- 更新日 : 2025年9月18日
割増賃金は手当も含まれる?残業代の計算方法を解説
残業代などの割増賃金を計算する際、毎月支払われるさまざまな手当を計算に含めるべきか、迷うことはないでしょうか。結論からいうと、割増賃金の計算には、原則としてすべての手当が含まれます。しかし、法律で定められた特定の7つの手当は、例外的に計算の基礎から除外できます。この判断を誤ると、賃金の未払いにつながるおそれもあるでしょう。
この記事では、どの手当が割増賃金の計算に含まれ、どの手当が除外されるのか、その判断基準から具体的な計算方法、間違いやすいケースまで、人事労務の基礎知識としてわかりやすく解説します。
目次
割増賃金の計算における手当の考え方
割増賃金の計算の基礎となる賃金には、原則としてすべての手当が含まれます。ただし、労働者の個人的な事情にもとづいて支給され、労働との直接的な関連性が薄いと判断される一部の手当は、例外として除外が認められています。
割増賃金は原則として、すべての手当を含めて計算する
割増賃金の計算基礎には、基本給だけでなく、役職手当や資格手当といった、名称を問わず労働の対価として支払われるすべての賃金が含まれるのが原則です。これは、時間外労働などをおこなった場合、通常の労働時間における労働の価値(単価)を基準に割増賃金を支払うべき、という考え方にもとづいています。
割増賃金から除外できる7つの手当がある
一方で、労働基準法では、労働との直接的な対価とはいえない手当を、限定的に除外することを認めています。これは、従業員個人の事情によって支給額が変わる手当まで計算基礎に含めると、同じ業務をしていても個々の事情で時間外単価に差が出てしまい、不公平が生じる可能性があるためです。この除外できる手当は、法律で7つに限定列挙されています。
判断基準は「名称」ではなく「実態」
手当を割増賃金の計算に含めるかどうかは、その手当の「名称」で判断するわけではありません。あくまでも、その手当がどのような趣旨で、どのような基準で支払われているかという「実態」にもとづいて判断されます。たとえば、名称が「住宅手当」であっても、全従業員に一律の金額を支給している場合は、除外が認められないケースがあるため注意が必要です。
割増賃金の計算から除外できる7つの手当
労働基準法施行規則第21条では、割増賃金の基礎から除外できる手当が以下の7つに限定されています。これら以外の手当は、原則としてすべて計算に含めなければなりません。ここでは、その7つの手当の具体的な内容と条件を解説します。
1. 家族手当
扶養家族の人数や、配偶者・子どもの有無といった、家族の状況に応じて支給される手当です。
- 除外できる例: 扶養する配偶者に月1万円、子ども1人につき月5000円を支給
- 除外できない例: 扶養家族の人数に関わらず、全従業員に一律で月5000円を支給
2. 通勤手当
自宅から職場までの通勤にかかる費用を補助するために支給される手当です。通勤距離や交通機関の運賃など、実際にかかる費用に応じて支給されるものが該当します。
- 除外できる例: 公共交通機関の定期代実費(上限あり)を支給
- 除外できない例: 通勤距離や通勤方法に関わらず、全従業員に一律で月1万円を支給
3. 別居手当
単身赴任などで、家族と離れて生活することを余儀なくされる従業員に対して支給される手当です。
4. 子女教育手当
従業員の子どもの教育費用を補助するために支給される手当です。たとえば、子どもの年齢(高校生、大学生など)や在学状況に応じて支給額が変動するものが該当します。
5. 住宅手当
家賃や住宅ローンの一定割合を補助するなど、住宅にかかる費用に応じて算定される手当です。
- 除外できる例: 家賃の30%(上限3万円)を支給、賃貸・持ち家などの区分に応じて金額を変えて支給
- 除外できない例: 住宅の形態に関わらず、全従業員に一律で月2万円を支給
6. 臨時に支払われた賃金
結婚手当や傷病見舞金など、支給条件が臨時的・突発的に発生するもので、支払われるかどうかが不確定な賃金を指します。
7. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与(ボーナス)や、1ヶ月を超える期間の実績に応じて支払われる能率手当など、支給期間が1ヶ月を超える賃金です。ただし、年俸制で毎月分割して支払われる賃金は、算定基礎に含まれます。
手当を含めた残業代(割増賃金)の計算方法
ここでは、実際に手当を含めた割増賃金(残業代)を計算する手順を、モデルケースをふまえて3つのステップで解説します。ご自身の給与明細と見比べながら確認してみてください。
計算のモデルケース
- 月給の内訳:
- 基本給: 250,000円
- 役職手当: 30,000円
- 住宅手当: 20,000円(※家賃額に応じて支給)
- 通勤手当: 15,000円(※実費支給)
- 家族手当: 10,000円(※扶養家族1名)
- 月平均所定労働時間: 160時間
- 月の時間外労働時間: 20時間
ステップ1:割増賃金の基礎となる賃金を算出する
まず、月給の総支給額から、法律上除外できる手当を差し引きます。 このモデルケースでは、住宅手当(費用に応じて支給)、通勤手当(実費支給)、家族手当(扶養人数に応じて支給)が除外対象です。
- 325,000円(総支給額)−20,000円(住宅手当)−15,000円(通勤手当)−10,000円(家族手当)=280,000円
割増賃金の基礎となる賃金は、280,000円(基本給+役職手当)となります。
ステップ2:1時間あたりの賃金(時給単価)を計算する
次に、ステップ1で算出した賃金を、月平均所定労働時間で割って1時間あたりの賃金単価を求めます。
- 280,000円÷160時間=1,750円
この従業員の時給単価は1,750円です。
ステップ3:割増賃金を計算する
最後に、1時間あたりの賃金に、法律で定められた割増率と時間外労働時間数を掛けて、その月の割増賃金額を算出します。時間外労働の割増率は1.25(25%増し)です。
- 1,750円×1.25×20時間=43,750円
この月の時間外労働に対する割増賃金(残業代)は、43,750円であることがわかります。
割増賃金の計算で間違いやすい手当のケース
法律で除外できるとされている手当でも、その支給方法によっては割増賃金の計算に含めなければならない場合があります。ここでは、人事労務担当者がとくに間違いやすい手当のケースをいくつか見ていきましょう。
ケース1:全従業員に一律で支給している住宅手当
住宅手当は除外できる手当の1つですが、それは住宅にかかる費用に応じて支給される場合に限られます。たとえば、賃貸か持ち家か、家賃の金額などに関わらず、全従業員に「住宅手当」として一律2万円を支給しているようなケースです。この場合、実態としては住宅費用との関連が薄く、生活給に近い性格を持つと判断され、割増賃金の算定基礎に含めなければなりません。
ケース2:扶養家族の有無に関わらず支給する家族手当
家族手当も同様に、扶養家族の人数などに応じて支給される場合にのみ除外できます。もし、扶養家族がいない独身の従業員にも、基本給とは別に「家族手当」や「生活手当」といった名称で一律の金額を支給している場合、その手当は労働の対価とみなされ、算定基礎に含める必要があります。
ケース3:距離に関係なく一律支給の通勤手当
通勤手当も、通勤にかかる費用や距離に応じて支給される場合に除外が認められます。もし、通勤方法や距離に関わらず、たとえば全従業員に一律で月5000円を支給していると、それは実費弁償の性格が薄いと判断されるでしょう。結果として、割増賃金の算定基礎から除外できなくなります。
割増賃金の手当に関するよくある質問
割増賃金と手当の扱いについては、ほかにもさまざまな疑問が寄せられます。ここでは、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1. 皆勤手当や精勤手当は割増賃金の計算に含めますか?
はい、含めます。皆勤手当や精勤手当は、従業員の出勤成績という労働に関連した事由によって支給されるものです。そのため、労働の対価としての性格が強いと判断され、割増賃金の算定基礎から除外することはできません。
Q2. 固定残業代(みなし残業手当)の扱いはどうなりますか?
固定残業代(みなし残業手当)は、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対する割増賃金として支払われるものです。そのため、この手当自体は割増賃金の一部であり、割増賃金を計算するための「基礎賃金」には含めません。ただし、固定残業時間を超えて労働した分については、別途、追加で割増賃金の支払いが必要になります。
Q3. 在宅勤務手当は計算に含めるべきですか?
在宅勤務手当の扱いについては、その支給実態によって判断が分かれるでしょう。たとえば、在宅勤務にともなう通信費や光熱費などの実費を弁償する目的で支給される場合は、割増賃金の基礎から除外できる可能性があります。一方で、在宅勤務者全員に一律の金額を支給する場合は、労働の対価とみなされ、算定基礎に含める必要があると考えられます。
割増賃金の適正な支払いには手当の正しい理解が不可欠
この記事では、割増賃金の計算における手当の扱いについて解説しました。重要な点は、法律で除外が認められている7つの手当以外は、原則としてすべて割増賃金の計算基礎に含める必要があることです。とくに住宅手当や家族手当といった一般的な手当でも、その支給方法が「一律支給」である場合は除外できない点に注意しなくてはなりません。
割増賃金の計算は複雑ですが、その基礎となる手当の範囲を正しく理解し、適切な賃金計算をおこなうことが、従業員との信頼関係を築き、健全な企業経営を続けるうえで大切です。もし判断に迷う手当がある場合は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に相談することも検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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