• 作成日 : 2025年8月19日

飲食業における物流の課題とは?2024年問題の影響と対策を解説

飲食業の物流には、納品の頻度や配送時間の制約など、業界特有の課題があります。2024年4月以降はドライバーの時間外労働に年間960時間の上限が設けられたことで、さらに仕入れや在庫管理の見直しが求められるようになりました。

とくに外食や中食の現場では、配送遅延やコスト上昇といった影響が広がっています。この記事では、飲食業における物流の現状と2024年問題の影響、そして現場で取り組まれている対策について、わかりやすく解説します。

今、飲食店の物流で何が起きているのか

店舗の運営には、食材の安定供給と品質の確保が欠かせません。しかし今、その仕組みが2024年問題によって揺らいでいます。

現在の飲食店の物流には、「コストの上昇」と「人手不足」が深刻な課題となっています。これまで当たり前のように受けていた、必要なものを必要な時に届けてもらうサービスの維持が、難しくなっているとの声もあります。

配送コストの上昇にともない、配送料の値上げや、配送頻度の減少、一部エリアからの撤退、といった動きが物流会社側で進んでいます。

その背景には、運送業界全体の人手不足と、それにともなう労働環境の見直しがあります。飲食店にとっては、仕入れコストの増加だけでなく、納品の遅延や欠品リスクといった供給面での不安も広がりつつあります。

物流の「2024年問題」が飲食店に与える影響

2024年問題とは、2024年4月1日からトラックドライバーの仕事に時間外労働の上限(年間960時間)が設けられたことで生じる、さまざまな問題の総称です。

ドライバー1人あたりの労働時間が短くなり、今までどおりの輸送サービスを続けるのが難しくなっています。飲食店にとっては、コストが上がるだけでなく、経営そのものに関わる影響が出始めています。

影響①:深刻化する配送コストの上昇

これまでも燃料費や人件費で配送料は上がる傾向にありましたが、2024年問題はこの動きを加速させています。運送会社がドライバーの労働時間を守るためには、人員を増やすか、高速道路の利用を増やすといった対応が必要で、そのコストが運賃に直接上乗せされます。

実際に、2024年6月には国の指針である「標準的な運賃」が約8%引き上げられました(国土交通省告示第209号 2024年3月22日)。

出典:新しいトラックの標準的な運賃~6/1施行運賃と賃金水準~SOMPOインスティチュート・プラス

また、全日本トラック協会の調査では、運賃や料金の引き上げを行った運送会社の多くが「5~10%未満」の値上げをしたと答えており、コスト増は着実に飲食店経営を圧迫しています。さらに、これまでサービスと見なされがちだった荷物の仕分けや店内への搬入といった作業に、別途料金を求められるケースも増えるでしょう。

影響②:納品リードタイムの長期化と遅延リスク

ドライバーが1日に運転できる時間が短くなったことで、とくに長距離輸送に大きな影響が出ています。たとえば、遠くの産地から新鮮な食材を仕入れる場合、これまでは翌日に届いていたものが、中1日、あるいはそれ以上の日数を要することも考えられます。

これは食材の鮮度低下につながり、お店の品質を保つうえで大きな課題です。また、急な発注やイレギュラーな注文への対応も難しくなるため、計画的な発注と在庫管理がこれまで以上に求められます。

影響③:配送サービスの品質・条件の変更

輸送能力が限られることは、配送サービスの条件変更という形で現れます。株式会社Goalsが実施した調査によると、飲食店が2024年問題で最も心配しているのは「配送料・運賃の増加(92.5%)」ですが、「店舗への配送時間帯の変更」や「発注納品スケジュールの変更」も大きな心配事です。

たとえば、以下のような変更を物流会社から求められることが考えられます。

  • 配送頻度の削減:毎日配送から週3回などへの変更。
  • 最低発注ロットの引き上げ:少量配送が非効率なため、一度に発注する量をまとめてほしいという要請。
  • 納品時間の集約:荷受け時間を特定の時間帯にまとめるなど、ドライバーの待機時間を減らすための協力依頼。

こうした変化に対応できないと、取引の継続が難しくなるおそれもあり、飲食店側もやり方の見直しが必要です。

出典:「2024年問題」による影響への対応が完了している飲食企業は1割」株式会社Goals

なぜ飲食店の物流コストは上昇しつづけるのか

飲食店の物流コストが上がりつづける背景には、2024年問題が大きな契機となっていますが、それ以前からの構造的な課題も少なくありません。ここでは、コストが上がる主な理由を3つの面から解説します。

ドライバー不足と人件費の高騰という構造的な問題

物流コストを押し上げる最も大きな要因は、トラックドライバーのなり手不足と高齢化です。仕事が厳しく賃金も低水準なため、若い世代のドライバーが増えにくいことや、労働時間の長さに関する課題も指摘されています。

2024年問題の労働時間ルールは、ドライバーの労働環境改善に役立つ一方、物流業界全体の輸送能力を下げてしまう側面もあります。限られた人材を確保するためには、賃金をはじめとする待遇改善が欠かせず、そのコスト増が運賃に反映されるのは避けられない流れでしょう。

出典:トラック運送事業の現状等について|公益社団法人 全日本トラック協会

多頻度小ロット配送という飲食業界特有の仕組み

飲食業界では、食材の鮮度を保ったり、店舗スペースを有効活用したりするため、少ない量をこまめに配送してもらうのが一般的です。毎日あるいは1日に複数回、さまざまな種類の食材が少量ずつ納品されるやり方は、お店にとって在庫リスクを抑える利点があります。

しかし物流側から見れば、このやり方は配送効率が良いとはいえません。一台のトラックで多くのお店を回る必要があり、荷物の積み下ろしにも時間がかかります。結果として、ドライバーが長く働く原因の一つになっていました。

2024年問題以降、こうした非効率な配送は続けるのが難しくなり、配送量の集約や頻度削減とともに、料金体系の見直しが進んでいます。

不安定な原材料価格と燃料費の上昇

世界情勢の変動で原油価格が上がると、トラック輸送に欠かせない燃料費(軽油価格)も上昇します。多くの運送契約では「燃料サーチャージ」という仕組みがあり、燃料価格の変動分が運賃に上乗せされます。

近年、燃料価格は高い水準で推移しており、物流コストを恒常的に押し上げる要因です。これに加えて、天候不順や国際相場の影響で原材料価格も上がっているため、飲食店は仕入れと物流の両面からコストアップの圧力にさらされています。

飲食店の物流問題を乗り越えるための対策

物流コストの上昇やサービスの変更が避けられない中で、飲食店はどんな手を打てばよいのでしょうか。現状をふまえ、守り(コスト削減)と攻め(効率化)の両面から、今日からでも始められる対策を紹介します。

発注と在庫管理の最適化でコストを削減する

まず、ご自身の店の発注と在庫管理のやり方を見直しましょう。

たとえば、これまで毎日行っていた発注を週2~3回にまとめる、あるいは発注品目を曜日ごとに決める、といった工夫が考えられます。こうすることで配送回数が減り、物流会社に支払う基本料金や配送料を抑えることにつながります。

また、在庫を正確に管理すれば、発注しすぎによる食品ロスや、品切れによる販売機会の損失も防げます。ハンディターミナルや在庫管理システムを使えば、手作業によるミスを減らし、発注精度を高められるでしょう。日々の売上データと連携させ、適切な発注量を自動で計算する仕組みを作るのも一つの方法です。

共同配送サービスの活用で配送効率を高める

共同配送とは、同じ地域の複数店舗が、納品業者や配送トラックを一緒に使う仕組みです。各店舗がバラバラに発注・配送を頼むのに比べ、トラックの積載率が上がり、一台あたりの配送コストを下げられます。

とくに、近くに系列店や付き合いのある飲食店があるなら、共同配送を検討する価値は高いでしょう。近年では、地域の飲食店向けに共同配送サービスを提供する物流企業やプラットフォームも出てきています。配送コストを減らせるだけでなく、お店側の荷受け作業の負担も軽くなる有効な手段です。

物流パートナーとの連携を強化し情報を共有する

物流会社を単なる業者として見るのではなく、経営を支えるパートナーとして捉え、良い関係を築くことも大切です。

ご自身の店の販売計画や繁忙期の予測などを前もって共有すれば、物流会社側もトラックの手配がしやすくなります。また、物流会社の課題や配送効率化の要望に耳を傾け、お店側で協力できることを探す姿勢も必要です。たとえば、荷受け時間を指定の時間帯にまとめる、検品作業をスムーズに行えるよう準備するといった小さな協力が、結果として安定した配送サービスにつながることもあります。

飲食店の物流効率化に成功した事例から学ぶ

課題や対策がわかっても、実際に自分のお店でどう活かせばよいか、イメージが湧きにくいかもしれません。ここでは、物流の効率化に成功した飲食店の例をふまえ、実際の取り組みのヒントを探ります。

AI需要予測で物流を最適化した事例

大手ちゃんぽんチェーンのリンガーハットでは、従来、店長の経験と勘に頼って食材を発注していましたが、店舗によって精度にばらつきがありました。その結果、過剰在庫による食品ロスや、欠品による販売機会の損失が発生し、サプライチェーン全体の非効率化にもつながっていました。

そこで、AIがPOSデータや天候、カレンダーといった情報を分析し、各店舗の食材必要量を高精度で予測する「AI自動発注システム」を導入。これにより、発注精度が向上し、食品ロスが大幅に削減されました。各店舗の在庫量が最適化されたことで、工場からの不要不急な配送が減り、物流全体の効率化に貢献しています。

出典:リンガーハット、AIを活用した需要予測に基づき、自動発注を行うシステムを全店舗に導入|ZDNET Japan

共同配送への切り替えで配送コストを削減した例

ある総合食品商社は、都心部の複数の飲食店へ食材を配送していましたが、店舗ごとに配送ルートが異なり、チャーター便のコストが課題でした。

そこで、物流会社の共同配送サービスを利用し、複数の店舗への配送を1台のトラックに集約。配送ルートを効率化したことで、ケース単位での価格体系に変更できました。

結果として、年間で17.6%の配送コスト削減に成功。店舗側にとっても、納品時間が安定するなどの利点がありました。

出典:食品共同配送事例 共同配送導入で年間17.6%の配送コスト削減!|北王GROUP

物流DXがもたらす飲食店の新たな動き

これまでの対策は、現状の課題に対応する守りや改善の側面が強いものでした。しかしテクノロジーの進化は、飲食店の物流にこれまでにない新しい動きをもたらそうとしています。ここでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)が実現する未来のかたちを紹介します。

AIによる需要予測が食品ロスと機会損失を同時に防ぐ

AI(人工知能)を使った需要予測は、飲食店の発注業務を大きく変える力を持っています。

過去の販売実績や天候、周辺イベント、SNSのトレンドといった膨大なデータをAIが分析し、数週間先までのメニューごとの販売数を高い精度で予測します。この予測に基づいて必要な食材量を算出し、自動で発注できれば、人の経験や勘に頼るよりはるかに正確な在庫管理が実現できるでしょう。

これにより、売れ残りによる食品ロスを最小限に抑えつつ、人気メニューの品切れで販売機会を逃すことも防ぐという、二つの課題を同時に解決に導くことが期待されます。

物流プラットフォームが実現する新しい仕入れのかたち

オンライン上の物流プラットフォームの登場も、飲食店の仕入れと物流のあり方を変える動きの一つです。

これは、食材を仕入れたい飲食店と、届けたい生産者や卸売業者、そして配送を担う運送会社をオンラインで直接つなぐサービスです。飲食店はプラットフォーム上でさまざまな業者の価格や品質を比べながら、自分のお店に合った仕入れ先を選べます。

また、同じプラットフォームを利用する近隣の飲食店と配送便をシェアする、といった共同配送のマッチングも簡単になります。間の業者を介さずコストを抑えたり、これまで取引のなかった生産者から直接新鮮な食材を仕入れたりするなど、仕入れの選択肢を広げる新たな手段として注目され始めています。

飲食店の物流見直しが経営を左右する時代へ

飲食店の物流を取り巻く環境は、2024年問題をきっかけに大きな変化の真っただ中にあります。これまでのように、物流をコストや外部の業者任せの領域と見ていると、今後の経営はますます厳しくなることも考えられます。配送コストの上昇やサービスレベルの変更は、もはや避けられない前提として受け止める必要があります。

この変化を受け止め、ご自身の店の規模やスタイルに合った物流を主体的に考えていくことが大切です。発注や在庫管理といった足元の業務改善から、共同配送や新しいテクノロジーの活用といった少し先の視点まで、打てる手はさまざまあります。

物流をお店を支える仕組みの一つと位置づけ、見直しと最適化を続けていくこと。それが、不確実な時代を乗りこなし、安定した店舗運営を実現していくことにつながるでしょう。


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