• 作成日 : 2025年9月25日

コンセント工事に資格は必要?店舗やオフィスでの基本を解説

オフィスのデスク周りや飲食店の客席で「コンセントが足りない」と感じることはないでしょうか。コンセントの増設や交換は、場合によっては電気工事士の資格が必要です。無資格での工事は法律で禁止されており、火災や感電のリスクも伴います。

この記事では、コンセント工事に必要な資格の範囲、無資格で作業した場合の罰則、資格の種類や安全な工事の依頼方法まで、経営者やビジネスパーソンが知っておくべき知識をわかりやすく解説します。

コンセント工事と資格の要否

コンセントに関する作業は、その内容によって電気工事士の資格が必要かどうかが決まります。安全に関わる重要な境界線ですので、正しく理解しておきましょう。

電気工事士の資格が必須となる工事

壁に固定されたコンセントの交換や、新しい場所にコンセントを増設する工事は、原則として電気工事士の資格がなければ行えません。これは、建物の内部配線を直接扱ったり、電圧がかかる部分に触れたりする作業であり、専門的な知識と技術が求められるためです。

具体的には、以下のような工事が該当します。

  • 既存のコンセントの場所を移動させる(移設)
  • 壁に穴を開けて新しいコンセントを設置する(増設)
  • 古くなった壁付きコンセントを新しいものに交換する
  • コンセントの差込口を2口から3口に増やすプレート交換(内部の配線工事を伴う場合)
  • ブレーカーの新設や交換

これらの工事は「電気工事」にあたり、電気工事士法によって有資格者でなければ作業してはならないと定められています。

資格がなくてもできる軽微な作業

一方で、資格がなくても行えるのは「軽微な作業」に限られます。これは、既存の設備を大きく変更せず、感電の危険性が低い作業を指します。

たとえば、以下のような作業は資格がなくても問題ありません。

  • テーブルタップ(延長コード)や電源タップを使用する
  • 家電製品のコンセントプラグ(コードの先端部分)が破損した際に、新しいものに交換する
  • 既存のコンセントプレートのカバー(配線に触れない表面のプラスチック部分)を交換する

重要なのは、壁の中の配線を直接触るかどうかです。配線を触らない範囲の作業であれば、資格は不要と判断できるでしょう。

参考:経済産業省 電気工事士等資格不要の「軽微な工事」とは

なぜコンセント工事に資格が必要なのか

コンセント工事に資格が求められるのは、不適切な工事が火災や感電といった重大な事故に直結するためです。配線の接続が不完全だと、そこから熱が発生して発火したり、漏電して人が感電したりする危険があります。

とくに多くの人が利用する店舗やオフィスでは、一つのミスが大きな被害につながりかねません。電気工事士は、国が定めた基準に基づき、安全に電気を扱える知識と技術を持っていることを証明する国家資格です。利用者の安全を守るため、法律で有資格者による作業が義務付けられています。

無資格でコンセント工事を行うリスクと罰則

「少しの工事だから大丈夫だろう」と安易に考えて無資格でコンセント工事を行うと、法律違反による罰則や、深刻な事故につながる可能性があります。経営者として知っておくべきリスクを解説します。

電気工事士法による罰則

電気工事士法では、電気工事士の資格がない人が法律で定められた電気工事を行うことを禁止しています。これに違反した場合、「三月以下の懲役又は三万円以下の罰金」が科される可能性があります。これは作業を行った本人だけでなく、無資格者に工事を依頼した事業者側も安全配慮義務を問われるケースがありえます。コスト削減を目的とした安易な判断が、結果的に法的な責任問題に発展するおそれがあるのです。

出典:電気工事士法|e-Gov法令検索

火災や感電事故のリスク

無資格者による工事で最も恐ろしいのは、火災や感電といった物理的な被害です。配線の接続不良や絶縁処理の不備は、漏電やショートを引き起こす原因となります。漏電は感電事故につながるだけでなく、気づかないうちに壁の内部で熱を持ち、やがて発火して火災に至ることも少なくありません。

とくに飲食店のように水や油を使う環境では、漏電のリスクがさらに高まります。従業員や顧客の安全、そして大切な資産である店舗やオフィスを守るためにも、無資格での工事は絶対に行わないでください。

賃貸物件や店舗でのトラブル

賃貸のオフィスや店舗で無資格工事を行った場合、さらなるトラブルに発展することがあります。まず、契約違反として扱われ、原状回復費用を請求されたり、契約を解除されたりする可能性があります。

また、万が一、無資格工事が原因で火災が発生した場合、加入している火災保険が適用されないことも考えられます。保険会社は、適正な施工が行われていたことを前提に補償を判断するため、法律に違反した工事による損害は補償の対象外とされるリスクがあるのです。

コンセント工事に必要な電気工事士の資格とは

コンセント工事に関連する資格は主に「第二種電気工事士」と「第一種電気工事士」の2種類です。店舗やオフィスの工事ではどちらが必要になるのか、それぞれの違いを理解しておきましょう。

第二種電気工事士でできること

一般住宅や小規模な店舗、オフィスのコンセント増設や交換といった工事は、基本的に「第二種電気工事士」の資格があれば対応可能です。第二種電気工事士は、600V以下で受電する一般用電気工作物の工事に従事できます。私たちが日常的に利用するほとんどのコンセントや照明器具の配線工事は、この範囲に含まれます。

たとえば、飲食店の客席にUSB付きのコンセントを増設したり、オフィスのレイアウト変更に伴いデスクの足元にコンセントを新設したりする工事は、第二種電気工事士の仕事です。

出典:電気工事士の種類|一般財団法人 電気技術者試験センター

第一種電気工事士が必要になるケース

「第一種電気工事士」は、第二種電気工事士の範囲に加えて、最大電力500kW未満の工場やビルなどの自家用電気工作物の工事も行えます。小規模な店舗やオフィスであれば第二種で十分な場合が多いですが、大規模な商業施設内のテナントや、高圧の電気を引き込んでいる工場、大型ビルの場合、第一種電気工事士の資格が必要になることがあります。

どちらの資格が必要かは、建物の受電設備によって決まるため、工事業者に確認するのが確実です。

資格取得の方法と難易度

第二種電気工事士の資格は、年に2回実施される国家試験に合格することで取得できます。試験は、筆記(マークシート)方式またはCBT方式による「学科試験」と、実際に工具を使って配線作業を行う「技能試験」で構成されます。学科試験に合格した人のみが技能試験に進めます。

2024年度の試験情報などを参考にすると、第二種電気工事士試験の合格率は、筆記試験が約60%、技能試験が約70%前後で推移しています。しっかりと対策すれば、実務経験がない人でも合格を目指せる資格といえるでしょう。しかし、経営者自身が取得するよりも、信頼できる有資格の専門業者に依頼するのが一般的です。

出典:試験実施状況の推移(第二種電気工事士試験)|一般財団法人 電気技術者試験センター

経営者が知っておくべきコンセント工事の依頼先と費用相場

実際にコンセント工事が必要になった際、どこに依頼し、どのくらいの費用がかかるのかは、経営者として把握しておきたい点です。ここでは、依頼先の選び方と費用の目安を解説します。

コンセント工事の依頼先

コンセント工事は、主に以下の事業者に依頼できます。

  • 電気工事業者・電器店: 電気工事を専門としており、コンセント増設から大規模な配線工事まで幅広く対応しています。地域に密着した業者も多く、比較的スムーズに対応してくれるでしょう。
  • リフォーム会社・工務店: 内装工事とあわせて電気工事を依頼する場合に適しています。レイアウト変更やリノベーションの一環としてコンセント工事を行う際に便利です。
  • ハウスメーカー: 新築や大規模な増改築の際に、設計段階からコンセントの位置や数を相談できます。

Webサイトで施工事例を確認したり、複数の業者から見積もりをとったりして、信頼できる依頼先を見つけましょう。

工事内容別の費用相場

コンセント工事の費用は、工事内容や建物の構造によって変動します。一般的な費用の目安は以下のとおりです。

工事内容費用相場の目安
コンセントの交換・修理5,000円~15,000円
既存回路からの分岐による増設12,000円~25,000円
専用回路の増設20,000円~40,000円

たとえば、近くの配線から分岐させてコンセントを1カ所増やす比較的簡単な工事であれば、1万円台で済むこともあります。

一方で、エアコンや電子レンジなど消費電力の大きい機器のために、分電盤から専用の配線を引く「専用回路の増設」は、費用が高くなる傾向にあります。これはあくまで目安であり、出張費や材料費が別途かかる場合があるため、必ず事前に見積もりを確認しましょう。

信頼できる業者の選び方

良い業者を選ぶことは、安全で質の高い工事の実現につながります。以下の点をチェックしましょう。

  • 電気工事業の登録・届出をしているか: 建設業許可や登録電気工事業者としての登録があるか確認します。
  • 見積もりが明確か: 工事内容や内訳が詳細に記載されているかを確認します。不明な項目があれば、遠慮なく質問しましょう。
  • 実績や口コミを確認する: ホームページなどで店舗やオフィスの施工実績を確認したり、第三者の口コミを参考にしたりするのも有効です。
  • 損害賠償保険に加入しているか: 万が一の事故に備えて、事業者が損害賠償保険に加入しているかどうかも確認しておくと、より安心です。

【飲食店・オフィス向け】コンセント計画で顧客満足度と業務効率を上げる

コンセントは単なる設備ではなく、顧客満足度や業務効率を左右する要素にもなりえます。経営者視点で、一歩進んだコンセント計画のポイントをご紹介します。

お客様満足度を高める客席のコンセント

カフェやレストラン、コワーキングスペースなどでは、お客様がスマートフォンやPCを充電できる環境が求められるようになっています。客席に自由に使えるコンセントがあれば、滞在時間の延長やリピート利用につながるかもしれません。

  • 設置場所の工夫: カウンター席の足元や、テーブル席の壁際に設置するのが一般的です。床に設置するフロアコンセントも、レイアウトの自由度が高まります。
  • USBポート付きコンセントの導入: ACアダプタがなくても直接USBケーブルをさせるタイプは、お客様にとって非常に便利で喜ばれます。

厨房やバックヤードの電源計画

飲食店では、厨房機器のために多くの電力が必要です。冷凍冷蔵庫、製氷機、電子レンジ、食洗機など、消費電力の大きい機器はそれぞれ専用回路を用意するのが基本です。タコ足配線は、容量オーバーによるブレーカーダウンや火災の原因となるため避けましょう。将来的に新しい機器を導入する可能性もふまえ、コンセントの数や回路には余裕を持たせておくと安心です。

将来のレイアウト変更を見越した配線

オフィスでは、組織変更や人員の増減に伴うレイアウト変更が頻繁に発生します。そのたびに大規模な電気工事を行うのはコストも時間もかかります。

OAフロア(フリーアクセスフロア)を採用して床下に配線スペースを確保したり、天井からコンセントを吊り下げる「コンセントバー」を導入したりすることで、柔軟にデスク配置を変更できるようになります。初期投資はかかりますが、長期的な視点で見ればコスト削減と業務効率化につながるでしょう。

安全な事業運営のためにコンセントの資格知識は欠かせない

この記事では、コンセント工事に必要な資格について、その範囲や無資格で作業するリスク、工事の依頼方法などを解説しました。コンセントの増設や交換といった壁の内部配線を扱う作業は、法律で定められた「電気工事」に該当し、電気工事士の資格が必須です。

資格のない人が安易に作業を行うと、法律による罰則だけでなく、火災や感電といった深刻な事故を引き起こす危険性があります。店舗やオフィスの安全は、事業を継続するうえでの大前提です。コンセントが不足した場合や不具合が生じた際には、自己判断で対処せず、必ず登録電気工事業者などの専門家に相談しましょう。

正しい知識を持ち、適切に対応することが、従業員やお客様、そして経営そのものを守ることにつながります。


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