- 更新日 : 2025年10月31日
借金のある個人事業主が法人化するには?債務引受の流れや仕訳を解説
個人事業主時代にできた借金は、法人化のタイミングで会社に引き継いで債務引受をするか、個人で返済し続けるかのいずれかの方法を選択する必要があります。
この記事では借金を個人で返済する場合と法人に引き継ぐ場合の違い、債務引受の種類、手続きの手順についてご紹介します。
目次
個人事業主時代の借金は、法人化する際にどう取り扱う?
個人事業主時代の借金は、法人化後も基本的には個人に返済義務が生じます。事業のための借金であっても、自動的に法人には引き継がれません。ただし、金融機関と交渉して債務の名義を会社に変更することは可能です。
こちらでは会社に引き継ぐ場合と、引き継がない場合それぞれの利点と注意点について見ていきましょう。
個人で返済する(会社に引き継がない)
個人事業主時代の借金を法人化後も個人で返済する場合、借金は法人の財務とは切り離されます。この選択肢の最大のメリットは、法人としての財務が健全に保たれる点です。法人の資金が借金の返済に充てられることはないため、リソースを事業運営や投資に集中でき、経営の自由度が高まります。
一方で、個人の借金返済能力が法人の信用力に影響を与える可能性もあるため注意が必要です。特に新たな融資を受ける際には、個人の借入状況が金融機関に審査されることもあります。法人として融資を受ける予定がある場合は返済計画を明確にし、リスクを最小限に抑えましょう。
債務引受をする(会社に引き継ぐ)
法人化の際に個人事業主時代の借金を法人に引き継ぐことを「債務引受」といいます。債務引受をすると、借金の返済義務が法人に移るため個人の金銭負担が軽減される、支払利息を損金に算入できるといったメリットがあります。また、法人として金融機関との取引実績があると、追加融資が受けやすくなる場合もあります。
ただし、法人が抱える債務が大きいと経営状態が悪化した際に倒産リスクが高まる可能性があるため、注意が必要です。また、法人として債務を負う際には、事業計画を明確にし、経営の安定性を金融機関に示す必要があります。
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債務引受とは
債務引受とは個人の借金の名義を法人に変更することを指します。これによって債務の返済責任が変更されるため、法人成りの際に活用されることが多いようです。
債務引受には主に「重畳的債務引受」と「免責的債務引受」の2つがあります。こちらではそれぞれの特徴について詳しくご紹介します。
重畳的債務引受
重畳的債務引受(併存的債務引受)は、既存の債務者が引き続き返済責任を持ちながら、新たな債務者が加わる形でその債務を引き受ける方法です。個人と法人の両者が債務者となるため、債権者にとっては返済の確実性が高まる利点があります。一方で、旧債務者は引き続き責任を負うため、法人化後も個人として返済義務を果たさなければなりません。
重畳的債務引受では法人化した会社が新たな債務者として加わるケースが一般的です。この方法を選択する際は、債権者(金融機関など)との合意が必要であり、契約内容の確認や法的な手続きが求められます。なお、債務引受により税務上の影響が生じることがあるため、税理士などの専門家に相談したうえで判断されるのがおすすめです。
免責的債務引受
免責的債務引受は、既存の債務者が返済責任を免除され、新たな債務者が全ての返済義務を引き継ぐ仕組みです。この方法では会社が全額を負担する形となり、個人の債務負担がなくなるため、個人事業主にとって精神的な負担軽減につながります。
ただし、債権者が新しい債務者を信用するかどうかが重要なポイントであり、健全な信用情報や担保が求められる場合があります。また、免責的債務引受により法人の財務状況に影響が及ぶ可能性があるため、法人化後の収支計画を慎重に立てましょう。さらに、税務上の処理も含め、法律や規制にのっとった対応が求められるため、専門家のサポートを受けるのが一般的です。
債務引受を行う方法
債務引受を行う際には、債権者と引受人が合意する必要があります。または、債務者と引受人が合意し、債権者が承諾をすることによってもできます。契約書の作成や債務引受契約の締結を通じて正式に行われます。特に法人化を考えられている個人事業主は、借金をどのように引き継ぐかを慎重に検討しましょう。
準備するもの
債務引受を行うためには契約書を作成する必要があり、以下の内容の明記が必要です。
- 債務の表示(債務の元本、利息、返済期間、遅延損害金等)
- 債務引受の種類(併存的債務引受か免責的債務引受か)
- 契約の条件や範囲(履行の方法、履行の請求、契約の解除など)
- 専属的合意管轄裁判所
- 契約年月日
- 債権者、債務者、引受人の署名と押印
契約書の他に印紙税、契約内容によっては登記の変更などが必要となります。
債務引受の流れ
債務引受の手続きの基本的な流れは、以下の通りです。
- 債務内容の確認・交渉
債権者と債務者が債務の金額、条件、返済方法を確認する。 - 債務引受契約の書類作成
契約書に必要事項を記載し、旧債務者、新債務者が署名・押印する。 - 債務引受の効力発生
免責的債務引受の場合、債権者が債務者に通知通知した時に効力が発生する。また、債権者が引受人に承諾することによってもすることができる。併存的債務引受の場合、債権者・引受人間の契約によってすることができるが、債務者・引受人間の契約によってもすることができる。この場合、債権者が引受人に対して承諾をした時に効力が発生する。
契約書がないと税務署から税務調査の際に指摘を受けることもあるため、きちんと債務引受の合意がしたことがわかるような書類を作成しましょう。
債務超過の状態で法人化する場合の注意点
債務超過の状態で法人化する場合、慎重な判断が求められるでしょう。まず、債務を引き次ぐ場合、会計処理上では法人が個人に貸付している状態になり「役員貸付金」が発生します。この貸付金は経済的利益とみなされ、代表者個人に所得税の納税義務が発生することもあります。また、免責的債務引受はみなし贈与として、一部例外を除いて贈与税の対象です。他にも債務引受の際に法人の信用力が低下するリスクがあるため、金融機関からの追加融資が難しくなる可能性を考慮しましょう。
また、法人化に伴い個人の負債が法人へ移転されるケースでは、代表者保証が必要になることが多く、その場合は個人の財務上の負担やリスクが完全に解消されるわけではありません。法人設立後は、法人税や社会保険料など法人ならではの負担が発生するため、収益が見合わない場合には資金繰りが悪化するリスクがあります。
個人事業主が債務引受を行って法人化するかの判断基準
個人事業主が債務引受を行い法人化するかどうかを判断する際には、負債の状況や法人化のメリットを慎重に検討することが必要です。債務額が大きく事業の収益性が改善していない場合は、負債が減少するまで法人化を見送ったほうがよいという場合もあります。
一方で、法人化には節税や信用力の向上といったメリットがあり、事業拡大を目指す場合には早期の法人化が有利になることもあるでしょう。特に、法人化によって個人の債務を法人に移転することが可能な場合は、リスク分散にもつながります。
ただし、債務引受を行う際には代表者保証が求められるケースも多いため、その点を十分に理解したうえで決断しましょう。
借金がある個人事業主の法人化に関する参考データ
借金がある個人事業主が法人化を検討する際、実際の法人化経験者のデータを参考にすることが重要です。
個人事業主から法人化する事業者の割合は高い
マネーフォワード クラウドが実施した調査によると、会社設立者1,040名のうち57.8%が個人事業主として事業を行った後に法人成りしています。特に設立1年以内の企業では68.5%、設立2~3年以内の企業では75.2%が個人事業主からの法人成りという結果が出ています。
この傾向は、借金がある個人事業主にとっても参考になります。多くの事業者が個人事業主として事業基盤を固め、一定の収益性を確保した段階で法人化を選択していることがわかります。借金がある場合でも、事業が軌道に乗り、安定した収益が見込める段階で法人化を検討することで、債務引受による節税効果(支払利息の損金算入)などのメリットを最大限に活用できる可能性があります。
出典:マネーフォワード クラウド、先輩起業家が一番困ったことは?【会社設立の意思決定調査】(回答者:会社設立の経験がある方1,040名、集計期間:2024年1月)
債務引受を含む法人化手続きは専門家のサポートが重要
借金がある状態での法人化は、通常の法人化よりも複雑な手続きが必要です。債務引受契約の締結、債権者との交渉、税務処理など、専門的な知識が求められます。
近年設立された企業ほど個人事業主からの法人成りの割合が高いという調査結果は、法人化に関する情報や支援サービスが充実し、計画的に法人化を進める事業者が増えていることを示しています。借金がある個人事業主も、債務引受の種類(重畳的債務引受か免責的債務引受か)を慎重に選択し、税理士などの専門家に相談しながら、最適なタイミングと方法で法人化を進めることが成功のポイントとなるでしょう。
債務引受にお悩みなら専門家に相談するのがおすすめ
個人事業主から法人化する際、債務の扱いは業務内容や負債額、利益とのバランスなどで適した対処法が異なります。法人に債務の名義を変更することで、個人の負担が軽減されるメリットがあるものの、債務引受の際には贈与税や所得税が発生することがあります。
債務引受以外の手続きも視野に入れながら、その時の状況や将来的なビジョンに合った選択をするために、必要に応じて税理士などの専門家にも相談し検討しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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