- 作成日 : 2025年8月8日
飲食店のエアロゾル感染を防ぐ換気の仕方とは?窓の数や地下など具体例で解説
エアロゾル感染を防ぐには、換気をするだけではなく「空気の流れ」を作ることが大切です。飲食店では、窓の数や構造によって換気方法が異なります。
この記事では、窓が1つだけのケースや地下店舗など、現場に合わせた換気の工夫を具体的に紹介し、空気清浄機やサーキュレーターの活用ポイントも解説します。
エアロゾル感染とは
エアロゾル(aerosol)感染とは、空気中に長時間漂う微粒子を吸い込むことで生じる感染です。
人が話したり、くしゃみをしたりすると、口や鼻から目に見えない細かな粒子(エアロゾル)が発生します。これらの粒子にはウイルスが含まれていることがあり、空気中を長時間漂い、数メートル先の人にまで届くことがあります。飲食時や接客時など、マスクを外したり近距離で会話したりする場面では感染リスクが高まります。
新型コロナウイルスの流行時にも問題になったのがこのエアロゾル感染です。無症状の感染者が普通に話すだけで空気中にウイルスを含む微粒子が放出され、それを他の人が吸い込むことで感染が広がることがありました。
感染を起こすエアロゾルだけでなく、私たちの身の回りにはさまざまな種類のエアロゾルが存在します。
例えば以下のようなものもあります。
- 排ガス(ディーゼル微粒子):都市部の道路沿いで多く、大気汚染の原因になります
- 黄砂:春に中国大陸から飛来し、呼吸器や目に影響を与えることがあります
- 海塩粒子:海辺で風に乗って飛ぶ塩の粒子
- 花粉やカビの胞子:季節性アレルギーや喘息の原因になる微粒子
- タバコの煙や調理中の油煙:飲食店内などに存在する空気中の微粒子です
このように、エアロゾルは感染だけでなく、空気中の粒子の総称であり、健康に影響を与えるものも多くあります。飲食店では、特に人が密集しやすい接客エリアや会話が多い空間で、健康に悪影響を及ぼすエアロゾルが停滞しないよう換気や空気の流れを整えることが必要です。
エアロゾル感染を防ぐ換気の仕方
エアロゾル感染を防ぐためには、空気を入れ替えるだけでなく、店内全体に「流れ」を作る換気が必要です。
飲食店では、来店客がマスクを外して会話をするため、ウイルスを含んだ微粒子(エアロゾル)が多く発生します。これが空気の流れが悪い場所に滞留すると、吸い込むことで感染するリスクが高まります。したがって、「換気=空気の出入り」ではなく、「空気の通り道をつくる」ことが基本になります。
以下では、店舗のタイプ別に換気方法を詳しく解説します。
窓が1つある場合の換気方法
窓が1つの場合は、「排気の動き」を人工的に作る必要があります。
このような場合は以下の方法が効果的です。
- 窓のそばに扇風機を設置し、風を外に向けて送る
→これにより、店内の空気が窓から外へ押し出される流れができます。 - 店の入口や裏口にわずかな隙間を確保
→ここから自然に外気が入り、窓から空気が抜けていく道ができます。 - 厨房やトイレの換気扇を稼働させる
→空気を引っ張る力を追加し、より強力な流れを作ります。
空気が一方向に流れることで、エアロゾルが室内に滞留するのを防げます。
窓が2つある場合の換気方法
窓が2カ所ある店舗では、対角線上に空気の流れを作るのが理想です。
方法は以下のとおりです。
- 入口近くの窓を給気口(空気の入口)に、奥側の窓を排気口(空気の出口)にする
→自然な空気の通り道ができ、エアロゾルが滞留しにくくなります。 - 風がない日は扇風機を使ってサポート
→入口側の窓のそばに扇風機を内向きに設置し、奥側の窓には外向きに扇風機を置くと、流れが強まります。 - 開ける窓の大きさを調整する
→奥の窓(排気口)を少しだけ開けて、入口側の窓を広めに開けると、風速のある流れができます。
このように、窓が2つある場合は、自然換気がしやすい利点があります。扇風機を補助的に使えば、天候や風向きに関係なく、安定した空気の流れが確保できます。
窓がない店舗・地下店舗の換気方法
窓がない、または地下にある飲食店では、自然換気ができないため、機械により空気の流れを作ります。空気の出入りを「入り口」と「換気設備」で管理します。
例えば、厨房の換気扇やトイレの換気口が空気を排出する場所(排気口)になります。ここに向かって空気を流すように送風機やサーキュレーターを使うのが効果的です。
ここで重要なのは、空気が店内を一方向に流れるように設計することです。
具体的な方法は以下のとおりです。
- 入口ドアの一部を開けて空気を取り入れる
ドアや入口に隙間を作って給気口を確保し、外気が入りやすくします。寒い季節や虫の侵入が気になる場合は、ドア下部の通気パネルや防虫ネット付きドアも有効です。 - 入口付近に扇風機を置き、店内の奥へ風を送る
これにより、空気が常に一方向へ流れ、停滞を防げます。風が弱いと感じたら、サーキュレーターを追加して中央の空気を押し出すようにします。 - 厨房やトイレの換気扇を常時「強」で運転
これらを空気の出口として使い、店内の空気を積極的に外に押し出します。入口から入った空気が、自然と厨房やトイレ方向へ進む構造にすれば、空気は滞りません。 - 必要に応じて換気ダクトや排気ファンの追加を検討
常設の換気設備が弱い場合は、簡易の排気ファンを取り付けて、空気の排出口を明確にすることも考えましょう。
地下や窓のない店内では、空気が「回る」のではなく、「流れる」ことを意識するのがコツです。風の通り道を明確にしないと、空気は同じ場所を循環し、エアロゾルが滞留し続けます。
換気扇の位置と運転モード
店舗によっては、換気扇が客席の近くにしかない場合もあります。その場合は、空気の吸い込み口にお客が近づかないようレイアウトを変更することが効果的です。換気扇に近い場所は空気が集中しやすく、空気の流れがよどむ原因となる可能性があるためです。
また、厨房の換気扇を「強」で回しながら、ドアや換気口から給気が確保できていないと、空気が逆流したり、店内全体の空気が滞留したりすることがあります。
そのため、排気(出す)と給気(入れる)のバランスを考えて、調整できる換気扇や送風機を使い、風向や風量を日によって変えることも必要です。
換気は常時・営業中ずっとが基本
「営業前やピーク後にまとめて換気する」やり方では、エアロゾル対策になりません。営業中は常に空気が入れ替わっている状態を保つことが基本です。
特に、昼と夜のピーク時にはお客の入れ替わりが多く、会話も増えるため、最もリスクが高い時間帯になります。このタイミングでの換気を強化することで、感染リスクの低下につながります。
空気清浄機の配置のポイント
空気清浄機は、設置場所と風の流れを意識しないと効果が弱まります。
空気清浄機はエアロゾルを捕まえる道具として有効ですが、設置場所を間違えると店内の空気をうまく吸えません。特に飲食店では、人が集まりやすい場所や空気が滞留しやすいポイントに設置することが求められます。
接客カウンターの周辺に設置する
空気清浄機は、会話などでエアロゾルが発生しやすい場所(例:接客カウンター付近)に設置し、発生源の近くで空気を吸引させることが効果的な場合があります。これらの場所では、スタッフと客が向かい合って会話する機会が多く、エアロゾルが発生しやすくなります。
カウンターの横や足元に空気清浄機を設置し、吸気口が人の方向を向くようにすると、飛沫の吸引効率が高まります。
店の中央に置くより「動線の途中」に置く
空気清浄機を店のど真ん中に置いても空気はうまく集まりません。人の動線に沿って配置したり、サーキュレーターで空気の流れを誘導したりすることで、空気清浄機がエアロゾルを吸い込みやすくなります。
例えば、入口から厨房にかけての動線の途中に置き、空気の通り道にあわせて配置すると、流れる空気の中からエアロゾルを取り除けます。
吸気口と排気口の方向を確認する
例えば下部から空気を吸い、上部または背面から出す設計の空気清浄機の場合、吸気側を壁に向けてしまうと吸い込みが不十分になり、効果が落ちます。
そのため、吸気側は広い空間、排気側は壁や窓方向に向けることで、空気の流れをサポートできます。
座席の間や壁際には置かない
空気が滞りやすい場所に置きたくなりますが、座席の間や壁際では、空気が動かず吸引効率が低下します。また、客の足元近くに置くと蹴られたり、転倒したりするリスクもあるため、安全と吸引効率の両方を考えて設置する必要があります。
エアロゾル感染を防ぐ換気をする上での注意点
換気の仕方を間違えると、かえってエアロゾルが滞留しやすくなります。
換気はやり方を間違えると、見た目では「空気が動いている」ように見えても、実際にはエアロゾルがその場に溜まり続けることがあります。飲食店の現場でよくある落とし穴を整理し、避けるべき注意点を解説します。
換気扇だけに頼ると空気が循環しない
厨房やトイレの換気扇を「常時オン」にしているだけでは、店内全体の空気がうまく動かない場合があります。給気が不十分なまま強力な換気扇を稼働させると、室内が負圧になり、ドアが開きにくくなったり、排水口など意図しない場所から空気が流入したりすることがあります。
扇風機やサーキュレーターで風を誘導し、入口から奥へと空気が流れる道筋をつくることが大切です。
サーキュレーターの風向きが逆効果になることがある
「空気を回せばいい」と考えて、サーキュレーターを適当に設置すると、エアロゾルを店内にまき散らしてしまうリスクがあります。サーキュレーターは室内の空気をかき混ぜるのではなく、あくまで空気の流れを補助する目的で使いましょう。
風の向きは、人がいる場所から換気扇や窓(排気側)へと向かう一方向の流れを作るように設置し、室内に空気が滞留するのを防ぎます。
空気の出口がないと換気は成立しない
「ドアや窓は開けたけど、空気が動かない」と感じる原因は、空気の出口がないことです。空気は“入口”と“出口”の両方がなければ流れません。
特に、入口ドアと排気用の窓や換気口が同じ側にあると空気は動きません。対角線や斜めの配置を意識して風の通り道を作る必要があります。
ビニールカーテンの位置が空気を遮ることがある
飛沫対策として設置されたビニールカーテンが、空気の流れを妨げている場合があります。密閉されたカーテンの内側では、エアロゾルが外に出にくく、滞留しやすくなります。
必要があれば、カーテンの下部に隙間を設けたり、定期的にファンで風を通したりするなどの対応が必要です。
今も続けるべきエアロゾル換気対策の理由
エアロゾル感染は新型コロナに限らず、今後も注意が必要な感染経路です。
2025年5月現在、新型コロナウイルス感染症は公衆衛生上の緊急事態ではなくなりましたが、ウイルスは依然として存在し、特に高齢者や基礎疾患のある方にとっては感染リスクが残るため、基本的な対策は引き続き行いましょう。
特に、インフルエンザ、RSウイルス、風邪など、飛沫や空気感染を引き起こす病原体は引き続き存在します。
また、気温や湿度が低くなる冬場、空気が乾燥しやすい時期は、エアロゾルが長時間空中に残りやすく、吸い込むリスクが上がります。さらに、高齢者や子どもなど呼吸器の弱い人が集まる飲食の場では、引き続き空気の流れと換気対策が求められます。
2020〜2022年に構築された感染対策の知識や工夫は、単なる「コロナ対策」ではなく、飲食店の安全対策として今後も活かす価値があります。スタッフの健康管理や、顧客への安心感の提供にもつながります。
エアロゾル対策は、季節を問わず、基本の習慣として続けていくことが大切です。
エアロゾル換気対策は風の道を作ること
エアロゾルは目に見えず、飲食中の会話やくしゃみでも発生し、空気中にとどまります。これを吸い込むことでウイルスの感染につながるため、飲食店では常時の換気が欠かせません。
窓が1つでも2つでも、また地下であっても、空気の流れを意識して「風の道」を作ることが最も効果的です。空気清浄機の配置や、サーキュレーターの活用で滞留を防ぎ、客席や接客エリアの空気が止まらないように保つ工夫が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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