- 作成日 : 2025年8月19日
飲食店のロス管理の方法は?手順や削減のコツ、企業事例を解説
飲食店のロス管理は、仕入れや調理、提供の各工程で発生する無駄を把握し、改善することで利益を守るための重要な取り組みです。
日々の廃棄や過剰在庫を放置すると、経営への影響は大きくなります。この記事では、ロスの種類や管理の手順、削減のための工夫、実際に成果を出した店舗の事例までを、わかりやすく解説します。
飲食店のロス管理とは?
飲食店のロス管理とは、食材や在庫の無駄を減らし、利益の損失を少なくするための継続的な管理のことです。
ロスが増えると、原価率が上がり、売上があっても利益が残りにくくなります。また、廃棄物処理の手間が増えたり、在庫が長期滞留することで衛生リスクが高まったりと、現場オペレーションにも影響が及びます。
とくに近年は、食材価格の上昇や人手不足の影響から、日々の無駄を最小限に抑える工夫がより重視されるようになっています。
ロスには「食品ロス」と「業務ロス」がある
飲食店で発生するロスは、大きく分けて以下の2種類に整理できます。
- 食品ロス:調理済みでありながら、提供できずに廃棄される食材・料理。
- 業務ロス:在庫管理や工程ミスなど、業務運用のずれによって生じる無駄。
いずれも店舗の利益を下げる要因となるため、ロスの発生源を正確に把握し、計画的に対応する必要があります。
なお、環境省が発表する「事業系食品ロス」の分類には、飲食店を含む外食産業から排出される食材の廃棄が含まれており、これは上記のうち「食品ロス」に該当します。
食材の仕入れ過多や調理ミス、食べ残しなどが主な要因とされており、国の削減方針でも重点的な対策対象となっています。
飲食店における主なロスの例
飲食店のロス管理で把握したい具体的な無駄には、次のようなものがあります。
- 賞味期限切れや使い切れずに廃棄される食材
需要予測のズレや仕入れ過多により、使用できずに廃棄となるケースが多く見られます。 - 調理中の仕込みミスや提供時の過剰調理
分量の誤り、仕込み過剰、注文が入らなかったメニューの調理などが該当します。 - 注文ミスやキャンセルに伴う商品戻り
ホールとキッチン間の連携不足や、注文変更の伝達ミスなどによって発生します。 - 過剰在庫による保存状態の劣化
回転率の低い食材が長期間保管され、風味の劣化や廃棄に至る場合があります。
このようなロスが継続すると、見かけの売上が立っていても、実際には利益がほとんど残っていないという事態につながりかねません。だからこそ、ロスを「見える化」し、仕入れ・在庫・オペレーションの改善に活かすことが大切です。
飲食店の食品ロスに関する現状と課題
環境省と消費者庁は、食品ロス削減を国全体の取り組みとして強化するため、「第2次 食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」を2025年3月に閣議決定しました。これにより、事業系食品ロスの削減目標は従来の50%から60%に引き上げられ、飲食店を含む事業者に対して、さらなる削減努力が求められています。
日本全体の食品ロスは、2022年度推計で年間約472万トンにのぼり、そのうち事業者からのロスは約236万トン、家庭系ロスも約236万トンとほぼ同量です。これにより、本来食べられるはずの食材の廃棄により 年間約4兆円 の経済損失、さらに 約1,046万トン‑CO₂ の温室効果ガス排出が生じていると試算されています。
飲食店におけるロスの主な発生原因は、仕入れ過多や来店予測の誤り、調理時のミス、そして顧客による食べ残しなどです。こうしたロスを減らす取り組みは、店舗の経営安定だけでなく、社会的責任(CSR)としての貢献にもつながります。
出典:食品ロス削減の推進に関する基本的な方針|消費者庁、食品ロス|消費者庁
飲食店のロス管理の基本手順
飲食店でロスを管理するには、記録や分析だけでなく、目標を設定し、改善策を実行しながら見直していく流れが重要です。
感覚に頼らず数値と実行のサイクルで改善を繰り返すことで、無理なく業務に定着させることができます。以下では、日々の業務に組み込みやすいロス管理の基本的な5ステップをご紹介します。
ステップ1:ロスの現状を把握する
まずは、どのようなロスが、どのくらい発生しているのかを把握するところから始めます。
食品廃棄の種類や量、原因を日々記録し、ロスの実態を明らかにしましょう。
- 廃棄された料理や食材の内容と数量
- 廃棄理由(例:仕込みすぎ、キャンセル、ミス)
- 発生時間帯や担当スタッフの傾向
記録には、エクセルのテンプレートやPOSレジと連動したロス管理機能などを活用すると、現場への負担も軽減できます。
ステップ2:ロス率を算出し、削減目標を立てる
記録したロスの数値をもとに、現状のロス率を算出し、削減目標を設定します。
数値化することで、改善の必要性や優先順位が見えてきます。
- ロス率(%)= 廃棄量 ÷ 仕入量 × 100
例:20kg仕入れて5kg廃棄 → ロス率25%
売上や重量に対する食品ロス率をより詳細に見るには、以下のような計算式も使えます。
- 食品ロス率(%)= 廃棄された食品の原価 ÷ 売上高 × 100
- 食品ロス率(%)= 廃棄された食品の重量 ÷ 仕入れた食品の総重量 × 100
この数値をもとに、たとえば「まずは20%以下を目指す」といった現実的な目標を立てていきます。
ステップ3:原因を分析し、改善計画を立てる
次に、ロスが発生している要因を洗い出し、優先度の高いところから改善計画を立てます。
- 来店予測ミスによる仕込みの過剰
- 注文伝達のミスによる作り直し
- 提供時間の遅れによる品質劣化
- 大盛り提供による食べ残し
原因ごとに「何を、誰が、いつまでに改善するか」を明確にしておくと、スタッフの行動にもつながりやすくなります。
ステップ4:改善策を実行し、記録する
改善策を始めたら、その実行状況や変化も記録しておきましょう。
記録することで「やって終わり」にせず、効果の有無をあとから確認できます。
- 廃棄が多かった料理の仕込み量を30%減らす
- ミスが多かった時間帯に注文の復唱を義務化
- 食べ残しが目立ったメニューを小盛りに変更
「何を変えたか」「どのくらい減ったか」を記録に残すことで、次の判断材料になります。
ステップ5:効果を定期的に測定し、見直す
改善策がどの程度有効だったかを確認するには、食品ロス率の再計算と、過去データとの比較が役立ちます。
- ロス率を月ごとに再計算して変化を確認する
- メニューや時間帯ごとの改善傾向を見る
- 削減目標に届いていない場合は、再度原因を見直す
効果が出ていない場合でもすぐにやめず、原因を再評価したうえで別の施策を試すなど柔軟に対応しましょう。
さらに、従業員へのフィードバックも重要です。
たとえば、「先月より廃棄コストが1万円下がった」と共有することで、スタッフ全体のモチベーションにつながります。
数字で成果が見えると、自分たちの取り組みが経営に貢献しているという実感を持ちやすくなり、継続的な改善につながります。
飲食店のロス管理でよく使われるツール
飲食店のロス管理を継続的に行うには、記録や集計を効率化できるツールを活用することが現実的です。
手書きや感覚での管理では抜けやムラが生じやすく、データの蓄積や共有が難しくなります。そこで、飲食店で実際に使われているロス管理のツールを、アナログからデジタルまで幅広く紹介します。
エクセルで作るロス管理表
最も手軽に始めやすい方法が、エクセルやGoogleスプレッドシートを使ったロス管理表の作成です。
廃棄の内容・量・理由を手入力で記録し、自店舗に合った形でカスタマイズできます。
- 廃棄日と時間帯
- 食材またはメニュー名
- 廃棄量と単価
- 廃棄理由(例:調理ミス、注文キャンセル、使い切れず)
- 担当者名や備考欄
無料テンプレートも多数配布されており、「飲食店 在庫管理表 テンプレート」などで検索すれば、記入しやすいフォーマットが見つかります。
ロス管理に特化したクラウドアプリやシステム
より効率的な管理を求める場合は、クラウド型のロス管理アプリや、POSと連動したシステムを活用する選択肢もあります。
手入力の手間を減らし、リアルタイムでロス状況を確認できる点が強みです。
- 食材の使用量や廃棄量の自動記録
- 廃棄コストの自動集計
- 過去データとの比較やグラフ表示
- 本部と店舗間でのデータ共有
たとえば「スマートマットクラウド」は、食材の重さを自動で記録し、在庫の過不足やロス傾向をデータ化できます。
外食チェーンや多店舗展開の事業者を中心に、こうしたシステムの導入が広がっています。
参照:SmartMatCloud 飲食 導入事例|スマートマットクラウド
POSレジ搭載型のロス管理機能
POSレジにロス管理の機能が搭載されているシステムもあります。
売上情報・在庫情報とロス記録を連携させることで、データの入力ミスや集計の手間を減らしながら、より正確なロス分析ができるようになります。
- 廃棄登録機能で金額や数量を記録
- 食材使用量に対するロス率の自動算出
- メニュー別のロス分析と販売数比較
こうしたシステムは、1店舗から導入可能な中小向けのサービスもあり、費用対効果に応じて選びやすくなっています。
管理表・アプリ・POSシステムのいずれを使う場合でも、まずは「継続できる方法」を選ぶことがポイントです。
飲食店が実践するロス削減の工夫とアイデア
飲食店でロスを減らすには、日々の営業の中で実行しやすい工夫を継続していくことが効果的です。
ロス削減というと仕入れや在庫の調整が注目されがちですが、実際にはメニュー構成やスタッフの意識、業務フローの見直しなど、多面的な改善が求められます。ここでは、現場で取り入れやすい具体的な工夫を紹介します。
発注量と仕込み量を見直す
仕入れすぎや調理のしすぎは、最も起こりやすいロスの原因です。
予測に基づいた発注管理を行い、来客数や曜日別の傾向、天候などの要素をふまえて仕込み量を調整することで、余剰在庫や廃棄の発生を抑えやすくなります。
発注や仕込みの見直しでは、次のような取り組みが効果的です。
- 曜日別や天候ごとの来客傾向を記録し、仕入れに反映する
- 売上データをもとに、ロスの多いメニューの仕込み量を調整する
- 大量仕込みが必要なメニューは、時間帯ごとに分けて準備する
ロスが出やすい料理をメニューから見直す
提供しているメニューのなかに、食材ロスにつながっているものがあれば、その見直しも必要です。
食べ残しが多いメニューは、小盛りやハーフサイズに切り替えることで完食率が上がることがあります。また、仕込みに手間がかかりすぎる料理や、特定の食材しか使わないメニューがあると、他メニューへの転用が効かずロスにつながりやすくなります。そうした料理は、数量限定や期間限定に変更して無駄をコントロールする方法もあります。
従業員への教育とロス意識の共有
スタッフがロスを意識して動けるようになると、改善の取り組みが店舗全体に浸透しやすくなります。
たとえば、月ごとの廃棄量やロスコストを共有するだけでも、現場での気づきが生まれやすくなります。新人研修にロス管理の内容を含める、スタッフ間でロスの原因を話し合う場をつくるといった小さな積み重ねが、現場の意識づけにつながります。
ロス削減を習慣化するには、以下のような工夫が効果的です。
- 月ごとにロス率や廃棄額を可視化して店内に掲示する
- 成果が出た場合は、朝礼などでスタッフに共有する
- 新人教育にロス意識の基本を含め、全員で取り組む土台をつくる
余剰食材や期限間近の商品は有効活用する
まだ使えるのに廃棄されてしまう食材を活用することも、ロス削減にとって重要な視点です。
たとえば、期限が迫った野菜を使ったまかない料理を決めておくことで、食材の廃棄を防ぎながらスタッフの福利厚生にもつながります。また、余剰食材を日替わりメニューとして工夫すれば、お客様に新鮮さを感じてもらうきっかけにもなります。ただし、衛生面や法令順守には十分な配慮が必要です。
飲食店のロス管理の成功事例
飲食店のロス管理の成功は、記録→可視化→共有→改善のサイクルを継続した取り組みによって実現します。ここでは、成果を出している5つの実例をご紹介します。
AI在庫管理と発注で業務効率を向上(しゃぶ葉/すかいらーくグループ)
しゃぶしゃぶ食べ放題の「しゃぶ葉」では、すかいらーくグループが全店に導入する自動発注&在庫管理システムを活用し、使用量を最適化しました。期限管理や発注量をAIと連動させることで、無駄な在庫や廃棄を大幅に低減。さらに店舗ごとのKPIを明確にし、月例での成果報告や従業員教育も実施しています。これにより運営コストを抑えつつ、食品ロス削減と従業員の意識改革の両方を実現しました。
食べきり運動と容器提供でロス削減(ホテルメトロポリタン盛岡)
岩手・盛岡のホテルでは、宴会ビュッフェで「3010(さんまるいちまる)運動」を実施し、宴会の開始30分と終了前10分を食事の時間とするようお客様にご案内し、料理を楽しく味わっていただくことで、満足度と食べ残し削減の両立を図っています。
この取り組みにより、総生ごみ量を約16%削減することに成功しました。
出典: ホテルメトロポリタンエドモント|食品ロスポータルサイト 環境省
食べ残し・仕入ギャップをゼロにした「8番らーめん」
福井県を中心に展開する「8番らーめん」では、食べ残しによる残渣が減り、仕入予測と実需の差をゼロにする仕組みを導入。
また、不要部位を店舗で再利用し、廃棄物ゼロを目指しています。結果として、食品ロス削減への意識が社内全体に広がりました。
出典: 飲食店等の 食品ロス削減のための 好事例集|全国おいしい食べきり運動 ネットワーク協議会 農林水産省
ライスロスを半減&こども完食チャレンジ(びっくりドンキー)
ハンバーグチェーン「びっくりドンキー」では、少量炊飯器導入によりライス廃棄量を半減。さらに小学生向け「もぐチャレ」で完食を促し、環境教育と実店舗の食品ロス削減を両立させました。結果、生ごみ排出量が1店舗あたり1日50kg→20〜30kgに改善されています。
出典: 飲食店等の 食品ロス削減のための 好事例集|全国おいしい食べきり運動 ネットワーク協議会 農林水産省
食べ残しを減らす「ちょうどいい量」の提供(モスフードサービス)
モスバーガーを運営するモスフードサービスでは、S・M・Lサイズの提供方式を採用し、店舗全体で食べ残しが減少。顧客が完食しやすい量を選べる仕組みが環境配慮だけでなく、顧客満足度の向上にもつながっています。この取り組みは今後も拡大予定です。
飲食店のロス管理は継続と見直しで成果につながる
飲食店でのロス管理は、継続と定期的な見直しによって効果を発揮します。
食品ロスや業務ロスの発生は、日々の営業のなかで少しずつ積み重なっていくため、改善も一度で終わるものではありません。日々の記録と振り返りを習慣化することで、業務の中に自然と「無駄を見つけて減らす意識」が根づいていきます。
すでに紹介したように、多くの店舗では次のような工夫を続けています。
- 廃棄内容や量を毎日記録する
- スタッフ全体で数値を共有し、改善策を話し合う
- ロス率を月ごとに確認し、効果が見られないときは別の対策を試す
ロス削減における成果は、数字で見える部分だけでなく、従業員の意識やチームの連携強化といった面にも現れます。スタッフが「これは無駄かもしれない」と自然に気づける環境が整えば、経営の安定にもつながります。
仕入れや在庫、調理、提供、接客の各工程でロスを見直すことは、店舗全体の見直しにもつながります。継続して見直しの習慣を持つことで、飲食店におけるロス管理はより実践的なものになり、持続可能な運営に近づいていくはずです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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