- 作成日 : 2025年5月28日
DXを活用するには?業界別の具体例や進め方、支援や補助金を解説
近年、業務の効率化や新たな価値創出を目指して、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が注目されています。しかし、「具体的に何から始めればよいのか」「自社の業界ではどのような取り組みがあるのか」といった疑問を持つビジネスパーソンも多いでしょう。本記事では、DXを導入するための基本知識から業界別の具体例、進め方、支援策や補助金の情報までを、わかりやすく解説します。
目次
DXを活用するには?
DX(ディーエックス)とは、デジタル技術を活用して、企業の仕組みや業務の進め方を根本的に改善していく取り組みです。
たとえば、これまで紙の書類で処理していた業務をクラウド化したり、蓄積されたデータを活用して新しいサービスを生み出したりすることも、DXの一環です。
この「DX」は「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略で、テクノロジーの力を使って企業や社会をより良く変えていくという考え方に基づいています。
重要なのは、新しいシステムやツールを導入すること自体が目的ではないという点です。「何をどう変えれば会社全体がより良くなるか」「変革によって得たい成果は何か」を明確にし、業務や組織のあり方そのものを見直していくことが、DXの本質になります。
まずは、現状の課題を明らかにし、「どこに無駄があるのか」「何が変わると仕事がスムーズになるのか」を把握することから始めましょう。
【業界・職種別】DXを活用した具体例
DXの導入方法は、業種や職種によってさまざまです。以下に主な業種ごとの事例を紹介します。
1. 製造業|研究開発・製造・品質管理
- 研究開発
AIやシミュレーション技術を活用し、試作回数を減らすことで開発期間やコストの削減につなげる取り組みが進んでいます。 - 製造
センサーやIoT機器を使って生産状況をリアルタイムで把握し、無駄のない運用や不良品の早期発見を可能にする取り組みが進んでいます。 - 品質管理
これまで職人の目で行っていた検査をAIが画像認識で代替し、判定の自動化や品質の均一化が図られています。
2. 建設業|設計・施工管理・安全管理
- 設計
2Dに代わって3D設計ソフト(BIM)を活用することで、現場とのズレを防ぎ、部材の手配や作業手順のミスを減らす工夫がされています。 - 施工管理
カメラやドローンで現場を記録し、自動で情報を整理する仕組みを取り入れることで、報告書の作成にかかる負担を軽減しています。 - 安全管理
重機や作業員の位置をセンサーで把握し、危険な状況を検知して自動で注意を促すシステムが活用されています。
3. 物流・配送業|倉庫管理・配送計画・ドライバー管理
- 倉庫管理
商品の在庫や場所をリアルタイムで把握できるシステムを導入することで、在庫切れや過剰在庫を防ぐことができます。 - 配送計画
AIが需要予測を行い、効率的なルートを組むことで、配送の無駄を減らし、ドライバーの負担も軽減できます。 - ドライバー管理
スマートフォンアプリを使って、配送ルートやお届け先の情報をリアルタイムで共有し、トラブル対応も素早く行えるようになります。
4. 小売・EC業界|販売・マーケティング・在庫管理
- 販売
顧客の購買履歴や行動データを分析し、個別におすすめ商品を表示する仕組みで売上向上を図っています。 - マーケティング
SNSや自社サイトと連携した情報配信を通じて、顧客の関心に合わせたキャンペーンや情報発信が行えるようになります。 - 在庫管理
売れ行きの傾向からAIが自動で発注量を調整することで、在庫過多や機会損失のリスクを低減しています。
5. バックオフィス業務|経理・人事・契約管理
DXを活用していない状態とは
DXの取り組みが進んでいない職場では、さまざまな場面で非効率なことや課題が残ったままになっていることがあります。ここでは、 DXを活用していないとどのような問題が生じるのか、よくある例を見ていきましょう。
業務の属人化が進む
業務の進め方やノウハウが特定の担当者に依存している場合、その人が不在になると業務が滞ってしまうことがあります。
情報の共有や業務の標準化がされていないと、教育や引き継ぎにも多くの時間が必要になります。
アナログな作業のため負担がかかる
紙の申請書や手書きの帳票、Excelへの転記作業などが残っていると、確認や管理に多くの手間がかかり、担当者の負担が大きくなります。
同じ情報を複数の場所に入力する「二重管理」も起こりやすく、作業ミスや伝達漏れのリスクが高まります。
情報共有に時間がかかる
部門ごとにデータが分散していると、必要な情報を迅速に取得できず、意思決定や業務遂行に遅れが生じます。
その結果、報告や連携のスピードが落ち、業務全体のスピードや組織全体の柔軟性にも悪影響を与えかねません。
判断が感覚や経験に頼りがち
業務データが可視化されていない場合、意思決定が属人的になり、感覚や経験に頼った判断に偏ってしまうことがあります。
個人の感覚や経験をもとにした判断は一定の成果を生むこともありますが、再現性客観性に乏しく、組織としての透明性や信頼性に課題が残ります。
組織としての柔軟性が乏しくなる
社会や市場環境の変化に適応するためには、迅速かつ柔軟な体制が求められます。
しかし、旧来の仕組みや紙中心の業務が続いていると、新しい働き方やデジタルツールの導入が進まず、変化への対応力が低下する恐れがあります。
DXを活用するための進め方
DXを活用して業務改革を進めるためには、単にITツールを導入するだけでは不十分です。企業の目的や課題に応じて、「なぜDXを行うのか」「何をどう変えるのか」を明確にし、段階的かつ戦略的に取り組んでいく必要があります。
この章では、DXの基本的な進め方を、6つのステップに分けて解説します。
ステップ1:目的と方針を定める
DXを成功させるためには、まず「何のために変えるのか」を明確にすることが重要です。
業務の効率化に加え、顧客への新たな価値提供や従業員の働き方の見直しなど、企業の将来的なビジョンと結びつけてDXの目的を設定しましょう。
ステップ2:経営層が主体となる
DXは現場レベルの取り組みにとどまらず、会社組織全体を変革するための経営課題でもあります。
そのため、経営層が自ら主導し、必要な予算や体制を整えることが求められます。
トップが明確な方向性を示すことで、現場の理解と協力も得やすくなり、全社的な推進力が生まれます。
ステップ3:現状の業務を可視化する
変化を進めるには、今の業務の流れを正確に把握することが欠かせません。
どの業務に無駄が多いのか、どこで情報が滞っているのかなど、業務のボトルネックや非効率な部分を見つけるために、業務フローの「見える化」を行います。
ステップ4:適切なITツールを選ぶ
現状の課題が明らかになったら、それを解決できるITツールを選定します。
クラウド会計、人事システム、契約管理ツールなど、目的に応じて最適なソリューションを選ぶことで、過剰な投資を防ぐことができます。
また、「操作が簡単か」「拡張性があるか」といった視点も踏まえ、現場が使いこなせるかどうかも考慮しましょう。
ステップ5:小さく始めて成果を積み上げる
最初からすべての業務を一気に変えようとすると、現場の混乱や反発を招く恐れがあります。
まずは一部の部門や業務から試験的に導入し、成果を検証しながら範囲を広げていく方法が効果的です。
「まずはできるところから」という姿勢が、成功のカギとなります。
ステップ6:継続的に改善を行う
DXは一度導入すれば終わりではありません。技術の進化や環境の変化に合わせて、定期的に見直しや改善を行うことが重要です。
導入後の効果測定やフィードバックをもとに、業務フローやツールの使い方を調整し、継続的な成長につなげていきましょう。
このように、DXは段階を踏みながら「目的→現状把握→改善→定着」といったプロセスを段階的に進めることが重要です。
焦らず、着実に取り組むことで、業務効率化や組織の柔軟性向上といった大きな成果へとつながっていきます。
DXを活用するための支援や補助金
DXを活用して業務の改善や効率化を図りたいと考えても、初期投資や専門知識の不足から導入に踏み出せないケースも少なくありません。そこで、国や自治体では中小企業や小規模事業者を対象に、DX推進を支援する補助金制度を用意しています。
以下に、代表的な補助金制度とその概要をご紹介します。
なお、補助金制度は年度ごとに内容や条件が変更されることがあります。最新の情報や詳細な申請要件については、各制度の公式ウェブサイトや中小企業庁の「デジタル・IT化支援」ページをご確認ください。
IT導入補助金
中小企業が業務効率化や生産性向上を目的としてITツールを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。クラウド会計ソフトや人事・労務管理システム、契約管理ツールなど、幅広いITツールが対象となります。
- 対象企業:中小企業・小規模事業者(製造業、建設業、運輸業、卸売業、小売業、サービス業など)
- 補助率:1/2~3/4(インボイス枠では最大4/5)
- 補助上限額:最大350万円(導入するITツールの機能数や種類によって異なります)
参考:IT導入補助金2025
ものづくり補助金
製造業を中心とした中小企業が、新製品の開発や生産プロセスの改善を行う際に活用できる補助金です。DXに関連する設備投資やシステム導入も対象となり、革新的な取り組みを支援します。
- 対象企業:中小企業・小規模事業者(製造業、建設業、運輸業、卸売業、小売業、サービス業など)
- 補助率:1/2(小規模事業者や再生事業者は2/3)
- 補助上限額:従業員数に応じて最大4,000万円
事業再構築補助金
新たな事業分野への進出や業態転換を図る中小企業を支援する制度です。DXを活用した新サービスの開発やオンラインビジネスへの転換など、事業再構築に伴う投資をサポートします。
- 対象企業:中小企業・中堅企業(製造業、建設業、運輸業、卸売業、小売業、サービス業など)
- 補助率:中小企業は1/2(賃上げ要件を満たす場合は2/3)、中堅企業は1/3(賃上げ要件を満たす場合は1/2)
- 補助上限額:従業員数に応じて成長分野進出枠(通常類型)は最大6,000万円(短期に大規模な賃上げを行う場合は7,000万円)
参考:事業再構築補助金
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者が販路開拓や業務効率化を目的として行う取り組みに対して、経費の一部を補助する制度です。DXに関連するツールの導入やウェブサイトの構築なども対象となります。
- 対象企業:小規模事業者(商業・サービス業は従業員数5人以下、宿泊業・娯楽業・製造業などは20人以下)
- 補助率:2/3
- 補助上限額:最大200万円(特別枠の活用により引き上げられる場合があります)
参考:小規模事業者持続化補助金
補助金制度は、DXの導入を後押しする強力な手段となります。自社の課題や目標に合った制度を選び、計画的に活用しましょう。
DXを活用する際の成功のポイント
ここでは、DXを効果的に活用し、業務効率化を実現するためのポイントを3つにまとめてご紹介します。
現場の理解と巻き込みがカギ
DXは経営の戦略だけでは完結するものではなく、現場での実行が伴ってはじめて効果を発揮します。
そのため、現場の社員が目的を理解し、「自分ごと」として主体的に関わっていくことが重要です。
- DXの目的や導入背景をわかりやすく説明し、従業員全員で共有する
- 小規模な導入やトライアルを行い、業務へのメリットを実感してもらう
- 操作研修やマニュアルを整備し、ツールの使い方の不安を解消する
こうした取り組みによって、現場の声を丁寧に聞き、導入後の改善にも反映することで、よりDXが定着しやすくなります。
スモールスタートで取り組む
「すべてを一気に変える」のではなく、スモールスタートで段階的に取り組むことが成功のカギです。
- 特定の部署や業務に限定してDXを導入してみる
- 成果が見えやすい業務から始める(例:経費精算や勤怠管理など)
- 改善された点や工数削減などを社内で共有し、成功体験を可視化する
「便利になった」「作業が楽になった」という声が社内に広がれば、自然と他部門への展開もしやすくなります。
DXを“続ける”ための仕組みづくり
DXは導入して終わりではありません。継続的な改善と運用が求められます。
- 定期的に効果を振り返り、改善点を話し合う場をつくる
- 社内にDX推進を担当するメンバーやチームを設ける
- 新しいツールや働き方に挑戦しやすい組織風土を育てる
「変化に柔軟な文化」が醸成されることで、DXを活用した新たな取り組みも前向きに受け入れられるようになります。
DX活用は「身近な業務から」始めるのが成功の近道
DXは、大企業だけの取り組みではありません。中小企業や小規模事業者にとっても、DX活用は今ある課題を見直し、業務効率や働き方を改善するチャンスにつながります。
たとえば、紙の申請書をオンライン化することで、申請フローがスムーズになり、リモートワークにも対応しやすくなります。
また、クラウド会計や契約管理ツールを導入すれば、手作業や紙のやり取りが減り、日々の業務に余裕が生まれます。
まずは自社の業務を棚卸しし、補助金や支援制度も上手に活用しながら、段階的かつ計画的にDXを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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