• 作成日 : 2025年9月22日

飲食店の時短営業はどう進める?メリットデメリットと成功のための手順を解説

飲食店の「時短営業」と聞くと、かつての感染症対策による行政からの要請を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし現在では、人手不足や働き方改革といった社会的な背景から、これまでの営業スタイルを見直し、営業時間の短縮を選択肢の一つとして考えるお店もあるのではないでしょうか。

これは「戦略的な時短営業」と呼ばれ、従業員の労働環境を改善し、経営の効率化を図るための、未来に向けた前向きな経営判断です。この記事では、飲食店の時短営業がもたらす影響から、パターン別の具体的な進め方、成功に導くための手順と注意点までをわかりやすく解説します。

飲食店の時短営業とは?

飲食店の経営者や店長の皆様の中には、昨今の深刻な人手不足や、スタッフの働き方を見直す中で、「営業時間を短縮できないだろうか」と考えたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

このように、お店が自らの判断で、働き方や経営効率の改善を目指して行う前向きな営業時間短縮は、「戦略的な時短営業」と呼ばれることがあります。たとえば、ランチとディナーの間に休憩時間を設けたり、深夜営業をやめて閉店時間を早めたり、定休日を増やしたりといった、お店の状況に合わせたさまざまな取り組みが含まれます。こうした動きの背景には、従業員のワークライフバランスを重視する社会の変化があり、お店を長く健全に続けていくための選択肢として考えられています。

ここで触れておきたいのが、2020年から数年間にわたる感染症対策としての時短営業です。これは、夜間の人流抑制などを目的とした行政からの要請に応じる形で行われたものでした。多くの飲食店がこの要請に協力し、その際には国や自治体から協力金が支給されるといった措置がとられました。現在は全面的に解除されていますが、社会全体で営業時間のあり方が見直される一つのきっかけになった出来事といえるかもしれません。

飲食店が時短営業に取り組むメリット

営業時間を短くすることは、コスト面や働く環境の面で、お店に良い影響をもたらすことがあります。ここでは、主なメリットを見ていきましょう。

働く環境の改善につながる

時短営業は、従業員の労働環境を見直すきっかけになります。長時間労働が当たり前になりがちな飲食業界において、労働時間が短くなることは、心と体の健康を保ちやすくし、プライベートの時間も確保しやすくなります。従業員の満足度が高まれば、仕事への意欲向上やサービス品質の安定につながり、経験を積んだ貴重なスタッフの定着も期待できるでしょう。

新しい人材が集まりやすくなる

「働きやすい環境」は、求職者にとってお店を選ぶ上でとても大切なポイントです。「短い時間で働ける」「規則正しいシフトで働ける」といった点をアピールすることで、人材の確保が難しい中でも、これまで働きにくかった主婦(夫)層や学生など、新しい層からの応募も集めやすくなるでしょう。

仕事の質や効率が上がる

営業時間を絞り込むことで、スタッフは忙しい時間帯に集中してパフォーマンスを発揮できます。また、営業していない時間を仕込みや清掃、新メニューの開発や研修などにしっかり充てることができます。

たとえば、スタッフ全員で試作メニューの試食会を開いたり、接客について話し合うミーティングの時間にしたりと、チーム全体のスキルアップやコミュニケーションの活性化にもつながります。

人件費や光熱費を抑えられる

営業時間が短くなることで、スタッフの労働時間が減り、人件費を抑えられる可能性があります。とくに深夜営業をやめる場合は、法律で定められた深夜割増賃金(25%以上)の支払いが発生しなくなります。また、お客様が少ない時間帯(アイドルタイム)の営業を取りやめることで、その間の人件費や光熱費といったコストを削減し、経営の効率化を図れます。

オーナー自身の心身の健康につながる

中小規模の飲食店では、オーナー自身が長時間現場に立ち続けることも少なくありません。営業時間を短縮することは、働くスタッフだけでなく、経営者自身の心身の健康を守ることにもつながります。

しっかりと休息をとることで、経営判断の質を高めたり、新しいアイデアを生み出したりと、長期的な視点でのお店の成長にも良い影響を与えるのではないでしょうか。

飲食店が時短営業で注意したいデメリット

一方で、営業時間を短くすることには、もちろん注意すべき点もあります。デメリットを正しく理解し、事前に対策を考えておくことが大切です。

売上が減ってしまうかもしれない

最も心配されるのが、売上の減少です。とくに、これまでお客様が多かった時間帯の営業をやめる場合は、直接的に売上が減ってしまう可能性があります。この売上減を、削減できるコストで吸収できるのか、あるいは営業している時間帯の客単価アップや回転率向上でカバーできるのか、事前のシミュレーションが欠かせません。

お客様が離れてしまう心配

営業時間の変更によって、これまで利用してくれていたお客様が来店できなくなることも考えられます。とくに、仕事帰りの一杯を楽しみにしていた常連客や、二次会で利用していたグループ客などが離れてしまうリスクは、あらかじめ考えておく必要があります。顧客層がこれまでと変わる可能性も視野に入れておくとよいでしょう。

売上のチャンスを逃してしまう

お店を閉めている時間に「ここで食事をしたかった」というお客様がいた場合、その売上を得る機会を失うことになります。周辺の競合店が長く営業している場合、宴会や二次会といったグループ利用の需要が、そちらに流れてしまうこともあり得ます。

地域の特性やイベントの有無なども考慮し、機会損失がどの程度発生しそうかを見極める必要があります。

従業員のシフト削減や雇用の問題

時短営業になると、従業員の働き方にも大きな影響を及ぼします。営業時間が短くなることで、これまで長い時間働いて収入を得ていたスタッフのシフトを削らざるを得ない状況も考えられます。場合によっては、人員整理や解雇といった厳しい判断が必要になる可能性もゼロではありません。従業員の生活を守るためにも、時短営業の計画は、労務の専門家なども交えながら慎重に進める必要があります。

パターン別に見る飲食店の時短営業

時短営業にはいくつかのパターンがあります。自店の客層や営業状況に合わせて、最適な方法を選択することが成功につながります。ここでは、代表的な5つのパターンについて、その進め方とポイントを解説します。

パターン①:昼休み(中休み)を設ける

ランチとディナーの間に数時間お店を閉める「中休み」は、多くの飲食店で採用されている方法です。この時間の主な目的は、ディナー営業の仕込みや調理場の清掃、そしてスタッフの休憩です。お客様が少ない時間帯をなくすことで、人件費を効率化し、スタッフは一度リフレッシュして夜の営業に臨めます。

注意点としては、休憩中のスタッフのお給料について、労務管理をしっかり行う必要があります。また、お客様には「〇時~〇時は準備中」であることを、店頭やSNSなどで明確にお知らせすることが大切です。

パターン②:夜の営業時間を短縮・廃止する

たとえば、深夜2時までの営業を24時に切り上げる、あるいは22時で閉店するなど、夜の営業時間を短くしたり、完全になくしたりする方法です。深夜帯は客単価が高い傾向にあるものの、客足が不安定なことも多く、人件費や光熱費に見合わない場合があります。

売上のデータなどをよく見て、利益が出ていない時間帯を思い切って削ることで、経営のスリム化を図れます。スタッフの生活リズムが整い、健康的な働き方を実現できるというメリットも考えられます。

パターン③:昼営業のみ、または夜営業のみに特化する

ランチ営業をやめてディナー営業に集中する、あるいはその逆で、夜営業をやめてランチとカフェタイムのみに特化する方法です。これにより、メニュー構成やスタッフの配置を、特定の時間帯に最適化できます。たとえば、昼営業のみにすれば、主婦(夫)層のパート・アルバイトを採用しやすくなります。夜営業のみにすれば、高単価のコース料理やアルコール提供に集中して利益率を高める、といった戦略が可能になります。

ただし、売上の柱を一つに絞ることになるため、慎重に予測してみることが欠かせません。

パターン④:定休日を増やす・不定休にする

週に1日の定休日を2日に増やす、あるいは毎週決まった曜日ではなく不定休にするという方法です。完全な休日を増やすことは、オーナーや従業員の心身のリフレッシュに直結します。リフレッシュした状態で仕事に臨むことで、サービスの質の向上も期待できるでしょう。

不定休にする場合は、スタッフの希望に応じて柔軟に休日を設定できる良さがありますが、お客様にとってはわかりにくい面もあります。SNSや公式サイトで、営業日カレンダーを常に最新の状態で公開しておくといった配慮が必要です。

パターン⑤:曜日によって営業時間を変える

平日はオフィスワーカー向けのランチと早めのディナー営業、週末は家族連れやカップル向けに夜遅くまで営業する、といったように、地域の需要に合わせて曜日ごとに営業時間を柔軟に変更する方法です。オフィス街であれば平日のランチタイムに、繁華街であれば週末の夜に営業時間を集中させることで、効率的に売上を確保できます。

予約状況に応じて営業時間を変動させるなど、柔軟な対応も考えられますが、お客様への告知を徹底することが前提となります。

時短営業を成功させるための導入手順

時短営業は、お店にとって大きな変化です。成功させるためには、計画的な準備と丁寧なコミュニケーションが欠かせません。ここでは、導入までにふむべきステップと、それぞれの具体的な内容を解説します。

① お店の今を知り、未来を予測する(分析・計画)

まずは、自店の現状を数字で正確に知ることから始めましょう。POSレジのデータなどを活用し、時間帯別・曜日別の売上、客数、客単価を分析します。これにより、どの時間帯が利益に貢献しているか、どの時間帯が非効率かが客観的にわかります。

次に、時短営業をした場合のシミュレーションを行います。たとえば、「22時以降の営業をやめる」と決めたなら、その時間帯の平均売上から、失われる粗利(売上-原価)を計算します。

同時に、削減できる人件費(深夜割増賃金を含む)や光熱費も算出します。この二つを比較し、時短をしても利益が確保できるのか、経営的に成り立つのかを慎重に判断します。

② 仕入れやオペレーションを見直す(準備)

営業時間が変わると、仕事の流れや必要な食材の量も変わってきます。事前に仕入れやオペレーションの見直しを行いましょう。 たとえば、深夜営業をやめれば、深夜帯にしか出ないメニューの食材は発注量を減らすか、発注自体をやめる必要があります。

発注のロット(最低注文単位)によっては、仕入れ先との交渉が必要になるかもしれません。また、仕入れ業者によっては配送時間が決まっているため、営業時間の変更に伴い、納品の時間を調整してもらうなどの相談も早めに行い、良好な関係を保つよう心がけましょう。

③ スタッフとしっかり話し合う(情報共有・調整)

時短営業は、スタッフの働き方に直接影響します。経営者だけで決めるのではなく、一緒に働くスタッフ一人ひとりとしっかり話し合い、理解と協力を得ることが大切です。なぜ営業時間を短くしたいのか(たとえば、みんなの働く環境を良くしたい、など)を丁寧に伝えましょう。

その上で、変更後の働く時間やお給料がどうなるのか、具体的なシフト案や給与シミュレーションを示しながら、それぞれの希望を聞き、調整を進めていくことが円満な移行への近道です。

④ お客様へ丁寧にお知らせする(告知)

営業時間の変更は、お客様、とくに常連客にとっては大きな出来事です。突然営業時間が変わっていてがっかりした、ということがないように、十分な告知期間を設けて、丁寧にお知らせすることが不可欠です。

最低でも変更の1ヶ月前からは、店内のポスターやテーブルのPOP、公式サイト、SNSなど、あらゆる手段を使ってお知らせします。その際、「誠に勝手ながら」というお詫びの言葉だけでなく、「従業員の働き方を改善するため」「より良いサービスを提供するための準備時間として」といった、前向きな理由を伝えることで、お客様からの理解を得やすくなるでしょう。

⑤ 始めた後の振り返りと見直し(改善)

時短営業は、一度始めたら終わりではありません。開始後は、当初の予測通りに効果が出ているかを定期的に振り返る必要があります。 売上や利益といった数字の変化はもちろん、「スタッフの残業時間が減ったか」「新しいメニューの開発は進んだか」といった点も確認します。

お客様から「営業時間が短くなって残念」といった声が多ければ、客単価を上げる工夫をするなど、柔軟に見直しを行っていく姿勢が大切です。

時短営業は、飲食店を続けていくための選択肢の一つ

飲食店にとって、時短営業は単なる営業時間の短縮ではなく、働きやすさや経営効率を高めるための選択肢です。売上への影響が心配される一方で、人材の定着やコストの最適化、サービス品質の向上など、長期的なメリットも期待できます。

大切なのは、感覚だけで判断せず、売上やコストのデータをもとに冷静に検討し、スタッフやお客様との丁寧な対話を重ねて進めること。無理なく続けられる営業体制を整えることで、お店の持続可能性が高まり、変化の時代にも選ばれる飲食店へと近づいていきます。


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