- 作成日 : 2025年9月25日
飲食店経営は立地が8割?失敗しない場所選びと立地調査の全手順
「飲食店の成功は、立地が8割」この言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。良い立地は安定した集客をもたらし、経営の基盤となります。しかし、SNSが普及した現代では「立地は関係ない」という声も聞かれるようになりました。
この記事では、飲食店経営者やこれから開業を考える方に向けて、データに基づいた科学的な立地選定の方法から、立地の不利を覆す現代のマーケティング戦略まで、網羅的にわかりやすく解説します。
目次
飲食店の成功を左右する立地の重要性
飲食店の経営において、なぜこれほどまでに立地が重要視されるのでしょうか。その基本的な考え方と、立地がビジネスに与える影響について解説します。
なぜ飲食店の成功に立地が重要なのか
立地は、お店の売上を左右する「集客力」に直接的な影響を与えるからです。どんなに美味しい料理や素晴らしいサービスを提供していても、お客様がお店の存在に気づかなければ、来店にはつながりません。
良い立地は、いわば毎日稼働してくれる「無料の広告塔」のようなものです。お店の前を通る人々の目に触れる機会が多ければ多いほど、自然と認知度は高まり、来店客数の増加が期待できます。
立地が決定する「客層」と「集客力」
立地は、どのようなお客様が来店するかという「客層」も決定づけます。オフィス街であればビジネスパーソン、商店街であれば地域住民や買い物客、繁華街であれば若者や観光客が中心となるでしょう。
自店がターゲットとしたい客層が多く集まる場所を選ぶことが、効率的な集客の第一歩です。間違った立地を選んでしまうと、ターゲット顧客と実際の通行人にズレが生じ、集客に苦戦することになります。
「良い立地」の定義は業態によって異なる
一言で「良い立地」といっても、その定義は飲食店の業態やコンセプトによって大きく異なります。
- 高単価なレストランや専門店: 必ずしも駅前の一等地である必要はなく、隠れ家的な雰囲気の落ち着いたエリアでも、目的を持って来店するお客様を集められます。
- カフェやファストフード店: お客様が気軽に立ち寄れることが重要なため、駅前や人通りの多い路面など、利便性と視認性の高い立地が求められます。
- 居酒屋: 仕事帰りの会社員をターゲットにするならオフィス街、多様な客層を狙うならターミナル駅の周辺が適しています。
自店のコンセプトに合わない「一般的に良いとされる立地」を選んでも、成功はおぼつかないでしょう。
飲食店の立地選定で失敗しないための立地調査
感覚や経験だけに頼った立地選定は危険です。データに基づいた客観的な立地調査を行うことで、出店の成功確率を高めることができます。
商圏分析でターゲット顧客を知る
商圏とは、自店に来店してくれる可能性のある顧客が住んでいる、あるいは働いている範囲のことです。国勢調査などの公的なデータや、専門の分析ツールを使い、候補地の商圏内にどのような年齢層や世帯構成の人々がどれくらいいるのか(人口動態)を把握します。これにより、自店のターゲット層がそのエリアに十分に存在するかを判断できます。
現地での通行量・交通量調査
データ分析だけでなく、実際に現地に足を運んで調査することも欠かせません。曜日や時間帯を変えて複数回訪れ、どのような人々が、どのくらいの人数、どの方向に向かって歩いているのかを自分の目で確認します。
- 平日の朝・昼・夜
- 休日の昼・夜
- 天気の良い日・悪い日
これらのデータを記録することで、リアルな人の流れや客層を把握でき、より精度の高い売上予測につながります。
競合店の調査と分析
候補地の周辺にある競合店を調査することも重要です。どのような業態の店が、どのような価格帯で、どのくらい繁盛しているのかを調べます。繁盛している店があれば、そのエリアに飲食の需要がある証拠です。
一方で、同じような業態の店がひしめき合っている場合は、厳しい競争を覚悟しなくてはなりません。自店がその中で勝ち抜けるだけの独自性や強みがあるかを、冷静に分析する必要があります。
自治体の都市計画や再開発情報の確認
長期的な視点で、そのエリアの将来性を確認することも大切です。自治体のホームページなどで、都市計画や駅前の再開発計画、大規模マンションの建設計画などを調べてみましょう。数年後に人の流れが大きく変わる可能性があるため、将来性のあるエリアに出店することが、持続的な経営につながります。
飲食店の立地マーケティング戦略
立地選定は、単なる場所探しではなく、自社の強みを最大限に活かすためのマーケティング活動そのものです。戦略的な視点を持って場所を選ぶためのポイントを解説します。
店舗コンセプトと立地を一致させる
最も基本的なことは、お店のコンセプトと立地の特性を一致させることです。「学生向けの安くてボリュームのある定食屋」を、高齢者が多い住宅街に出店しても成功は難しいでしょう。逆に、「富裕層向けの高級寿司店」を学生街に出店しても需要は見込めません。
誰に、何を、いくらで提供したいのかというコンセプトを明確にし、そのコンセプトが最も響く客層が集まる場所を選ぶ必要があります。
視認性とアクセス(入りやすさ)の確認
視認性とは、お店が通行人からどれだけ見つけやすいか、という指標です。店の前に障害物がなく、看板が遠くからでもはっきりと見える場所は視認性が高いといえます。
また、入り口に段差がないか、ドアは入りやすいかといった、物理的なアクセスの良さも重要です。どんなに良い場所でも、店がどこにあるかわからなかったり、入りにくい雰囲気だったりすると、お客様は来店をためらってしまいます。
1階路面店と空中階・地下店舗のメリット・デメリット
多くの人が憧れる1階の路面店は、視認性が高く、自然と人が集まりやすい最大のメリットがあります。しかし、その分家賃は高額です。
一方、2階以上の空中階や地下の店舗は、家賃を抑えられるのが魅力ですが、視認性が低く、目的を持って来店するお客様以外を集めるのが難しいというデメリットがあります。エレベーターの有無や、集客のための看板をどこに設置できるかなどを十分に確認し、家賃の安さと集客の難しさを天秤にかける必要があります。
家賃と売上予測のバランス
飲食店の家賃は、月間売上予測の7〜10%以内に収めるのが理想とされています。立地調査で得たデータを基に、現実的な売上を予測し、その売上で無理なく支払える家賃の物件を選びましょう。いくら人通りの多い一等地でも、家賃が高すぎて利益が出ないのであれば、それは良い立地とはいえません。
「飲食店は立地が関係ない」は本当か?
SNSの普及により、「どんなに不便な場所でも、美味しければお客様はくる」という事例が見られるようになりました。「立地は関係ない」という説の真相に迫ります。
「立地は関係ない」と言われる背景
この説の背景には、SNSやグルメサイトの存在があります。InstagramやTikTokで魅力的な写真や動画が拡散されれば、それを見た人々が「わざわざその店に行く」という目的を持って来店するようになります。これにより、従来では考えられなかったような、駅から遠い住宅街や、人通りのない路地裏の店が行列店になるケースが生まれています。
立地の不利をカバーできる店の特徴
立地の不利を克服できる店には、共通した特徴があります。
- 圧倒的な商品力: 他では決して味わえない、独創的で高品質な料理を提供している。
- 強力なコンセプトと世界観: 内装や食器、接客に至るまで、唯一無二の世界観が作り込まれている。
- 卓越した情報発信力: SNSを巧みに活用し、常にファンを惹きつける魅力的な情報を発信し続けている。
これらの店は、立地に頼るのではなく、自らの力で集客できる強みを持っています。つまり、「関係ない」のではなく、「関係なくさせる」ほどの努力と工夫があるのです。
それでも多くの飲食店にとって立地が重要な理由
目的来店が期待できる専門店や、卓越したマーケティング能力を持つ一部の天才的な経営者を除き、多くの飲食店にとって立地は依然として経営を左右する最重要項目です。とくに、日常的に利用されるランチや居酒屋などの業態では、お客様は利便性を重視します。ほとんどのお店にとって、立地のアドバンテージは、経営を安定させるための強力な支えとなるでしょう。
DX時代の飲食店立地選定ツールと新たな選択肢
テクノロジーの進化は、飲食店の立地選定にも新しい可能性をもたらしています。データに基づいた、より科学的なアプローチを紹介します。
GISやAIを活用したデータに基づく立地分析
GIS(地理情報システム)は、地図上に人口動態や年収データ、競合店の位置情報などを重ね合わせ、商圏を視覚的に分析できるツールです。
これにより、これまで経験や勘に頼っていた立地選定を、客観的なデータに基づいて行うことができます。また、近年ではAIを活用して、特定の場所に出店した場合の売上を高精度で予測するサービスも登場しており、出店判断の精度を大きく向上させています。
参考:GISとは|国土地理院
ゴーストレストラン・間借りという選択肢
物理的な店舗を持たず、デリバリーサービス専門で営業するゴーストレストランや、既存の飲食店の厨房を借りて営業する「間借り」といった新しい業態も増えています。
これらのビジネスモデルは、高額な家賃がかかる一等地に出店する必要がなく、立地の制約を受けにくいのが特徴です。まずは低リスクでブランドを立ち上げ、顧客の反応を見ながら将来的に実店舗の出店を検討する、といった戦略も可能になります。
自社の戦略に合った飲食店の立地を見つけましょう
この記事では、飲食店の立地選びについて、その大切さから具体的な調査方法、そして現代ならではの戦略までをご紹介しました。飲食店の場所選びは、ただ物件を探す作業ではありません。お店のコンセプトを誰に届けたいのか、どんな価値を感じてほしいのかを考える、まさに経営戦略そのものといえるでしょう。
「立地が8割」という言葉が示すように、場所選びがお店の将来を大きく左右します。データを使った客観的な分析と、ご自身の足で現地の空気を感じる調査、この両方を丁寧に行うことがとても大切です。昔からの立地のセオリーと、SNSや新しい技術を活かした現代の戦い方。その両方をふまえて、ご自身の理想とするお店にぴったりの場所をじっくりと見つけていくことが、飲食店の成功への確かな一歩につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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