• 更新日 : 2026年1月28日

処遇改善加算とは?新制度の変更点や算定要件、計算例など解説

介護・福祉業界の人材不足解消を目的とした「処遇改善加算」。2024年(令和6年)6月の大改正により、これまでの複雑な制度が一本化され、新たな「介護職員等処遇改善加算」としてスタートしました。

本記事では、人事労務の担当者が制度を正しく理解し、迷わず手続きを進められるよう、制度の目的や変更点はもちろん、具体的な「計算シミュレーション」、詳細な「職場環境要件の具体例」、現場で頻出する「Q&A」までを網羅的に解説します。これを読めば、新制度への対応と適切な賃金設計が可能になります。

処遇改善加算とはどのような制度?

処遇改善加算とは、介護・障害福祉サービス事業所が職員の賃金改善(賃上げ)を行う際に、その費用を国が「介護報酬」として上乗せ支給する制度です。

この制度の最大の特徴は、「受け取った加算額以上の金額を、必ず職員の賃金改善に充てなければならない」というルールがあることです。会社(法人)の利益にするためのものではなく、あくまで職員への還元を目的とした「パススルー」の資金といえます。

出典:介護職員の処遇改善:TOP・制度概要 | 厚生労働省

処遇改善加算の対象者

この加算は「高齢者介護」だけでなく、「障害福祉サービス」も対象です。

  • 介護分野: 介護職員、ケアマネジャー、看護師など
  • 障害福祉分野: 生活支援員、職業指導員、保育士(児童発達支援や放課後等デイサービス勤務)など

※注:いわゆる「保育園(認可保育所)」の処遇改善は内閣府管轄の別制度ですが、障害児支援を行う事業所の保育士は、本記事で解説する「処遇改善加算」の対象となります。

制度の目的と時期

この制度の目的は、他産業に比べて低いとされる介護・福祉職員の給与水準を引き上げ、人材の確保と定着を図ることです。

制度自体は以前から存在しましたが、段階的に拡充されてきました。直近の大きな転換点は2024年(令和6年)6月です。これまで並立していた複数の加算制度が整理統合され、よりシンプルで、かつ上位区分ではより高い賃金水準を目指せる仕組みへと生まれ変わりました。

2024年6月の制度一本化(新加算への移行)

2024年6月より、以下の旧3加算が廃止され、「介護職員等処遇改善加算(以下、新加算)」へ一本化されました。

  1. 処遇改善加算(キャリアパス・職場環境改善)
  2. 特定処遇改善加算(ベテラン職員への重点配分)
  3. ベースアップ等支援加算(月額賃金の底上げ)

一本化により事務負担の軽減が図られるとともに、職種間の配分ルールが柔軟になり、事業所の実情に合わせた賃金設計が可能になっています。

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2024年度の改正で処遇改善加算は何が変わったのか?

最大の変更点は、加算の区分が「新加算Ⅰ〜Ⅳ(+経過措置Ⅴ)」の4段階に再編されたこと、そして職種間の配分ルールが大幅に緩和されたことです。

これにより、これまで複雑だった計算式や要件確認が整理され、事業所は「どのランクを目指すか」という目標設定がしやすくなりました。

出典:「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算) され、加算率が引き上がります|厚生労働省

新加算の4区分と要件構造

新加算は、旧3加算の組み合わせ状況に応じて整理されています。上位の区分ほど加算率(受給額)が高くなりますが、求められる要件も厳しくなります。

【新加算の体系図イメージ】

新加算区分・加算率満たすべき主な要件レベル旧加算での相当イメージ
新加算 Ⅰ・最高経験・技能のある職員の配置 + 職場環境改善旧3加算すべてを取得している状態
新加算 Ⅱ・高一定の職場環境改善への取り組み旧処遇改善 + 旧ベア加算
新加算 Ⅲ・標準基礎的なキャリアパスの構築旧処遇改善 + 旧ベア加算
新加算 Ⅳ・基礎新規算定事業所向け(要件緩和)旧処遇改善 + 旧ベア加算
新加算 Ⅴ・経過措置※2025年3月末で廃止旧加算の一部のみ取得していた事業所

※新加算Ⅴは、いきなり新要件を満たすのが難しい事業所のための期間限定措置(1年間)です。2025年度からはⅠ〜Ⅳのいずれか(または未算定)になります。

配分ルールの柔軟化(対象職種の拡大)

旧制度(特に特定処遇改善加算)では、「経験・技能のある介護職員の賃上げ額は、その他の職種よりも高くする」といった複雑なグループ分けルールが存在しました。

新制度ではこのルールが撤廃され、「介護職員以外の職種(看護師、事務員、調理員など)への配分」も事業所の判断で柔軟に行えるようになりました。ただし、制度の根幹は「介護職員の処遇改善」にあるため、介護職員への配分を基本としつつ、チーム全体の処遇バランスを整える設計が推奨されます。

新たな処遇改善加算を取得するための3つの算定要件とは?

新加算を取得するためには、「キャリアパス要件」「月額賃金改善要件」「職場環境等要件」の3つの柱を満たす必要があります。

ここでは、特に人事担当者が悩みやすい「職場環境等要件」について詳細に解説します。

1. キャリアパス要件

職員が将来の目標を持って働けるよう、昇給や昇進のルールを明確にする要件です。

  • 賃金体系・任用要件の明確化: 介護職員の職位や職責、職務内容に応じて任用要件を定めるとともに、それぞれに見合った賃金体系を整備します。
  • 改善後の賃金額: ベテラン職員1人以上について一定額以上の賃金改善を行う。
  • 研修の実施: 年間研修計画を立て、費用負担やシフト調整を行う。
  • 昇給の仕組み: 勤続年数や評価に応じた昇給ルールを就業規則に規定する。
  • 専門職員の配置:サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置する。

2. 月額賃金改善要件

加算による賃金改善のうち、一定額以上を「月々の給与(基本給または毎月の手当)」で支給する要件です。

  • ポイント: 賞与(ボーナス)での一括支給だけでは要件を満たしません。「新加算Ⅳ」の加算額の2分の1以上を、月額賃金のベースアップに充てる必要があります。これは旧「ベースアップ等支援加算」の考え方を継承しており、職員の生活安定を目的としています。

3. 職場環境等要件(具体的な取組例)

賃金以外の面で働きやすい環境を作る要件です。以下の6区分ごとに具体的な取り組みが定められており、加算区分に応じて「各区分1項目以上」「各区分2項目以上」などの数を選択して実施します。

【職場環境等要件の具体的な取り組み事例】

区分具体的な取り組み内容の例
① 入職促進に向けた取組
  • 他産業からの転職者、主婦層、中高年齢者等の採用計画の策定
  • 職業体験の受け入れや学校との連携
  • 事業所の経営理念やケア方針の明確化と求職者への発信
② 資質の向上・キャリアアップ支援
  • 働きながら介護福祉士等の資格取得を目指す者への受講料支援
  • 研修受講時の代替職員の確保(シフト調整)
  • 上位者によるOJTやメンター制度の導入
③ 両立支援・多様な働き方
  • 育児休業、介護休業制度の充実と利用促進
  • 「子育て中のみ短時間勤務」など職員の事情に合わせた勤務シフトの導入
  • 有給休暇が取得しやすい環境整備(取得状況の管理と周知)
④ 腰痛を含む心身の健康管理
  • 介護リフト、移乗介助機器等の導入による身体負担軽減
  • 短時間休憩の導入や休憩室の整備
  • 健康診断、ストレスチェックの実施とフォローアップ
⑤ 生産性向上のための業務改善
  • タブレット端末やスマホによる記録システムの導入(ペーパーレス化)
  • 見守りセンサーやインカムの導入による業務効率化
  • 業務マニュアルの作成と見直し、業務分担の整理
⑥ やりがい・働きがいの醸成
  • ミーティング等での意見交換の場の設定
  • 地域行事や住民との交流の実施
  • 利用者からの感謝の言葉を共有する仕組みづくり

※生産性向上では、より多くの項目への取り組みが求められています。これらの取り組みは、計画書提出時にチェックリスト形式で申告し、実績報告時に実施状況を確認できるようにしておく必要があります。

【シミュレーション】加算額と賃金改善額の計算例

「実際にいくら入ってきて、いくら払えばいいのか?」という疑問に対し、小規模な介護事業所をモデルにしたシミュレーションを紹介します。

【モデルケース設定】
  • 事業種別:地域密着型通所介護(デイサービス)
  • 職員数:常勤換算で10名
  • 月間の総報酬単位数(基本報酬+他の加算):3,000,000円(売上)
  • 取得する加算:新加算Ⅰ(加算率 10.0% とする※仮定値)

ステップ1:入金される加算見込額の計算

まず、事業所に入金される加算額を計算します。

加算見込額 = 総報酬額 × 加算率

3,000,000円 × 10.0% =300,000円/月年間(12ヶ月)では、3,600,000円の収入増となります。

ステップ2:必要な賃金改善額の計算

この360万円は全額、賃金改善に充てる必要があります。ただし、ここには「法定福利費の増加分」を含めることができます。

賃金(額面)を上げると、会社が負担する社会保険料(法定福利費)も増えます。この増加分も加算から賄うことが認められています。

※法定福利費の増加率は、一般的に15%〜16%程度で設定します。

計算式:

必要な支給総額(額面) ≒ 加算総額 ÷ 1.15

3,600,000円 ÷ 1.15 ≒ 3,130,435円つまり、年間約313万円を職員の給与(基本給や手当、賞与)として支給し、残りの約47万円を会社負担の保険料支払いに充てることで、合計360万円の改善実績となります。

ステップ3:職員一人あたりの配分(相場と目安)

年間313万円の原資を、10名の職員にどのように配分するかを決定します。

単純計算では「313万円 ÷ 10名 = 1人あたり年間31.3万円(月2.6万円)」ですが、新制度では役職や経験に応じて金額に差をつける(傾斜配分)のが一般的です。

【支給額の一般的な相場イメージ】
  • リーダー級職員: 月額 4万円 〜 8万円以上
  • 一般の介護職員: 月額 1.5万円 〜 3万円程度
配分例(月額)
  • リーダー(2名):月50,000円 × 2名 = 100,000円
  • 中堅・一般(8名):月18,000円 × 8名 = 144,000円
  • 合計:244,000円(残りの差額は賞与や一時金で調整)

このように、「手当」として毎月定額で支給する方法や、基本給に組み込む方法など、事業所の規定に合わせて柔軟に設定できます。

処遇改善加算の手続きの流れ

処遇改善加算の手続きは、1年単位のサイクルで行われます。特に最初のステップである「計画書」の提出が遅れると、加算そのものが算定できなくなり、大幅な減収に直結してしまいます。年間のスケジュールを把握し、余裕を持って進めることが重要です。

1. 計画書の作成と提出(2月〜4月)

手続きのスタートは、新年度に向けた計画書の提出です。 提出期限は原則として「加算を取得しようとする月の前々月末まで」ですが、2024年度は経過措置的に柔軟な対応がとられ、多くの自治体で4月15日までの提出期限が設定されています。

提出に向けた準備として、まずは新年度の売上予測と加算見込額を算出し、それを原資として「誰の給与をいくら上げるか」という配分ルールを決定します。この際、就業規則や賃金規程の改定が必要かどうかも併せて確認してください。 計画が固まったら、必ず「全職員への周知」を行った上で、管轄の指定権者(都道府県や市町村)へ計画書を提出します。

2. 毎月の運用と賃金支払い(4月〜翌3月)

計画書が受理され、新年度が始まったら、日々の運用フェーズに入ります。 毎月の介護報酬請求(レセプト請求)において加算を請求するとともに、作成した計画に基づいて、職員への給与支給(手当や基本給のアップ)を実行します。

運用の重要なポイントは、「処遇改善加算としていくら支給されたか」が明確にわかるようにすることです。具体的には、給与明細に「処遇改善手当」といった専用の項目を設けるのが確実です。また、後述する実績報告に備えて、処遇改善に関連する収入と支出を管理簿などで毎月記録・管理しておきましょう。

3. 実績報告書の提出(翌7月)

年度が終了したら、最後に1年間の実績をまとめた報告を行います。 提出時期は、国保連から最終の加算金が支払われた月の翌々月末、通常は7月末日となります。

ここでは、1年間で受け取った「加算受給総額」と、実際に支払った「賃金改善総額」を確定させます。必ず「受給額 < 賃金改善額(支払った額の方が多い)」となっていることを確認し、実績報告書を作成・提出してください。 万が一、計算の結果「改善額」が「受給額」を下回っていた(使い切れていなかった)場合は、差額を一時金として追加支給して調整するか、加算を行政へ返還する手続きが必要になります。

【FAQ】処遇改善加算に関するよくある質問

Q1. 障害福祉サービスの保育士も対象になりますか?

答え:はい、対象になります。 児童発達支援や放課後等デイサービスなどで働く保育士や児童指導員は、この「処遇改善加算」の対象職種に含まれます。また、事務員や調理員などの他職種への配分も、新制度では柔軟に行えるようになっています。

Q2. 処遇改善手当をもらえる条件は?

答え:事業所のルール(給与規程)によりますが、基本的には全職員が対象になり得ます。 国のルールでは「介護職員」は必須ですが、パートやアルバイト、試用期間中の職員に支給するかどうかは、事業所の計画次第です。ただし、新加算では「特定の職種や雇用形態を不合理に除外すること」は推奨されていません。一般的には、「週〇時間以上勤務」や「入社3ヶ月経過後」などの支給要件を会社ごとに定めています。

Q3. 介護の処遇改善は勤続10年でいくらもらえる?(8万円もらえる?)

答え:必ずしも「月8万円」もらえるわけではありませんが、手厚く配分される対象です。 以前の制度(特定処遇改善加算)では、「勤続10年以上の介護福祉士には月額8万円の改善を行う」とされていました。 現在の「新加算」でもこの考え方は引き継がれており、「新加算Ⅰ」を取得している事業所では、経験・技能のある職員(リーダー級)に対して、他の職員より多く配分する設計になっています。会社ごとの配分ルールによりますが、ベテラン層には月額数万円〜8万円規模の手当や昇給が行われるケースが多いです。

Q4. 介護職で最も給与水準が高くなる(処遇が手厚い)のはどのポジションですか?

答え:「新加算Ⅰ」を取得している事業所の「リーダー級・介護福祉士」です。 処遇改善加算(新加算Ⅰ)は、経験と技能のある職員を最も高く評価・処遇する仕組みになっており、上位加算を取得するためには、技能を持つ職員の配置が必要となるため、介護福祉士の処遇改善は、優先順位が高いといえます。そのため、以下の3要素を満たす職員が、最も処遇が手厚くなる可能性が高いです。

  • 資格: 介護福祉士(国家資格)
  • 経験: 勤続10年以上などの長期の実務経験
  • 役割: ユニットリーダー、主任、サービス提供責任者などの管理・指導職

単に長く働くだけでなく、資格を取得しリーダー職を目指すという「キャリアアップ」を行うことが、結果として最も高い給与水準(高収入)につながります。

処遇改善加算を戦略的に活用しよう

処遇改善加算は、単なる「国からの補助金」ではなく、事業所の評価制度や働き方改革と直結する重要な経営資源です。

2024年の制度一本化により、複雑だった手続きは整理され、職種を越えた柔軟な賃金設計が可能になりました。「計算が面倒」「要件が細かい」と感じる部分もありますが、これらをクリアして加算を取得することは、職員のモチベーション向上、定着率改善、そして採用力の強化という大きなリターンをもたらします。

「加算額以上の還元」と「要件の遵守」を徹底し、適正な運用を行うことで、選ばれる事業所作りを目指しましょう。


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