- 作成日 : 2025年9月25日
無断キャンセルで警察は呼べる?キャンセル料を踏み倒されたときの対処法
飲食店などで発生するキャンセル料の踏み倒しは、経営者にとって深刻な問題です。被害に遭った際、「警察に相談すれば解決してくれるのでは?」と考える方も多いでしょう。しかし、原則として警察は個人間の金銭トラブルには介入しません。
では、泣き寝入りするしかないのでしょうか。この記事では、キャンセル料の踏み倒しに対する警察の対応の範囲、支払い義務の根拠、そして少額訴訟などの法的な対抗手段まで、事業者がとるべき具体的なステップをわかりやすく解説します。
目次
キャンセル料の踏み倒しで警察は対応してくれるのか?
予約の無断キャンセルやキャンセル料の踏み倒し被害に遭ったとき、まず頭に浮かぶのが警察への相談かもしれません。しかし、警察がすべてのトラブルに対応できるわけではなく、基本的には介入できないケースが多いのが実情です。
「民事不介入」の原則とは
警察の活動は、主に犯罪の予防や捜査といった「刑事事件」に関するものです。一方で、個人や企業間の契約トラブル、金銭の貸し借りといった「民事事件」については、当事者間での解決が基本となり、警察は介入しない「民事不介入」という原則があります。
キャンセル料の未払いは、基本的には店と客との間の「契約不履行」にあたるため、民事事件として扱われます。そのため、単に「キャンセル料が支払われない」という相談だけでは、警察が動くことは難しいでしょう。
警察が介入できる例外的なケース
ただし、すべてのケースで警察が対応しないわけではありません。予約の態様が悪質で、当初から支払う意思がなく、店を騙してサービス(席の確保など)を得ようとしたと判断される場合には、「詐欺罪」として刑事事件に発展する余地があります。たとえば、偽名や偽の連絡先を使って大量の予約を入れ、無断キャンセルを繰り返すといったケースがこれにあたります。このような悪質なケースでは、被害の証拠をそろえて警察に相談する価値はあるといえます。
キャンセル料の踏み倒しに対して取り得る法的措置
警察に相談しても解決が難しい場合、事業者は法的な手続きを通じてキャンセル料の回収を目指すことになります。ここでは、比較的少ない手間と費用で始められる法的なアプローチを、段階的に解説します。
内容証明郵便による請求
最初のステップとして有効なのが、内容証明郵便を使って請求書を送付する方法です。内容証明郵便は、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
これ自体に法的な強制力はありませんが、受け取った相手に対して「法的な手続きを準備している」という強い意思を示すことができ、心理的なプレッシャーを与えて支払いを促す効果が期待できます。
支払督促の申し立て
内容証明を送っても支払いがない場合、次の手段として「支払督促」があります。これは、簡易裁判所に申し立てることで、裁判所から相手方へ支払い命令を送ってもらう手続きです。
相手方が異議を申し立てなければ、判決と同じ効力を持ち、強制執行(財産の差し押さえなど)に進むこともできます。通常の訴訟に比べて手続きが簡単で、費用も安く済むのが利点です。
少額訴訟の提起
支払督促に相手方が異議を申し立てた場合や、初めから裁判で白黒つけたい場合には、「少額訴訟」を提起します。これは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる、特別な裁判手続きです。
原則として1回の審理で判決が下されるため、スピーディーな解決が期待できます。証拠さえそろっていれば、弁護士に依頼せず本人で手続きを進めることも十分可能です。
キャンセル料の支払い義務はどこまで発生するのか
キャンセル料を請求する上で、その「支払い義務」が法的に認められるかどうかは、もっとも重要な点です。ここでは、どのような場合にキャンセル料を請求でき、その金額はいくらが妥当とされるのかを解説します。
キャンセル料が法的に認められる根拠
予約が成立した時点で、店と客との間には一種の「契約」が結ばれたと見なされます。客が一方的にその契約を破棄(キャンセル)し、店側に損害(用意した食材費、確保した席の機会損失など)が発生した場合、店側はその損害を賠償するよう請求する権利があります。
これが、キャンセル料の法的な根拠となります。つまり、キャンセル料は罰金ではなく、あくまで店が被った損害の補填なのです。
キャンセルポリシーの明示の重要性
キャンセル料を正当に請求するためには、予約時に「いつまでにキャンセルすれば無料か」「いつから、いくらのキャンセル料が発生するか」というキャンセルポリシーを、お客様に明確に提示し、同意を得ておくことが不可欠です。
ウェブサイトの予約ページに明記する、電話予約の際に口頭で伝えるなど、お客様が事前に認識できる状態にしておきましょう。この事前告知がなければ、後から支払い義務を主張するのは難しくなります。
請求できるキャンセル料の相場と上限
キャンセル料の金額は、事業者が自由に設定できるわけではありません。消費者契約法では、事業者に生じる「平均的な損害の額」を超えるキャンセル料は無効とされています。
一般的には、飲食店のコース予約であれば、前日キャンセルで50%、当日・無断キャンセルで100%が相場とされています。この相場から著しくかけ離れた高額な請求は、認められないことがあるため注意が必要です。
出典:No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート|経済産業省
少額訴訟になった場合の流れと費用
キャンセル料の踏み倒しに対する最終手段として、少額訴訟や通常の裁判があります。ここでは、請求額60万円以下の金銭トラブルを対象とする少額訴訟について、実際に申し立てる際の流れと費用を解説します。
ステップ1:訴状の準備と提出
まず、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所を確認します。次に、裁判所のウェブサイトから訴状のひな形を入手し、請求したい金額やトラブルの経緯などを記入します。この訴状と、証拠となる書類(契約書やメールのやり取りのコピーなど)を裁判所に提出して、申し立てを行います。
ステップ2:費用の納付と期日の決定
申し立ての際には、手数料として収入印紙(請求額10万円なら1,000円)と、裁判所からの書類送付に使う郵便切手(数千円程度)を納付します。訴状が受理されると、裁判所が審理を行う「口頭弁論期日(裁判の日)」を決定し、当事者双方に通知します。
ステップ3:審理(裁判当日)
指定された日時に裁判所へ出頭します。審理は、裁判官とラウンドテーブルを囲んで和やかな雰囲気で進むことが多く、原則として1回で終わります。この場で、当事者双方が主張を述べ、提出された証拠について確認が行われます。
ステップ4:和解または判決
審理の場で話し合いがまとまれば「和解」が成立します。まとまらない場合は、審理の最後に裁判官が「判決」を言い渡します。訴状の提出から判決までは、通常1〜3ヶ月程度です。
弁護士に依頼する必要はあるか?
少額訴訟は、本人で手続きを行うことを前提とした制度設計になっているため、必ずしも弁護士に依頼する必要はありません。
しかし、「書類の作成に自信がない」「裁判所で主張をうまく伝えられるか不安」といった場合には、弁護士や司法書士に相談するのも一つの手です。ただし、専門家に依頼すれば当然その費用が発生するため、請求したいキャンセル料の額と見比べて慎重に判断しましょう。
キャンセル料の踏み倒しを未然に防ぐための予防策
これまで事後対応について解説してきましたが、もっとも重要なのは、そもそも踏み倒し被害に遭わないようにすることです。ここでは、無断キャンセルや踏み倒しを未然に防ぐための効果的な予防策を紹介します。
予約時の事前決済システムの導入
もっとも効果的な予防策の一つが、予約時にクレジットカード情報などを登録してもらい、事前決済や仮押さえ(与信枠の確保)をおこなうことです。これにより、お客様の予約に対する意識が高まり、安易なキャンセルを防ぐことができます。
万が一無断キャンセルが発生した場合でも、キャンセルポリシーに基づき、登録されたカードからキャンセル料をスムーズに決済することが可能です。
SMS認証や電話番号確認の徹底
予約時に携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)を使った本人認証を導入することも、架空の予約やなりすましを防ぐ上で有効です。
また、グルメサイト経由の予約であっても、高額なコースや大人数の予約の場合は、前日までに店舗から直接電話をかけて予約の意思確認をおこなうことで、無断キャンセルのリスクを大幅に減らせます。
予約確認(リマインド)メールの自動送信
お客様が予約したこと自体を忘れてしまう「うっかりキャンセル」も少なくありません。これを防ぐために、予約日の数日前や前日に、予約内容を確認するリマインドメールやSMSを自動で送信するシステムを活用しましょう。
多くの予約管理システムにはこの機能が標準で備わっており、簡単な設定で導入できます。
SNSでの晒し行為のリスクと注意点
キャンセル料を踏み倒された腹いせに、予約者の氏名や電話番号をSNSで公開する、いわゆる「晒し行為」は絶対におこなってはいけません。
たとえ相手に非があったとしても、このような行為はプライバシーの侵害や名誉毀損にあたり、逆にこちらが損害賠償を請求される可能性があります。感情的な行動は、さらなるトラブルを招くだけです。
キャンセル料踏み倒しへの適切な対処が事業を守る
本記事では、キャンセル料の踏み倒しに対する警察の対応から、法的な請求方法、そして効果的な予防策までを解説しました。残念ながら、キャンセル料の踏み倒しに対して警察が直接介入してくれるケースは限定的です。
そのため、事業者は自ら正しい知識を身につけ、キャンセルポリシーを明確にし、必要であれば法的な手続きをとる準備をしておくことが求められます。そして何より、事前決済の導入などの予防策を講じることが、悪質なキャンセルから自らの事業を守るもっとも確実な方法といえるでしょう。
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