- 作成日 : 2025年6月20日
法人登記の過料とは?登記懈怠の相場・目安、誰がいつ対応すべきかなどを解説
「会社の役員変更登記、うっかり忘れてた…過料って一体いくら?」
「本店移転したけど、登記期限は大丈夫だったかな…」
「過料の通知が裁判所から届いた!どうすればいいの?」
日々の経営に追われる中で、つい後回しにしがちな法人登記。しかし、この手続きを怠ると、ある日突然、裁判所から過料の通知が届き、思わぬ出費と対応に迫られることがあります。そこでこの記事では、経営者の過料に関するあらゆる疑問や不安を解消します。
目次
法人登記の過料とは
過料とは、法律で定められた義務を怠った者に対して科される金銭的な制裁の一種です。刑事罰である罰金とは異なり、行政上の秩序を維持する目的で科されるもので、前科がつくことはありません。
会社法第976条には、会社法に基づいて行うべき登記を正当な理由なく怠った場合、その会社の代表者個人に対して100万円以下の過料に処すると定められています。
過料は会社負担ではない
過料の支払義務を負うのは会社ではなく、登記申請の義務を負っていた当時の代表者個人です。
そのため、原則として会社の経費として処理することはできません。もし会社が代表者個人の過料を肩代わりして支払った場合、税務上は会社から代表者への給与とみなされ、代表者個人の所得税・住民税の課税対象となる可能性があります。また、会社側もその支出を損金として算入できません。
過料の時効
過料を徴収する権利の時効は、法律上、その裁判が確定した日から5年とされています。
しかし、これはあくまで「過料の徴収権の時効」です。登記懈怠の事実が発生してから、いつまでに裁判所が過料の決定をしなければならないかという「手続開始の時効」のような明確な定めは会社法にはありません。
そのため、登記懈怠から長期間経過した後でも、その事実が発覚すれば過料の通知が来る可能性は否定できません。「何年も前のことだから大丈夫」とは言えないのが実情です。
登記懈怠で過料が発生する事例
では、具体的にどのような法人登記を怠ると過料の対象となるのでしょうか。代表的なケースと、それぞれの登記期限を確認しましょう。
役員変更登記の懈怠
代表取締役、取締役、監査役などの役員の就任、再任(重任)、辞任、解任、死亡などがあった場合には、その事実が発生した日から原則として2週間以内に役員変更の登記を法務局へ申請しなければなりません。
役員の任期は定款で定めており、株式会社では最長10年(非公開会社の場合)まで伸長できますが、任期管理を怠り、気づいた時には数年経過していたというケースが後を絶ちません。
本店移転登記の懈怠
会社の本店(主たる事務所)の所在地を移転した場合も、本店を移転した日から原則2週間以内に、その変更登記を行わなければなりません。
移転先が現在の本店所在地を管轄する法務局の管轄内であるか、管轄外であるかによって手続きが異なり、特に管轄外へ移転する場合には、旧本店所在地と新本店所在地の双方の法務局でそれぞれ2週間以内に登記手続きを行う必要があります。管轄外移転は手続きがより複雑になるため、期限管理には一層の注意が求められます。
その他の登記事項の変更懈怠
上記以外にも、会社法で定められた登記事項に変更があった場合は、原則として2週間以内の登記が必要です。
- 商号の変更
- 事業目的の変更
- 資本金の額の変更(増資・減資)
- 募集株式の発行
- 会社の解散及び清算人の就任
- 清算結了
- その他、登記事項証明書に記載されるあらゆる事項の変更
休眠会社のみなし解散と関連登記の懈怠
株式会社が最後の登記から12年間何も登記手続きを行わずにいると「休眠会社」として扱われ、法務大臣による官報公告と管轄登記所からの通知が行われます(毎年10月頃)。この通知から2ヶ月以内に「事業を廃止していない」旨の届出、または役員変更などの登記を申請しない場合、その会社は解散したものとみなされる「みなし解散」の登記が職権で行われます。
みなし解散の登記後、3年以内に会社を継続する手続きを取らない場合や、清算手続きを進めて最終的な清算結了の登記を怠った場合も、過料の対象となる可能性がありますので注意が必要です。
登記懈怠の過料の相場・目安
会社法第976条では「100万円以下の過料に処する」と規定されていますが、実際に100万円もの高額な過料が科されるケースは、よほど悪質な場合や長期間多数の懈怠を放置した場合などに限られ、一般的ではありません。
実務上の目安としては、数万円から十数万円程度の過料となるケースが多いようです。
- 懈怠期間が1年程度:3万円
- 懈怠期間が5年程度:5万円~10万円
- 懈怠期間がそれ以上、または複数の登記懈怠がある:10万円〜
過料の最終的な金額は、登記を怠った期間の長さだけでなく、以下の要素などを裁判所が総合的に考慮して決定します。
- 懈怠した登記の種類
- 懈怠に至った経緯や理由
- 過去の登記懈怠の有無
- 会社の規模や状況
登記懈怠の発覚から裁判所への通知までの流れ
登記懈怠は、以下のようなタイミングで発覚することが多いです。
- 許認可・補助金などの申請時
- 他の登記申請を行った際
- 法務局の調査
- 第三者からの情報提供
法務局の登記官が登記懈怠の事実を確認すると、管轄の地方裁判所に対して通知が行われます。
裁判所からの過料決定通知はいつ頃届くのか
地方裁判所は、法務局からの通知に基づき非訟事件として審理を行い、過料を科すか否か、科す場合はその金額を決定します。
そして、過料を科す旨の決定がなされると、会社の代表者個人の住所宛に「過料決定(または過料に処する決定)」という通知が郵送で届きます。
通知が届く時期は、登記懈怠の発生から数ヶ月後というケースもあれば、1年以上、場合によっては数年経過してからということもあり、一概には言えません。
通知書の内容と納付手続き
通知書には、主に以下の内容が記載されています。
- 過料の金額
- 納付期限
- 納付方法
- 不服申し立て(即時抗告)に関する教示
過料の納付は、検察庁が担当します。通知書に同封されている振込用紙などを使用して、期限内に納付する必要があります。
過料の決定に不服がある場合の「即時抗告」とは
過料の決定内容に不服がある場合、代表者は過料決定の告知から2週間以内に、その決定をした裁判所に対して「即時抗告」という不服申し立てをすることができます。ただし、即時抗告が認められるのは、登記懈怠に「正当な理由」があったと客観的に証明できる場合に限られます。
登記懈怠を回避するための予防策
過料は、日頃の適切な管理と意識によって十分に回避できるものです。
法人登記の期限の管理
まず、どのような場合にいつまでに登記が必要なのか、期限を正確に把握し、厳格なスケジュール管理を徹底することです。特に役員の任期については、定款で定められた期間を常に意識し、任期満了日を手帳やカレンダー、リマインダーアプリなどに登録して、変更予定日の数ヶ月前には通知が来るよう設定しておくと安心です。
信頼できる専門家との連携
法人登記は、会社法や商業登記法などの専門知識が求められる複雑な手続きです。少しでも不安がある場合や、本業に集中したい場合は、登記の専門家である司法書士に相談・依頼することを強くお勧めします。
司法書士は、必要な登記の種類や期限について的確なアドバイスをしてくれるだけでなく、書類作成から法務局への申請までを代行してくれます。顧問司法書士がいれば、定期的な登記状況のチェックや、法改正に関する情報提供も期待でき、登記懈怠のリスクを大幅に軽減できます。
定期的な登記事項証明書の確認と社内体制の整備
最低でも年に一度、あるいは重要な経営判断を行うタイミングで、自社の登記事項証明書を取得し、記載内容に誤りがないか、最新の状態になっているかを確認しましょう。登記に関する事項が発生した場合の報告ルートや、登記手続きの担当者を社内で明確にしておくことも重要です。
登記懈怠の通知が来てしまった場合の対処法
万が一、裁判所から過料の通知書が届いてしまっても、以下のステップで冷静かつ迅速に対応することが重要です。
Step1. 通知内容を確認する
まず、過料決定の通知書の内容を詳細に確認しましょう。
- 宛名:代表者個人の氏名・住所に間違いはないか
- 原因となった登記懈怠の内容:どの登記を、いつ怠ったとされているのか
- 過料の金額:正確な金額
- 納付期限:いつまでに支払う必要があるのか
- 不服申し立て(即時抗告・異議申立)の期限:異議申立は1週間以内と非常に短いため注意が必要
- 連絡先:問い合わせ先の裁判所や検察庁の部署名、電話番号など
Step2. 登記懈怠の事実に間違いがないか確認する
登記懈怠の内容について、自社の記録や過去の登記事項証明書などと照らし合わせ、事実に間違いがないかを確認します。
もし、通知内容に疑義がある場合は、速やかに通知書に記載されている裁判所の担当部署に連絡し、事情を説明して指示を仰ぎましょう。
Step3. 正当な理由があるか検討する
登記懈怠に正当な理由があれば、不服申し立てによって過料の決定が覆る可能性もゼロではありません。災害や法務局側のシステムエラーなど、客観的に見て登記申請が不可能だったと証明できるような極めて例外的な事情があるかどうかを検討します。
Step4. 専門家に相談する
過料の通知が届いた時点で、一度は司法書士や弁護士といった法律の専門家に相談することをお勧めします。
- 通知内容の法的な意味合いの確認
- 事実確認のサポート
- 即時抗告の可否や手続きに関するアドバイス
- (もし懈怠している登記が未了であれば)速やかな登記申請のサポート
専門家に相談することで、状況を正確に把握し、最善の対応策を検討することができます。
Step5. 期限内に過料を納付する
登記懈怠の事実に間違いがなく、特に正当な理由も見当たらない場合は、残念ながら通知された過料を支払う必要があります。
通知書に記載された納付期限内に、指定された方法で納付しましょう。
過料を放置したり、支払いを無視したりすると、最終的には代表者個人の財産(給与、預金、不動産など)が差し押さえられる強制執行に発展する可能性があります。 必ず誠実に対応してください。
特に、異議申立を行う場合は、1週間という短い期限内に必要な書類を裁判所に提出する必要がありますので、専門家と連携し迅速に進めましょう。
Step6. 懈怠していた登記を速やかに行う
過料を支払ったからといって、懈怠していた登記義務は免除されません。放置している登記があれば、過料の通知をきっかけに、速やかに正しい状態に是正するための登記申請を行いましょう。これを怠ると、取引上の不利益や別の過料など、さらなる問題が生じる可能性もあります。
Step7. 再発防止策を徹底する
過料という痛い経験を繰り返さないために、なぜ登記懈怠が発生してしまったのか原因を分析し、今後の再発防止策を社内で徹底することが最も重要です。役員の任期管理方法の見直し、登記担当者の設置、司法書士との顧問契約の検討など、具体的な対策を講じましょう。
過料のリスクを正しく理解し、信頼される企業経営を
法人登記は、単なる手続きではなく、会社の信用と透明性を社会に示すための重要な法的義務です。登記を怠ることによる過料のリスクは、金銭的な負担だけでなく、代表者個人の責任問題、そして何よりも企業の社会的信用に関わる問題です。
日々の適切な登記管理こそが、将来の予期せぬトラブルや無駄な出費を防ぎ、お客様や取引先、そして社会から信頼される企業であり続けるための第一歩です。この記事が、皆様の健全な企業経営の一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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