- 更新日 : 2025年10月6日
賃金支払いの5原則!会社が知るべき違反の具体例を3つ紹介
「会社の賃金の支払いは規則通りだろうか」「具体的な例を知りたい」
このような悩みをもつ方もいるのではないでしょうか。
労働者の生活を支える賃金の支払いは、法律でルールが定められています。
これを「賃金支払いの5原則」といいます。現代社会の多様な働き方や支払い方法に対応するために設けられている規則です。
本記事では、多くの方が疑問に感じる賃金支払いの5原則の内容や例外、違反の例などに焦点を当て、わかりやすく解説します。
この記事を読んでいただくことで、賃金を適切に支払うための基本的な知識を身に付けられるでしょう。
目次
賃金支払いの5原則とは
賃金支払いの5原則とは、労働基準法第24条で定められている、使用者が労働者に対して賃金を支払う際に守らなければならない5つのルールのことです。
このルールは労働者の生活の安定と保護を目的としており、使用者はこれらを遵守する義務があります。
参考:e-GOV 法令検索|労働基準法|第二十四条(賃金の支払)
5つの原則について、それぞれ見ていきましょう。
1. 通貨払いの原則
通貨払いの原則とは、日本の通貨である日本円での支払いを指します。
たとえば外国の通貨や、自社で保有する商品などを給料の代わりにすることはできません。
現物での支払いを禁止する理由は、それらの価値が変動する可能性があり、現金のように自由に使えず不便なためです。
2. 直接払いの原則
直接払いの原則は、賃金を直接労働者に支払う必要があるという決まりです。
つまり、ブローカーのような仲介者を通して、労働者の賃金を支払うことはできません。
この原則は、賃金の支払いに第三者を介在することによる中間搾取を防ぐために作られました。
3. 全額払いの原則
全額払いの原則とは、賃金は控除されることなく、その全額を支払わなければならないという決まりです。
企業は労働者の同意なしに、賃金から勝手に何かを差し引くことはできません。
この原則は労働者が予定通りの賃金を確実に受け取り、生活設計を立てられるようにするために作られました。
4. 毎月1回以上払いの原則
毎月1回以上払いの原則は、賃金は月に1回以上支払われなければならないという決まりです。
たとえば、週払いや日払いは可能ですが、2ヶ月に1回まとめて支払うなど、支払いの間隔が1ヶ月を超えることは認められていません。
この原則は、労働者が安定した収入を継続的に得て、生活の安定を図るために重要な役割を果たします。
5. 一定期日払いの原則
一定期日払いの原則とは、あらかじめ定められた期日に給与を支払われなければならないという決まりです。
例として「毎月15日」や「毎月末日」のように、具体的な日付を設定する必要があります。
もし支払日が土日祝日と重なる場合は、その前営業日に支払う、あるいは翌営業日に支払うといったルールを、就業規則などで定めておく必要があるのです。
この原則は、労働者が賃金の支払われる日を正確に把握し、安心して生活設計を立てるために設けられています。
賃金支払いの5原則の例外
賃金支払いの5原則には、利便性を考慮して例外となる事柄が存在します。
それぞれのポイントを押さえておくことで、状況に適した給与の支払いができるでしょう。
1. 通貨払いの原則の例外
通貨払いの例外として、下記の場合には通貨以外での支払いが可能です。
- 法令、もしくは労働協約に別段の定めがある場合
- 厚生労働省令で定める賃金について確実な支払い方法で厚生労働省令で定めるものによる場合
参考:e-GOV 法令検索|労働基準法|第二十四条(賃金の支払)
労働協約:使用者と労働組合の間における、労働条件や労使関係のルールなどについての約束事のこと。合意した内容を「書面」にし、使用者と労働組合の双方の署名または記名押印があれば、労働協約としての効力が発生する。
厚生労働省令:国会で決められた法律ではなく、現場に柔軟に対応できるように厚生労働省が定めた決まりのこと。例として、労働基準法施行規則や労働安全衛生規則などがある。
この例外により、労働者に同意を得れば以下の支払いができます。
- 労働者の指定する銀行、その他の金融機関に対する振り込み
- 労働者が指定する証券会社(第1種金融商品取引業を行う者に限る)に対する払込み
- 労働者が指定する指定資金移動業者の口座への支払い(厚生労働大臣が指定する資金移動業者に限る)
デジタル払いについては、厚生労働省のページに詳しい記載があるため、参考にしてみてください。
参考:厚生労働省|資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
2. 直接払いの原則の例外
直接払いの例外として、労働者本人が病気や出張などで直接賃金を受け取れないといった場合に、家族などの「使者」が代わりに賃金を受け取ることは可能です。
使者とは社会通念上、「本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否か」によって判断されます。委託などを受けた、代理人への支払いは認められていません。
代理人は本人に代わって意思決定ができますが、使者は本人の意思に沿った行動だけをするという違いがあります。
3. 全額払いの原則の例外
全額払いの例外として、法律に別段の定めがある場合や、労使協定に定めがある場合は賃金の一部を控除できます。
例として、以下のようなものです。
このような費用は、賃金から差し引くことが手続きの簡素化につながり、実情にも合うため、認められています。ただし、労働組合または労働者の過半数を代表する者との同意や、労使協定に控除する項目や金額の記載が必要です。
4. 毎月1回以上払いの原則・一定期日払いの原則の例外
以下の賃金は例外として毎月、または一定期日に支払わなくても問題ありません。
- 賞与
- 臨時に支払われる賃金
賞与とは一般的なボーナスのことで、年に数回、業績に応じて支払われるものです。賞与はその性質上、毎月一定日に支払うことは実情に馴染まないため、例外として認められています。
賞与に準ずるものとして、出勤期間の成績による精勤手当や、勤続手当、能率手当も該当します。
臨時に支払われる賃金とは、結婚祝い金や事故見舞金などの突発的に発生する手当のことです。
賃金支払いの5原則に違反する3つの例
賃金支払いの5原則に関する違反の例を、3つ紹介します。
ここで挙げる例を参考にして、自社でのトラブルを防ぎましょう。
1. 明確な定めなしに賃金を減額する
ひとつめの違反例は、就業規則などに明確な定めがないにもかかわらず、使用者が一方的に賃金を減額するケースです。
このような減額は「全額払いの原則」に違反します。
たとえば、会社の業績不振を理由に、労働者の同意を得ずに基本給をカットしたり、備品代を勝手に従業員の給与から差し引いたりといった事例が該当するでしょう。
賃金の減額については就業規則などで明確に決まりを定め、原則として従業員の合意のもとで行われなければなりません。
賃金の減額が可能なパターンや手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
2. 賃金支払いの間隔が1ヶ月以上空く
給料日が不定期であったり、支払いの間隔が1ヶ月以上空いたりすることは「毎月1回以上払い」と「一定期日払い」の原則に違反します。
たとえば、会社の業績不振により賃金の未払いが数ヶ月にわたって続く場合などがこれに当てはまるでしょう。
労働者は、毎月安定した収入を得ることで、家賃や食費、光熱費などの生活費を計画的に支払えます。これらの原則が守られないと労働者の生活が不安定になり、経済的に困窮する可能性があるため、賃金の支払いは定期的に行われる必要があるのです。
ただし、臨時に発生する賃金や賞与については、毎月の支払いではなくても問題ありません。
3. 未成年の賃金を親に支払う
未成年の労働者の賃金を、その親権者や法定代理人に支払うことは「直接払いの原則」に違反します。
未成年者であっても、労働契約を締結し労働に従事していれば、対価である賃金を受け取る権利は本人にあります。
たとえ親が未成年者の生活を扶助しているとしても、賃金を親に支払うことは原則に違反するのです。
この原則は、労働者が未成年者であるかどうかにかかわらず適用されます。
たとえば、病気で入院している労働者の賃金を勝手に家族に支払ったり、第三者の口座に振り込んだりすることも、原則として認められません。ただし、やむをえない事情により「労働者本人に支払うことと同一である」と認められる「使者」に対して賃金を支払うことは可能です。
賃金支払いの5原則に違反した場合の罰則
賃金支払いの5原則に違反した場合、どのような罰則があるかを解説します。
それぞれ確認しましょう。
1. 30万円以下の罰金
賃金支払いの原則に違反した場合、労働基準法第120条にもとづき、企業には30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
また、時間外労働や休日出勤の割増賃金未払いなどがあった場合は、6ヶ月以下の拘禁刑になることもあります。
ただ、罰金が科される前に労働基準監督署の指導が入ることが一般的です。指導の段階で対応を見直せば、書類送検などの手続きに移行することを防げるでしょう。
2. 労働基準監督署による是正勧告・指導
労働者からの申告によって企業の違反が疑われると、労働基準監督署の担当官が企業へ立ち入り調査を行い、具体的な違反内容を確認します。
その結果、賃金支払いの5原則に違反していると判断された場合、企業に対して違反事項を是正するための指導が行われるのです。
指導に従わない場合や、悪質な違反を繰り返す場合は、上記で説明したような罰金や拘禁刑が科せられる可能性が高くなります。
労働基準監督署の是正勧告は、企業にとって改善のチャンスであると同時に、もし対応を怠れば重い処分につながる場合もあるため、真摯に対応することが求められるでしょう。
賃金支払いの5原則に関する2つの注意点
賃金支払いの5原則に関して、気を付けるべき点を2つ紹介します。
以下で挙げるポイントに注意すると、違反になるリスクを下げられるでしょう。
1. 残業代の計算ミスに気を付ける
残業代の計算は、多くの企業にとってミスが発生しやすい要素のひとつです。
労働基準法では、法定労働時間を超えて労働させた場合、割増賃金を支払うことが義務付けられています。この割増率は、時間外労働や深夜労働、休日労働などの種類によって異なり、計算がやや複雑です。
たとえば、時間外労働では25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられており、深夜労働などが重なる場合はさらに割増率が加算されます。
残業代の詳しい計算方法については、以下の記事を参考にしてみてください。
残業代の複雑な計算を正確に行うためには、勤怠管理システムや給与計算ソフトの導入も検討するとよいでしょう。
2. 労働時間は1分単位で計算する
労働基準法では、労働時間は1分単位で計算し、切り捨てることは認められていません。
たとえば、15分未満の労働時間を切り捨てたり、30分単位で管理したりすることは、賃金不払いとして違法となります。
たとえ数分の就業時間であっても、積み重なれば労働者にとって不利益となり、賃金未払いの問題を引き起こす可能性があるのです。企業側は、労働者の出退勤時刻を正確に記録し、1分単位で労働時間を計算する義務があります。
ただし、時間外や深夜、休日労働の1ヶ月の合計労働時間に対して、30分未満の端数が出た場合は切り捨てが認められています。切り捨てと切り上げは両方行われる必要があり、切り捨てだけを行うことはできません。
具体的な対応策としては、タイムカードやICカード、生体認証システムなどを用いて、労働者が実際に打刻した時刻を正確に記録することが挙げられるでしょう。
賃金支払いの5原則に関するよくある質問
賃金支払いの5原則に関してよくある質問を紹介します。
Q1. 電子マネーでの賃金支払いは違反にならないか
労働基準法施行規則が改正され、2023年4月1日から例外として電子マネーでの支払いも可能になりました。
ただし、労働者の同意が必要で、強制的に行われるものではありません。
参考:厚生労働省|資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
Q2. パートタイムやアルバイトなどの短時間労働者にも適用されるか
賃金支払いの5原則は、雇用形態にかかわらずすべての労働者に適用されます。
ただし、業務委託契約の場合は「労働者」ではなく「個人事業主」にあたるため、原則として賃金支払いの5原則の対象外です。
請負契約のような業務委託契約がすべて対象外とは限らず、労働者と見なされる場合もあり、その基準は「使用従属性」によって判断されます。
使用従属性の条件とは、以下の2つです。
- 労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか(すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか)
- 報酬が、指揮監督下における労働の対価として支払われているかどうか
労働者にあたるかどうかは、契約の内容ではなく実際の業務内容によって判断されます。具体的な判断基準は、厚生労働省のページに記載があるため、参考にしてみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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