• 作成日 : 2025年8月19日

飲食店の課題解決には何が必要?人材、集客、コスト面から解説

飲食店の経営課題を解決するには、まず自店の状況を正確に把握することが欠かせません。そのうえで「人材」「コスト」「集客」の3つの領域を中心に、データに基づいた具体的な施策を打つことが求められます。

この記事では、多くの飲食店が直面する課題を一覧で整理し、明日からでも取り組める解決策をわかりやすく解説します。

飲食店が抱える主な課題の一覧

飲食店が直面する課題は多岐にわたりますが、とくに「人材」「コスト」「集客」「顧客満足度」「生産性」の5つが大きなものとしてあげられます。これらを正しく把握することが、解決への糸口になるでしょう。

人材不足と定着率の低さ

飲食業界は、依然として人手不足が深刻な状況にあります。少子高齢化による労働人口の減少に加え、仕事内容に対する賃金水準や労働環境から、人材の確保が難しくなっているのが現状です。

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)」によると、全業種の平均で51.4%の企業が正社員の人手不足を感じており、これは4月として過去最高の水準です。

飲食店も高い水準にあり、とくにパート・アルバイトなどの非正社員では、人手不足の割合が65.3%と、業種別で最も高くなりました。社員・アルバイトを問わず人材確保が大きな課題となっています。

出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)」

原材料費や光熱費の高騰

食材の仕入れ価格や、電気・ガスといったエネルギー価格の上昇は、飲食店の利益を直接圧迫します。世界的な需要の増加や円安、天候不順など、さまざまな要因が絡み合っており、コスト管理の難易度は増すばかりです。

総務省統計局の2025年5月の消費者物価指数(CPI)によると、エネルギー全体は前年同月比8.1%上昇、うち電気代は11.3%、都市ガス代は6.3%上昇しています 。

また、生鮮食品を除く食料の上昇率は前年同月比7.7%と、依然として高く、飲食店では経営努力だけで吸収しきれないコスト増が続いている状況です 。

出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)5月分」

集客方法の多様化と競争激化

かつてはグルメ情報誌やチラシが中心だった集客方法も、現在は様変わりしました。グルメサイトはもちろん、GoogleビジネスプロフィールやInstagram、TikTokといったSNSの活用は当たり前になりつつあります。

情報発信の手段が増えたことで、お店の魅力を伝えやすくなった反面、すべてに対応するには手間とノウハウが必要です。

また、テイクアウトやデリバリー専門店の増加、冷凍食品の進化など、競合となる相手は近隣の飲食店だけではなくなりました。多様化する顧客のニーズにいかに応え、数ある選択肢の中から自店を選んでもらうか、厳しい競争にさらされています。

顧客満足度の維持と向上

良い商品やサービスを提供するのはもちろんのこと、顧客満足度を高く維持し続けることは、お店の評判を守り、リピーターを育てるうえで欠かせません。しかし、SNSや口コミサイトの普及により、顧客一人ひとりの声が大きな影響力を持つようになりました。

一度ネガティブな評判が広まってしまうと、その回復には多大な労力がかかります。また、最近は顧客がお店に求めるものも変化しており、料理の味だけでなく、接客の質、お店の清潔感、居心地の良さなど、総合的な体験価値がより重視されるようになっています。

生産性の低さと長時間労働

飲食店の現場では、仕込み、調理、接客、片付け、発注、売上管理など、業務が多岐にわたります。これらの業務を限られた人数でこなしているため、一人あたりの業務負荷が大きくなり、長時間労働につながりやすい傾向があります。

とくに、予約管理や売上集計などを手作業で行っている場合、多くの時間が割かれてしまい、本来注力すべき料理の品質向上や接客に時間をかけられないという事態も起こりがちです。デジタルツールの導入などが進んでいない店舗では、生産性の低さが従業員の負担増と離職を招く悪循環に陥ることも少なくありません。

飲食店の人材に関する課題と解決策

人材に関する課題を解決するには、採用方法の見直しだけでなく、従業員が長く働きたいと思える環境作りや、成長を実感できる育成の仕組みを整えるアプローチが求められます。

採用戦略を見直す

求める人材に効果的にアプローチするため、採用戦略を見直しましょう。

以前と同じ求人媒体にただ掲載するだけでは、応募が集まりにくくなっているのではないでしょうか。まずは、どのような人材(年齢、経験、スキル、人柄など)に来てほしいのかをはっきりさせ、そのターゲット層がよく利用する媒体を選ぶことが大切です。

たとえば、若年層を狙うならSNS型の求人サービスや、動画で職場の雰囲気を伝えられる媒体が向いているかもしれません。また、自店のスタッフに知人を紹介してもらうリファラル採用は、お店の文化に合った人材が見つかりやすく、定着率も高い傾向があるといわれています。ハローワークや地域の求人誌なども、地元で長く働きたいと考える層に有効な場合があります。

従業員が働きやすい環境作り

人材の定着には、働きやすい環境作りが不可欠です。

長時間労働や休日が少ないといった労働環境は、離職の大きな原因となります。シフト管理システムを導入して希望休を取りやすくしたり、労働時間を正確に管理して不要な残業をなくしたりする取り組みが必要です。

また、給与や待遇だけでなく、良好な人間関係や風通しの良い職場であることも、従業員の満足度に大きく影響します。定期的な面談で悩みや意見を聞く機会を設けたり、感謝を伝え合う文化を作ったりすることも、従業員のエンゲージメントを高めるでしょう。まかないや従業員割引といった福利厚生の充実は、他店との差別化にもつながります。

効果的な人材育成の仕組み

従業員のスキルアップを支え、成長を実感できる仕組みを作りましょう。

新人が入っても、教える人によって内容が違ったり、忙しくて十分な指導ができなかったりすると、成長が遅れ、早期離職の原因にもなります。基本的な業務手順をまとめたマニュアルを整備し、誰が教えても一定の品質を保てるようにすることが第一歩です。

さらに、ただ作業を教えるだけでなく、一人ひとりの習熟度に合わせた目標を設定し、達成できたらきちんと評価する仕組みがあれば、モチベーションの維持につながります。ベテランスタッフが新人を指導するトレーナー制度を設けたり、資格取得を支援したりすることも、従業員の成長意欲を刺激し、お店全体のサービスレベル向上に貢献するでしょう。

飲食店のコストに関する課題と解決策

コスト課題に対応するには、支出を正確に把握したうえで、メニュー構成の見直しやフードロス削減、日々の省エネといった地道な取り組みを継続していくことが欠かせません。

正確な原価管理とメニューの見直し

まず、自店のコスト構造を正確に把握することから始めます。

飲食店の経営でとくに重要な指標が、売上に対する原価(Food)と人件費(Labor)の割合を示すFLコストです。一般的に、FLコストは売上の55%〜65%程度に抑えるのが望ましいとされています。この数値を把握するために、まずはメニューごとの原価を計算し、どの商品がどれだけ利益に貢献しているか(あるいは圧迫しているか)を分析します。

この分析には、売上構成比と利益率の2軸で商品を評価するABC分析が役立ちます。売上は大きいが利益率が低いメニューは価格やレシピの見直しを、売上も利益率も低いメニューはメニューから外すことを検討するなど、データに基づいた判断ができるようになります。

フードロス削減への取り組み

フードロスの削減は、原価率の改善に直接つながる取り組みです。

日本の食品ロス量は年間464万トンにのぼり、そのうち事業系から出るものが231万トンを占めています。飲食店でのフードロスは、仕入れすぎ、過剰な仕込み、お客さんの食べ残しなどが主な原因です。

これを減らすには、まず日々の売上データや予約状況から、必要な食材の量を予測し、適切な量を発注・仕入れすることが基本です。また、野菜の皮や芯など、これまで捨てていた部分をスープやソースに活用する「使い切りレシピ」を開発することも有効でしょう。コース料理の一部を予約時に選んでもらうようにすれば、需要を予測しやすくなり、食材の無駄を減らせます。

出典:農林水産省「食品ロスとは」

省エネ対策と光熱費の削減

高騰が続く光熱費を抑えるには、日々の運用改善と設備の見直しが効果的です。

空調は、フィルターをこまめに清掃するだけで冷暖房の効率が上がり、消費電力の削減につながります。設定温度を夏は1℃高く、冬は1℃低くするだけでも、消費電力を約10%削減できるといわれ、大きな省エネ効果が期待できるでしょう。また、冷蔵庫の扉を開けている時間を短くしたり、調理機器をこまめに清掃して熱効率を保ったりすることも、日々の積み重ねとして大切です。

長期的な視点では、照明をLEDに交換したり、古い空調や冷蔵庫を省エネ性能の高い最新モデルに入れ替えたりすることも検討に値します。初期投資はかかりますが、ランニングコストを大幅に削減できるため、補助金制度などを活用しながら計画的に進めるのがよいでしょう。

飲食店の集客に関する課題と解決策

集客の課題を乗り越えるには、新規顧客とリピーターの両方に向けた施策が必要です。オンラインとオフラインの長所を活かし、自店に合った方法を組み合わせることが効果を高めます。

オンラインとオフラインを組み合わせた集客

自店のターゲット層やコンセプトに合わせて、さまざまな集客方法を組み合わせます。

オンライン集客の中心となるのが、GoogleビジネスプロフィールとSNSです。Googleビジネスプロフィールに正確な情報を登録し、写真や口コミを充実させることで、近隣で飲食店を探している人に見つけてもらいやすくなります。InstagramやTikTokでは、写真や短い動画で料理の魅力やお店の雰囲気を視覚的に伝え、ファンの獲得を目指しましょう。

一方、地域に密着した店舗であれば、オフラインの施策も依然として有効です。近隣の家庭やオフィスに配布するチラシ、商店街のイベントへの出店、地域の情報誌への掲載などは、デジタルに不慣れな層や、より身近な顧客にアプローチできます。

リピーターを増やすための施策

安定した経営のためには、新規顧客の獲得と同時に、一度来店したお客さんに再来店してもらうための施策が欠かせません。

LINE公式アカウントは、友だち登録してくれたお客さんに直接、新メニューのお知らせやクーポンを送れるため、再来店を促す強力なツールになります。ポイントカードや会員制度を設け、来店回数や利用金額に応じて特典を提供することも、お得感からリピート利用につながりやすいでしょう。

なによりも大切なのは、お客さん一人ひとりの情報を記録し、次回の来店時に活かすことです。「前回はカウンター席でしたね」「いつものドリンクでよろしいですか?」といった一言があるだけで、顧客は「自分のことを覚えてくれている」と感じ、お店に良い印象を持ってくれるのではないでしょうか。

データから見つける飲食店の隠れた課題

勘や経験に頼るだけでなく、POSレジの販売データや顧客アンケートといった客観的なデータを活用することで、これまで見えていなかった自店の強みや弱み、改善点を発見できます。

POSデータから顧客動向を分析する

POSレジに蓄積された販売データは、経営改善のヒントが詰まった宝の山です。

どのメニューが、いつ、どれだけ売れているのかを分析すれば、より効果的なメニュー開発や販促計画を立てられます。たとえば、雨の日に売上が落ち込む傾向があるなら、雨の日限定の割引サービスを実施する。特定のメニューがランチタイムによく出るなら、セットメニューとして強化する、といった施策が考えられます。

また、顧客の年代や性別といった情報を取得できるPOSシステムであれば、どのような客層にどのメニューが人気なのかを分析し、ターゲットに合わせた情報発信につなげることもできます。

アンケート調査で顧客の本当の声を知る

お客さんがお店に対して本当に感じていることは、直接聞かなければわからないことも多いものです。

料理の味や量、価格設定、接客態度、お店の清潔感など、改善点を見つけるためにアンケート調査を実施してみましょう。テーブルにQRコードを設置してスマートフォンから手軽に回答できるようにしたり、レジでの会計時に簡単なアンケート用紙をお願いしたりする方法があります。

アンケートを実施する際は、何を知りたいのかという目的をはっきりさせ、質問項目を絞り込むことが大切です。集まった声は、たとえ厳しい意見であっても真摯に受け止め、スタッフ全員で共有し、サービスの改善に活かしていく姿勢がお店の信頼を高めます。

飲食店の課題解決は、少しずつ着実に進める

飲食店の経営課題は多岐にわたりますが、すべてを一度に解決しようとする必要はありません。大切なのは、目の前の業務から実行可能な改善策を見つけ、少しずつ着実に進めていくことです。

たとえば、

  • 採用媒体の見直しやLINE公式アカウントの活用、
  • 省エネのちょっとした工夫やまかない制度の充実、
  • 売れ筋メニューの原価を確認することやスタッフとの面談を増やすことなど、
    すぐに取り組める施策は数多くあります。

こうした「小さな解決策」こそが、人材の定着、コストの改善、リピーターの増加といった大きな成果につながる第一歩になります。現場に目を向けて、今日からできることを始めてみましょう。積み重ねた改善が、経営全体の安定と持続可能性を後押ししてくれるはずです。


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