- 更新日 : 2023年5月12日
月末退社だと社会保険料がお得?退職日による違いを紹介!
社会保険料は、原則として月単位で計算されます。その際、社会保険の資格喪失日の関係で、従業員が月末退社をするケースと月末以外の「月の途中」で退職するケースとでは、給与から天引きする社会保険料の金額に差が生じます。
ここでは、従業員の退職日のタイミングによる社会保険料の違いについて解説します。
目次
退職日による社会保険料の違い
社会保険料は、社会保険に加入した日(資格取得日)が属する月から、企業を退職した日の翌日(資格喪失日)が属する月の前月分までの分を、給与から天引きする必要があります。ただし、会社の社会保険の加入期間は退職日までとなるため、健康保険証は退職日まで使用可能です。
- 資格取得日:社会保険に加入した日
- 資格喪失日:退職日の翌日
- 保険料の徴収:資格取得日が属する月から資格喪失日が属する月の「前月」まで
- 保険期間:退職日まで
月の最後の日に退職した場合(月末退社)
月の最後の日に退職した場合、資格喪失日は翌月の初日となります。社会保険料の天引きが必要なのは、資格喪失日が属する月の前月分までとなっているため、退社した月分まで社会保険料の控除が必要です。
【例】
- 9月30日に従業員が退職する→資格喪失日は10月1日となり、資格喪失日のある月が10月となるため、その前月の9月分まで社会保険料が発生する。
- 「月末締め当月20日払い」というように、10月に支払う給与がない場合、保険料の控除は、退職月の前月と退職月の2カ月分を、退職月(9月)に支払う給与から控除する(このケースでは8月分・9月分の社会保険料を9月に支払う給与から控除する)。
- 「月末締め翌月20日払い」というように、10月に支払う給与がある場合には、これまでと同様に9月分の社会保険料を10月に支払う給与から控除する。
月の末日以外が退職日の場合
月末であっても、最後の日の前日のように、月の途中で退職した場合には、退職月の社会保険料は徴収されません。
【例】
- 9月28日に従業員が退職する→資格喪失日は9月29日となり、9月分は資格喪失月であるため保険料は発生せず、8月分まで社会保険料が発生する。
- 保険料の控除は、退職月である9月に支払う給与から8月分の保険料について行う。
退職日が平日か休日かで違いはある?
退職日が平日か休日かで、社会保険料の徴収について違いはありません。前述のとおり、資格喪失日は退職日の翌日、社会保険料の徴収は資格喪失日が属する月の前月までというルールになります。
退職後にするべき社会保険の手続き
会社を退職した後、従業員は必ず何らかの健康保険に切り替える必要があります。また、年金の切り替えの手続きも、従業員自身で行わなければなりません。
健康保険の切り替え
会社から支給されていた「健康保険証」は、退職日に返却します。そのままだと退職日の翌日からは健康保険無加入になってしまい、病院を利用する際などで医療費が全額自己負担となるなど不都合が生じますので、何らかの健康保険に切り替える必要があります。選択肢としては、以下の通りです。
- 任意継続制度の利用
- 国民健康保険へ加入
- 家族の扶養に入る
任意継続制度
社会保険の任意継続制度とは、会社を退職しても、それまでの会社の健康保険を継続して利用できる制度をいいます。任意継続制度のメリットとして、扶養がいた場合、引き続き扶養家族も加入することができます。任意継続制度を利用できるのは最大2年間です。保険料が全額自己負担となり、会社との折半ではなくなるため、退職時の標準報酬月額によっては国民健康保険の保険料よりも高額となることもあります。
参考:社会保険の任意継続とは?年末調整や確定申告での対応も解説!
国民健康保険
国民健康保険は、自営業や無職の人が加入できる健康保険です。保険料は前年度の収入に基づき算出されます。退職日が月の途中である場合には、退職月分の社会保険料からの納付が必要になる点に注意が必要です。もし、扶養家族がいる場合には、その家族も個別で国民健康保険の保険料が発生します。
家族の扶養に入る
生計を共にしている家族の社会保険の扶養に入る選択肢もあります。その場合には、年収が130万円以下などの健康保険の被扶養者となる年収要件を満たす必要があります。
年金の切り替え
退職後は、厚生年金保険を国民年金に切り替える手続きが必要です。保険料を自分で納付しなければならず、厚生年金保険のように会社負担分がないため、退職前よりも保険料が高くなることがあります。なお、手続きは従業員が住んでいる市区町村の窓口で退職から14日以内に実施します。
退職日を決める際に注意すべき点
社会保険料の関係で退職日は月末にしないと決定した場合、企業としては社会保険料の負担が1ヵ月分少なくなるため、メリットがあると思うかもしれません。また、従業員も、退職月分の社会保険料が給与から控除されないため、その分、手取りが増えることにメリットを感じるかもしれません。しかしながら、従業員によっては不利益となるケースもあるので注意が必要です。
退職した従業員は、退職後すぐに転職が決まっている場合や、家族の社会保険の扶養に入る場合などを除き、国民健康保険や国民年金に加入する必要が生じます。企業で加入する社会保険では保険料は労使折半となりますが、国民健康保険・国民年金の納付は、全額自己負担です。そのため、退職月分まで社会保険料が給与から天引きされるように、3月末や9月末退職といった、月末退職のほうがメリットがあるケースが少なくありません。
月末最後の日の退職以外では、「15日付けで退職」「20日付けで退職」などというように、企業の給与の締日で退職するケースは多いでしょう。このようなケースでも、社会保険料の算出は月単位のためすべて同じように扱われます。しかし、月末の前日に退職することを従業員が希望していないケースでは、「会社が一方的に退職日を決めたので解雇に該当する」「合理的な理由もなく従業員に不利益な取扱いをした」などと、後日トラブルに発展するケースも多くみられます。退職日は、従業員とよく話し合って合意のもと決めることをおすすめします。
社会保険について理解を深め、適切な退職日を検討しましょう!
退職した従業員は、会社を退職した後も何らかの公的医療制度、公的年金制度に加入する必要があります。ケースによっては、月末退職を選ばない方が従業員にメリットがあることがあるかもしれません。
企業としては、社会保険料が月単位で計算されることや退職後に従業員が加入する社会保険制度を理解した上で、退職日を一方的に決めることがないよう、退職する従業員へ十分に説明を行うことが大切です。従業員合意のもと、適切な退職日を検討しましょう。
よくある質問
退職日を決める際に注意すべき点は何ですか?
退職日が月末となる場合、退職月の分まで社会保険料が徴収されます。一方、月の途中で退職した場合には、退職月の社会保険料が発生しません。退職後の従業員が加入する制度や従業員の希望に合わせて決定しましょう。詳しくはこちらをご覧ください。
月の最後の日に退職した場合のメリットは何ですか?
月の最後の日に退職した場合、従業員は退職月分の社会保険料まで労使折半で支払うことができます。全額自己負担の国民健康保険や国民年金と比較すると、月末退職の方が保険料が少なくなるケースがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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