• 更新日 : 2025年8月20日

労働条件通知書の作成ガイド|無料テンプレートをもとに法改正のポイントも解説

労働条件通知書の作成は、企業と従業員が良好な関係を築き、将来的な労務トラブルを防ぐために重要です。しかし、「記載項目が複雑で難しい」「法改正に対応できているか不安」といった悩みを抱える人事担当者や経営者の方も少なくないでしょう。特に2024年4月からの法改正により、明示すべき項目が追加されており、正確な対応が求められます。

この記事では、労働条件通知書の作成手順を詳しく解説します。すぐに使えるWord形式のテンプレートをご用意しましたので、ぜひダウンロードしてご活用ください。

そもそも労働条件通知書とは

労働条件通知書は、企業が従業員に対し、賃金や労働時間といった労働条件を明示するための書類です。労働基準法第15条により、企業にはこの通知書を交付することが義務付けられています。一方的な通知であるため、従業員の署名・捺印は法律上必要ありません。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなど、すべての労働者が交付の対象です。

労働条件通知書の対象者

労働条件通知書の作成と交付は、正社員はもちろん、契約社員、パートタイマー、アルバイトなど、雇用形態に関わらずすべての従業員に対して必要です。短時間の勤務であっても、雇用契約を結ぶ従業員がいる場合は必ず作成し、交付しなければなりません。企業と従業員、双方の認識の齟齬を防ぎ、後の労務トラブルを回避する上で非常に重要な役割を果たします。

労働条件通知書と雇用契約書の違い

労働条件通知書と雇用契約書の最も大きな違いは、合意の有無です。労働条件通知書が企業から従業員への一方的な通知であるのに対し、雇用契約書は提示された労働条件に双方が合意したことを証明する契約書類です。そのため、雇用契約書には企業と従業員双方の署名・捺印が必要となります。雇用契約書の作成は法律上の義務ではありませんが、後のトラブルを避けるために作成することが一般的です。

労働条件通知書兼雇用契約書とは

実務上では、労働条件通知書の必須項目をすべて含んだ「労働条件通知書兼雇用契約書」として、一つの書類で両方の役割を果たすケースも増えています。この形式であれば、労働条件の明示義務を果たしつつ、従業員の合意も得られるため、書類管理の手間を省くことができます。どちらの形式を選ぶかは、企業の運用方針によって判断してください。

労働条件通知書の作成方法

ここからは、労働条件通知書を作成する方法を詳しく解説します。

1. 労働条件通知書のテンプレートと就業規則を用意する

労働条件通知書を効率的かつ正確に作成するには、事前の準備が欠かせません。まずは、労働条件通知書のテンプレートと、記載内容の根拠となる就業規則を手元に用意しましょう。

マネーフォワード クラウドでは、厚生労働省の様式に準拠した労働条件通知書の無料テンプレート(Word形式)をご用意しています。以下からダウンロードして、本記事の解説と見比べながら作成を進めてください。

パートタイマーや日雇い労働者など、特別な雇用形態のテンプレートが必要な場合は、厚生労働省の公式サイトから直接ダウンロードするのが確実です。公式サイトでは、常に最新の法令に対応した様々な様式のテンプレートが配布されています。

参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省

労働条件通知書に記載する内容は、自社の就業規則や賃金規程に準拠している必要があります。作成時にはこれらの規程を常に参照できるよう準備しておきましょう。

2. 絶対的明示事項を記載する

ここからは、テンプレートに沿って、必ず記載しなければならない「絶対的明示事項」の具体的な書き方を解説します。

契約期間

正社員など期間の定めがない場合は「期間の定めなし」と記載します。契約社員など期間の定めがある場合は、具体的な契約期間を明記します。

契約更新の可能性がある場合は「契約を更新する場合がある」とし、更新の判断基準も具体的に記載します。

就業場所・業務内容

2024年の法改正で対応が必須となった項目です。「雇入れ直後」と「変更の範囲」を分けて記載します。

  • 就業場所の記載例
    • 雇入れ直後:本社(東京都港区~)
    • 変更の範囲:本社および国内の全事業所
  • 業務内容の記載例
    • 雇入れ直後:経理業務
    • 変更の範囲:本社における経理、総務、人事の各業務

労働時間・休憩・休日

始業・終業時刻、休憩時間を具体的に記載します。所定時間外労働(残業)については「有」とし、その根拠となる36協定について触れておくとより丁寧です。休日は「土日、祝日、年末年始」のように明記し、年次有給休暇については法定通り付与することを記載します。

賃金

月給、日給、時給の別を明記し、具体的な金額を記載します。月給の場合は、基本給、役職手当、資格手当など、内訳がわかるように記入します。時間外労働の割増賃金率は、法定労働時間を超える部分については25%以上、月60時間を超える部分については50%以上(中小企業については2023年法改正後)と具体的に記載してください。賃金の締切日と支払日も忘れずに記載します。

退職に関する事項

定年制の有無とその年齢、自己都合退職時の手続きを記載します。解雇の事由については、「就業規則第〇条の定めによる」とする方法もありますが、後のトラブルを防ぐため、通知書上にも解雇理由のポイントを簡潔に記載することをおすすめします。

3. 相対的明示事項を記載する

次に、自社にその制度がある場合に限り記載が必要となる「相対的明示事項」の書き方です。該当する制度がある場合は、必ず記載してください。

  • 退職手当
    制度がある場合、「勤続〇年以上の者に支給」といった対象者や、「当社退職金規程による」といった計算・支払方法を記載します。
  • 賞与
    支給制度がある場合、「年2回(6月、12月)、会社の業績および個人の評価に基づき支給する」のように、支給時期や決定方法を記載します。
  • その他
    労働者に負担させる食費や、安全衛生、休職に関する規定など、該当する制度があれば、就業規則の内容に沿って簡潔に記載します。

4. 交付前の最終確認を行う

書類が完成したら、交付する前に最終確認を行います。このチェックを怠ると、後から修正が必要になったり、トラブルの原因になったりする可能性があります。

交付前の最終チェックリスト
  • 記載漏れはないか(特に法改正で追加された項目)
  • 就業規則や賃金規程の内容と矛盾はないか
  • 誤字・脱字、金額の間違いはないか
  • 対象となる従業員(正社員、パート等)の雇用形態に合った様式か
  • (有期契約の場合)無期転換ルールに関する記載は正しいか

5. 従業員に交付する

労働条件通知書は、労働契約を結ぶ際、遅くとも入社初日までには必ず交付します。従業員が条件を確認してから入社を決められるよう、内定時に渡すのが最も理想的です。労働条件通知書をもらってないという事態を避けるため、交付した記録を残しておくと安心です。

労働条件通知書の法改正と明示義務の変更点

2024年4月1日から施行された労働基準法施行規則の改正で、すべての労働者に対して明示が義務付けられたのが、就業場所・業務の変更の範囲です。これまでは雇入れ直後の就業場所と業務内容を記載するだけで足りましたが、改正後は、将来的に配置転換などで変更される可能性のある範囲まで具体的に示す必要があります。

また、有期契約労働者(契約社員やパートタイマーなど)に対しては、上記の項目に加えて、以下の3つの事項の明示が追加で必要になりました。

  1. 更新上限の有無と内容
    「契約期間は通算5年まで」「契約更新は4回まで」といった上限の有無とその内容を記載します。
  2. 無期転換申込機会の明示
    契約期間が通算5年を超えることで発生する無期転換申込権について、その権利が発生する契約更新のタイミングごとに明示します。
  3. 無期転換後の労働条件の明示
    無期転換後の労働条件(賃金、業務内容など)を明示する必要があります。他の正社員との均衡を考慮した内容を定めることが重要です。

労働条件通知書の作成で迷ったら社労士に相談を

自社で作成するのが不安な場合や、複雑な雇用契約を結ぶ場合は、専門家である社会保険労務士(社労士)に相談する選択肢もあります。

社労士に依頼する最大のメリットは、法的な正確性が確保されることです。最新の法改正に完璧に対応し、自社の実情に合わせたカスタマイズも行ってくれるため、安心して従業員に交付できます。労務の専門家が作成した書類は、将来的なリスクを大きく低減させます。

労働条件通知書についてよくある質問

最後に、労働条件通知書についてよくある質問とその回答についてまとめました。

労働条件通知書は、パートやアルバイトにも必要?

はい、必要です。雇用形態にかかわらず、すべての労働者に対して交付が義務付けられています。

労働条件通知書をもらってない場合、どうすればいい?

まずは、勤務先の人事担当者や直属の上司に、労働条件通知書が欲しい旨を伝えてください。労働条件通知書の交付は会社の法律上の義務です。それでも交付されない場合は、管轄の労働基準監督署に相談することができます。

労働条件通知書をもらうタイミングは?

法律では「労働契約の締結に際し」と定められており、遅くとも入社日までには交付されなければなりません。入社前に労働条件を確認できるよう、内定時に渡されるのが最も一般的で望ましいタイミングです。

労働条件通知書を正しく作成・交付しましょう

本記事では、労働条件通知書の作成方法や2024年4月の法改正のポイントを解説しました。労働条件通知書は、単なる事務手続きではなく、企業が従業員との約束を書面で明確にし、信頼関係を築くための第一歩です。特に、就業場所の変更範囲や無期転換ルールといった法改正の要点を確実に押さえることが、労務トラブルを未然に防ぐ上で重要となります。

本記事で提供しているテンプレートを活用し、チェックリストで最終確認を行えば、誰でも正確な労働条件通知書を作成できます。作成に不安が残る場合は、社労士などの専門家に相談し、万全の体制を整えましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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