- 更新日 : 2025年8月19日
フランチャイズのテリトリー制とは?エリア制との違いや契約上の注意点
フランチャイズのテリトリー制は、加盟店ごとに営業エリアを定め、同一ブランド内での競合出店を制限する制度です。競合出店の抑制や集客の安定化につながる一方で、その内容や法的な側面を正しく理解しないと、思わぬトラブルに発展することもあります。
この記事では、フランチャイズのテリトリー制の概要や、メリット・デメリット、独占禁止法との関係、契約時の注意点までわかりやすく解説します。
目次
フランチャイズのテリトリー制とは?
フランチャイズのテリトリー制は、本部が加盟店に特定の営業エリア(テリトリー)での営業を保証する制度です。この保証は「テリトリー権」と呼ばれます。あらかじめ区域を定めておくことで、売上や集客の安定性を保ちやすくなります。
テリトリーは「市区町村単位」や「半径〇km圏内」「人口〇人以上の地域」など、業態や契約内容に応じてさまざまな基準で設定されます。
これにより、加盟店は自店の商圏内で同じチェーンの店舗と競合する心配がなくなり、安心して販促活動や顧客開拓に専念できる環境が整います。この仕組みは、加盟店が事業計画を立てるうえでの安定した基盤となります。
ただし、すべてのフランチャイズにテリトリー制があるとは限りません。この制度がない場合、他の加盟店がすぐ隣に出店してくる可能性もあるため、契約時に制度の有無をしっかり確認しておくことが大切です。
テリトリー制が必要とされる理由
テリトリー制が設けられる最大の理由は、加盟店の売上と利益を保護し、事業の安定性を高めるためです。
もしテリトリー制がなければ、同じチェーンの店舗がすぐ近くに出店し、顧客を奪い合う「カニバリゼーション(共食い)」が発生しかねません。カニバリゼーションは、個々の店舗の売上を低下させるだけでなく、過当競争によるサービス品質の低下を招き、結果としてブランド全体のイメージを損なうことにもつながります。
加盟店からすると、テリトリー制があることで、初期投資の回収や将来の収益見通しが立てやすくなるという利点があります。本部にとっても、加盟店の経営が安定することは、ブランドの健全な成長とロイヤルティ収入の安定確保につながります。
テリトリー権やエリア制との違い
テリトリー制、テリトリー権、エリア制は、実務上ほとんど同じ意味で使われることが多いものの、厳密には少しニュアンスが異なります。
- テリトリー制:特定のエリアを保護する「制度」や「仕組み」そのものを指す言葉。
- テリトリー権:その制度にもとづいて、加盟店に与えられる契約上の「権利」。
- エリア制:テリトリー制とほぼ同義ですが、より広義に「エリア分け」を指して使われることもある。
フランチャイズへの加盟を検討する際は、契約書で保証されている「テリトリー権」の具体的な内容、つまり「どの範囲が、どのように守られるのか」を正確に把握することが大切です。
フランチャイズのテリトリー制の種類と業種別の傾向
フランチャイズ契約におけるテリトリー制は、加盟店の商圏をどの程度保護するかによって、主に「クローズド・テリトリー」「オープン・テリトリー」「ロケーション制」の3つの種類に分けられます。それぞれの特徴と、どのような業種で採用される傾向があるのかを解説します。
商圏が保護される「クローズド・テリトリー」
「クローズド・テリトリー」は、契約で定められたエリア内において、加盟店が独占的な営業権を持つ形態を指します。この契約のもとでは、本部自身が直営店を出店することも、他の加盟店を新たに募集することも許されません。加盟店は商圏内での競合を心配することなく、安心して事業に集中できます。
この形態は、地域に根差したサービス提供が重要な業種や、チラシ配りや広告といった販促活動を「どのエリアで、どのように行うか」という計画が、そのまま売上に直接結びつくような業種で採用されるのが一般的です。加盟店が安心して自分の担当エリアに宣伝費や労力をかけられるように、商圏を厳格に保護する必要があります。
例えば、学習塾やパソコンスクールといった教育事業や、顧客のもとへ訪問するハウスクリーニングや介護サービスなどが、クローズド・テリトリーの代表例です。また、配達エリアが明確なデリバリー専門の飲食店なども、この形態の傾向があります。
- 学習塾、パソコンスクールなどの教育事業
- ハウスクリーニング、リペアサービスなどの訪問型サービス
- デリバリー専門の飲食店(ピザ、宅配弁当など)
- 介護サービス
一定の条件下で出店が認められる「オープン・テリトリー」
「オープン・テリトリー」は、加盟店の基本的な商圏は保護されつつも、特定の条件下においては本部がエリア内に新たな店舗を出店する余地が残されています。例えば、「本部による直営店の出店は例外とする」「大型商業施設内への出店は認める」といった条項がそれに当たります。
この形態は、本部としては「チェーン全体の知名度を上げていきたい」という思いと、加盟店としては「自分のお店の経営を安定させたい」という思い、その両方のバランスをとるのに適した業種で多く見られます。加盟店の商圏を最低限は守りつつ、本部も市場の変化に合わせて新しい出店ができる余地を残しています。
オープン・テリトリーは、レストランやカフェ、居酒屋といったイートイン主体の飲食店で多く見られます。そのほか、買取専門店や整体院、リラクゼーションサロンなど、店舗の立地も重要でありながら、一定の商圏保護が加盟店の安心感につながる業種でも採用される傾向にあります。
- レストラン、カフェ、居酒屋などのイートイン主体の飲食店
- 買取専門店、金券ショップ
- 整体院、リラクゼーションサロン
エリア保証がない「ロケーション制」
エリアの保証が一切ないこの形態は、より正確には「ロケーション制」と呼ばれます。これは本部が許可した特定の店舗物件(ロケーション)という「点」でのみ営業を認める制度です。
この契約では、本部は出店戦略において完全な裁量権を持ち、加盟店はすぐ近くに同じチェーンの店舗が出店したとしても、契約上の権利を主張することはできません。
「駅前だから」「人通りが多いから」といった、お店のある場所の良さそのものが集客の決め手となる業態や、街のいたるところにお店を出すことで地域での存在感を高め、お客さんの便利さにつなげる戦略をとる業種で採用されます。その代表格がコンビニエンスストアです。
その他にも、都心部のカフェやファストフード店、あるいはたい焼きやからあげといった小規模なテイクアウト専門店など、人通りの多さが売上に直結する業態でも、このロケーション制が採用されることがよくあります。
- コンビニエンスストア
- 都心部のカフェ、ファストフード店
- たい焼き、からあげなどの小規模なテイクアウト専門店
フランチャイズのテリトリー制がもたらすメリットとデメリット
テリトリー制は安定経営の助けとなる一方、事業拡大の制約にもなりえます。加盟店と本部、双方の視点からメリット・デメリットを比較し、自社の状況に合った判断材料とすることが大切です。ここでは、それぞれの立場から見た利点と注意点を整理します。
加盟店のメリット:安定した商圏で営業に専念できる
加盟店にとっての最大のメリットは、保証された商圏内で安定して営業活動に専念できることです。
テリトリー権によって近隣への同チェーンの出店が制限されるため、不毛な価格競争や顧客の奪い合いを避けられます。これにより、加盟店は腰を据えて地域での認知度向上やリピーター育成といった施策に集中できます。また、収益予測の精度が高まり、資金計画や人員計画を立てやすくなる点も大きな利点ではないでしょうか。
加盟店のデメリット:出店場所や営業活動が制限される
デメリットは、事業の自由度が制限される点です。
まず、出店を希望する場所が他の加盟店のテリトリー内であった場合、そこに出店することはできません。また、事業が好調で2号店、3号店と拡大したくても、空いているテリトリーがなければ出店は不可能です。さらに、契約内容によっては、テリトリー外の顧客への積極的な営業活動(Web広告やチラシ配布など)が制限される場合もあり、事業拡大の足かせとなることも考えられます。
本部側のメリットとデメリット
本部側にも、メリットとデメリットの両面があります。
本部にとってのメリットは、加盟店開発がしやすくなる点です。「テリトリー権による商圏保護」は、加盟を検討している人にとって大きな安心材料となり、有力なセールストークになります。また、エリアが重複しないため、各加盟店が責任を持って担当地域をカバーしてくれることで、ブランド全体の市場浸透を計画的に進められます。
一方のデメリットは、出店戦略の自由度が下がり、成長機会を逃すリスクがあることです。あるエリアの需要が想定以上に高く、複数の店舗を出せる状況であっても、クローズド・テリトリー契約を結んでいると追加出店ができません。市場の変化にスピーディーに対応しにくい点は、本部にとっての悩みどころといえるでしょう。
フランチャイズのテリトリー制と独占禁止法の関係
エリアの独占を保証するテリトリー制は、一見すると独占禁止法に触れそうに思えます。しかし、原則として違法ではありません。どのような場合に法的な問題となるのか解説します。
原則としてテリトリー制は独占禁止法に違反しない
フランチャイズ契約におけるテリトリー制は、原則として独占禁止法に違反するものではないと解釈されています。
これは、フランチャイズ・システムがブランドの統一性を保ち、効率的な事業運営を行うための合理的な仕組みであると認められているためです。加盟店に一定エリアでの営業を保証することは、加盟店間の過当な競争を防ぎ、ブランド価値を維持・向上させるために有効な手段と考えられています。そのため、テリトリーを設けているというだけで、独占禁止法上の問題となることは通常ありません。
独占禁止法違反(不当な取引制限など)と判断されるケース
ただし、テリトリー制の運用方法によっては、独占禁止法で禁じられている「不当な取引制限」や「拘束条件付取引」に該当すると判断されることがあります。
たとえば、以下のようなケースです。
- 価格の拘束:本部が加盟店に対し、テリトリー内外を問わず商品の販売価格を厳格に指定し、それに従わない場合に罰則を科すなどして自由な価格設定を妨げること。
- テリトリー外への販売の絶対的禁止:加盟店がテリトリー外の顧客から注文を受けた場合でも、その顧客への販売を一切禁じること。
顧客が自発的にテリトリー外から買いに来る「受動的な販売」までを制限することは、消費者の利益を不当に害する行為とみなされ、独占禁止法に抵触するおそれがあります。
公正取引委員会のガイドラインにおける考え方
公正取引委員会は「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」というガイドラインを公表しています。
この中で、テリトリー制(地域的制限)については、「加盟者に対して、その店舗の所在地又は営業地域を特定することは、直ちに問題となるものではない」と明記されています。
一方で、テリトリー外の顧客への販売活動を制限することについては、「加盟者が広告宣伝活動を行うことや、テリトリー外の顧客からの求めに応じて販売することまで制限する場合には、拘束条件付取引に該当するおそれがある」と指摘しています。
つまり、加盟店の営業拠点や主たる活動範囲を定めることは許容されるものの、顧客の側からのアプローチを妨げるような過度な制限は問題視される、という考え方が示されています。
出典:フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方|公正取引委員会
フランチャイズ契約前に確認すべきテリトリー制のチェックリスト
テリトリーに関するトラブルを防ぐには、契約書の内容確認が最も大切です。口約束ではなく、書面に何がどう記載されているかが全てとなります。後悔しないために、契約前に法務担当者や弁護士と確認すべき具体的な項目をリストアップしました。
エリア範囲の定義は明確か
まず、保証されるテリトリーの範囲が、誰が見てもわかる形で明確に定義されているかを確認しましょう。
「〇〇市一円」といった曖昧な表現ではなく、「〇〇市〇〇町〇丁目から〇丁目まで」のように地名や番地で具体的に記載されているか、あるいは地図上で境界線が明示されているかが理想的です。境界線の定義がはっきりしないと、隣接する加盟店との間でトラブルの原因になりかねません。
権利の保護期間と更新条件
テリトリー権がいつまで保護されるのか、その期間を確認することも不可欠です。
フランチャイズ契約の期間中はずっと有効なのか、それとも一定期間ごとに見直されるのか。また、契約を更新する際に、テリトリーの範囲や条件が変更されることはないか。とくに、本部の都合で一方的にテリトリーを縮小できるような条項が含まれていないか、注意深く読み込む必要があります。
本部によるECサイトでの販売ルール
現代のビジネスでは、本部が運営するECサイト(ネットショップ)での販売が、実店舗の売上に影響を与えることがあります。
契約書に、本部がECサイトで販売活動を行う際のルールが定められているかを確認しましょう。たとえば、加盟店のテリトリー内に住む顧客がECサイトで購入した場合、その売上の一部を加盟店に還元する仕組みがあるか、といった点です。この規定がないと、加盟店は自身の商圏内の顧客を本部に奪われることになってしまいます。
権利が侵害された場合の対応と罰則規定
万が一、本部や他の加盟店が契約に違反してテリトリー権を侵害した場合に、どのような対応がとられるのかも確認しておくべきです。
契約違反があった場合の是正措置や、本部に対する損害賠償請求の可否、違約金の有無など、具体的な救済措置が明記されているかを確認します。これらの規定が曖昧だと、いざという時に加盟店が泣き寝入りすることにもなりかねません。
フランチャイズのテリトリー制を契約前に正しく把握しておく
テリトリー制とは、加盟店の営業エリアを定め、同一ブランドの競合出店を制限する制度です。商圏を守ることで経営の安定につながりますが、制度の有無や内容はフランチャイズごとに異なります。
契約時は、範囲や例外、保護期間などを確認し、書面で明示されているかを慎重に見極めることが大切です。誤解や想定外を防ぐためにも、細かな確認を怠らない姿勢が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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