創業融資」で確保し、事業が動き出した後に、販路開拓や人材採用といった特定の目的で、返済不要の「助成金・補助金」を申請する。この流れが、最もスムーズで効果的です。それぞれの制度を正しく理解し、ご自身の事業を加速させる力に変えていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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