- 作成日 : 2025年8月19日
飲食店のデータを活用するには?分析方法から経営改善の具体例まで解説
飲食店の経営において、売上や顧客に関する「データ活用」は、もはや一部の企業だけのものではありません。データを正しく分析し活用することで、コスト削減や集客力の強化、人員の適正化といった、多くの経営者が抱える課題解決の糸口が見えてきます。しかし、実際に何をどうすればよいのか、わからない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、飲食店がすぐに始められるデータ活用の基本から具体的な分析方法、経営改善の事例、ツールの選び方まで、わかりやすく解説します。
目次
飲食店のデータ活用で解決できる経営課題
飲食店がデータを活用できるとさまざまな経営課題を解決するためのヒントが見つかります。これまで経営者の勘や経験に頼りがちだった部分をデータで裏付けることで、より精度の高い意思決定ができます。人員配置の最適化からコスト削減、効果的な販促活動まで、その効果は多岐にわたります。
売上予測にもとづく人員配置の適正化
過去の売上データや予約状況を分析することで、曜日や時間帯、季節ごとの来客数や売上を高い精度で予測できるようになります。
たとえば、天気や近隣でのイベントといった外部要因と売上データを掛け合わせることで、「雨の日は客足が落ちるが、デリバリーの注文が増える」「イベント開催日は特定のメニューが多く出る」といった傾向がわかります。この予測にもとづいてスタッフのシフトを組めば、忙しい時間帯に人手が足りなくなったり、反対に暇な時間帯に人員が過剰になったりする事態を防ぎ、人件費の無駄をなくしながら、サービスの質を維持できるでしょう。
食材ロスや人件費など無駄なコストの削減
データ活用は、飲食店の大きな課題であるコスト管理にも有効です。とくに食材の廃棄、いわゆるフードロスの削減に大きな効果が期待できます。
どのメニューがいつ、どれくらい注文されるのかをPOSデータで正確に把握できれば、必要な食材の量を予測し、過剰な仕入れを防ぐことが可能です。また、売れ行きの悪い「死に筋メニュー」を特定し、メニュー構成から外す、あるいは改善するといった判断も的確に行えます。これにより、食材費だけでなく、仕込みにかかる人件費や光熱費の削減にもつながっていくのです。
勘に頼らない効果的な集客と売上向上
「どのようなお客様が、いつ、何をきっかけに来店しているのか」をデータから読み解くことで、集客施策の費用対効果を高められます。
たとえば、顧客データを分析して「20代の女性グループは、SNSのキャンペーンをきっかけに来店する確率が高い」という事実がわかれば、その層に響くようなSNS広告や特典を重点的に展開できます。
一方で、「40代の男性は、グルメサイトの評価を見て来店する」という傾向があれば、グルメサイトの情報を充実させるといった施策が有効でしょう。
データにもとづいてターゲットとアプローチ方法を定めることで、無駄な広告費を使わずに、効率的な集客が実現します。
データにもとづく効果的なメニュー開発
顧客が本当に求めているものを知ることは、メニュー開発において非常に大切です。データ分析は、顧客ニーズを正確に捉える手助けをします。
よく注文されるメニューの組み合わせを分析すれば、新たなセットメニューのアイデアが生まれるかもしれません。また、SNS上の口コミデータを分析すれば、「もっと野菜の多いメニューがほしい」「辛さを選べると嬉しい」といった、アンケートでは得られにくい本音が見えてくることもあります。
こうしたデータにもとづいて新メニュー開発や既存メニューの改良を行えば、顧客の期待に応えることができ、お店の評価も高まるでしょう。
顧客満足度の向上とリピーター育成
お客様に「また来たい」と思ってもらうためには、一人ひとりのニーズに合ったサービスを提供することが大切です。データ活用は、そのためのヒントを与えてくれます。
予約履歴や過去の注文履歴といった顧客データを管理することで、「前回と同じ席を希望されている」「特定のアレルギーがある」といった情報をスタッフ間で共有し、きめ細やかな接客に活かすことができます。
また、来店頻度や利用金額から優良顧客を特定し、限定メニューの案内や特別なクーポンを送付するといった特別なアプローチもできます。
こうした一つひとつの積み重ねが顧客満足度を高め、お店のファン、つまりリピーターを育てることにつながります。
飲食店が活用できる主なデータの種類
「データ活用」と聞くと、専門的な知識や特別なシステムが必要だと感じるかもしれません。しかし、実際には多くの飲食店が日々の営業の中で、すでに貴重なデータを自然と蓄積しています。まずは、すでにあるデータを意識することから始めましょう。
顧客データ(来店履歴・属性など)
電話やグルメサイト経由での予約、あるいは自社で運用している会員アプリやポイントカード。これらもまた、重要な顧客データとなります。
予約情報には、お客様の氏名や連絡先に加え、来店日時、人数、要望(禁煙席希望など)が含まれています。リピーターであれば、過去の来店履歴もわかります。
これらの顧客データを丁寧に管理することで、後述するRFM分析などを用いて優良顧客を特定したり、誕生日が近いお客様に特別な案内を送ったりといった、個別のアプローチをすることができるようになります。
売上・POSデータ
現在、多くの飲食店で導入されているPOS(販売時点情報管理)レジは、単なる会計ツールではありません。これは、データ活用のための宝の山です。
POSレジからは、「いつ」「何が」「いくつ」「いくらで」売れたのかという基本的な販売データが取得できます。さらに、会計時間、テーブル番号、会計ごとの客数、注文されたメニューの組み合わせといった情報も記録されます。これらのデータを分析するだけで、時間帯ごとの売れ筋メニューや、客層による注文傾向の違いなど、経営に役立つ多くの発見があるでしょう。
SNS・口コミデータ
お客様の声は、お店を改善するための貴重な情報源です。グルメサイトやGoogleマップ、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSには、お客様の率直な意見や感想、つまり「口コミデータ」があふれています。
これらの定性的なデータからは、「料理の味は良いが、提供スピードが遅い」「このメニューの写真が魅力的だった」「店内の雰囲気が心地よい」といった、POSデータだけではわからないお客様の体験価値を知ることができます。定期的に自店の評判をチェックし、ポジティブな意見は伸ばし、ネガティブな意見は真摯(しんし)に受け止め改善につなげる姿勢が、顧客満足度の向上には欠かせません。
在庫・仕入れデータ
食材の仕入れ伝票や在庫管理表も、立派なデータです。これらのデータを活用することで、仕入れの最適化や原価管理の精度を高められます。
どの食材が、どのくらいの期間で消費されているのかを把握し、POSデータと突き合わせることで、メニューごとの正確な原価率を算出できます。また、廃棄した食材の種類と量を記録しておけば、フードロスの原因を特定し、対策を講じるための基礎資料となります。手書きの伝票やエクセルでの管理であっても、まずは記録を続けることがデータ活用の第一歩です。
飲食店のデータを活用した基本的な分析方法
データを集めただけでは、経営改善にはつながりません。そのデータを「分析」し、意味のある情報を引き出すプロセスが大切です。ここでは、比較的取り組みやすく、多くの飲食店で応用できる基本的な分析手法を4つ紹介します。
ABC分析で貢献度の高いメニューを把握する
ABC分析は、商品を売上高や販売数などの指標でランク付けし、重要度に応じてA・B・Cの3つのグループに分類する手法です。飲食店のメニュー分析において、もっとも基本的で効果的な方法のひとつといえるでしょう。
- Aグループ(貢献度の高い商品): 全体の売上の大半(例:7割)を占める主力メニュー。看板商品として積極的にアピールし、品質維持に努めるべき商品群です。
- Bグループ(中程度の商品): Aグループほどではないが、安定した売上があるメニュー。少しの工夫や改善でAグループに成長する可能性があります。
- Cグループ(貢献度の低い商品): 売上への貢献度が低いメニュー。提供に手間がかかる場合や原価が高い場合は、メニューから外す、あるいは大幅なリニューアルを検討します。
この分析により、メニュー改定や販売促進の優先順位を、客観的なデータにもとづいて判断できるようになります。
RFM分析で優良顧客の姿を明らかにする
RFM分析は、顧客を3つの指標で評価し、グループ分けする手法です。リピーター育成や優良顧客へのアプローチを考えるうえで役立ちます。
- Recency(最終来店日): 最近、いつ来てくれたか
- Frequency(来店頻度): これまで、何回くらい来てくれたか
- Monetary(累計利用金額): これまで、いくら使ってくれたか
この3つの指標で顧客を分析すると、「最近も来てくれて、頻度も高く、利用金額も多い」という最優良顧客から、「昔はよく来てくれたが、最近はご無沙汰している」という離反予備軍まで、顧客の状態がはっきりとわかります。
それぞれのグループに合ったアプローチ(例:優良顧客には特別感を、ご無沙汰の顧客には再来店を促すクーポンを)を行うことで、効果的な顧客管理ができます。
相関分析で注文されやすい組み合わせを発見する
相関分析は、2つの事象の関係性の強さを分析する手法です。「ある商品Aが購入されると、商品Bも一緒に購入されやすい」といった傾向を見つけるのに使われます。
飲食店のPOSデータでこの分析を行うと、「ビールと一緒に注文されやすいおつまみ」や「パスタと一緒によく出るサイドメニュー」などが明らかになります。
この関係性がわかれば、「ビールと枝豆のセット割引」を企画したり、メニューブックで相性の良い組み合わせを提案したりすることで、顧客単価の向上を狙うことが可能です。
トレンド分析で曜日や季節ごとの繁閑を予測する
トレンド分析は、時系列データを分析して、売上や来客数の季節的な変動や周期的なパターンを見つけ出す手法です。
過去数年分の月別売上データをグラフにすれば、「夏場はビールの売上が伸び、冬場は鍋料理が人気になる」といった季節変動がわかります。また、曜日ごとや時間帯ごとのデータを分析すれば、「月曜日は客足が鈍いが、金曜日の19時台がピークになる」といった店舗固有の繁閑リズムが把握できます。
これらのトレンドをふまえることで、より精度の高い売上予測や人員計画、効果的な季節限定メニューの開発が可能になるのです。
飲食店のデータ活用による経営改善の具体例
データ活用は、理論だけでなく実践でこそ価値が生まれます。ここでは、データ活用による経営改善の想定例を紹介します。自店の状況と照らし合わせながら、ヒントを探してみてください。
POSデータ分析によるメニュー改定で客単価を向上
都心部にあるある居酒屋では、長年メニュー構成を変えておらず、売上が伸び悩んでいました。そこで、POSデータを活用してABC分析を実施。その結果、一部の人気メニューに売上が集中していること、そして原価が高いにもかかわらずあまり注文されない貢献度の低いメニューが複数存在することが判明しました。
この分析結果にもとづき、Cランクのメニューを廃止し、Aランクの人気メニューに関連した新メニュー(例:唐揚げの味付けバリエーション)を開発。さらに、ドリンクとのお得なセットメニューを導入しました。結果として、顧客単価が平均で15%上昇し、全体の売上向上に大きく貢献しました。
顧客データにもとづくアプローチで再来店率が2倍に
郊外の住宅街にあるイタリアンレストランは、新規顧客は来るものの、リピーターがなかなか定着しないという課題を抱えていました。そこで、予約台帳の情報をデジタル化し、顧客管理システムを導入。RFM分析を行い、顧客をグループ分けしました。
とくに「最終来店から3ヶ月が経過したお客様」のグループに注目し、限定のパスタメニューを案内するダイレクトメール(DM)を送付する施策を実施。お客様の名前を記載し、手書きのメッセージを添える工夫も凝らしました。その結果、DMを送付したお客様の再来店率が、施策実施前の2倍以上に向上し、安定したリピーター層の形成につながりました。
天気予報データとの連携で食材ロスを大幅削減
海沿いにある海鮮料理店では、天候によって客足が大きく変動するため、仕入れ量の調整が難しく、食材ロスが経営を圧迫していました。この課題を解決するため、過去の売上データと天気予報データを連携させるシンプルな仕組みを構築しました。
過去のデータから「晴れの週末」「雨の平日」など、天候と曜日のパターンごとの平均来客数と人気メニューを算出。翌週の天気予報が発表されると、その予測値にもとづいて仕入れ量を自動で調整するようにしたのです。この取り組みにより、勘に頼っていた仕入れの精度が格段に向上し、月間の食材ロスを約3割も削減することに成功しました。
飲食店のデータ活用を促進する分析ツールとAI
データ活用の重要性はわかっていても、何から手をつけてよいかわからない、あるいは日々の業務が忙しくて分析まで手が回らない、という方も少なくないでしょう。幸い、現代では飲食店のデータ活用を強力にサポートしてくれるツールや技術が存在します。
小規模な店舗でも導入しやすい分析ツール
高価で複雑なシステムを導入しなくても、データ活用は始められます。むしろ、最初は身の丈に合ったツールから試してみるのがよいでしょう。
- 高機能なPOSレジ: 最近のPOSレジには、会計機能だけでなく、ABC分析や顧客管理機能を標準で搭載しているものが増えています。まずは、今使っているPOSレジの機能を再確認してみましょう。
- 予約管理システム: グルメサイトと連携できる予約管理システムの中には、予約情報から顧客データを自動で蓄積し、簡単な分析やメール配信ができるものもあります。
- 表計算ソフト(Excelなど): すべての基本ともいえるのが、Excelのような表計算ソフトです。POSデータや顧客リストを読み込ませれば、並べ替えやフィルタリング、グラフ作成など、基本的な分析は十分に可能です。
これらのツールを組み合わせることで、低コストでデータ活用の仕組みを構築できます。
無理なく始めるデータ活用のためのデジタル化ステップ
いきなりすべての業務をデジタル化しようとすると、現場の負担が大きくなり、かえって混乱を招くことがあります。小さな成功体験を積み重ねていくことが、定着の秘訣です。
- ステップ1:記録の習慣化: まずは、紙のままでもよいので、売上、顧客情報、在庫、廃棄などを正確に記録することから始めます。
- ステップ2:一部のデジタル化: 予約管理や顧客リストなど、比較的導入しやすい部分から表計算ソフトや専用ツールに移行してみます。
- ステップ3:データの一元化: POSレジや予約システムなど、複数のツールを連携させ、データが一箇所に集まる仕組みを目指します。
このステップをふむことで、スタッフも徐々にデジタルツールに慣れ、スムーズな移行が期待できるでしょう。
AI活用で得られることと注意しておきたいデメリット
近年では、AI(人工知能)を飲食店のデータ活用に役立てる動きも活発になっています。AIを活用することで、人間では難しい高度な分析や予測が可能になります。たとえば、過去の膨大なデータから来客数を高精度で予測したり、顧客一人ひとりの嗜好に合わせたメニューを自動でおすすめしたりするようなサービスも登場しています。
しかし、AI活用には注意点もあります。AIはあくまでもデータにもとづいて判断するため、分析のもとになるデータが不十分だったり、質が低かったりすると、誤った結論を導き出す可能性があります。これが「AIのデメリット」のひとつです。
また、なぜAIがその結論に至ったのか、理由がわかりにくい「ブラックボックス問題」や、導入・運用コストの問題もあります。AIは万能の魔法ではなく、あくまで経営を助けるツールのひとつとして、その特性を理解したうえで活用を検討することが求められます。
これからの飲食店経営はデータ活用が支える
いまや飲食店の経営において、データの活用は特別な取り組みではなく、安定した運営を続けるための基本といえるものになりつつあります。日々の営業記録には、見落とされがちな課題や、お店の強みを伸ばすヒントが数多く含まれています。
紹介したABC分析やRFM分析といった手法は、そのヒントを見つけ出すきっかけにすぎません。データと向き合うことは、お客様一人ひとりと向き合うことでもあり、将来のお店の姿を考えることでもあります。
難しく考えすぎず、まずはPOSレジのデータを見直す、予約台帳を整理する、といった小さな一歩から始めてみましょう。そうした積み重ねが、勘や経験に裏打ちされた判断力をより確かなものにし、変化の激しい時代を乗り越えるための力となっていくはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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