• 作成日 : 2025年9月22日

飲食店の離職率はなぜ高い?アルバイトも新卒も辞めない職場作りのヒント

飲食店の離職率は全産業の中でも高く、厚生労働省の調査では年間離職率が26.6%と、産業平均を上回っています。こうした背景から、慢性的な人手不足に悩む店舗も少なくありません。とくに新卒やアルバイト、パートタイム従業員の定着に苦戦している経営者や店長にとって、この問題は避けて通れない課題です。

本記事では、厚生労働省の最新データをもとに、飲食店の離職率の現状とその原因を整理し、離職を防ぐための具体的な対策を紹介します。現場で働くスタッフが安心して長く勤められる職場づくりのヒントを、実践的な視点からお届けします。

目次

厚生労働省の最新データで見る飲食店の離職率

厚生労働省のデータを見ると、飲食店の離職率は他の産業より高い水準にあります。とくにパートタイム労働者と新卒者の定着が大きな課題といえるでしょう。最新の調査ではわずかに改善の兆しも見られますが、依然として全産業で最も人材の入れ替わりが激しい状況が続いています。

飲食業界は全産業と比べても高い水準

年間の離職率を示す厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」では、飲食業界が属する「宿泊業、飲食サービス業」の年間離職率は26.6%に達しました。これは産業全体の平均である15.4%を上回る数値です。全産業の中では「生活関連サービス業、娯楽業」の28.1%に次いで2番目に高い水準となっています。

また、正社員などの「一般労働者」の離職率は18.2%、アルバイトなどの「パートタイム労働者」の離職率は31.9%でした。

このように、飲食店では正社員とパートタイムのどちらの形態でも離職率は高い傾向にあります。

飲食業界では、人材の定着が大きな課題の一つであることがデータからわかります。

令和5年 主要産業別の離職率比較

産業分類離職率
生活関連サービス業、娯楽業28.1%
宿泊業、飲食サービス業26.6%
サービス業(他に分類されないもの)23.1%
医療、福祉14.6%
産業計15.4%
卸売業、小売業14.1%
製造業9.7%

出典:令和5年雇用動向調査結果の概況|厚生労働省

令和6年上半期では最も離職率が高い

最新の「令和6年上半期雇用動向調査」では、飲食業界の離職率には改善の兆しが見られます。「宿泊業、飲食サービス業」の離職率は、全体で15.1%(うち一般労働者10.9%、パートタイム労働者17.9%)でした。これは、前年の離職率と比べると、わずかながら低下しています。

しかしながら、産業全体の平均離職率(9.0%)と比べると依然として高い水準です。また、令和5年の年間調査では飲食業を上回っていた「生活関連サービス業、娯楽業」の離職率(11.1%)よりも高い結果となっています。

出典:令和6年上半期雇用動向調査結果の概要|厚生労働省

新卒者の定着状況

飲食業界において若手人材の定着も大きな課題です。新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)によると、「宿泊業、飲食サービス業」に就職した新卒者の3年以内の離職率は、大学卒で56.6%、高校卒で65.1%でした。これは、大学を卒業した新入社員の半数以上が、高校を卒業した新入社員については3人に2人近くが、就職後3年で職場を離れていることを示しています。

産業全体の平均離職率(大卒34.9%、高卒38.4%)と比較しても、20ポイント以上高い水準にあり、若手人材の定着が他の産業に比べて難しい状況であることがわかります。

出典:新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)を公表します|厚生労働省

飲食店の離職率の計算方法

店舗の離職率は、以下の計算式で求められます。

離職率(%) = 期間中の離職者数 ÷ 期間開始日の在籍従業員数 × 100

たとえば、年の初めに50人の従業員が在籍しており、その1年間で10人が離職した場合、計算式は「10人 ÷ 50人 × 100」となり、その年の離職率は20%です。この数値を業界平均と比較することで、自店の状況を客観的に評価できます。

なぜ飲食店の離職率は高いのか?考えられる7つの理由

飲食店の離職率が他業種に比べて高くなる背景には、労働時間や給与といった待遇面のほか、働きがいやキャリアに関する問題も深く関わっているのではないでしょうか。

ここでは、飲食店の離職率で考えられる7つの理由を解説します。

長くなりがちな労働時間と休日の取りにくさ

飲食店の営業時間は長く、とくにランチとディナーの間に長い休憩を挟む「中抜けシフト」は、従業員の拘束時間を長期化させる一因です。また、土日祝日や大型連休がかき入れ時となるため、世間一般の休日とずれてしまうことが多く、友人や家族と予定を合わせにくい点も離職につながりやすいでしょう。

給与水準と評価制度への不満

飲食業界は、他の産業に比べて給与水準が低い傾向にあります。加えて、業務の成果が昇給や賞与にどう反映されるのか、評価の基準がはっきりしないケースも少なくありません。「どれだけ頑張っても報われない」という不満は、従業員のモチベーションを大きく下げてしまいます。

身体的な負担が大きい労働環境

長時間の立ち仕事、重い食材や食器の運搬、火や油を使う厨房での暑さなど、飲食店での業務は身体的な負担が大きいものです。とくに人手不足の店舗では一人あたりの業務量が増え、疲労が蓄積しやすくなります。このような環境が、心身の不調や離職につながることもあります。

人間関係のストレスとコミュニケーション不足

飲食店は限られたスペースで多くのスタッフが連携して働くため、人間関係が密になりやすい環境です。店長や先輩、同僚との相性が悪いと、精神的なストレスは大きくなります。また、忙しさから十分なコミュニケーションがとれず、情報共有の不足や孤立感を生んでしまうこともあります。

キャリアパスの描きにくさと将来への不安

「この職場で働き続けて、自分はどう成長できるのか」というキャリアパスが描きにくいことも、とくに若手社員の離職理由になります。店長より上の役職が少なかったり、スキルアップの機会が乏しかったりすると、将来に不安を感じて他の業界や企業への転職を考えるようになるでしょう。

アルバイト従業員に多い離職理由

学生アルバイトの場合は、学業や就職活動との両立が難しくなって辞めるケースが考えられます。また、主婦・主夫のパートタイマーであれば、家庭の事情が優先されることもあるでしょう。時給やシフトの柔軟性といった条件面が、離職の直接的な引き金になることも少なくありません。

カフェやパティシエなど専門職の離職傾向

カフェやパティシエといった専門職は、華やかなイメージとは裏腹に、厳しい下積み期間や専門技術の習得が求められます。理想と現実のギャップに悩み、離職を選ぶ人もいます。また、自身の目指すスキルや方向性と、店のコンセプトが合わないという理由で職場を変わるケースも見受けられます。

飲食店の離職率が高いと起こる経営への悪影響

飲食店においても従業員の離職が続くと、人手が減る以上の問題が発生します。残った従業員への負担増加やサービスの質の低下を招き、最終的には店の評判や売上にも悪影響を及ぼす可能性があります。

採用と教育にかかるコストの増大

従業員が一人離職すると、新たな人材を確保するために求人広告費や人材紹介料などの採用コストが発生します。さらに、新しい従業員が一人前に育つまでには、研修期間中の人件費や教育担当者の時間といった教育コストもかかります。離職が頻発すると、これらのコストが経営を圧迫する要因となります。

従業員の負担増によるサービス品質の低下

人手が減れば、残った従業員一人ひとりの業務負担は当然増えます。忙しさから心身に余裕がなくなり、接客でのきめ細やかな対応が疎かになったり、料理の提供が遅れたりといったミスが起こりやすくなるでしょう。こうしたサービス品質の低下は、顧客満足度の低下に直結します。

職場の雰囲気悪化が招くさらなる離職

慢性的な人手不足は、職場の雰囲気を悪化させます。従業員は常に忙しく、焦りやイライラが募りがちです。十分なコミュニケーションがとれず、人間関係もギスギスしてしまうかもしれません。このような環境は、さらなる離職を招く負のスパイラルに陥る危険性をはらんでいます。

新卒の早期離職を防ぐための職場づくり

入社後の数年間で多くの新卒者が辞めてしまう現状をふまえ、とくに若手社員を定着させるための環境づくりが重要です。丁寧な教育と将来への期待感を持たせることが、早期離職を防ぐことにつながります。

入社後のギャップをなくす丁寧なOJT

新卒社員が最初に感じる「こんなはずではなかった」という入社後のギャップを最小限にすることが大切です。「見て覚えろ」という姿勢ではなく、体系的なOJT(On-the-Job Training)プランを用意しましょう。最初の数週間、数ヶ月で何をどのレベルまで習得するのかを明確にし、段階的に業務を教えることで、新卒社員は安心して成長できます。

気軽に相談できるメンター制度の導入

業務上の疑問や職場での悩みを一人で抱え込ませないために、メンター制度の導入は効果的です。年齢の近い先輩社員を「メンター」として任命し、新入社員を公私にわたってサポートする体制を作りましょう。定期的な面談の機会を設けることで、業務の指導だけでなく、精神的な支えとなり、孤立を防ぎます。

将来像を描けるキャリアパスの提示

新卒社員が「ここで働き続けたい」と思えるよう、将来のキャリアパスを具体的に示すことが求められます。「3年後にはこの業務を任せたい」「将来的には副店長や店長を目指せる」「独立支援制度がある」など、明確な目標を提示することで、日々の業務に対するモチベーションが高まります。

アルバイトの離職を防ぐ飲食店の工夫

飲食店の運営において、アルバイト従業員の力は欠かせません。彼らが働きやすいと感じる環境を整えることが、安定した店舗運営につながります。柔軟な働き方への対応や、やりがいを感じられる工夫がポイントです。

学業や家庭と両立しやすい柔軟なシフト制度

アルバイト従業員にとって、シフトの柔軟性は非常に重要です。とくに学生の場合はテスト期間や学校行事、主婦・主夫の場合は子どもの急な発熱など、予期せぬ予定が入ることもあります。事前に相談しやすい雰囲気を作り、可能な限り希望に応じたシフト調整を行うことで、働きやすさへの満足度は大きく向上するでしょう。

感謝を伝え、成長を促すコミュニケーション

アルバイトだからといって、指示を出すだけの関係では長続きしません。日々の業務に対して「ありがとう」と感謝を伝えたり、「この作業が早くなったね」と具体的な成長を褒めたりするフィードバックを心がけましょう。自分の働きが認められていると感じることは、時給以上のやりがいとなり、定着につながります。

能力に応じた昇給やインセンティブ

アルバイト従業員の貢献意欲を高めるために、頑張りを評価する仕組みを取り入れることも有効です。できる業務が増えたり、後輩の指導を任せられるようになったりした場合に昇給する制度や、目標達成時にインセンティブを支給するなど、目に見える形で還元することで、モチベーションの維持・向上が期待できます。

ITツール活用で飲食店の離職率改善を後押しする

勤怠管理や情報共有にITツールを導入することは、業務効率化だけでなく、従業員の不満を解消し、離職率改善にもつながります。アナログな管理から脱却し、働きやすい環境をシステム面から支えましょう。

勤怠管理システムで労働時間を正確に把握する

タイムカードでの打刻や手作業での集計は、手間がかかるうえにミスも起こりがちです。勤怠管理システムを導入すれば、スマートフォンやタブレットから簡単に出退勤を記録でき、労働時間や残業時間が自動で集計されます。これにより、労働時間の正確な可視化と管理業務の効率化が実現します。

人事評価システムで公平な評価を実現する

従業員の頑張りを公平に評価するために、人事評価システムを活用するのも一つの手です。評価項目や基準をシステム上で明確にすることで、評価プロセスが透明化され、従業員の納得感が高まります。評価者によるブレも少なくなり、客観的で公平な評価ができるようになります。

会計ソフトで給与計算のミスを防ぎ信頼を高める

給与計算のミスは、従業員の不満や不信感に直結する大きな問題です。会計ソフト、とくに給与計算機能が充実しているものを導入すれば、勤怠データと連携して給与を自動で正確に計算できます。これにより、毎月の給与支払いが確実なものとなり、従業員との信頼関係を築く土台となります。また、店長の経理業務の負担が減ることで、本来の業務である人材育成や職場環境の改善に、より多くの時間を割けるようになるでしょう。

ビジネスチャットで円滑な情報共有を促す

業務連絡やマニュアルの共有、急なシフト変更の相談などに、LINE WORKSやSlackといったビジネスチャットツールは便利です。全従業員にリアルタイムで情報を伝達できるため、連絡漏れを防ぎ、店舗運営がスムーズになります。また、気軽にコミュニケーションがとれるため、チームワークの向上にも役立つでしょう。

働きがいのある職場づくりが飲食店の離職率改善につながる

飲食店の離職率に向き合うことは、人材の流出を防ぐだけでなく、従業員一人ひとりが意欲を持って働ける環境を整えることです。それがサービスの質を高め、ひいては店舗全体の成長を実現する土台となります。

給与や休日といった待遇面の改善はもちろん、新卒やアルバイトを含めた全従業員への公平な評価やキャリア支援、良好なコミュニケーションといった働きがいの醸成が、人材の定着と企業の発展を支えるでしょう。自店の課題を正しく把握し、できることから改善に取り組んでいくことが、従業員から選ばれる飲食店への道ではないでしょうか。


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