- 作成日 : 2025年11月6日
飲食店のECサイト(通販)を成功させるには?必要な許可から成功事例、おすすめの始め方まで解説
飲食店のECサイト展開は、店舗の売上にプラスアルファの収益をもたらし、全国に新たなファンを獲得するための極めて有効な一手といえます。実店舗の営業だけでは出会えなかったお客様に自慢の味を届け、ブランドの認知度を飛躍的に高める可能性を秘めているからです。
この記事では、飲食店がEC(ネット通販)を始める際に知っておくべきメリットや課題、複雑な許可の取得方法、具体的な立ち上げステップ、そして参考にしたい成功事例まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
目次
飲食店がEC(通販)を始めるべき理由は何か?
飲食店がECサイト(ネットショップ)を始めるべき理由は、店舗収益の補完と全国への販路拡大が可能になる点です。これにより、実店舗の立地や営業時間に左右されない、安定した収益基盤を築くことができます。
新たな収益源の確保と安定化
ECサイトは、24時間365日商品を販売できるオンライン上の店舗です。天候や社会情勢によって実店舗の来客数が変動しても、ECからの売上があれば経営の安定化につながります。特に、アイドルタイムや休業日にも収益を生み出せる点は大きな魅力といえるでしょう。
商圏の全国的な拡大
実店舗の商圏は、基本的に店舗周辺の限られたエリアです。しかし、ECサイトを立ち上げることで、物理的な距離に関係なく、日本全国のお客様をターゲットにできます。かつて旅行で訪れたお客様や、SNSであなたの店を知った遠方のお客様が、オンラインで商品を購入してくれる可能性が生まれます。
店舗への送客効果とブランド認知度向上
ECサイトで商品を購入したお客様が、その味に感動して「いつか実店舗にも行ってみたい」と感じることは少なくありません。ECは、未来の来店客を育てるための強力なツールにもなります。また、オンラインでの露出が増えることで、お店の名前やこだわりが多くの人に知れ渡り、ブランド全体の認知度向上に大きく貢献します。
顧客データの収集とマーケティング活用
ECサイトを運営すると、購入者の年齢層、性別、居住地、購入履歴といった貴重な顧客データを収集できます。これらのデータを分析することで、どのようなお客様に、どの商品が人気なのかを正確に把握できます。その結果を新商品の開発や、実店舗のメニュー改善、効果的な販促キャンペーンの企画などに活かすことが可能です。
飲食店のEC参入における課題やリスクは何か?
飲食店のEC参入には多くのメリットがある一方、実店舗の運営とは異なる課題やリスクも存在します。特に、初期投資や運営コスト、食品の品質管理、そしてオンラインならではの集客の難しさが挙げられます。
初期投資と運営コストの発生
ECサイトを立ち上げるには、サイトの構築費用が必要です。無料のサービスもありますが、デザインや機能にこだわれば数十万円から数百万円の初期投資がかかることもあります。加えて、サイトの月額利用料、決済手数料、梱包資材費、配送料、そして広告宣伝費といった運営コストが継続的に発生します。
食品の品質管理と配送の問題
ECで販売する食品は、お客様の手元に届くまで品質を維持しなければなりません。特に、冷凍や冷蔵が必要な商品は、適切な温度管理が可能な梱包と配送方法(クール便など)が不可欠です。配送中の温度変化による品質劣化や、商品の破損といったトラブルは、お店の信用を大きく損なうリスクがあります。
集客とマーケティングの難しさ
ECサイトは、ただ開設しただけではお客様は訪れません。数多く存在する食品ECサイトの中から自社サイトを見つけてもらうためには、SEO(検索エンジン最適化)、SNSでの情報発信、Web広告など、オンラインでの集客活動が必須です。実店舗の知名度だけでは、オンラインでの成功は難しいと認識しておく必要があります。
煩雑な許認可の取得
後述しますが、飲食店がECで加工食品を販売する場合、多くは「飲食店営業許可」とは別に、製造する食品に応じた営業許可を保健所から取得する必要があります。この手続きは専門的な知識が求められ、施設の要件を満たすための改修が必要になる場合もあります。
飲食店のECサイトを始めるのに必要な許可や資格は?
飲食店がオンラインで食品を販売するには、「飲食店営業許可」に加えて、取り扱う商品に応じた営業許可の取得や届出が食品衛生法で義務付けられています。無許可で販売すると罰則の対象となるため、必ず事前に管轄の保健所に相談しましょう。
販売する商品によって必要な許可が変わる
ECサイトで販売したい商品が、店内で製造・加工したものである場合、その種類によって必要な許可が異なります。以下に代表的な例を挙げます。
| 必要な許可の種類 | 対象となる主な食品の例 |
|---|---|
| そうざい製造業 | 煮物、焼き物、揚げ物、カレー、シチュー、もつ煮込み、サラダなど |
| 菓子製造業 | ケーキ、クッキー、パン、焼き菓子、プリンなど |
| 食肉製品製造業 | ハム、ソーセージ、ベーコンなど |
| 魚肉製品製造業 | かまぼこ、ちくわ、はんぺんなど |
| めん類製造業 | 生麺、ゆで麺など(スープも製造する場合は別途許可が必要な場合あり) |
| アイスクリーム類製造業 | アイスクリーム、ジェラート、シャーベットなど |
| 食品の冷凍又は冷蔵業 | 魚介類を冷凍・冷蔵し、冷凍食品を製造する場合 |
2021年6月の食品衛生法改正により、原則として全ての食品事業者に保健所への「営業届出」が義務化されました。上記の許可が必要な業種は許可申請を行えば届出は不要ですが許可が不要な食品(包装済みの魚介食品や自社農園で採れた野菜など)を販売する場合でも、多くは営業届出が必要となります。
食品表示法と景品表示法への対応
オンラインで販売する加工食品には、食品表示法に基づき、名称、原材料名、アレルゲン、内容量、賞味期限、保存方法、製造者などの情報をパッケージに表示する義務があります。また、商品の説明で「最高級」「No.1」といった表現を使う場合は、景品表示法に抵触しないよう客観的な根拠が必要です。
許可取得までの流れと相談先
- 事前相談:まずは施設の図面などを持参し、管轄の保健所にECで販売したい商品と製造方法を伝え、必要な許可や施設基準について相談します。
- 申請書類の提出:指導内容に基づき施設を整備し、営業許可申請書、施設の図面、食品衛生責任者の資格を証明する書類などを提出します。
- 施設検査:保健所の担当者が施設を訪れ、申請内容と相違ないか、基準を満たしているかを確認します。
- 許可証の交付:検査に合格すると、後日許可証が交付され、営業を開始できます。
このプロセスには数週間から数ヶ月かかる場合があるため、余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
飲食店ECの始め方と成功させるためのポイントは?
飲食店のECを成功に導くには、戦略的な手順を踏むことが重要です。単に商品を並べるだけでなく、「誰に」「何を」「どのように」届けるかを明確にし、計画的に進めていきましょう。
STEP1: コンセプトと販売商品の決定
まず、「お店の強みは何か?」「どのメニューならECでも美味しさを再現できるか?」を考え、ECサイトのコンセプトを固めます。看板メニューの冷凍食品、オリジナルのドレッシングや調味料、特別な日に楽しむミールキットなど、お店の個性を活かせる商品を選びましょう。ターゲット顧客を明確にすることも、サイトデザインや価格設定の指針となります。
STEP2: ECサイトの構築方法を選ぶ
ECサイトを作る方法は、主に以下の3つです。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の規模や目的に合わせて選びましょう。
1. ECモール (楽天市場、Amazonなど)
すでにある大きなオンラインショッピングモールに出店する形式です。
- メリット:モール自体の集客力が高く、出店初期から多くの人の目に触れる機会があります。また、モールの知名度による信頼性を得やすい点も魅力です。
- デメリット:出店料や販売手数料が比較的高く、多くの店舗が出店しているため価格競争に陥りやすい傾向があります。サイトデザインの自由度も低く、独自性を出しにくいです。
- こんなお店におすすめ:EC運営のノウハウが少なく、まずは早く売上を立てたいお店や、ブランドの知名度にまだ自信がないお店に向いています。
2. ASPカート (Shopify、BASE、STORESなど)
提供されているシステムを利用して、独自のネットショップを構築する形式です。
- メリット:初期費用や月額手数料が安価なサービスが多く、手軽に始められます。デザインのテンプレートも豊富で、専門知識がなくてもオリジナリティのあるサイトを作りやすいのが特長です。
- デメリット:モールとは異なり、自分たちで集客活動を行う必要があります。サイトを開設しただけではお客様は来ないため、SNSや広告などを活用した販促が不可欠です。
- こんなお店におすすめ:お店の世界観やブランドイメージを大切にしたいお店や、できるだけコストを抑えてECを始めたいお店に適しています。
3. 自社開発 (フルスクラッチ)
ゼロからオリジナルのECサイトをシステム開発する形式です。
- メリット:デザインや機能を完全に自由に設計でき、既存の在庫管理システムなどとの連携も柔軟に行えます。最も理想に近いサイトを実現できる方法です。
- デメリット:開発費用が数百万以上と非常に高額になり、開発期間も長期にわたります。また、完成後の保守・運用にも専門的な知識を持つ人材が必要です。
- こんなお店におすすめ:将来的に大規模なEC事業への展開を考えているお店や、他にはない特殊な販売方法や機能を実装したいお店向けの選択肢です。
STEP3: 魅力的な商品ページの作成
お客様は実物を見ることができないため、商品ページの情報が購買の決め手となります。商品の魅力が伝わるシズル感のある写真、こだわりの調理工程、おすすめの食べ方などを詳しく記載しましょう。お客様のレビューや口コミも、信頼性を高める上で非常に重要です。
STEP4: 効果的な集客と販促活動
ECサイトへの集客には、SNS(Instagram, X, Facebookなど)の活用が効果的です。調理風景や新商品の情報を発信し、ファンとの交流を深めましょう。また、LINE公式アカウントでクーポンを配布したり、Web広告を出稿したりするなど、ターゲット顧客に合わせた方法でサイトの存在を知らせていく必要があります。
STEP5: 梱包・配送体制の構築
商品の品質を保ち、ブランドイメージを損なわない梱包を心がけましょう。緩衝材や保冷剤はもちろん、お店からのメッセージカードを同封するなどの工夫も喜ばれます。配送業者は、料金だけでなく、クール便の対応や時間指定の柔軟性などを比較して選びましょう。
参考にしたい飲食店のECサイト成功事例は?
多くの飲食店がECサイトで成功を収めています。ここでは、それぞれ異なるアプローチでファンを全国に広げている3つの事例を紹介します。成功の裏には、店舗の強みをECに最適化させる共通のヒントが隠されています。
事例1: ラーメン人生JET(冷凍ラーメン通販)
大阪の超人気ラーメン店「ラーメン人生JET」は、看板メニューの「鶏煮込みそば」などを冷凍商品化し、人気ラーメン通販サイト「宅麺.com」や「OMAKASE」などで販売しています。 店舗の味を忠実に再現した高品質な冷凍ラーメンは、遠方で来店できないファンや、自宅で手軽に専門店の味を楽しみたい層のニーズを掴みました。行列店のブランド力を活かし、有力な通販プラットフォームを活用することで、効率的に全国のラーメンファンへアプローチしている好例です。
事例2: 格之進(肉の加工品通販)
岩手県の熟成肉レストラン「格之進」は、自社のオンラインストアでハンバーグやメンチカツ、熟成肉などを販売しています。 特に、累計300万個以上を売り上げた「金格ハンバーグ」は、ギフトや贈答品としての需要を開拓し、EC事業の柱となっています。
生産者としてのこだわりやストーリーを丁寧に伝えることで商品の付加価値を高め、強力なブランドをEC上で確立しました。実店舗の味を家庭で楽しめる手軽さと、ギフトにも使える高級感を両立させている点が成功のポイントです。
出典:格之進オンラインストア
事例3: 湯布院 山荘無量塔(調味料・スイーツ通販)
大分県由布院の有名旅館「山荘無量塔(さんそうむらた)」は、旅館の敷地内にあるセレクトショップで販売しているオリジナル商品をオンラインでも展開しています。 特にロールケーキ「Pロール」で知られる「B-speak」や、旅館の朝食で提供される「粒マスタード」などは、宿泊客がお土産として購入するだけでなく、全国からお取り寄せする人気商品です。
旅館が持つ「上質」「特別感」といったブランドイメージをECサイトでも一貫して表現し、旅の思い出を追体験したい顧客や、本物志向の顧客層の心を掴んでいます。
飲食店向けECでよくある質問は?
飲食店がECを始めるにあたり、多くの経営者様が抱える疑問にお答えします。
Q. どのECカートサービスがおすすめか?
初めてECサイトを立ち上げるのであれば、初期費用や月額費用を抑えられるASPカートサービスがおすすめです。特に、「BASE (ベイス)」や「STORES (ストアーズ)」は、無料で始められるプランがあり、初心者でも直感的に操作できるため人気があります。デザイン性や拡張性を重視するなら、世界的にシェアの高い「Shopify (ショッピファイ)」も有力な選択肢となるでしょう。
Q. 冷凍食品の配送はどうすればよいか?
冷凍食品の配送には、ヤマト運輸や佐川急便などの大手配送業者が提供するクール便(冷凍タイプ)を利用するのが一般的です。配送業者と契約することで、配送料の割引を受けられる場合があります。梱包の際は、発泡スチロールの箱や厚手の段ボールを使用し、十分な量のドライアイスや保冷剤を入れて、商品が溶けないように万全の対策を施すことが重要です。
Q. 補助金を活用できるか?
はい、飲食店のECサイト構築や運営には、国や地方自治体が提供する補助金を活用できる場合があります。代表的なものに、ITツール導入を支援する「IT導入補助金」や、小規模事業者の販路開拓を支援する「小規模事業者持続化補助金」などがあります。公募期間や要件が定められているため、商工会議所や中小企業庁のウェブサイトで最新の情報を確認することをおすすめします。
未来のファンを全国に広げる一歩を踏み出そう
この記事では、飲食店がECを始めるメリットから、必要な許可、具体的な始め方、そして参考にすべき成功事例までを解説しました。飲食店のEC展開は、単に商品をオンラインで販売するだけでなく、お店のブランド価値を高め、全国に新たなファンを作るための強力な戦略です。
成功のためには、店舗の強みを活かした商品開発、適切な営業許可の取得、そして地道な集客活動が不可欠といえるでしょう。本記事で紹介したポイントや成功事例を参考に、あなたの飲食店の魅力をECサイトという新しい舞台で輝かせてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
飲食店のワンオペ営業を成功させるには?目安の席数はどれくらい?
近年、飲食店でのワンオペ営業が注目を集めています。少人数での運営が求められる中、効率的に業務を遂行するためには、座席数の設定が重要です。ワンオペ営業を成功させるためには、少ないスタッフでも充分に対応できる席数を見極める必要があります。この記…
詳しくみる飲食店の水道光熱費はどれくらい?平均額・経費割合・削減方法を解説
飲食店の水道光熱費について、最新の公的データや業界統計を元に平均額や経費に占める割合を解説します。光熱費を節約する節水設備の導入や節電方法、ガス代削減策など、飲食店ですぐに実践できるコスト削減方法も詳しく紹介します。 飲食店の水道光熱費の平…
詳しくみる飲食店のオーバーポーションとは?意味や使い方、適正量の計算方法を解説
オーバーポーションとは、飲食店で料理を盛り付ける際、規定の量よりも多く盛り付けてしまうことです。これは、食材のロスにつながり利益の減少に直結します。 この記事では、オーバーポーションの意味や起こる原因、デメリット、そして具体的な対策方法を分…
詳しくみる思わず入りたくなる飲食店とは?顧客の行動を促す空間と雰囲気作り
飲食店において、お客様の「入店する」「注文する」「また来たいと思う」といった一連の行動は、本人の意思だけでなく、お店が作り出す空間や雰囲気によっても後押しされています。なぜかお客様が店の前を通り過ぎてしまう、注文に時間がかかる、一度きりで再…
詳しくみるセントラルキッチンとは?導入手順やメリットデメリットまとめ
この記事では、セントラルキッチンの基本概念から、その仕組みや導入手順までを詳しく解説しています。セントラルキッチンのメリットとして、品質の一貫性やコスト削減、運営の効率化を紹介し、デメリットとして初期投資の負担や食品の鮮度保持の難しさを挙げ…
詳しくみる現在地から近い飲食店に選ばれるための登録方法やアイデア
現在地から近い飲食店を探すユーザーは、スマートフォンを使いながら「今すぐ食べたい」「どこか良い店ないか」といった強いニーズを持っています。このような見込み客に選ばれるには、検索で上位表示されるだけでなく、情報の見せ方や店舗の信頼感が決め手に…
詳しくみる