• 作成日 : 2025年11月6日

厨房の暑さ対策、どうすればいい?エアコンが効かない環境でも涼しく!おすすめグッズから設備まで徹底解説

飲食店の厨房における夏の過酷な暑さは、多くの経営者様やスタッフの方々が抱える深刻な悩みではないでしょうか。この暑さは、スタッフの健康を脅かすだけでなく、労働意欲の低下や離職にもつながりかねません。

この記事では、なぜ厨房が暑くなるのかという根本的な原因から、すぐに実践できる厨房の暑さ対策グッズ、エアコンが効かない場合の対処法、そして厨房専用エアコンやスポットクーラーといった設備投資まで、多角的な解決策を提案します。キッチンの熱中症対策を進め、誰もが働きやすい環境を整えるための一助となれば幸いです。

なぜ飲食店の厨房はこれほど暑くなるのか?

飲食店の厨房が著しく暑くなる主な原因は、調理器具が発する「熱」、その熱がこもりやすい「構造」、そして体感温度を上げる「湿度」の3つが複合的に絡み合っているためです。

厨房では、ガスコンロやオーブン、フライヤーといった複数の調理器具が同時に稼働し、大量の熱を発生させます。さらに、限られた空間で火や蒸気を使用するため、熱と湿気が充満しやすく、一般的なオフィス環境とは比較にならないほどの高温多湿な環境が生まれます。

大量の熱を発生させる調理器具

厨房内には、ガスコンロ、オーブン、フライヤー、グリル、食洗器など、数多くの熱源が存在します。特に火を直接使う調理器具は、周囲の温度を急激に上昇させます。これらの機器が一日中稼働し続けることで、厨房全体の温度が常に高い状態で維持されてしまうのです。

熱がこもりやすい構造と換気の問題

厨房は、衛生面や防火の観点から、区切られた狭い空間であることが少なくありません。この構造が、発生した熱の逃げ場をなくし、熱だまりを生む原因となります。また、排気フード(換気扇)は調理中の煙や油を吸い込むことが主目的であり、厨房全体の空気を効率的に冷却・循環させる能力には限界があります。給気と排気のバランスが悪いと、外の熱い空気を引き込んでしまうこともあります。

体感温度を上げる「湿度」

ラーメンやパスタの茹で釜、煮込み料理、食洗器など、厨房では大量の蒸気が発生します。この蒸気が厨房内の湿度を押し上げ、同じ温度でも体感的にはるかに暑く感じさせる要因となります。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温調節機能がうまく働かなくなるため、熱中症のリスクが格段に高まります。

厨房の暑さを放置すると、どのようなリスクがあるか?

厨房の過酷な暑さを対策せずに放置することは、スタッフの健康被害、離職率の増加、生産性の低下といった、お店の存続に関わる重大な経営リスクに直結します。

厚生労働省も、職場における熱中症予防対策の重要性を呼びかけています。高温多湿な環境は、熱中症を引き起こすだけでなく、従業員の集中力を散漫にさせ、調理ミスや火傷などの労働災害につながる危険性も高めるからです。「厨房が暑すぎて辞めたい」という声は、人材不足が深刻化する飲食業界において無視できない問題といえるでしょう。

参考:職場における熱中症予防情報|厚生労働省

死に至る危険もある「熱中症」のリスク

厨房は、熱中症警戒アラートが発表されるような環境になりやすい場所です。初期症状であるめまいや立ちくらみから、重症化すると意識障害や痙攣を引き起こし、命に関わることもあります。スタッフの健康と安全を守ることは、経営者の最も重要な責務の一つです。

「厨房が暑いから辞めたい」を防ぐ、労働環境改善の重要性

過酷な労働環境は、従業員のエンゲージメントを著しく低下させます。特に経験豊富なスタッフが暑さを理由に離職してしまうことは、お店にとって大きな損失です。快適な職場環境を整備することは、採用コストの削減と定着率の向上につながり、長期的な経営安定に貢献します。

集中力低下による生産性の悪化や事故の発生

暑さによる疲労やストレスは、人間の集中力や判断力を鈍らせます。その結果、オーダーミスや調理品質の低下を招くだけでなく、包丁や火気を扱う厨房では、火傷や切り傷といった労働災害のリスクも増大させてしまいます。

【設備編】厨房の暑さを根本から解決するには、どんな方法がある?

厨房の暑さに対する効果的な根本対策は、厨房専用の空調設備を導入・見直しすることです。具体的には、「厨房専用エアコン」「スポットクーラー」「換気システム」の3つが主要な選択肢となります。

一般的なオフィス用エアコンは、厨房特有の油分や熱、湿気に対応できず、すぐに故障する可能性があります。そのため、専門メーカーは耐油・耐熱性能を備えた厨房専用モデルを推奨しています。これらの設備は初期投資が必要ですが、長期的な視点で見れば、労働環境の抜本的な改善と安定した店舗運営に不可欠といえます。

参考:「飲食店の業務用エアコンの選び方と暑さ対策」|ダイキン工業株式会社

非常に効果的!厨房専用エアコンを検討する

厨房には、油煙(オイルミスト)が多く浮遊しているため、一般的なエアコンではフィルターや内部の熱交換器がすぐに目詰まりし、故障の原因となります。

  • 厨房専用エアコンの特徴:
    • 耐油性:油汚れに強いステンレス製のフィルターや外装パネルを採用。
    • 耐熱性:高温環境下でも安定して冷房能力を発揮できるよう設計されている。
    • 清掃のしやすさ:簡単に取り外して掃除できる構造になっている。

導入にはコストがかかりますが、長期的な耐久性と効果を考えれば確実な投資といえるでしょう。

特定の場所を冷やす「スポットクーラー」を効果的に使う

「厨房全体にエアコンを設置するのは難しい」という場合には、スポットクーラー(スポットエアコンとも呼ばれる)が有効です。特定の作業場所やスタッフをピンポイントで冷却できます。

  • スポットクーラー活用のポイント:
    • 排熱処理を必ず行う:本体背面から熱風が出るため、排熱ダクトを使って屋外に熱を逃がさないと、かえって厨房全体の温度が上がってしまいます。
    • 設置場所を工夫する:調理の邪魔にならず、かつ最も冷却したい場所に風が届くように配置します。
    • ドレン水の処理:冷却時に発生するドレン水(凝縮水)を定期的に捨てるか、排水設備に接続する必要があります。

熱を効率的に逃がす「換気システム」を見直す

強力な排気フードは厨房内の熱を外に逃がす上で重要ですが、「給気」とのバランスが取れていないと十分な効果を発揮しません。

  • 換気見直しのポイント:
    • 給排気バランスの確認:排気量に見合った給気量が確保できているか、専門業者に相談してみましょう。給気が不足すると、ドアの開閉が重くなったり、外の熱い空気が隙間から侵入したりする原因になります。
    • 排気フードの清掃:フィルターに油汚れが溜まると排気能力が著しく低下します。定期的な清掃を徹底することが大切です。

【グッズ・工夫編】低コストですぐに始められる暑さ対策はありますか?

設備投資が難しい場合でも、低コストですぐに導入できる対策グッズや日々の工夫を組み合わせることで、厨房の体感温度を大きく下げることが可能です。特に、個人の身体を直接冷やすアイテムは即効性があります。

大規模な工事を必要としないサーキュレーターの設置や、空調服(ファン付きウェア)、ネッククーラーといった個人向け冷却グッズは、多くの飲食店で導入され、その効果が実証されています。これらはスタッフ個人でも準備できるため、アルバイトを含めた全従業員が実践しやすい対策といえます。

空気を循環させるサーキュレーター・扇風機の賢い設置場所

エアコンの冷たい空気は下に溜まり、調理の熱い空気は上に溜まる性質があります。サーキュレーターや業務用扇風機を使って空気を強制的に循環させることで、厨房内の温度ムラをなくし、体感温度を下げることができます。

  • 効果的な設置例:
    • エアコンの対角線上に置き、床に溜まった冷気を天井に向けて送る。
    • 涼しい場所から暑い場所へ向けて風を送り、空気の流れを作る。
      ※注意:火を使うコンロの近くに直接風を送ると、火が煽られて危険なため設置場所には十分注意してください。

スタッフ個人でできる対策グッズおすすめ5選

身体を直接冷やすグッズは、即効性が高くスタッフの満足度も高い対策です。ここでは、特におすすめの5つのアイテムについて、それぞれの特徴を詳しくご紹介します。

1. 空調服・ファン付きウェア

服に内蔵された小型ファンが外気を取り込み、その風で汗を気化させることによって身体を冷やす仕組みのウェアです。非常に高い冷却効果が期待でき、暑さによる疲労を軽減して作業効率の向上に直結する大きなメリットがあります。

一方で、ファンを動かすためのバッテリーを定期的に充電する必要があることや、狭い厨房内ではファンが物にぶつかり、作業の邪魔になる可能性がある点には注意が必要です。

2. ネッククーラー・クールリング

首元を直接冷やすことに特化した人気のアイテムです。電動で冷却プレートが冷たくなるタイプや、特殊な素材(PCM素材)が心地よい温度で自然凍結するリングタイプなどがあります。手軽に装着できる点が魅力で、首にある太い動脈を冷やすことにより、効率的に体全体の温度を下げる効果が期待できます。ただし、製品によって冷却効果の持続時間に限りがあるため、交換用の準備や、電動タイプの場合はこまめな充電が必要になります。

3. 冷感インナー・コンプレッションウェア

触れるとひんやりと感じる「接触冷感素材」や、汗を素早く吸収して乾かす「速乾素材」で作られたインナーウェアです。これを着用するメリットは、大量の汗をかいても肌がベタつきにくく、一日を通して作業中の不快感を軽減し、快適性を保ちやすいことです。

ただし、これ単体での冷却効果は他のグッズに比べて限定的といえます。空調服の下に着るなど、他の対策と効果的に組み合わせて使用するのがおすすめです。

4. 冷却スプレー・クールミスト

衣類の上からや肌に直接吹きかけることで、液体が蒸発する際の気化熱を利用して、手軽に清涼感を得られるアイテムです。休憩中などに使えば、素早く気分をリフレッシュできるのがメリットです。効果の持続時間は短いものが多いため、こまめに使用する必要があります。

また、製品によってはアルコール成分などが肌に合わない可能性もあるため、使用前に確認するとよいでしょう。

5. 塩分タブレット・経口補水液

これらは身体を直接冷やすものではありませんが、熱中症対策の基本として欠かせない重要なアイテムです。大量の汗によって失われた水分と塩分(電解質)を、調理の合間や休憩中に手軽に補給できます。

最大のメリットは、脱水症状や熱けいれんといった熱中症の症状を根本的に予防できる点です。あくまで熱中症を未然に防ぐための予防策であり、直接的な冷却効果はないことを理解し、他の冷却グッズや空調設備と必ず併用することが重要です。

運用でカバーする工夫(水分補給・休憩)

グッズや設備だけでなく、お店のルールとして熱中症対策を組み込むことも極めて重要です。

  • こまめな水分・塩分補給の徹底:喉が渇く前に、定期的に水分と塩分を補給する時間を設ける。
  • 定期的な休憩:1時間に1回など、涼しい場所で短時間でも休憩を取ることを義務付ける。
  • 早朝シフトの活用:仕込み作業などを比較的涼しい早朝に行うことで、高温下での作業時間を短縮する。

厨房のエアコンが効かない場合、何を確認すればよいか?

厨房のエアコンの効きが悪いと感じた場合、故障を疑う前にセルフチェックできるポイントがいくつかあります。まずは、フィルターの清掃や室外機の確認といった基本的なことから試してみましょう。

業務用エアコンの不調の原因として多いのが、フィルターの目詰まりです。特に油を多く使う厨房では、家庭用エアコンよりもはるかに短いサイクルでフィルターが汚れます。専門業者を呼ぶ前にこれらを確認することで、無駄な出費を抑えられる可能性があります。

フィルターが油や埃で目詰まりしていないか?

エアコンは室内の空気を吸い込んで冷やし、再び室内に戻します。この吸い込み口にあるフィルターが油や埃で詰まっていると、空気の循環が著しく悪化し、冷房効率が極端に低下します。取扱説明書に従い、定期的にフィルターを清掃してください。

室外機の周りに物が置かれていないか?

室外機は、室内機で集めた熱を外に放出する役割を担っています。この室外機の吹出口や吸込口の周りが物で塞がれていたり、雑草で覆われていたりすると、熱交換がうまくいかずに冷房能力が低下します。室外機の周りは常に整理整頓し、風通しを良くしておきましょう。

 エアコンの能力が厨房の熱量に見合っているか?

店舗の開業当初は問題なくても、調理器具を増やしたり、メニューを変更したりしたことで、厨房内の総発熱量がエアコンの冷却能力を上回ってしまった可能性も考えられます。この場合は、より能力の高い機種への買い替えや、スポットクーラーの追加設置などを検討する必要があります。

それでも改善しない場合は専門業者へ相談

上記のセルフチェックを行っても改善が見られない場合は、冷媒ガスの漏れやコンプレッサーの故障など、専門的な修理が必要な可能性があります。無理に自分で対処しようとせず、速やかに信頼できる専門業者に点検を依頼しましょう。

快適な厨房環境で、スタッフとお店の未来を守るために

今回は、飲食店の厨房の暑さ対策について、原因から具体的な解決策までを網羅的に解説しました。厨房の過酷な暑さは、単なる季節の問題ではなく、スタッフの健康、定着率、そしてお店の生産性に直結する経営課題です。まずは、サーキュレーターの設置やネッククーラーの支給など、すぐに始められることから着手してみてはいかがでしょうか。

その上で、長期的な視点に立ち、厨房専用エアコンの導入といった設備投資を計画的に検討することが、持続可能な店舗運営につながります。この記事が、皆様の飲食店の労働環境改善の一助となれば幸いです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事