- 作成日 : 2025年8月19日
飲食店のレイアウトと売上の関係は?基本の考え方と配置の工夫例を解説
飲食店のレイアウトは、売上や満足度に大きく関わる要素です。客席や厨房の配置次第で、回転率やサービスの質が変わり、お店の印象にも影響します。限られたスペースをどう活かすかは、経営にも現場にも関わるテーマです。この記事では、飲食店レイアウトの基本的な考え方、安全やバリアフリーへの配慮、売上を意識した配置の工夫、坪数別の設計ポイントまでをわかりやすく紹介します。
目次
飲食店のレイアウト設計における基本的な考え方
お店のコンセプトを形にし、お客様と従業員双方にとって心地良い空間を作るには、レイアウト設計の基本をおさえることが大切です。ここでは、レイアウトを考える上での3つのゾーンと、コンセプトを反映させることの意義について解説します。
レイアウトがお店の印象と売上を決める理由
飲食店のレイアウトは、お客様に与える第一印象を大きく左右します。隣席との距離が近すぎて落ち着かない、通路が狭くて移動しにくいといった状況では、料理が美味しくても再訪につながらないこともあります。
また、スタッフの動線が悪ければ、料理提供や片付けがスムーズにいかず、サービス全体の品質にも影響が出るかもしれません。これにより回転率や売上の低下を招くケースもあるでしょう。レイアウトは、顧客体験と業務効率を同時に支える設計作業といえます。
飲食店の基本となる3つのゾーニング
飲食店の空間は、その役割に応じて大きく3つのエリアに分けて考えます。この「ゾーニング」は、レイアウト設計の基本となります。
- パブリックゾーン:お客様が過ごすエリア(客席、エントランス、トイレなど)。快適性と印象のよさを重視します。
- バックヤードゾーン:厨房や事務所、スタッフルームなど従業員専用の作業空間。効率的な動線が求められます。
- セミパブリックゾーン:料理提供通路やレジ周辺など、従業員と顧客が交差する中間エリア。動線がぶつからないよう設計します。
これらを適切に分けて配置することで、動きやすく居心地のよい空間が生まれます。
コンセプトに合わせたレイアウト設計の進め方
レイアウトを考える際には、「どのような客層に、どんな体験を提供するか」というコンセプトが軸になります。これにより、空間設計に一貫性を持たせやすくなります。
たとえば「一人客が気軽に立ち寄れるラーメン店」であれば、厨房を囲むカウンター席が中心になるでしょう。一方「記念日に利用してほしいフレンチレストラン」であれば、プライベート感を大切にしたテーブル席や個室がよりふさわしいといえます。
ターゲットにする客層、提供するメニュー、価格帯などをふまえ、どのような体験をしてもらいたいかを考えます。その体験を実現するために最適な席の種類、照明、内装などを選んでいくことが、コンセプトに合ったレイアウト設計の進め方です。
売上と回転率を高める飲食店レイアウトの工夫
飲食店の売上は「客席数 × 回転率 × 客単価」という式で成り立っており、レイアウトはこれらの数字に影響します。お客様が利用しやすく、スタッフが効率的に動ける配置にすることで、回転率や客単価の向上をねらえます。
客席レイアウトと回転率の関係
お店の業態によって、求められる回転率は変わってきます。回転率を重視するのか、それともお客様にゆっくり過ごしてもらうのか、方針によって客席のレイアウトを工夫しましょう。
回転率を高めたい業態(ラーメン店、定食屋など)
2人掛けテーブルやカウンターを多く配置し、少人数でもスムーズに案内できるようにします。入口から席までの導線を短く、店内の見通しもよくすると、回転効率が上がります。
滞在時間を延ばしたい業態(カフェ、ディナーレストランなど)
席間にゆとりを持たせ、ソファ席や半個室を設けるなどして、リラックスできる空間を意識します。結果として追加注文につながり、客単価の向上が期待できます。
客単価アップをねらうレイアウトの工夫
飲食店のレイアウトは、工夫次第で「ついで買い」や追加注文を引き出すきっかけになります。
たとえば、レジ近くに焼き菓子や小物を並べた物販スペースを設けると、会計時にお客様の目に留まりやすくなります。何かもう一品、と感じてもらえる場面をつくることができます。
また、お酒を扱う店舗であれば、カウンター奥にボトルを飾ることで、視線を誘導しやすくなります。気になった商品をその場で注文してもらえる流れを想定しておくのも一案です。
個室を用意すれば、特別感のある空間で過ごしてもらえるため、記念日プランやコース料理の利用にもつながりやすくなります。
お客様が店内をどう見て回るか、どこで立ち止まるかといった動きを想像しながら、自然と目を引く配置を考えてみるとよいでしょう。
適切な客席数の計算方法
客席数の設定は、スペースを有効活用しつつ、目標売上との整合性をとる必要があります。
一般的に、飲食店の客席数は、店舗の面積をもとに算出します。
係数は法的な定めではなく、業態によって異なり、一般的には1.5〜2.0程度とされます。
カフェのようにゆったりした空間が求められる業態では1.2〜1.5、一般的なレストランでは1.5〜2.0、ラーメン店のように効率が求められる業態では2.0〜2.5と、お店のコンセプトによって調整します。
【計算例:20坪(約66㎡)のカフェの場合】
ゆったりした空間を目指すため、係数を「1.3」と設定します。
この26席という数字を基に、売上目標が達成可能かシミュレーションします。
この計算から、席数が多すぎる・少なすぎると感じる場合は、レイアウトの再調整や価格設定の見直しを検討します。
快適性と安全性を両立する飲食店レイアウトの寸法
お客様が心地よく過ごせる環境を整え、スタッフが安全に動ける寸法を確保することが、店舗運営の安定につながります。ここでは、動線計画や基本的な寸法、そして非常時や多様なニーズに応えるためのレイアウトについて解説します。
お客様とスタッフの動線計画
動線とは、店内における人の移動経路を指します。お客様の動きを示す「客動線」と、従業員の動きを示す「サービス動線」があり、これらがぶつからないように計画することがレイアウトを考える上で大切な点です。
両者の動線が頻繁に交わると、接触事故の原因になったり、サービスの質が落ちたりするかもしれません。ゾーニングの段階から動線を意識し、それぞれが干渉しないレイアウトを目指しましょう。
客席まわりに必要な寸法と間隔
お客様が食事をする客席まわりは、快適性に大きく影響するエリアです。窮屈さを感じさせないための、基本的な寸法や間隔を覚えておくとよいでしょう。
一人あたりに必要なテーブルスペース
一人あたり最低でも幅60cm×奥行40cmのスペースが必要です。これより狭いと、隣の人と肘がぶつかったり、お皿を置くスペースが足りなくなったりすることがあります。
椅子と壁・他のテーブルとの間隔
お客様が椅子を引いて立ち座りするためには、テーブルの端から壁まで70cm〜80cm程度のスペースがあるとスムーズです。また、椅子と椅子の背中が向き合うようなレイアウトの場合、快適に過ごすには両方の椅子の背の間が最低でも50cm〜60cmは空いていることが望ましいでしょう。
席と席の間の通路幅
客席と客席の間を人が通る場合、その通路幅は最低でも60cm以上確保します。サービススタッフが頻繁に通る場所であれば、80cm以上あるとより安全で、スムーズなサービスにつながります。
これらの寸法は一般的な目安です。法令で一律に定められたものではありませんが、お客様の快適性を確保するための重要な目安となります。
お店のコンセプトやターゲット層に合わせて、最適なゆとりを調整することが満足度向上につながります。
火災や非常事態に備える安全レイアウト
万が一の事態に備え、お客様と従業員の安全を守るレイアウトは飲食店の責務です。とくに避難経路の確保は、消防法で厳しく定められています。
避難経路の確保
客席から避難口(出入り口)まで、まっすぐスムーズにたどり着ける通路を確保しなくてはなりません。通路に荷物や装飾品を置くことは避け、常に歩きやすい状態を保ちます。通路幅は店舗の規模や構造によって定められていますが、誰もが安全に避難できるよう、できるだけ広い幅を確保することが望ましいでしょう。
防炎・不燃材料の利用
カーテンやじゅうたん、パーテーションといった内装材は、消防法で定められた防炎性能を持つ製品を選ぶ必要があります。火災が発生した際に燃え広がるのを遅らせ、避難する時間を確保するためです。
厨房の防火対策
厨房内では、コンロなどの火元の周りに燃えやすいものを置かないレイアウトにします。また、消火器はすぐに手に取れる場所に設置し、どこにあるか従業員全員が把握しておくことが大切です。
バリアフリーに配慮したレイアウト
高齢の方や車椅子を利用する方、ベビーカー連れのご家族など、すべてのお客様が不便なく過ごせるお店であることは、これからの飲食店にとってますます大切になります。
段差のないアプローチ
まず、お店の入口から客席までの間に段差がないことが基本です。もし段差がある場合は、スロープを設置して解消します。自動ドアの採用も、多くの方にとって利用しやすさにつながります。
ゆとりのある通路幅
車椅子がスムーズに通れる通路幅として、120cm以上が目安とされています。また、店内には車椅子が回転できる150cm四方程度のスペースがあると、より安心して利用してもらえます。
これらの寸法は、「バリアフリー新法」や各自治体の条例で定められている基準に基づいています。特に床面積が一定規模以上の店舗では義務付けられる場合もあるため、新築や改修の際には必ず確認しましょう。
多様なニーズに応える客席と設備
テーブル席は、椅子を動かせば車椅子のまま着席できるタイプを用意するとよいでしょう。ベビーカーを横に置いても邪魔にならない、壁際の席なども喜ばれるかもしれません。さらに、車椅子利用者やオストメイト、小さなお子様連れも利用できる多目的トイレを設置することも、お店の評価を高めることにつながります。
坪数・条件別に見る飲食店レイアウトの考え方
お店の広さや形状によって、レイアウトの考え方は大きく変わってきます。ここでは、小規模な店舗から大規模な店舗まで、それぞれの坪数に合ったレイアウトのポイントを解説します。
狭い飲食店(10坪以下)のレイアウト
7坪や10坪(約23〜33㎡)といった狭い店舗では、限られた空間をいかに広く見せ、効率的に使うかが工夫のしどころです。カウンター席をメインにすれば、少ないスペースで席数を確保しつつ、従業員一人でもサービスしやすいオペレーションが実現できます。厨房を客席から見えるオープンキッチンにすると、ライブ感という付加価値が生まれ、空間に奥行きを感じさせる効果も期待できるでしょう。
中規模飲食店(11~30坪)のレイアウト
11坪から30坪(約36〜99㎡)の中規模店舗は、レイアウトの自由度が高まる反面、コンセプトが曖昧になりがちです。この規模の店舗では、カウンター席、テーブル席、半個室など、さまざまなタイプの客席をバランス良く配置することで、多様な客層や利用シーンに対応できます。
お客様のプライバシーに配慮しつつ、従業員が店内全体を見渡せるような見通しの良いレイアウトを心がけると、サービスの質と効率を両立しやすくなります。
大規模飲食店(31坪以上)のレイアウト
31坪(約102㎡)以上の大規模店舗では、効率的な動線設計がより一層求められます。広いフロアでは、厨房から遠い客席へのサービス動線が長くなりがちです。フロアの中間地点にドリンクなどを置く「サービスステーション」を設けることで、動線を短縮し、サービスの効率を上げることができます。
また、広い空間をパーテーションなどで緩やかに区切り、異なる雰囲気のエリアを作る「ゾーニング」も有効な手法の一つでしょう。
多様な目的に合わせた飲食店レイアウトの応用
一般的な飲食店だけでなく、社員食堂やオフィス内のカフェなど、特定の目的を持つ空間のレイアウトには特有の配慮がいります。また、レイアウト作成を助ける便利なツールも登場しています。
社員食堂・オフィス食堂のレイアウト
社員食堂やオフィス食堂は、食事の場であると同時に、従業員の満足度や社内コミュニケーションの促進を担う空間でもあります。以下のような工夫を取り入れることで、目的に合ったレイアウトが実現しやすくなります。
- 一人で使えるカウンター席
- 会話がしやすいテーブル席
- 休憩用のソファ席
- 電源やWi-Fiの完備
- 気分で席を選べる自由な配置
このように、用途ごとに多様な座席を組み合わせることで、従業員がその日の気分や目的に応じて過ごしやすい空間をつくることができます。集中、交流、リラックスといった機能をレイアウトで切り分ける発想が効果的です。
飲食店レイアウトの作成に役立つアプリやツール
専門的なCADソフトがなくても、飲食店のレイアウト案を作成できるアプリやツールがあります。これらを活用すれば、頭の中のイメージを可視化でき、関係者との情報共有をスムーズに進められるようになります。
たとえば「Sweet Home 3D」や「magicplan」など、無料で試せるものから始めてみるのもよいのではないでしょうか。
ただし、これらはアイデアを練るための補助的なものとして、最終的な設計はプロの設計士や施工業者に依頼することが欠かせません。
居抜き物件でレイアウトを考える際の注意点
居抜き物件は、初期費用を抑えられるという魅力がありますが、レイアウトには制約が伴います。とくに厨房の排気ダクトや給排水設備などは、移設に高額な費用がかかるため、既存の場所を前提にレイアウトを考えるのが基本になるでしょう。
内見の際には、設備の状況や変更可能な範囲を専門家と一緒に詳しく確認することが、後々のトラブルを避けることにつながります。
飲食店レイアウトは経営と現場の両方に目を向けて考える
飲食店のレイアウトは、見た目の印象や席数だけでなく、従業員の動きやお客様の満足度、そして日々の収益にまでつながる要素です。コンセプトやターゲットに合った空間をつくるには、ゾーニングや動線、安全性、バリアフリーといった基本的な視点が欠かせません。
また、坪数や業態によって最適な設計は変わります。省スペースで効率を重視するのか、滞在時間を長くして客単価を高めるのか。方向性をはっきりさせることで、使いやすく、印象に残る店舗づくりがしやすくなります。
今回紹介した考え方や寸法の目安、アプリの活用方法などを参考に、自店にとって無理のない、そして継続できるレイアウト設計を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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